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第268話 一日ぶりの太陽

お気に入り22570超、PV34210000超、ジャンル別日刊27位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。







 先輩探索者達に逃げられないように脇を固められ、騒動を起こした学生探索者達はダンジョンの外へと連れて行かれた。まぁ、自業自得だな。

 そして俺達は学生探索者達が起こした騒動の結末を見送った後、偶々居合わせた他の学生系探索者達が階段前広場の片付けを始めたので手伝う事にした。学生探索者が少しでも多く片付けに手を貸した方が、イメージが良くなるだろうからな。一部の馬鹿が馬鹿をしただけで、他の大部分の学生探索者達は真面目だってさ。


「ああ、こんなに壊しちゃって……」

「机がバラバラじゃ無いか……コレはもう修理出来ないな」


 パッと見、被害はテーブル3つに、椅子が10脚ほどだ。元々ココの広場に設置されているテーブルや椅子は、遊園地やフードコートによく設置してあるようなプラスチック製のもので、随分派手に暴れていたらしく盛大に割れた破片が広範囲に散らばっていた。

 俺達は壊れ散らばった机や椅子の破片を掻き集め、持ってきていたゴミ袋用の大きなビニール袋に仕舞っていく。コレ、俺達がダンジョンの外に持ち出さないといけないだろうな……。


「事の顛末は協会に報告が行くだろうから、またテーブルも椅子も再設置はされるだろうけど……」

「直ぐには設置されないだろうさ。場所が場所だし、費用面の問題もあるだろうしな」


 ダンジョンにテーブルセットを設置する。言うのは簡単だが、やるとなれば困難な作業だ。テーブルや椅子自体2,3万はするだろうし、業者が運搬、設置する費用を加味すれば幾らになるか分かった物では無い。

 そして、その費用の請求先は揉め事を起こした学生探索者達。彼等の装備は見たが、どう見ても安物で体裁を整えたというラインナップだった。彼等が請求される諸々の費用を払えるのか?と聞かれたら、難しいのでは無いだろうか。つまり再設置は、随分先の話になる可能性が高い。そうなったら、恨まれるのは揉め事を起こした学生探索者達だが、他の学生探索者達がとばっちりを受ける可能性が出てくる。


「……よし、大体回収したかな?」

「そうだな、細かい物は箒とかが無いと取れないからコレ位で大丈夫だろう」

「後はコレを持って帰るだけだけど……」


 チラリと視線を同じく破片集めをしていた他の学生探索者達に向けてみると、皆回収したゴミをどうしようかと迷っていた。ここに来ている以上、彼等もドロップアイテムを求めて探索をしに来ている。となると、こんな粗大ゴミを持ったまま探索をするのは困難だしやりたくない。かと言って、ゴミをココに放置して行くというのも考え物だ。基本ダンジョンは、自分が出したゴミは自分で持ち帰るのがマナーだからな。

 つまり……。 


「「「「……」」」」


 視線だけでの、無言の牽制合戦が始まった。

 レベルアップで強化された探索者の身体能力を考慮すれば、集めたゴミを数人の1パーティーで持って帰る事も可能だ。更に地上までの道の安全を考えれば、護衛にもう1パーティー付ければ最低2パーティーでゴミの搬出が可能。つまり地上までゴミを捨てに行くと、2パーティーが立候補(ババを引く)してくれれば、他のパーティーは探索を続行する事が出来るのだ。


「「「「……」」」」

「「……」」


 学生探索者達は視線による牽制を続け、周りで見守る他の探索者達は自分がババを引かないように我関せずと言った態度でチラチラと視線を向けながら事の推移を見守っている。

 雰囲気は最悪の様相を呈し、状況は膠着状態と言えた。そんな中、俺達はアイコンタクトで打開策を練る。


「(……どうする? 誰かが何か言い出さないと、どうしようも無さそうだぞ?)」

「(そう言われてもな……貧乏クジを引きたくないって気持ちは分からない事も無いしな)」

「(とは言っても、何時までも睨み合って時間を浪費し続けるってのもね……)」

「(となると、状況を打破しようとすれば立候補する位しか無い訳だが……)」

「(目立ちたくは無いけど、しょうが無いんじゃない? どうせ私達は帰るだけだし、荷物が増えても……多分大丈夫よ)」

「「(はぁ、やっぱりそう言う結論になるかな(よな))」」


 俺達は諦めたように目を伏せながら、そう結論を出した。

 そして視線による牽制合戦が続く中、俺はユックリとした動作で右手を挙げる。 


「ああ、えっと、その、何だ? 俺達、この後は地上に戻るだけだからこのゴミ、持って帰っても良いぞ?」

「「「「!?」」」」


 俺の発言を聞き、遂にババを引いてくれる者が出たと喜びの感情を浮かべる学生探索者達。そしてコレを切っ掛けに、膠着状態にあった話が動き出す。牽制合戦が始まり言い出しづらかったらしく、俺達と同じように既に探索を終え帰路についていた2パーティーが護衛に立候補してくれた。

 お陰で役割分担がスムーズに決まり、俺たちは集めたゴミを受け取り、ゴミ回収をしていた学生探索者の集まりは解散した。

 





 ゴミを受け取った俺達は、帰路の護衛を引き受けてくれた学生探索者グループと顔合わせの挨拶をしていた。


「いやぁ、助かったよ。お前等が手を上げてくれなかったら、俺達今でもアソコで睨み合いを続けていただろうな」

「はい、ホントに助かりました!」


 護衛に名乗りを上げてくれたのは、男子学生だけの探索者パーティーと女子学生だけの探索者パーティーだ。男子学生パーティーのリーダーは、香川紀生(かがわ のりお)と言う高校3年生の体育会系青年。女子学生パーティーのリーダーは、雲雀珠洲(ひばり すず)ちゃんと言う高校1年生の明るく元気な女の子だ。香川さん達はダンジョンが解放されてから直ぐに探索者を始めたそうで、ベテランと言える経歴の探索者。雲雀ちゃん達は、この夏探索者デビューしたばかりの新人さんらしい。


「いえ、コッチも助かりました。せっかく場の流れを変えようと立候補したのに、誰も続いてくれなかったら元の木阿弥でしたからね」

「元々ココで休憩したら、後は帰るだけだったからな。護衛と言っても、実質はタダの同行者だよ」

「私達としては、むしろ心強い同行者さん達が出来てラッキーです!」


 とまぁこんな感じで同行者と軽く顔合わせを終えた俺達は、これ以上変な揉め事に巻き込まれる前に出発する事にした。長居すればするだけ、面倒事がよってきそうだからな。


「じゃぁ、出発しますよ」

「おう」

「はい!」


 2階層上がるだけと短い付き合いだが、俺達臨時編成パーティーは足並みをそろえて階段前広場を出発した。






 帰路は順調で、俺達は地上まで最短距離のルートを使って進んでいく。既に1階層に到達しているが、ただ歩くだけでは暇なので情報交換を兼ねた最近のダンジョン事情に関する話をネタにおしゃべりをしていた。


「へー、最近はその食料系アイテムも買取額が随分と値下がりしてるんですね」

「そうなんだよ。昔……と言っても半年程前の事なんだけどな? その頃は状態が良いモノなら、1つ数千円前後ぐらいで買い取って貰えてたんだけど、最近は……」

「食品系アイテム収集が専門の企業系探索者も、最近はかなり増えてますからね」

「剥ぎ取りナイフなんかの食材集めに便利な確保しやすいアイテムもあるからな、集団で動いて数が確保しやすい食材を中心に収集してるから、特に食品系アイテムは値崩れしてるよ」

「……」


 俺と香川さんの話を耳にし、雲雀ちゃん達は驚きで目を見開いている。新人探索者である雲雀ちゃん達には、中々衝撃的な話だったようだ。

 そして小さな溜息を漏らしながら、雲雀ちゃんは愚痴を漏らす。

 

「ああ、残念だな。もう少し前に探索者を始められていたら、そんなに羽振りが良い目にあえていたかもしれなかったんだ……」

「……まぁ、最初だけのバブルさ。ある程度供給体制が整ってしまえば、自然と買い取り価格が落ちるのは仕方が無い事だからな。むしろ、そのせいで今苦労している連中も多いからな……」


 香川さんは雲雀ちゃんに、やんわりと釘を刺す。

 一度上がった生活水準は中々落としづらい。過去の栄華に縋って、今も無茶な散財をしている探索者も多いって聞くしな。少しダンジョンに潜れば大金が手に入っていた頃とは違い、今では運が無ければ浅い階層では小金稼ぎくらいしか出来ない。その為、一攫千金を狙って実力が伴っていないのに無謀な探索に出て大怪我を負う者や、怪我を治す為に高額な回復薬を購入し借金塗れになる者なども少なくない。


「でも九重さんや香川さん達は、その時に結構、稼げたんですよね?」

「……まぁ、それなりには」

「と言っても、殆ど装備品の更新や新調で消えちゃったよ」

「……」


 俺と香川さんは雲雀ちゃんの羨ましげな眼差しから、気まずげに目線を逸らした。

 若干雰囲気が悪くなったので、俺は軽く咳払いをして話題を変える。

 

「そ、そう言えば、香川さん。高校3年生と言ってましたけど、夏休み期間にダンジョンに来て受験の方は大丈夫なんですか?」

「えっ、ああ大丈夫だ。と言うか、俺を含めてうちのパーティーメンバーは全員、とある企業にヘッドハンティングされて就職するから受験は関係ないんだよ。むしろ夏休み期間中にダンジョンに潜って、レベルを上げるのが事前研修(インターンシップ)って扱いかな?」

「えっ!? 香川さん達、スカウトされたんですか!?」


 香川さんのヘッドハンティング話に、雲雀ちゃんが食いつく。学生時代に探索者として活躍し企業にスカウトされるという流れは、最近の探索者学生が目指す進路の1つである。自営業系探索者は、相当運が良いか実力が無いとキツいからな。

 秘密を抱える俺達としては遠慮したい進路ではあるが、雲雀ちゃんからすると羨む進路であるようだ。


「ああ。春先に協会経由で、ウチの会社で働きませんか?って言われてね」

「うわぁ、凄いな! 良いな!」

「そ、そうか?」


 雲雀ちゃんに尊敬の眼差しで見られ、香川さんも照れ臭そうにしているが悪い気はしていないようだ。

 まぁ、かわいい女の子に褒められて、悪い気がする男子はそうはいないだろうからな。


「で、香川さん。スカウトされたとある企業って何処なんですか?」

「えっ? ああ、ソレは……」


 香川さんは何となく、言いづらそうに言葉を濁す。あっ、もしかしたら、会社名を出すなと、口止めされている系の話しかな?

 そして香川さんは少し悩んだ後、他言無用という約束でスカウトした企業の名前を口にした。


「正井食品……」


 まさかその企業名が香川さんの口から出てくるとは、思っても見なかった。正井食品……波佐間商事の馬場さんと牽制合戦をしていた作岡さんが所属している会社だよ。

 と言う事は、もしかしたら作岡さん経由で俺達の活躍?が香川さん達に伝わる可能性もあるな。


「「「……」」」


 話が盛り上がる香川さん達や雲雀ちゃん達とは裏腹に、俺達は微妙な表情を浮かべ憂鬱な気分になっていた。最後の最後でこんな落とし穴があるなんて……。

 照明の光が差し込むダンジョンの出口を眺めながら、俺達は若干重くなった足取りで楽しげな様子の香川さん達の後をついて行った。






 ダンジョンを出た俺達は入場ゲート付近に立っていた警備員の人に事情を話し、持ち出した粗大ゴミを何処に捨てたらいいか尋ねる。すると、どうやら先に連行された学生探索者達の事を知っていたようで、感謝の言葉と共にゴミの廃棄場所を教えてくれた。

 やっぱり、ダンジョン内からのゴミ回収は大変のようだ。


「ありがとうございます。じゃぁ、ゴミは指定の場所に捨てておきますね」

「ああ悪いね、直ぐに休みたいだろうにゴミの後始末を任せてしまって」

「いいえ、そう手間が掛かる事でもありませんので気にしないで下さい」


 俺達は警備員に挨拶をした後、ダンジョンの入り口がある建屋を後にする。

 そして建屋を出て一日ぶりに浴びた太陽の光の下、俺達は香川さん達と別れる事にした。


「道中、護衛をして下さってありがとうございました」

「いや、どうせ帰り道だったしな。気にしないでくれ」

「運良くモンスターとも遭遇しませんでしたしね」


 と軽い感じで俺達は香川さん達と別れの挨拶をすませた後、指定されたゴミ捨て場に机や椅子の残骸を運んでいった。ダンジョンの外に出た以上、護衛は必要ないからな。

 そしてゴミを捨てた後、俺達は近くの人気の無い休憩場でベンチに座り、ジュースを購入し休憩をとる。 


「はぁ……何か、散々なダンジョン泊だったな」

「ああ、そうだな。ホント、今回のダンジョン探索は心底疲れたよ」

「肉体的にはそうでも無いのに、精神的に堪える探索だったわ」


 俺達はベンチの背もたれに体を任せ、雲一つ無い青空を見上げながら今回のダンジョン探索の感想を漏らした。

 ホント、疲れたぁ……。
















脱出完了、精神的に疲れ果てるダンジョン泊となりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「真面」→「真面目」だと考えます。
[一言] 散々準備に時間をかけて運がないから新階層行かないってテンポ悪すぎ
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