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幕間 参拾玖話 将来性抜群な後輩候補? その4

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 怒鳴り声の内容が気になった俺は、聞き耳を立てた事を後悔した。大学生らしき学生パーティーが、高校生パーティーに喧嘩を売っていたからだ。

 おいおい、正気か? さっきの戦闘を見ていなかったのかよ……死ぬぞ?


「「……」」


 俺と近くに居た佐藤は互いに引き攣った表情を浮かべながら、学生パーティー同士のやり取りを耳にしつつ乱闘にならないか?と心配した。両方とも、ココまで来れる実力を持っているパーティーだ。やり合えば、その時おきる被害は甚大なモノになるだろう。まぁ実際にやり合えば高校生パーティーの圧勝だろうが、流れ弾なんかのとばっちりを受ける可能性はなくもないだろうからな。

 しかし、ココは深い階層だ。遠征物資や拠点設備に大きな被害を受ければ安全上、全面的な撤退も視野に入れなければならなくなる。だがそうなれば、会社的にとんでもない損失を被る事になってしまう。


「「……ふぅ」」


 俺と佐藤は安堵し、胸に溜まった空気を吐き出す。どうやら錯乱していた大学生パーティーのメンバーを仲間が無理やり引き離したらしく、高校生パーティーが手を出す前に事態は危ない所だったが何事もなく収束した。よく我慢してくれた、高校生パーティー。

 だが、安堵したのは束の間の事だった。波佐間商事の奴が、交渉とも言えない理不尽な出来事を我慢していた高校生パーティーに見当違いな説教を始めたからだ。おい、ちょっと待てや!


「「……」」


 聞くに堪えない……いや、見当違いも甚だしい。説教を続ける波佐間商事の馬場というアホの御高説を聞き、俺と佐藤は心底呆れたと言った表情を浮かべる。自分がマナー違反を犯し騒動の火種を作ったと言うのに、話の主導権を取ろうとしているのか上から目線に説教……いい大人がする事じゃ無いだろ?

 しかも、高校生パーティーが大人しく話を聞いていることに気をよくしたのか説教は続き……。


「どうやら……終わったようだな」

「ああ、高校生パーティーの連中は、災難だったな」

「そうだな。錯乱したっぽい大学生の愚痴?はともかく、勘違いも甚だしい説教は災難でしかないな」

「そうだな。しかし、良く耐えたなアイツら」


 正直、立て続けにこんな扱いをされているのに、感情的に怒鳴り返すでも無く、忍耐強く穏便に事を納めようとしている高校生パーティーの方が大人な対応をしている。もし自分があの立場だったら、反撃の一つでもしていただろうな。なので、高校生パーティーの忍耐強さには素直に感心するしかない。

 

「あっ、班長もいっていたんだ」

「みたいだな。今の今まで声が聞こえなかったから、気付かなかったよ」


 意気消沈というか、気の毒げに気を遣うような作岡班長の声を聞き、俺と佐藤はその時初めて作岡班長があの場に同席していたことに気付いた。まぁ他のパーティーが接触に動いていたのなら、ウチも動かない訳にもいかないか。

 尤も、今回に関しては巻き込まれ被害に遭ったみたいだけど。


「ああ。こんな事があったんじゃ、巻き添えでウチの会社も悪い印象を持たれたかもしれないな」

「そうかもな。こんな所だったから積極的な行動には出ていなかったみたいだけど、ウチの班長もスカウトの声を掛けてみる気はあったみたいだったのにな」

「このタイミングでそんな話をしたら、完全に俺達もアチラさんの同類だって思われるだろうな。残念だけどスカウトする気が残っているのなら、今回はこれ以上干渉しない方が無難だろう。印象が悪くなる事はあっても、良くなることは無いだろうからな」


 直接は見てないから断定出来ないけど、作岡班長が何も言わずに引いたところを見るに、彼等も先程の出来事は相当我慢している様子だったのだろう。でなければ、もう少し確りとした繋がりを残そうとしただろうからな。ソレをせず、イベントに誘うと言う細い繋がりだけしか作らなかったのだ。彼等が更に機嫌を損ねる前に、早々に撤収するのが吉と判断した可能性は高い。

 作岡班長……貧乏クジを引いたと思って元気出して下さい!





 様々な話題を振りまいてくれた高校生パーティーが、探索へ出る準備を進める俺達や他のパーティーに軽く一礼した後、足早に探索に出発した。その際、悪所から逃げるような足取りのように見えたのは決して錯覚ではないだろう。

 正直に言って、俺は彼等には申し訳ない事をしたと言う気持ちで一杯だった。


「彼等には、悪い事をしてしまったな。休憩する為に立ち寄ったところなのに、こんな騒動が立て続けに起きてしまっては、ロクに休めなかっただろうに……」

「……班長」

「ダンジョン探索では肉体的な疲労はもちろんだが、精神的疲労が残る方がより辛い。こんな事があった後だ、彼等が怪我をしなければ良いのだが……」


 作岡班長は心配げな表情を浮かべながら、彼等が立ち去った通路を見つめながらポツリと漏らしていた。

 そして暫し通路の先を見つめた後、作岡班長は自分の頬を両手で数回叩き意識を切り替え、俺達に向かって指示を出し始める。 


「……さて、何時までも落ち込んではいられないな。では、我々もそろそろ動き出すとしよう。各班、ローテーションに従い行動を開始だ」

「「「了解!」」」


 そして作岡班長の指示に従い、採取担当となった俺達の班は装備の最終確認を行い探索を開始する。昨日の探索では目標のノルマを少し上回る程度だったと言っていたので、出来れば今日の探索ではノルマを大幅に上回る成果を上げておきたい。そうすれば余った時間で、食品素材以外のドロップ品を狙って給料アップが狙えるから。

 それと……探索の道すがらで彼等に会ったら、広場での事を謝りたい。

 

「じゃぁ採取班、出発するぞ。敵が何処から出てくるか分からないんだ、油断して警戒を怠るなよ」

「「「了~解」」」


 俺達は隊列を組み、モンスターを求め探索へと出かける。

 そして運良くモンスターの集団と遭遇した俺達は、苦戦しつつも敵を倒し本日のノルマ分の素材を採取出来た。ホクホク顔で午前中の探索を終えた俺達は、狩りの成果を持ってキャンプベースへと帰還。


「おおい~! 今日は大漁だぞ!」

「おー、凄ぇな!」


 俺達の若干浮ついた雰囲気を察し出迎えてくれた仲間に狩りの成果をアピールしつつ、ドロップ食材を保管コンテナに納めていく。

 すると、今日はベース待機班だった作岡班長が教えてくれた。俺達より先に探索に出た例の高校生パーティーが広場に戻ってき、(地上)へと上っていったと。


「そう、ですか。残念ですね、出来れば昨日の件を謝っておきたかったんですが……」

「まぁ、何時戻ってくるかなんて分からないからな。今回は運悪くタイミングが合わなかっただけだ、あまり気にするな」

「……はい」


 もしかしたら、昨日の騒動のせいで精神的に不調になり帰還の予定を早めてしまったのかもしれない。そう思うと、申し訳なさで心苦しくなる。

 すると、落ち込む俺に作岡班長がとある可能性を示してくれた。


「可能性は薄いが、今度の企業説明会の案内をしてある。もしかしたら、彼等が来るかもしれない。言いたいことがあるのなら、その時に言うと良い」

「そう、ですね。可能性はだいぶ薄そうですけど……」

「ははっ、強く勧められるような状況じゃ無かったからな。まぁ、完全に可能性が無いよりはマシだろう?」

「まぁ、はい」


 俺は苦笑いを浮かべながら、作岡班長の話に乗っておくことにした。まぁ幸か不幸か、今度の説明会には俺達も説明する側として参加する。運が良ければ、彼等とも会う事もあるだろう。

 運が良ければだけど。






 ダンジョンに潜り素材採取を開始して幾日、漸くこの穴蔵生活の終わりが見えた。俺達と勤務を交替する第3班が、ウチの会社の社章を着けた運搬ロボと共に階段を下ってくる姿が見えたからだ。

 はぁ、やっと帰れる……。


「お疲れ様、作岡班長」

「ああ、高田(たかだ)班長。お疲れ様です」


 作岡班長は階段を降りてきた第3班に近寄り、眼鏡を掛けた髭面の高田班長と話を始める。

 そして簡単な引き継ぎをした後、俺達は荷下ろしと採取したドロップアイテム類を運搬ロボに積み込んでいく。今回の俺達の班のアイテム採取は、大成功と言えた。採取ノルマは大きく上回り、マジックアイテムやスキルスクロールを幾つか手に入れられたからだ。鑑定してみないと幾らになるか分からないが、10~20万の特別報償は堅いだろう。今度の休みにでも、友人達と旅行にでも行くかな?

 

「よう、鈴木! どうだ、無事だったか?」

「ん? おお、飯島(いいじま)じゃないか! 久しぶりだな、見ての通り無事だよ。今回は幸い、回復薬のお世話になる様な怪我も負わなくてすんだな」

「おお、そうか。と言う事は、近々キャンプベースをもう少し下の階層に移動させるって噂は本当みたいだな!」


 俺は飯島の話を聞き、驚きの表情を浮かべた。キャンプベースを下の階層に移動させるという事は、アイテムの採取や拠点防衛の難易度が増す事を意味しているからだ。

 顧客から何か新しい素材の注文が入ったのかな? 


「もうそんな話が出てるのか?」

「ああ、お前等が交替した第1班も特に怪我も負わずに採取活動を終えてたからな。お前等も似たような状況なら、今回俺達が無事に採取活動を終えたら多分、移設話も本決まりになると思うぞ」

「成る程な……」

「ん? あんまり嫌そうな顔をしないな、鈴木は反対しないのか?」

「ああ今回、ココでちょっとアレな事があったからな……」


 正直に言って、波佐間商事の探索班全てが同じだとは思わないが、アレな人物がリーダーを務めるような会社と同じ階層で近くに拠点を置いておきたくは無い。何時、今朝のような問題を再び起こし、巻き添えになるか分かった物じゃ無いからな。

 ある程度纏まって置いた方が戦力的に拠点の安全を担保出来るとは言え、出来る事なら少し距離を置いておきたい。具体的には、1階層分ほどは。


「アレ、ね?」

「その事の詳細は、この後の引き継ぎミーティングで教えられると思うから、その時に頼む。俺の口からは、ちょっと言いにくい」

「……そうか、分かった。」


 俺は言葉尻を濁しながら、飯島に深く追求してくれるなと言った態度を示す。すると飯島も何かあったと言うことを察してくれたらしく、その後は追求する事無く別の話題を振ってくれた。

 そして翌日、引き継ぎ作業を終わらせた俺達第2班は、第3班に後を任せ地上へ向けて歩き出す。


「じゃぁ高田班長、後はよろしく頼むよ」

「ああ、お疲れさん。ダンジョンを出るまでは、いつ敵が襲い掛かってくるか分からないんだ。帰り道だからと言って油断するなよ?」

「勿論だ、忠告感謝するよ」


 と言うような遣り取りを班長達が行った後、俺達は1日掛けてダンジョンの外。地上を目指し歩き始めた。道中、何度もモンスターの襲撃を受けたが、やっと地上に出られるとテンションが上がった俺達に蹴散らされ特別報償の足しに変わっていく。

 そして予定通り安全面に気を配りながら、1日程掛けて俺達第2班は数日ぶりに夕日で色付く地上へと戻ってきた。


「「「着いた!」」」

「おい、お前等! 気持ちは分かるが、先ずは持ち出し手続きだ! サッサと手続きを終わらせて、社に戻るぞ。帰るまでが仕事だ!」

「「「……うーす」」」


 地上に出て気が緩んだ俺達を叱咤し、作岡班長は俺達と運搬ロボを引き連れ、企業対応窓口へと足を運んだ。企業対応窓口とは、俺達のような大量のダンジョン食材を扱う会社向けに設置された窓口である。以前は他の一般探索者と同じように普通の窓口で手続きを行っていたが、あまりの査定量に手続きに掛かる時間が長引き、他の一般探索者から不満が出た為に専門の窓口が新設されたと言う経緯だ。

 とは言え、査定に掛かる時間自体は一般窓口とあまり変わらないんだけどな。


「良し、お疲れ様。コレで荷物の積み込みは終わったな。じゃぁ、帰るか……」

「「「了解」」」


 手続きを終えた食材を第3班が乗ってきた会社のトラックに運搬ロボごと積み込み、帰る準備を整えた俺達は順次車両に乗り込んでいく。ふぅ、やっと終わったな。

 そして1時間ほど車に揺られ俺達は会社に到着。持ち帰った食材を倉庫に運び込み終え……本日の業務は終了となった。


「それじゃぁ各自、探索活動の報告書は週明けに忘れないように提出するように。今日はユックリ休んで、探索の疲れを取るようにな。では皆、ホントに御苦労様だった……解散!」

「「「お疲れ様でした!」」」


 そして俺達はシャワーと着替えをすませ、ダンジョン探索で疲れた体を癒やす為に寄り道もせずに帰宅していく。翌日、探索の打ち上げを兼ねた飲み会を行う事を約束しながら。

 こうして、俺のダンジョン探索勤務は終わりをむかえた。ふぅ……やっとユックリ眠れる。
















無事にダンジョンから帰還となり、鈴木さん視点終了です。


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