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第251話 やっと、夏休みが始まる

お気に入り20840超、PV29790000超、ジャンル別日刊44位、応援ありがとうございます。

新章スタートです。





 

 手にしていたシャーペンを机の上に投げ出し、ノートを閉じて前傾姿勢に丸めていた背を伸ばし……一言。


「終わった……!」


 万感の思いが込められた言葉が、自然と俺の口から出る。

 友人等と挑み、艱難辛苦を乗り越え、ようやく俺は厄介な敵達を撃破したのだ。厄介な敵……。


「やっと、夏休みの課題が終わった……!」


 夏休みの課題を。いやー、実に手強かった。内容自体は一学期で習った範疇内なのでそう難しくはないのだが、量が凄いこと凄いこと。ほとんどの科目で問題集を丸々一冊課題にしてるとかさ……なんなんだよ。他にも読書感想文や研究レポートの作成もあるしさ、本当に夏休み中に終わる量か?って貰った時は思わず遠い目をしちゃったよ。

 ……まぁ、目を逸らしても現実は変わんなかったけどさ。


「問題集系は皆と手分けして片付けられたけど、レポート系が……ひたすらに面倒だった」


 いちいち書籍やネット資料を調べてから書かなければいけないレポートは、皆で手分けをしてとはいかないからな。課題にあった本を見付けては内容を幾つも熟読し、自分が理解した事をかみ砕きながら見やすいようにレポートを作成する。このせいで、問題集系の倍は片付けるのに時間が掛かったよ。

 しかも、これが複数の科目で課題として出されていたので……実に面倒だった。そこまで考えた時、ふと俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。


「もしかしてこれって、学校が用意した探索者系学生への足止め策だった……とか?」


 そう考えると、今回の夏課題の量にも納得がいく。1年と2年という違いはあるが、去年の課題と比べても、今回の課題の量は倍と言っても良いくらいに増えている。正直言って、毎日少しずつコツコツやるスタイルだと、夏休み終了までに終わるか?と思える量だ。

 俺達はダンジョンに行く為に、7月中に課題を終わらせると目標を立て集中してこなしたが、量が量のためかなりのハードスケジュールだった。皆、勉強会の時は半分目が死んでたもんな。美佳や日野さんなんか、もうヤダと駄々をこねて逃げだそうとしていたのを、沙織ちゃんと館林さんが必死に宥めすかし連れ戻していた。


「多分多いだろうな、ダンジョン探索に夢中になって課題をやってこなかったって奴……」


 夏休みの終了最終週辺りになって、課題が殆ど終わってなくて顔が真っ青になる奴だ。1週間もあれば終わると高を括っていたら全然時間が足らず徹夜したり、登校日初日の朝に友達から終わった課題を借り丸写ししたり、全てを諦め達観し穏やかな表情を浮かべている。

 うん、夏休み明けの新学期ではよく見る光景だな……。


「で、課題の多さに嫌気がさしてやるのを放棄したせいで休み明けに課題の提出が出来なかったら、課題未提出を理由に放課後や休日に補習を組む……とか言う二重のトラップでもあるとか?」


 だとしたら、中々悪辣な罠だろう。

 が、逆にあまり多くの未提出者がいると、補習を担当する教師の負担が増すと言う諸刃の剣のような策だけどな。


「普通の奴ならダンジョン探索に掛ける時間を減らして、課題を提出出来る状態にするんだろう……ってそうか。これはアレだ、一種の(ふるい)だ」


 ダンジョン探索にのめり込み過ぎて課題を提出出来なかった生徒を抽出し、何か問題を起こすかもしれない生徒として重点警戒対象に上げる。逆に勉学とバランス良くダンジョン探索を両立出来る生徒なら、比較的自由にやらせていても問題行動は起こさないだろうと割り切る。見守る教師の目が限られている以上、取捨選択は必要だからな。

 事実、ダンジョン探索にのめり込み過ぎ大怪我を負い留年した結果、留年した学年で一大騒動を起こしかけた生徒がいると言う実例が出ている以上、学校側としてはそれなりの未然防止策が必要だろう。重点警戒対象の生徒が留年しないよう細かく出席率低下などの注意を促すだけでも、留年者数は変わるだろうからな。


「まぁもしそうだとすると、非探索者系生徒はとばっちりを受けた形だよな。もっとも、この推測が事実かどうかは知らないけどさ」


 こうして色々と言ってはいるが、所詮俺が考えた妄想だ。只単に、これだけ課題を出す必要があっただけと言うのが事実かもしれない。

 まぁそうすると、普段の授業がどれだけ遅延しているのかと心配になるけどな。


「とは言え、俺の夏休みの課題は終わりだ。さてさて、裕二と柊さんの方は終わったかな?」


 俺は時計で今が21時前である事を時間を確認した後、スマホで2人に夏休みの課題が終了した事を報告しておいた。あまり遅い時間だと迷惑になるし、1人だけ終わっていてもダンジョンにいけないからな。

 そして俺は2人からの返事を待つ間、凝り固まった体を解しながら台所にお茶を取りに部屋を出た。

 





 階段を降りてリビングの扉を開くと、ソファーに座りテレビを見ている父さんと母さんの姿があった。どうやら、バラエティ特番を見ていたらしい。最近プチブレイクした新人芸能人が、必死の形相で特盛りのカツ丼?を掻き込んでいた。番組に爪痕を残そうとしているのだろうが、良くあんな量をリバースせずに食えるものだ。俺も最近は探索者関連で体を良く動かすようになったので食事量自体は増えているが、流石にあの量は無理だな。絶対に途中で胸焼けがして、無理に食べ続けたら吐く自信がある。

 と、足を止めそんな事を考えていると、俺の存在に気が付いた母さんと目が合った。


「あら? 大樹じゃない、もう宿題は終わったの?」

「うん、一応ね」

「えっ、ホントなの?」


 母さんが宿題は終わったのかと声を掛けてきたので、軽く頷きながら終わったと答えると若干驚いた様な表情を浮かべた。美佳の奴が夕食の時に、課題が終わらないと泣き言を漏らしていたからな。泣き言こそ漏らしていないが、俺も同じ状況だろうと思われていたのだろう。

 俺は台所の冷蔵庫の方に足を進めながら、課題が終わった事を説明する。


「問題集系の課題は、皆で勉強会をした時にだいたい終わらせたからね。レポート系は、本を読んだり資料集めが面倒だったけどどうにか終わったよ」

「レポートって、読書感想文みたいなものよね? そんなに早く、課題の本を読み終わったの?」

「前に読んだ事がある本が課題リストに載ってたからね、内容を思い出す感じで読み直すだけだから感想文を作るのは簡単だったよ。他のレポートも、元々興味があったから少し調べていたから事前知識なしでやるよりは簡単だったかな?」


 冷蔵庫から取り出したお茶をコップに注ぎながら、レポート課題のテーマを思い出した。“ダンジョン出現前と出現後の差異”“探索者が今後担うべき社会の役割”“ダンジョンクリスタルが与える社会情勢の変化”等々……ダンジョンに関する幾つかのテーマ候補が示されており、好きなものを選んで研究するという形式のものだ。

 ダンジョン関連のテーマが多いのはおそらく、冷静な視点でダンジョンとの関わり方を生徒に考えさせるという意図があるのかもしれない。


「あら、そうなの。ラッキーだったわね」

「読書感想文に関しては、ね。でも、レポートの方は資料を調べ直したりしたから少し楽かな?程度だよ」

「それでも、美佳に比べればラッキーよ。あの子さっきお茶を飲みに降りてきたけど、本を読む合間合間で資料集めしてるから中々考えが纏まらないって愚痴ってたもの」

「そうなの?」


 おいおい美佳の奴、同時進行で課題をこなしてるのか? これ系の課題は片方づつ片付けていかないと、両方が混じり合って考えが纏まらないだろうに……仕方ない。感想文の方は手を貸せないから、資料集めを手伝ってやるか。資料を纏めてやっておけば、感想文が片付ければ直ぐにレポート作成に移れるからな。

 まぁ、纏めた資料の読み込みにはそれなりに時間が掛かるだろうけどな。


「じゃぁ俺の方は手が空いたから、資料集めを手伝ってみるよ」

「でも、美佳の課題よ? 大樹が手伝ったら……」

「手伝うのは、資料集めまでだよ。纏めて、レポートに起こすのは美佳がやるから問題ないと思う」

「そう……」


 母さんは少し悩むように首を傾げるが、俺達の話を聞いていた父さんが口を挟んでくる。


「良いんじゃないか、資料集めくらいなら」

「でも、お父さん……」

「会社でも資料集めなんかしてる時には、手が空いてたら他の人も手伝ってくれるしさ」

「そう、ね……」


 母さんは課題は資料集めから全部自分でやる方が良いという考えらしく、俺と父さんの意見に微妙な表情を浮かべている。だけど、既に勉強会という名の共同作業で他の課題もやっている以上、レポート作成だけ手を出したらダメという事はないと思う。

 お茶を飲みつつ母さんの決断を待っていると、暫くして母さんは渋々と言った表情を浮かべて顔を縦に振った。


「じゃあ大樹、美佳の手伝いよろしくね」

「うん、分かった」


 そんなに悩むような問題じゃないと思うんだけどなと思いつつ、母さんの後ろで若干苦笑を浮かべている父さんを横目に見ながら、俺は苦笑を表に出さないようにしつつ頷いた。

 そしてお茶を飲み終えた俺は、父さんと母さんに一言断りを入れてからリビングを後にし一旦自室へと戻る。






 自室に戻ると机の上に置いて置いたスマホが着信を知らせるランプが点滅していたので、どっちからの返事だろうと思いつつ俺はスマホを手に取り開く。

 

「おっ、2人から返信来てるな。何々? ……裕二はレポートがあと少しで、柊さんも読書感想文がもう少し、ね」


 どうやら俺が一番に終わったらしく、2人とももう少し時間が掛かるらしい。多分、熟読しなくて済んだ読書感想文の分だけ俺がリードしたらしい。

 とは言え、だ。この調子なら明日……は難しいだろうが、早ければ明後日にもダンジョンへ行く事も出来そうだ。


「取り敢えず……“了解、終わるのを待ってます”っと。よし、これでいいな。送信、っと」


 素早く返事を入力し、短い返事の文章を2人に送り返す。

 ココで“早めに”や“首を長くして”等と文脈に付け加えると、早く終わった俺が苛立って二人に課題を直ぐ片付けるように催促しているようになるのでNGだろう。7月中に終わらせて……と言っているだけで明確な終了日を定めていない以上、催促する様な事を言うのは一応避けておかないとな。


「じゃぁ後は、二人からの終了報告待ちだな。あとは……美佳の様子を見に行くか」


 俺はスマホを机の上に置き自室を出て、美佳の部屋に足を向けた。

 そして、美佳の部屋の前に到着した俺は扉をノックし声を掛ける。幾ら兄妹とは言え、流石に本人の了承もなく年頃の妹の部屋に突撃するのはダメだからな。


「おい、美佳。調子はどうだ?」

「えっ、ん、お兄ちゃん? 何か用なの?」

「いや、調子はどうかなと思ってな。それより、入っても良いか?」

「別に良いけど……」

「じゃぁ、入るぞ」


 俺は了承を貰ったので、扉を開け美佳の部屋に足を踏み入れる。

 すると美佳は机に本を広げ、原稿用紙に感想をシャーペンで記入していた。どうやら、本自体は既に読破済みらしい。


「どうしたの、お兄ちゃん? 急に様子見だなんて……」

「ああ、俺の方は終わったから美佳はどんな調子かなって、ってさ」

「えっ!? お兄ちゃん、もう終わったの!?」

「ああ、ついさっきな。で、下にお茶を飲みに降りていったら母さんに、お前が中々終わらなくて愚痴を漏らしてたって聞いたから様子を見に来たんだけど……感想文の方はもうすぐ終わりそうだな」


 感想が記入された原稿用紙が4枚……400字詰めなので1600字は書いている。課題が2000字程度の感想文となっているので、8割程を埋めるとしたらもうすぐ書き終わるだろう。

 あまり文字数が少ないと、採点対象外として受け取り拒否されるからな。


「そっか、もう終わったんだ……いいな」

「そう羨ましがられてもな……まぁ、少し手伝ってやるから頑張れよ」

「えっ!? 手伝ってくれるの!?」


 俺が既に課題をやり終えている事を知り若干気落ちした美佳は、俺の手伝いの申し出に驚きながらも喜色の表情を浮かべる。まぁ手伝いと言っても、ここまで進んでたら殆ど手を出す事はなさそうだけどな。

 俺は喜びで若干興奮気味の美佳を宥めつつ、何処まで進んでいるのかを尋ねる。進捗状況が分からないと、手の出しようがないからな。


「えっとね……」


 美佳の説明を聞き進捗状況を把握した俺は、取り敢えず美佳が感想文を書き上げてしまうまでレポート作成に使う資料を纏める事にした。大まかな部分の資料は集まっているようだが、俺から見て少々不足気味に思える分を追加し、集めた資料が見やすいように時系列や内容別に分類し整理していく。

 オマケで、重要そうな部分に蛍光ペンでラインを引き付箋を貼り付けておいた。これだけで、かなり見やすくなるだろう。


「ありがとう、お兄ちゃん! これで大分楽にレポートが書けるよ!」

「そうか、それは良かったな。じゃぁ俺が手伝えるのはココまでだから、後は頑張れよ」

「うん!」


 俺は纏めた資料を美佳に渡した後、励ましの声を残して部屋を後にし、いつもの日課(スライム討伐)を済ませてから久しぶりに0時前という早めの就寝をする。

 そして翌朝、スマホを確認してみると裕二と柊さんの二人から、課題終了のメールが入っていた。これで、泊まりでダンジョン探索に行く障害は全て片付いたな。
















新章スタートです。

ダンジョン泊する事で探索範囲が拡大、今まで以上の活躍がみられる……かも?


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