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幕間 参拾四話 合宿の裏側 その4

お気に入り20630超、PV29250000超、ジャンル別日刊65位、応援ありがとうございます。






 その話を聞いた時俺、東峰欽也(ひがしみね きんや)は二つ返事で室井さんに訓練参加の意思を伝えた。何せ今回の訓練には、前回の訓練で俺達を面白いように翻弄してくれた彼等が参加するというのだから。俺達の油断が原因であるのは分かっているのだが、いずれリベンジを……と思っていた所に訓練参加の要請だ。特に急を要するスケジュールも無い以上、断る理由もない。

 前回の訓練以来自分達を鍛え直し対策を練ってきた成果、今こそ彼等に見せてやる。今度は最初から油断する事なく行くからな! 


「で、結局コレだけの人数が集まったのか……凄いな」


 俺は訓練に参加する予定の人達が集まった説明会場の道場を見渡し、集まった人数の多さを見て少し驚く。前回の訓練に参加した連中が多く参加しているだろうと予想していたが、新顔がこれ程多く参加するとは思っても見なかった。多分、前回の訓練の噂を聞いて興味が湧いたのだろう。

 そして暫く知人と今回の訓練について喋りながら待っていると、室井さんが登場した。


「皆さん、お疲れ様です。本日はお忙しい所をお集まりいただき、ありがとうございます」


 そんな室井さんの、定型文的な挨拶から説明会は始まった。説明会の内容は2泊3日の山中野営合宿、俺達が襲撃役として彼等に襲い掛かるというものだ。

 ただし……。


「おいおい、室井さん。いくら何でも、それは……」

「ああ、流石に無理が過ぎるんじゃないか?」

「無理ですよ、そんな内容じゃ……」


 新しく集まった参加者から、口々に訓練方針に難色を示す言葉が漏れ出す。まぁ確かに、普通に内容を聞いただけじゃ無茶苦茶な訓練内容だからな。探索者だとは言え、相手が高校生ともなればクリアはとても無理と思える内容だ。

 ただし、只の高校生が相手ならな。


「うーん。確かに厳しい内容だとは思うけど、あいつらなら……」

「前回の訓練も、何だかんだでクリアしましたしね」

「いける……んじゃないか?」


 前回の訓練に参加した者達は、頭を掻きつつも難しい表情を浮かべていた。その内心は揃って、あいつらならやれるんじゃね?だ。因みに、俺もそう思う一人である。

 だってあいつら、前回の訓練をクリアした上、あの3人に襲われても護衛対象を守り切ったやつらだぞ? 野営に慣れるまでは苦戦するだろうけど、慣れたらクリアも難しくないと思える程度には普通の高校生とは掛け離れている。


「はぁい、静かにして下さい。皆さんの疑念はもっともだと思いますが、この訓練内容は彼等の実力と前回の訓練実績を加味した上で決められています。厳しい内容だとは思いますが、絶対に無理というわけではありません。寧ろ皆さんが油断し手を緩めていたら、無人の野を行くように突破される可能性もありますよ。ですので皆さん、決して油断がないように気を引き締めて御願いします」


 室井さんの弁解とも忠告とも取れるその言葉に、会場にざわめきが湧きおこる。ただし、ざわめきを上げているのは新しく参加する者達ばかりで、前回の訓練に参加していた者達は室井さんの言葉を神妙な表情を浮かべながら聞いていた。この二者の間の温度差、今度の訓練でどう影響するか少し心配だな。

 そして彼等への認識の差から説明会は少々揉めはしたが、一先ず無事に終了。解散後、各々訓練の準備に入った。とはいっても、本番に向けて体調を整えておくくらいしかやる事は無いんだけどな。






 ついに、野営訓練が始まった。初日は彼等も慣れない野営に苦労するだろうから、山頂のポイントに移動して一夜を明かし、翌朝から本格的にスタートすると言う流れだ。とはいっても、初日に襲撃を仕掛けないというわけではない。先ずは新規訓練参加者達に相手の力量を悟らせる為に、山頂に続く道に待ち伏せをさせた。彼等のことを、只の高校生探索者より少し出来るくらいに思っているようだからな。

 予想通り、彼等の探知圏内に入った者達は途端にライトによる反撃を受け失敗した。彼等の前では強がって苦し紛れの捨て台詞を吐いていたが、肩を落とし山を下りていく彼等の背中は無様だった。だから、油断するなと室井さんから事前に忠告されていたのに……。


「とはいっても、変だな……。何であいつら、段々と敵を探知する距離が短くなってるんだ?」


 数度の襲撃者を撃退する姿を見ていた俺は、彼等の立ち振る舞いに些かの違和感を覚えた。山を登るに従い、潜伏者を発見する距離が段々と短くなっているのだ。その上、山を登る足取りが若干安定感を欠き始めている。先程下のプレハブで顔を合わせた時は、特別体調が悪いようには見えなかったのだが……。

  

「まぁ、だからと言って手心を加える気は無いんだけどな」


 山頂付近に隠れて伏せていた俺は、息を潜め山道に向けペイントボールガンを構える。この際、相手に狙いを定め当てようとする意思を向けないのがポイントだ。狙うと視線に敵意がのり、勘の鋭い奴には気付かれるからな。特に今回の場合、どういう訳か彼等は踏み固められた山道を真っ直ぐ登ってきている。油断か、潜む襲撃者を撃退し続けてきた故の余裕かは分からないが、彼等が進んでくるコースが分かっている以上、一撃で急所を狙うのでもなければ目視して狙う必要は無い。相手の大凡の身長は分かっているので、その高さに合わせて照準を置いておけば良い。

 そして隠れながらペイントガンを構え暫く待っていると、山道を登ってくる彼等の足音が聞こえてきた。手に持つペイントボールガンに意識を向けることなく、耳を澄ませ相手との距離を測る。まだ遠い……まだ……今だ!


「「「……!?」」」


 彼等が射程に入ったことを確信し、俺はペイントボールガンのトリガーを引いた。だが、発射されるまで隠れる俺の存在が彼等に気付かれる事は無かったのだが、発射音を聞いた彼等は弾が到達する前に散開し回避した。

 ……失敗か。だが、発射された弾を音を聞いてから回避されたとなると、弾速そのものが足りないと言う事だな。もっと距離を詰めてから撃たないと、彼等に弾を当てることは出来ないと言う事か。


「撃たれるまで気付けなかったのはいただけないが、良く避けたな」


 ライトに照らされた俺は隠れて居た場所から抜け出しつつ、彼等を出し抜けた事で前回の借りを返せたと思い少し嬉しく思い口元を緩めた。ついでに年長者らしく、苦言を一言付け加える。

 って、あれ? 何で顔を引き攣らせてるんだ彼等は? まぁ、くどくど言うつもりは無いから早々にこの場を去ろう。


「もうすぐ日も落ちる、山頂に到着したら直ぐに野営の準備を始めるんだな」


 俺はそう一言残し、彼等の前を去った。






 2泊3日の野営訓練が終わり彼等を見送った後、訓練参加者全員参加の反省会が開かれた。

 彼等の奮闘に驚き自分達の不甲斐なさを反省する者、前回の屈辱を晴らせたと言いたげな笑みを浮かべている者、予想以上に精彩を欠いた彼等の様子に疑念を持ち思案顔を浮かべる者。


「いやぁ、やっと前回の借りが返せたな!」

「ああ。……でも、流石に精彩を欠きすぎてなかったか? 特に3日目なんか、殆ど俺達の接近を事前に察知出来ていなかったんだが……」

「それはアレだろ、疲れてたからじゃないか? ろくに寝ないで襲撃を警戒し続けてたら、流石にあいつらクラスの探索者といえども……」

「いや、でも……」


 などと、あちらこちらで訓練の評価に関する声が上がり賑わっていた。因みに俺は、彼等の精彩の無さに疑念を持った派である。何せ、1日目や2日目の昼まではある程度襲撃者の動きを事前に察して対処していたのに、2日目夜や3日目などは只単に目の前で起きる事象に身体能力任せで対処していたという印象を受けたからだ。

 幾ら過酷な訓練で疲労したからとは言え、一気にパフォーマンスが落ちすぎている。と、そんな事を考えていると、今回の訓練の責任者である幻夜さんが俺達の前に姿を見せた。


「皆、お疲れ様。疲れているところ申し訳ないが、今回の訓練に関する反省会を始めたいと思う」

「「「……」」」


 無言で全員の視線が、幻夜さんに集まった。いつもなら室井さんが反省会の司会進行をしてくれるのだが、室井さんは彼等を送っているので幻夜さんが代わりに場を仕切っている。

 うーん。前当主直々の反省会か……緊張感が凄いな。


「さて、先ずは急に行うことになった訓練に参加してくれたことに感謝する。お陰で、充実した訓練を行うことが出来た」


 反省会は、参加者への幻夜さんの感謝の言葉から始まる。

 そして、1、2、3日目とそれぞれの日付毎に分けて評価が下され、最後に訓練全体の総評が行われた。


「以上で訓練の評価を終える」

「「「……」」」


 幻夜さんに下された俺達の評価を簡単に言うと、良くやった、である。俺達がやった事は、彼等の集中力が途切れるタイミングを見計らい、手を変え品を変え様々な方法で攻撃を仕掛けたと言う物だった。それも昼夜を問わずに。やった俺達からしても、やり過ぎじゃないかと思うものだが、幻夜さん的には全く問題ないレベルだったらしい。その事を知り、もしかしたらやり過ぎを叱責されるかもと若干不安に思っていたので、俺は内心安堵の息を漏した。


「……ただし、君達には一つ伝えておくことがある」


 比較的良好な評価を受け強ばっていた表情を緩め安堵する俺達に対し、幻夜さんは何とも言い難そうな表情を浮かべていた。

 一体何だ?


「諸君等には言っていなかったんだが、彼等には今回の訓練に際しとある薬を服用して貰っていた」


 幻夜さんはそう言い、淡々と彼等が訓練中に服用していた薬の効果を説明する。

 そして、薬の効果を聞いた俺達の心情はまさか、の一言だった。

 

「つ、つまり彼等は薬の影響で訓練中、常時思考力や集中力を欠いた状態にあったと言う事ですか!?」

「ああ、その通りだ。高レベルの探索者である彼等を、今回の訓練に適した疲労した状態にするには事前に別の訓練を数日に渡って行う必要がある。だが、スケジュール的にそんな時間的余裕がないので、今回の訓練では薬を服用して貰っていたんだ」


 幻夜さんの説明を聞けば、彼等が薬を服用したことについては納得がいく理由である。だがそうなると、準備を整え万全の状態で襲い掛かった俺達の攻勢を凌いだ彼等本来の力とは一体……。

 その事に気が付いた訓練参加者達の頬が、一斉に引き攣っていく。暫く反省会会場は、どよめきざわめいたが無言で静まるのを待っている幻夜さんの姿に気付き次第に沈静化した。


「……今回の訓練は、彼等の訓練でもあると同時に、君達の探索者に対する認識を変える訓練でもある。実際、今回の訓練で彼等と接した君達には、いかに高レベルの探索者が凄いか実感出来たと思う」

「「「……」」」

「前回の訓練で彼等の相手をした者達は、既に彼等の凄さは分かっていたと思う。だが、前回の訓練から大して時間も経っていないのに、今回彼等が訓練で見せた力は以前と比べ明らかに向上していた。レベルアップという探索者にとっての簡単に地力を向上させる方法がある以上、相応の技術と経験を積めば元一般人でも簡単に容易ならざる存在になると言うことである」

「「「……」」」

「現在、日本ではまだ民間人の高レベル探索者数は少ない。だが、時が経てば高レベル探索者の数は確実に増える。我々の職業上、こうした相手を相手にする機会は必ず来る」


 そう、幻夜さんの言うように、その未来は確実に来るだろう。だから俺……前回の訓練に参加した者達は積極的に探索者対策を研究していた。今回の訓練で研究の成果が出たのだと思っていたのだが、薬の件を聞くと……まだまだ対策は不足しているとしか言えないのだろうな。

 深刻な雰囲気が蔓延する会場に、幻夜さんの声が響く。

 

「予定通り彼等には来週、もう一度同様の訓練を受けて貰う。おそらく今回の訓練で得られた教訓を糧に、彼等はより強敵になっているだろう。何せ、無知の事象が既知に変わっているのだから。無知のままではどのように対策を取れば良いのか分からないが、既知の事象ならばいくらでも対策を取る事が出来るからね」

「「「!?」」」

「諸君等には厳しいものになるだろうが、今後のことを思えば得がたい経験を得られるはずだ。頑張ってほしい」

「「「は、はい!」」」


 俺達は幻夜さんが退出した後、さっそく来週行われる訓練の対策を話し合い始めた。

 





 翌週行われた訓練では探索者……彼等の凄さを改めて見せつけられる形になった。前回の訓練を経験した彼等は、本当に幻夜さんが言っていた薬の影響下にあるのか疑問に思う程の動きを見せる。適切な休憩を挟むことにより、俺達の攻撃を凌げるパフォーマンスを維持し2日間凌ぎ切った。

 

「経験や技術だけ見れば彼等もまだまだの点も多いけど、地力が違いすぎるな。俺も意地を張らず、探索者資格を取るべきか……」


 今までは探索者など何するものぞと意地を張っていたが、こうして現実を見せつけられた以上、これからは多かれ少なかれ探索者としての力が必要になってくるだろうと感じた。

 















東峰さんは、ギリースーツを付けて襲撃成功?した人です。

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