表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/636

第262話 結局は戦う事に……

お気に入り21760超、PV32060000超、ジャンル別日刊68位、応援ありがとうございます。


書籍版朝ダン発売中です、よろしくお願いします。






 居心地の悪い視線に晒される事、数分。大雑把に戦闘の後片付けが終わったのか、他のパーティーは数人の見張りを残しキャンプベースの中に引き上げ始めた。襲撃直後に寝られるかは兎も角、体を横にして休むくらいは出来るからな。

  

「さて……何時までもこうしていても仕方が無い事だし、俺達も引き上げよう」

「ああ、そうだな。じゃぁ、俺と柊さんは休ませて貰うから、引き続き夜番頼むな」

「よろしくね、九重君」

「了解。居心地は悪いけど、まぁ頑張るよ」


 俺は若干顔を引き攣らせつつ、二人が陣幕の中に戻っていくのを見送った。他のパーティーから向けられる恨みがましげな視線に晒されながら。

 はぁ、ほんと勘弁してくれよ。


「こんな視線に晒され続けられるくらいなら、直接話し掛けてきてくれた方がまだマシだよな……」


 俺は断熱シートに腰を下ろしながら、他のパーティーから何とも言えない眼差しに晒される事に愚痴を漏らしつつ夜番を続ける。このまま1時間ちょっとか……長いよな。

 そして向けられる視線を無視し続ける辛く長い担当時間が過ぎ、漸く夜番の交替時間が回ってきた。


「よし、やっと交替出来る!」


 時計の針が夜番の交替時間を指した瞬間、俺は思わず小声で喜びの声を上げてしまった。いや、だってホントに辛かったんだよ? 1時間近く、恨みがましい視線に晒され続けるのって。 

 まぁ、襲撃直後で気がたっていたからだってのは理解出来るけど、ただただ恨みがましい眼差しだけを向けてくるってさ……言いたい事があるのなら直接言いに来いよ!と、思わず抗議に出向きそうになったな。しなかったけど。

 

「おおい、裕二。交替の時間だぞ?」


 陣幕の中に顔を入れ、寝ている裕二に呼びかける。柊さんも寝ているので起こさない様に……と言っても、起き上がらないだけで俺の声に反応はしてるけど。兎も角、俺は小声で裕二に交替を告げる。

 すると裕二は直ぐにベッドから上体を起こし、俺に眠気を感じさせない視線を向けてきた。あれ、寝れてなかったのかな?


「ああ、分かった。直ぐ準備をするから少し待っててくれ」

「了解。急がなくても良いからな」


 俺は裕二が動き出したのを確認し、陣幕を出て断熱シートに再び腰を下ろした。その際、ふと顔を動かし他のパーティーのテントに視線を向けてみると少々予想外の光景が目にはいた。先程の襲撃で最初に敵の接近を知らせた俺達が動きを見せたせいか、夜番が待機していたと思わしき初動担当を何人かテントの外に呼び出していたのだ。

 しかも、3パーティー共に声こそ掛けてこないが、鋭い視線でまた敵が近付いてきてるのか?と問い掛けて来ていた。なので、視線の意味に気付いた俺は慌てて腕を交差させながら頭を左右に振り、遅まきながらも敵の襲撃を否定する。


「無い無い、タダの夜番の交替だから!」


 流石に休んでいる人が多い所で大きな声は出せないので、俺は小声でタダの夜番交替だと主張する。すると俺の思いが通じたのか、初動担当と思わしき人達は安堵したような溜息を漏らした後、夜番担当の人に一言文句を言って撤収していった。

 何故文句を言ったと分かったのかって? だって夜番の人が、申し訳なさそうに頭を下げて謝ってたからな。まぁだからと言って、紛らわしいんだよって眼差しをこっちに向けて来ないで。それって、タダの逆恨みだからさ。


「待たせたな大樹、交替するよ」

「ああ裕二、早かったな」

「防具を着け直すだけだったからな、そんなに時間は掛からないさ。と、それより……何だよこの雰囲気?」

「早とちりと勘違いによる、逆恨みだよ」

「逆恨み?」


 俺は少し困った表情を浮かべつつ、裕二に先程おきた騒動?の事情を説明した。

 そして俺の話を聞いた祐二は、俺と同じような表情を浮かべ小さく溜息を漏らす。


「はぁ、まぁ確かに敵襲に対して無警戒なのよりは良いけど、もう少し自分達の索敵能力を鍛えてほしいものだな」

「まぁ、な。さて、じゃぁ俺は引き上げさせて貰うから、後は頼むな?」

「おう、任せておけ」


 俺は裕二に夜番を引き継いだ後、陣幕へと引っ込んだ。はぁ、コレで暫くあの恨みがましい視線に晒されなくて済むな。コボルトの襲撃より、あの視線に晒されていた1時間ちょっとの方がしんどかったよ、ほんと。


「さて、と……寝るか」


 俺は、防具を外してベッドに横になり、ブランケットを上に羽織り目を閉じた。






 どれくらい寝ていたのか分からないが、俺を呼ぶ声が聞こえる。声から焦りや緊張と言った感情は感じ取れないが、俺を起こそうと言う強い意思は感じ取れた。

 その為、俺の意識は急速に覚醒していき、向けられた言葉の内容を理解する。

 

「起きろ、大樹。敵が来るぞ」


 俺に声を掛けていたのは夜番をしていた裕二で、向けていた言葉は敵襲の知らせだった。


「……敵、またか?」

「ああ、まただ。しかも、さっきと同じようなスピードで近づいてくるから多分、今回の襲撃者もコボルトだろう」

「コボルトか……」


 裕二から敵の情報を聞き、俺はベッドから起き上がりながら面倒くさげに頭を掻いた。 

 また俺達を無視して、コボルトが他のパーティーを襲いに行ったら流石に色々な意味でアウトだろうな。1度なら偶然でも、2度続けてとなれば俺達が何かをしたと疑われる可能性は高いだろう。スキルやアイテムによるエンカウント回避……有用性が高いと見られれば戦闘終了後に他のパーティーに囲まれ追求されるかもしれないな。

 俺達は本当に何もしていないのだが、端から見ると何かしらかの原因(・・)があるのではと疑いたくなるシチュエーションだからな……うん、冤罪だね。


「兎も角、早めに準備を済ませて出て来てくれ。どう言う対処をするにしても防具無しで、ってのは流石に悪目立ちするからな」

「了解、出来るだけ急ぐよ」

「おう、頼むな。と言うわけで、柊さんもよろしく」

「ええ、勿論」


 俺と裕二が話している間に、柊さんは黙々と防具を身につけ準備を進めていた。もう殆どの防具が装着済み……って、感心して見ていないで俺も急がないと。

 俺は慌てて防具を身につけ、一足先に陣幕を出た柊さんの後を追った。


「ごめん、遅くなった」

「ああ、大丈夫だ。まだ、姿は見えてないからな」


 陣幕の外に出ると、裕二と柊さんが特に緊張した雰囲気もなく通路の方を眺めていた。まぁコボルト程度なら、特に緊張するほどの相手では無いからな。

 寧ろ問題は……。


「見られてるな……」


 俺達全員が完全武装状態で陣幕から出て来たのを見て、他のパーティーの夜番担当の人達が少し慌てた様子でキャンプベースの中の初動担当に声を掛けている姿が見えた。夜番交替と襲撃対応を勘違いした先程と違い、俺達全員が陣幕から出て来たのを見て動き出したらしい。これは、俺達の索敵能力が信用されてると見たら良いのだろうか?


「ああ、注目の的だな」


 裕二は居心地悪そうな表情を浮かべつつ、迎撃準備を始める他のパーティーを眺めていた。

 だが、そんな事よりも……。


「で、どうするの? 今度もコボルトに無視されたら……」

「まぁ、痛くもない腹を探られるだろうな……」

「だよね。寧ろ、俺達こそ避けられる理由を知りたいよ……」

  

 コレからの戦い、どのような方針で動くか頭が痛かった。 

 おそらく何もしなければ、先程の戦闘と同じくコボルト達に無視される可能性は高い……と思う。何故なら、何故先程の戦闘の際、俺達が避けられたのか理由が分からないからだ。理由が分からない以上、同じ状況(4パーティー)同じ敵(コボルト)に襲われた場合、同様の事態(俺達は無視)が起きる可能性はどうしても捨てきれない。


「……この状況で俺達が取れる選択肢は2つ、かな?」

「戦うか、無視するかだな」

「逃げる……と言う選択は無理よね」

「前にモンスター後ろに探索者、だからね」


 前に行けば結局モンスターと戦うハメになり本末転倒だし、怪我を負っているわけでもないのに逃げ出せば他の探索者パーティーに引き留められるだろう。

 なので現状、逃げるという選択肢は選べない。


「かと言って、どっちを選んでもそれなりにメリットデメリットはあるけどね」

「どっちがマシか……って程度の差だけどな」


 戦う事を選んだ場合、全力ではないとは言え俺達の戦闘能力が同席する他の探索者にバレてしまう。まぁ既に体育祭での動画が流出している以上、そこまで酷いデメリットって訳ではないけどな。

 逆に戦わない事を選んだ場合、俺達の戦闘能力はバレない代わりにもう一度モンスター(コボルト)に無視をされる危険があり、俺達にとって不利になる噂が流れる可能性は少なくない。モンスターに避けられるスキルやアイテムを保有している……特定のモンスターがドロップするアイテムが狙いの探索者からしたら、目的の階層まで不要な戦闘が避けられると言うのは魅力的だろう。そんな噂を信じた輩に秘密を知ろうと付きまとわれた場合、本当に隠しておかなければならない秘密(スライムダンジョン)が漏れるかもしれない。

 と言うわけで……。

 

「戦う……方がマシよね?」

「……まぁ、うん。そうだろうね」

「ああ、戦う方がまだマシだろうな」


 二つの選択肢を天秤に掛けた場合、戦う方が戦わない場合に比べデメリットは遙かに少ない。だって既に、ある程度の力はバレてるからね。

 はぁ、またスカウト話が沢山舞い込んでくるようになるんだろうな……。

 

「じゃぁ今回の戦闘方針としては、モンスターが広場に姿を見せたら俺達が戦うって事で良いかな?」

「それしかないだろうな。下手に相手の動きを待ってたら、前回の戦闘の時みたいに俺達を無視して分散攻撃を始めるだろうしな。それを防ぐのなら、俺達が積極的に動いて倒してしまうしかない」

「基本的に防衛戦だから、他のパーティーは待ちの姿勢になると思うわ。それなら他のパーティーが動く前に相手との距離を詰めて、速攻で倒してしまうのが一番無難よ」


 防衛戦で積極的に攻勢に出たら目立ちはするだろうけど、他のパーティーが戦闘に参加してくるリスクを考えたら速攻で倒しきってしまうのが一番の安全策だ。意思疎通がはかれていない連携戦など、タダの乱戦でしかないからな。

 最悪は、サポートのつもりで同士討ちが発生しかねない。


「はぁ、目立つだろうな」

「ああ、目立つだろうさ」

「目立つわね」


 戦闘終了後の事を思い、俺達は戦闘前から憂鬱な気持ちになった。

 





 悪目立ちするだろう事を覚悟してから1,2分後、通路の先から広場に近付いてきていたモンスターが姿を見せた。予想通り敵はコボルトで、数は見える範囲で15体はいる。

 前回より規模が大きいな……。


「総員起床! モンスターの出現を確認! 直ちに迎撃準備を整えろ!」

「敵モンスターはコボルト! 数は推定15体!」


 前回の戦闘時と同じように、企業系探索者パーティーの方から状況報告の声が響いてくる。防衛態勢を整え、コボルトを倒すつもりなのだろう。

 だが……。


「裕二、柊さん、行くよ」

「おう、任せろ」

「ええ」


 強力なライトに照らされ一時的に足止めされているコボルトの集団目掛けて、俺達は武器を構えながら他のパーティーが動く前に飛び出した。


「俺と裕二が先行して切り込むから、柊さんは取りこぼしの始末を御願い!」

「任せて!」

「大樹、前衛を頼む! 俺は後衛を狙う!」

「了解!」


 俺達は素早く担当を決め、コボルトとの距離を一気に詰めていく。すると、コボルト達もそんな俺達の動きに気付き、手に持つ武器を俺達に向け、威嚇するように唸り声を上げ始めた。

 どうやら流石に、襲い掛かってくる敵に対して逃げる事はしないらしい。 


「っ!? 止めろ、お前等! 無謀な事をするんじゃない!」

「たった三人で、その数のコボルトに突っ込むのは無茶だぞ!」

「おい、やめろ! 早く引き返せ!」


 そして、端から見ると少数で多数の敵に無謀な攻撃を仕掛けようとしている俺達の姿を見て、広場で防衛戦の準備を進めていた他のパーティーが必死に制止の声を掛けてくる。中には慌てて、俺達の撤退を援護しようと駆け出す人もいた。

 だが、既に俺達とコボルト達との間には然程の距離もない。つまり、手遅れという事だ。


「はぁっ!」

「せいっ!」

「やぁっ!」


 間合いに入った瞬間、俺と裕二は即座にコボルト達に斬りかかる。今回は他のパーティーの介入を防ぐ為、手加減は一切無しだ。コボルト達の首を狙い、一撃で頭を刎ね飛ばす。幸い大きく分散する前だったので、俺と裕二はコボルト達の間を駆け抜けながら手を止めず次々と頭を刎ね飛ばしていく。柊さんも俺達の取りこぼしたコボルトを、威嚇の咆哮の為に開いた口を狙い一撃で仕留めている。

 そして接触してからものの数秒、その数秒で俺達は10体を超えるコボルト達を殲滅してのけた。  


「「「……はぁ?」」」 


 そして数秒の間を置き、俺達が駆け抜けた後に残る血の海に沈み全滅したコボルト達の姿を見て、広場には探索者達の呆気に取られた声が響いた。

 















向かってこないのなら、こちらから行くまで……です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ