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第258話 やっと面倒な取引が終わった

お気に入り21170超、PV30710000超、ジャンル別日刊22位、応援ありがとうございます。



朝ダン、本日発売となりました。皆様の応援のお陰で、本日を無事に迎えられる事が出来ました。本当に、応援ありがとうございました。これからも頑張りますので、変わらぬ応援のほどよろしくお願いします。


そして、既に朝ダンを御購入いただいた皆様、本当にありがとうございます。







 白石さんの提案を柊さんと軽く相談した結果、条件付きで受ける事にした。

 その条件とは……。


「マジックアイテムやスキルスクロールのみを交換対象にする、か」

「はい。流石にドロップアイテムなら何でもとなると、色々問題が出て来ますから。例えば食肉系アイテムの場合、水との交換額に見合う肉の量と言ったらかなりの量になりますし、品質を維持する為の保管問題も出て来ます」


 仮に百グラム千円とすると、五十リットルの水と交換する場合は五十キロの肉との交換になる。純粋に重さやスペースの問題もあるが、“空間収納”スキルを使わずに地上に運搬する場合は品質維持の為に保冷しておく必要がある。長時間室温に置いた生温かい肉……うん、買い取り拒否される可能性もあるんじゃないか?

 とまぁ、そんな理由などで食肉系アイテムでの交換は論外だろう。勿論、俺達なら数時間でダンジョンを脱出し交換所に持ち込めるが、一般探索者としてみれば交換対象物品には値しない。


「それと申し訳ないんですが、回復薬のような流通量が多く一つ当たりの価格が低いアイテムも出来れば遠慮して貰えると助かります」

「そっか、マジックアイテムでも単価が安いアイテムだと量が多くなるものね」

「はい。流石に数十本の回復薬をジャラジャラと言うのは、受け取っても困りますから……」

「まぁ、そうなるわよね……」


 マジックアイテムは買取価格にある程度上下はあるものの、比較的相場が安定している。交換対象としては、まぁ妥当な代物である。ただし、マジックアイテムとは言え単価が安いものはあるし、大きかったりする物と色々とあるので、それなりに品を吟味する必要があるけどな。

 それと……。


「でも、本当に良いの? スキルスクロールも交換対象に上げているみたいだけど……アレって上で鑑定して貰うまでは中身がなんなのか分からないのよ? 当たりを引けば相応の値段で買い取って貰えるけど、外れを引いたら……」

「まぁ、そうですね。でも、運が悪くても十万円位は手に入りますし……」


 少し困惑気味の白石さんの反応を、柊さんは半笑いで受ける。まぁ白石さんの言うように、鑑定スキルか鑑定アイテム持ちでもない限り、スキルスクロールの中身は鑑定終了後まで不明だ。中に記載されているスキルによって買取価格が変動するスキルスクロール……うん、コレってガチャだなガチャ。

 ハイリスクハイリターン。物々交換の交換対象として適正かは分からないが……中毒性がありそうな交換方法だよな。


「あっ、うん! と、兎も角、金銭以外での交換も受けてくれるという事で良いのかな?」

「ああ、はい。まぁ、交換対象を絞った条件付きになりますけど……」

「そこは気にしないで、元々此方が無理な……迷惑な御願いをしているんだし、それ位の条件を出されても仕方が無いわ。取り敢えず、物々交換の提案を受け入れてくれてありがとう」


 白石さんと美田さんは軽く頭を下げ、俺達に感謝の意を伝えてくる。


「じゃぁ、ちょっと交換品の選別をしてくるわね。何度も申し訳ないけど、ちょっと待ってて貰えるかしら?」

「はい、大丈夫ですよ。あっでも、あまり遅くならないようにして下さいね? 消費したEPを回復するにしても、それなりの時間が掛かりますから。出来れば、明日の出発までには全快の状態にしておきたいので

「ええ、その辺の事は承知しているわ。じゃぁ、出来るだけ早く戻ってくるわね」

「はい」


 そう言うと、白石さんと美田さんは小走り気味に自分達のキャンプへと戻っていった。

 さてさて、いったい全体どんな物が出てくるのやら。






 流石に、白石さん達が直ぐに戻ってくるとは思えなかったので、俺と柊さんは一旦陣幕の中に戻り裕二と物々交換の対象について相談を始めた。

 勿論、内緒話なので“サイレントウォール”を使って。


「で、何を交換対象として貰うつもりなんだ? マジックアイテムやスキルスクロールなんかを交換条件に出してるみたいだけど、アレって結構なレアドロップ品だぞ? 行き道だけで、幾つ手に入れられてることやら……」

「まぁ最悪、一つも手に入れられていないって可能性もあるよな……でも」

「あの反応から見ると、少なくとも一つはマジックアイテムなりスキルスクロールなりは手に入れていそうよ?」

「だね。じゃなかったら、もっと渋い顔をしてるはずだもんね」


 白石さん達が浮かべていたのは、諦めの表情ではなく悩ましいといった表情だったからな。と言う事は、アイテム自体は持っているが水と引き換えにとはいえ……とかいう葛藤があるのだろう。まぁ、折角ここまで来て得たアイテムだ、出来れば持ち帰って換金を……と言う思いは理解出来る。

 それに裕二が言ったように、マジックアイテムやスキルスクロールはレアドロップだ。水を購入し探索を続けたからと言って、必ず手に入る品とは限らないからな。出し惜しみ出来るのなら、取っておきたいと思うのも人情というものだろう。


「そっか。まぁ、持っていると言うのなら良いんだけど……スキルスクロールか」

「俺からすると、何が出るのか分かった上でやる勝ちが決まったガチャだからな。まぁ、程々に勝ち負けを繰り返して、少しだけ収支がプラスになる程度に調整して誤魔化す必要はあるだろうけどな」

「いつも当たりばかり引いてると、九重君が鑑定持ちだとバレるものね」

「まぁ、そう言う事だな。と言うわけで、仮にスキルスクロールを交換品に出されても、早々大損するような事にはならないと思うぞ。もっとも、水の元手がほぼタダだから交換した時点でプラスだけどさ」

「あら? 一応、私のEPを消費して手間を掛けるんだから、元手がタダと言う事はないんじゃない?」


 柊さんは苦笑を漏らしながら、俺に指摘を入れる。まぁ、そうかもしれないね。仮に、造水に掛かる時間とEPを回復する時間を時給換算したら、俺達の場合とんでもない額になるとおもう。

 毎回、半日程度で6桁後半円稼いでるからな……。


「まぁまぁ柊さん、その辺はスルーしてよ。兎も角、仮に外れスキルスクロールを出されたとしても、特別損はしないって事だよ」

「……そうだな」

「だけどまぁ寧ろ問題は、マジックアイテムを渡された場合の方が厄介かもしれないね。スキルスクロールは中身が分からないと値段が分からないけど、マジックアイテムだとある程度相場が決まってるからね。偶に買取リストには目を通してはいるけど、全部把握しているわけじゃないから把握してる物以外を出されたら最悪、相手の言い値で受け取る形になるかもしれないよ」


 そう悪い人達の様には見えなかったが、初対面の人達である事には変わりない。また、騙そうとは思っていなくとも、結果騙してしまったという事も起きかねない。はぁ、取引の基準になるマジックアイテムの買取値段表でもあれば良いんだけど……無い物ねだりだよな。

 今度からは、ドロップアイテムの買取一覧表をプリントアウトして持ってこよう。 


「……仕方無いんじゃないか? 今回の取引はイレギュラーな事態だからな、準備不足と言うのは無理もない」

「そうね。消極的な交流……って思っていたのに、この事態はちょっと想定外だものね」

「まぁ、ね」


 軽く挨拶をし他の探索者がいる同じ階層でキャンプを張る……と言うのが当初の目的だったのに、何時の間に物資提供や物々交換による商取引まで行う事になってしまった。

 ホント、何でこうなったんだか……。






 3人で当初の予定と大分離れた現状に溜息をついていると、陣幕の外から俺達を呼ぶ白石さんの声が聞こえてきた。どうやら、向こうの準備が整ったようだ。

 俺と柊さんで陣幕を出ると、申し訳なさそうな白石さんとポリタンクを持った美田さんの他にもう一人、袋を持った美田さんより少し背の低い男性が立っていた。……って、だれ?


「すみません、お待たせしました」

「いいえ。それより白石さん、そちらの方は……?」

「ああ、紹介しますね。彼は浜谷涼真(はまたに りょうま)君、うちのパーティーのリーダーです」

「浜谷です。今回は俺達の無理な御願いを聞いて頂き、ありがとうございます」

「あっ、いえ……」


 この浜谷さん、口調は丁寧で人当たりは良さそうなのだが、俺達に向けてくる目が表に出している表情と違う感情を物語っていた。

 コレは……苛立ち、か?

 

「では早速ですが、水の提供を御願いして頂けますか?」

「あっ、はい、大丈夫ですよ。ですけど……」

「勿論、分かっています。此方を」


 そう言って浜谷さんは持っていた袋を開き、中身を俺達に見せる。


「交換の代金はマジックアイテムかスキルスクロールとの事でしたので、今回の遠征で手に入れた物の中で見合うものを選んで持ってきました。どうぞ、手にとって確認して下さい」

「あっ、はい。じゃぁ、拝見させて貰います」


 浜谷さんが持っていた袋に入っていた物は、スキルスクロールが2つとマジックアイテムが4つだった。

 ……って、結構一杯入ってるな。と言うか、コレだけレアドロップ品があるって事は、この人達かなり積極的にモンスターと戦っているよ。

 

「スキルスクロールは未鑑定なので、中身は不明です。マジックアイテムの方はそれぞれ、以前確認した買取リストの価格が二十六万、十七万、三十五万、二十万でした」


 浜谷さんの説明を聞きながら、俺はコッソリ“鑑定解析”を使ってマジックアイテムが本物か偽物かを確認する。結果は全て本物、申告された買取価格が事実かは分からないが騙す気はなさそうだ。

 俺が視線で柊さんに全て本物である事を伝えると、柊さんは顔を上げ話を進める。


「急な御願いを聞いて頂きありがとうございます。それで、浜谷さん達はどれくらいの水をご所望なのですか? それによって、受け取る物が変わりますので……」

「と言う事は、代金の支払いはこれらで良いんですか?」

「はい」

「ありがとうございます。では、五十リットル分を御願いします」


 柊さんの問いに、浜谷さんは一切迷いのない表情で上限一杯までの交換を要求してきた。交換上限まで迷わず要求するって……この人達、ガチでダンジョンに稼ぎに来てるんだな。

 あまりの迷いの無い即答に柊さんも一瞬唖然としていたが、軽く咳払いをして気を持ち直し話を再開する。 


「わ、分かりました。では、当初のお約束通りのレートですと、お支払額は五十万になりますが宜しいですか?」

「はい、問題ありません。それで御願いします」

「分かりました。でも、そうすると……」


 交換予定のマジックアイテム2つの組み合わせだと、提示されている買取額のせいで半端になる。とすると……一番高価なマジックアイテムとスキルスクロール一本と言う組み合わせが一番損をし辛い無難な選択だろうか?

 

「ねぇ、九重君? 九重君はどっちのスクロールが良いと思う?」


 どうやら柊さんも同じ考えらしく、俺にどっちのスクロールを選ぶべきか聞いてきた。さきほど鑑定したので、スクロールに記載されているスキルの中身は分かってはいるのだが……。

 

「中身が分からないんだから、どっちでも良いんじゃないかな? 柊さんが好きな方を選んで大丈夫だと思うよ」

「……後で文句を言わないでよ?」

「うん。結果がどうでアレ、俺は絶対(・・)に文句を言わないよ」

「……外れた時は、私の弁護に回ってよ」

「了解」


 このやり取りだけを見ると、外れた時の責任の押し付け合いのように見えるが事実は違う。鑑定スキル持ちの俺が、絶対(・・)に文句を言わないと言っているのだ。

 つまり、柊さんがどちらを選んでも損はしないという事である。


「じゃぁ、こっちのスキルスクロールとこのマジックアイテムを頂きますね」

「ええ、構いません。ただ、スキルスクロールの鑑定額が安かったとしても、文句は言わないで下さいね?」

「勿論です。寧ろ、私が選んだコレが高くても差額を返せとは言わないで下さいよ?」

「ははっ、勿論」


 柊さんと浜谷さんは互いに予防線を張りつつ、軽く牽制し合っていた。取引終了後の金銭トラブルだなんて、どちらもやりたくない事だからな。本当ならこの取引も、第三者立ち会いのもと約束を交わすのが良いだろうが……第三者になってくれそうな人がいないからな。

 まぁ一応念の為、二人とも態と大きな声で交渉をしていたので、企業系探索者パーティーの方にもこのやり取りの声は届いているだろう。最悪は彼等に証人になって貰おう。

 

「では、水の提供を御願いします」

「はい。えっと、水は美田さんが持っているタンクに入れれば?」

「ええ、アレに御願いします」


 柊さんは美田さんから空の水タンクを受け取り、3人の目の前で注水作業を始めた。コレは念の為、異物や薬物を入れてませんよと言うアピールだ。陣幕の中で入れられた水だと、本当に大丈夫かなと不安になるかもしれないからな。

 そして十分程かけ、柊さんの注水作業は終了した。


「はい、注水完了です」

「ありがとうございます。コレで俺達も予定通り、探索を続行出来ますよ」

「私達は明日にはココを出るので、またタンクが壊されないよう無理しないで下さいね?」

「ええ、勿論。ダンジョン内で給水が出来るなんて幸運、もう無いかもしれませんからね」


 そう言って浜谷さんは、白石さんとタンクを持った美田さんを連れて自分達のキャンプへと帰って行った。

 はぁ、これでやっと面倒事が終わったよ……。

















水騒動、一先ず終了です。後はただ寝るだけ……になればいいんですけどね。



朝ダン、現在発売中です。よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
お?不穏だな? やっと探索者間の問題が出るか??? 人間そんなに綺麗じゃないから現実に則してる割に問題が少ないなぁと思ってたんよね。まぁこの辺含めてのご都合主義なんだろうけども。
[気になる点] ん?あれ?苛々リーダーは何の為に出てきたの? てっきり一悶着あるのかと思いきや平和に解決 今更でしゃばってくるからには何か有ると思ったのに……
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