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第270話 反省会と決意

お気に入り22780超、PV34820000超、ジャンル別日刊39位、応援して下さりありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。






 ダンジョンから帰ってきた翌日、俺達は予定通り裕二の家に集まり重蔵さんを交え反省会を開いていた。一通りダンジョン泊に関する報告をした俺達は、腕を組み目をつむる重蔵さんの前に座りながら反応を待っている。俺達が緊張しているからなのか、いつも以上に道場の中の空気が緊迫している様な気がするな。

 ……お、怒ってないですよね?


「……」

「「「……」」」


 沈黙が続くに従い、道場内の緊迫感がますます強くなっていく。

 そして、たっぷり数十秒の沈黙が続いた後、重蔵さんはユックリ腕組みを解き口を開いた。


「まぁ、なんじゃ? 随分苦労したみたいじゃの……」

「「「は、はぁ……」」」


 重蔵さんが口にした第一声は、慰労の言葉だった。


「話を聞く限り、細かな部分は除くが戦闘や宿泊などの探索行動自体は特に問題ないじゃろう。まぁ、対人交渉に色々と問題はあったようじゃが……」

「「「うっ……」」」


 溜息と共に釘を刺され、俺達は思わず小さな呻き声を漏らす。自分達でも至らなさは重々認識していたが、いざ第三者に指摘されると意外にクルものがある。

 やっぱり重蔵さんから見ても、俺達がした交渉はアウトなんだよな。


「まぁ無難に対人交渉を行えると言うのは、経験の積み重ねじゃからの。経験が少なければ、無駄に緊張し隙をさらしたり、相手の機微を捉え損ねたりして失敗するものじゃ。ましてやダンジョン内と言う、特殊な環境下での交渉ともなれば、普通の精神状態とは言いづらい相手で尚の事難しい。普通の交渉経験でさえ乏しいお主らでは、そんな状況下で無難に交渉を行うと言うのは難しいじゃろう」

「「「……」」」

「ただ、の?」


 重蔵さんは片眉を上げ、若干呆れた様な表情を浮かべる。どうやら重蔵さん的には、交渉に失敗したこと自体は特に問題視していないようだ。だが、指摘すべき問題点は他にあるらしい。

 まぁ、予想はつくけど。


「お主ら、ちと気を抜きすぎじゃ。いくら自分らのベースキャンプに入ったとはいえ、不用意な会話をし過ぎじゃ」

「それは……はい」


 若干呆れた様な表情と口調で、重蔵さんは俺達の失点を指摘する。


「ダンジョン内で水を含めた生活物資を手に入れる事が困難な事は、ダンジョン泊初心者のお主らでも知っておったであろう? 特に必須物資でありながら、運搬スペースと重量を圧迫する水の重要性は……」

「……はい」

「では当然、そんなダンジョン内で水を魔法で自給出来ることを教えるような会話は……」

「すべきではない、ですね」

「そうじゃの」


 情報管理の不徹底、秘匿意識の欠如。今回の件は致命的でこそないが、不味い事を行った事には違いない。何が不味かったって? 今回の件で言うと、ダンジョンと言う特殊な環境で不確かな希望を他の探索者がいる所でチラつかせた事だ。希望……聞こえは良いが自制心を揺さぶる甘い毒でもある。

 物資が枯渇するかもしれないと言う不安を抱える者にとって、不確かな希望でも目の前でチラつかせられれば、つい飛びつきたくなってしまうものだ。今回は普通の物々交換で決着はついたが、最悪武力衝突に発展していた可能性さえなくはない。帰還の為の物資に余裕があったからこそ、相手の自制心は揺らいでも倫理観が揺らがなかった事は幸運だった。これが帰還の為の物資にも困窮していたら……考えたくない結果になっていたかもしれないな。


「何気ない会話でも、聞き耳を立てている者はおる。話題に出しても良い情報、秘匿すべき情報。それらを常に意識しておくだけでも、この手のトラブルは避けられるようになる。ダンジョン内で喋るなとは言わんが、会話をするにしても内容は時と場所と場合を考慮して行うんじゃな」

「「「はい!」」」


 秘匿しておいた方が良い情報……誰にも知られたくない情報という意味だけではなく、知られたら無用の希望や絶望、混乱を与える情報があるという事だ。情報の秘匿とは時として、自分だけではなく相手を守るためにも必要な事なのだろう。

 重蔵さんの言うように、自室のダンジョン関連のもの以外でも、もう少し秘匿意識をしっかり持たないといけないな。その為にも、俺達と一般的な探索者との差に関する情報収集に力を入れよう。






 一通り細かな指摘をした後、重蔵さんはお茶を一口飲み喉を潤し再び口を開く。


「まぁ指摘する点は残るものの、お主らも概ね今回のダンジョン泊でダンジョン内で一夜を過ごす感覚はつかめたかの?」

「ええ、はい。今回の探索は既存の階層で行ったので、未知のモンスターやトラップに遭遇する事は無く、その点で言えば負担の少ない探索でした。未踏破の階層で同様に出来るかと聞かれたら出来ると断言は出来ませんが、ダンジョン内で寝泊まりする感覚は概ね掴めました。ただ……」

「ただ?」

「やはりダンジョン内で寝泊まりをしながら十分な休息を取ろうとするならば、現在のパーティーでは人数が不足していると思いました。一泊程度なら現状でも問題ないんでしょうが、4日5日と言った中長期の探索を行おうとしたら問題がありますね」


 今回の探索では夜番を3人で回したが、今回の探索の様に途中で襲撃があった場合、十分に休息がとれるのかと聞かれたら難しいだろう。既存の階層で出現するモンスターが相手ならば、襲撃されても素早く撃退できる。だが、撃退したからと言って直ぐに休憩……就寝できるかと聞かれれば難しいだろう。実際、幻夜さんの訓練では睡眠薬を服用していたが、休憩時間に襲撃を受けた後は神経が高ぶって中々寝付けなかったしな。疲労困憊で疲れ果てていたら話は別だろうが、ダンジョン内でそんな状態になっていたら、その時点で色々アウト、即時撤退の状況だ。

 つまりダンジョン内で十分な休息をとるには、以前からの懸念通りパーティーメンバーの増強は必須。個々の能力が優れていようとも人間である以上、疲労の蓄積によるパフォーマンスの低下は避けられないからな。


「そうじゃろうな。お主らの実力なら、無駄な戦闘を避ければ1日2日ならば最低限の休息でも問題ないじゃろう。だが、4日5日ともなれば、戦闘を避けたとしても精神的肉体的疲労は確実に蓄積する。長期間探索を目指すならば、十分な休息をとり疲労を回復出来るようにメンバーの増員は必須じゃろう」

「ええ。頭では分かっていましたが、今回の探索を経験して本当の意味で必要性が理解出来ました」

「では、どうするんじゃ? お主らの隠している事情を考えれば、そうやすやすと人を増やすわけにはいくまい?」


 俺達は神妙な表情を浮かべながら、重蔵さんの言葉に頷く。隠している事情が事情なだけあって、下手に人を増やすと秘密が漏洩し易くなるからな。

 増やすにしても、秘密を共有し守れる信の置ける人間でないとマズイ。


「信頼のおける人物かつ、俺達と技量的に釣り合う人が良いんですが……」


 増員メンバーの加入条件を口にすると、重蔵さんは眉を顰め困ったような表情を浮かべた。

 無論、重蔵さんが何故そんな表情を浮かべたか理由は、分かる。


「高望みが過ぎる様な気がするのぉ。無論、信がおける人物と言う意味では、お主等が選ぶ事だから口を挟む気はないが……今のお主等と釣り合う技量となるとなぁ」

「「「……」」」


 重蔵さんの苦言?に、俺達も口を噤む。自分で上げた条件ではあるが、中々の難題である事を自覚している。重蔵さんや幻夜さんの扱きを乗り越えた自分達の戦闘技量は、少なく見積もっても一般的な探索者の平均を大きく超えている。そんな俺達と技量的に釣り合う者となれば、民間探索者ではトップクラスの一部にしか該当しないだろう。 

 そして、そう言ったトップクラスの探索者と言うのは得てして、スポンサーと言う名の紐が付いている場合が多い。つまり、秘密が漏洩する可能性があるので増員メンバーとしては不適格な者達という事だ。


「見込みがあるものを見繕って、幻夜の所に放り込むか……」

「「「いや、流石にそれは……」」」


 重蔵さんが何気ない口振りで強硬策?を口にしたので、俺達は思わず腰を上げつつ止めに掛かった。

 技量が釣り合う人がいないからと言って、パーティーに勧誘した人を特殊部隊の訓練さながらの訓練に放り込む……どう言い繕ってもアウトだろう。


「まぁ、冗談じゃよ。流石にワシも、基礎が出来ていないような輩を幻夜の所にいきなり放り込んだりはせんて」

「「「……」」」

 

 重蔵さんは冗談と口にし笑みを見せるが、俺達は思わず疑いの眼差しで重蔵さんを見る。ちょっと修行に行って来いと言って、碌な説明もなく俺達を幻夜さんの所に放り込んだ前科があるからな……重蔵さんは。

 それにさっきの口振り、何気なく口にした事が余計に本気を感じさせる。


「と、兎も角! メンバーの追加は必須ですけど、誰を追加のメンバーにするかに関してはもう少し考えさせて下さい」

「ふむ。まぁ焦って決める事でもないからの、シッカリ相手を見極めて声を掛けるようにしなさい。選んだメンバーの技量不足に関しては、いつでも相談に乗るからの」

「あ、ありがとうございます……」


 快くサポートを申し出てくれる重蔵さんの言葉を聞きながら、俺はとある決意をする。

 最低限の技量がある人を選ばないと、加入メンバーに地獄を見せる事になるな。気を付けようと。






 反省会が終わった後、俺達は昨日やり損ねた打ち上げ会をする事にした。昨日は心底精神的に疲れていたのでやる気が起きなかったが、区切りの意味でもお疲れ様会はやっておきたい。

 気分の切り替えになるからな。


「それじゃぁ、昨日はお疲れさま!」

「「お疲れさま~」」


 裕二の家からさほど離れていない大通りに面したファミレスで、俺達はドリンクバーのジュース片手に乾杯をする。今回の探索で得た収入的には、ファミレスではなく高級店で打ち上げをする事も出来るが、堅苦しい……厳かな雰囲気の店でやっても寛げないからな。

 気楽な雰囲気で飲み食いできる店の方が、打ち上げ会には向いている。


「ぷはぁー、それにしても今回の探索は結構大変だったな」

「ああ。まさか、あそこまで面倒事が連続して起きるとは思ってもみなかったよな」

「本当よね。まさに口は災いの元、ね」


 探索時での出来事を思い出し、俺達の口から愚痴がポロポロと漏れだす。先程の反省会でも指摘されたように、口にしたら不味い単語は出していないが愚痴が止まらない。

 ジュースでコレだ。俺達がアルコールが飲める年齢だったら酒を嗜みながら、どんな愚痴を口走る事やら……。


「まぁ、終わった事は仕方ない。次回からどうすれば良い方に向かうか考えよう」

「……そう、だな。何時までも愚痴を漏らしていても仕方ないしな、建設的な話をした方がマシだもんな」

「そうね。このままじゃ、何時までも愚痴を吐き出し続けそうだもの。話の流れを変えましょう」


 ドンヨリとした重苦しい雰囲気が漂う俺達の席に、周りから非難と言うか触れ難い気づかいの眼差しが集まっていた。ある程度愚痴を吐き出し落ち着いた俺達はその事に気付き、席の雰囲気を払拭しようと話題を変える。

 と言っても、結局はダンジョン探索関係の話題なんだけどな。


「それにしても、こう言う所にもダンジョン食材が出回ってくるようになってきている事を考えると、素材の買取価格が下がるのも当然だよな……」

「そうだな。他のメニューに比べて少し割高ではあるけど、こうして普通のメニューに載るようになってきたんだ。と言う事は、品薄にならない程度の量の素材が市場に供給されているって事だからな」

「家で使ってる食材も、昔に比べて随分仕入れ値が下がってきたわ。まだそこまで安いと言う事では無いけど、時間が経てばもっと下がるでしょうね」


 オーク肉を混ぜたハンバーグを突きながら、俺は素材の買い取り額が下がった事を残念に思いながら受け入れた。フェアのキャンペーンメニューではあるが、ファミレスでモンスター肉の料理が割高ではあるが手頃な値段で食べられる。半年ほど前では、少しも考えられなかった事だからな。

 そりゃ、上層階で得られるドロップアイテムの買取価格も安くなる。


「その内、ミノ肉もファミレスで手頃な値段で食べられるようになるのかな?」

「何れは、そうなるだろうな」

「今の流れを考えると、1,2年で食べられる様になりそうよね」


 少し前までは見掛けなかった企業系パーティーが、20階層以降に複数いたのだ。1,2年と言わずに、ミノ肉が食べられる様になる可能性は高いかもしれない。

 となると、ますます……。


「早い内に、下の階層に進んで探索を進めた方が良いかも知れないな」

「そうだな。企業系パーティーが出張ってくる前に、ある程度未踏破階層の探索は進めておいた方が地の利を得る為にも良いだろう」

「無駄な接触を回避するにしても、知っていないとどうしようもないものね」


 俺達は軽く頷きあいながら、次回のダンジョン探索では29階層以降に足を延ばす事を決めた。
















今回の経験うけ、29階層以降へ潜る決心を決めました。

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― 新着の感想 ―
普通に凜々華さんでいいのでは? 交渉に護衛、対人間相手ならベストだと思うが
[一言] おじいちゃん一緒に行こ
[一言] 一番の候補は幻夜さんの孫娘では。政府と交渉する際にも助けになると思うし。 
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