第241話 テスト結果は……
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一風呂浴び昼過ぎに地元に戻ってきた俺達は、駅で別れそれぞれの自宅へと帰宅。帰宅後、家にいた母さんにお土産を渡したら、何をしてきたの?という目で見られた。
「あなた達、キャンプに行ってくるって言ってなかった? なんでイノシシ肉なんてお土産があるのよ?」
「いや。山菜を取ろうと散策してたら、急に襲ってきたから……つい」
「ついって……普通そこは逃げるでしょうに」
イノシシを仕留めた状況を説明すると、母さんはますます呆れたといった目を俺に向けてくる。いや、まぁ……一般人からすると逃げるのが普通の反応なんだよな……はぁ。
母さんの反応を見て、俺も随分と探索者的思考に染まったなと思った。
「……とりあえず、お土産はそれだから。2,3日熟成させた方が美味しいって聞いたから、食べるなら2,3日後が良いと思うよ」
「そう、分かったわ。ありがとう……でも、イノシシ肉ってどう料理したらいいのかしら?」
俺は強引にイノシシ肉を母さんに渡し、受け取ったイノシシ肉の調理法に頭を悩ませる母さんを背に自分の部屋へと向かった。
そして部屋に入った俺はまず、キャンプに持っていった道具の荷解きを始めた。テント生地が生乾きだったので、ベランダに持っていき物干し竿に吊るしていく。ちゃんと乾かしておかないと、生地同士が張り付いたりカビるからな。とはいえ、基本的にあまり道具は使っていなかったので片付け自体は15分ほどで終了した。
「良し、片付け終了だな。着替えは……夜に風呂に入るときに着替えればいいか」
上着の襟や袖の匂いを確認し、あまり匂いはしないので今は着替えない事にした。どうせ今日は、これ以上外出する気もないしな。
夜、家族そろって夕食を食べていると、美佳が面白げに週末のキャンプについて触れてくる。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん? 週末のキャンプはどうだったの? お母さんに聞いたけど、イノシシを狩ったんだって?」
「狩りたくて狩った訳じゃないよ。襲ってきたから、狩らざるをえなかったんだ」
俺が若干不満げな表情を浮かべ答えると、美佳は苦笑を浮かべながら話を続ける。
「でも普通、イノシシに襲われたら狩るよりも逃げるよね?」
「……まぁ、一般的にはそうだな。だから、俺だって最初は逃げたよ」
「あれ、逃げたんだ? じゃぁなんで、イノシシの肉がここに在るの?」
「向こうが、シツコク俺を付け狙ってきたせいだよ。いくら山奥で遭遇したとはいえ、近くにキャンプ場があって他にも利用者がいたんだ。下手したら、キャンプ場にイノシシを引き込む事になるからな」
「だから狩ったの?」
本当は余りにシツコク襲ってくるのが面倒になって、思わず狩ったんだけど……ソコは秘密にしておこう。こっちの言い訳の方が、聞こえはいいしな。
「あのイノシシは結構な大物だったからな。俺がキャンプ場に逃げたせいで、他の人が怪我でもしたら寝覚めが悪いからな」
「そっか」
うっ、俺の答えに感心した美佳の尊敬する眼差しが痛い。あの時は、そんなご立派な考えはみじんもなかったんだけどな……と俺は内心で恥ずかしさで身悶えした。
すると、俺と美佳の話を静観していた母さんが口を挟んでくる。
「なるほど、あのイノシシ肉はそういう経緯で手に入れたのね」
「えっ、ああ、うん。望んでというわけじゃないけど、仕留めた以上無駄には出来ないからね。キャンプ場の管理人さんはイノシシの解体が出来るって聞いたから、教えて貰いながら俺達で解体したんだよ」
「えっ!? あなた達が解体したの?」
「う、うん。流石に全部は持って帰ってこれなかったから、料理に使いやすい部分のお肉を少しもらって、残りは管理人さんに譲ったけどね」
「あれで少し、ね」
100㎏オーバーのイノシシを全部持って帰るのは無理だからな。“空間収納”スキルを使えば可能だけど、普段食べないイノシシ肉を大量に持ち帰っても母さんも使い道に困るだろうしね。
事実先程、お土産の肉を前に母さんは調理法に困っていたしな。
「そうそう、一応イノシシ肉のレシピを色々調べてみたけど、何かリクエストはあるかしら? あるのなら、それを作るけど……」
「リクエスト……」
正直、特にコレと言って食べたいものはない。というか、思いつかない。鍋と塩焼き以外の食べ方って、どういう食べ方があるんだ、イノシシ肉って?
と悩んでいると、勢いよく手をあげた美佳が希望を口にする。
「はいはい! 私、イノシシ鍋が食べてみたい!」
「お鍋?」
「うん! TVなんかでは美味しいってよく聞くけど、実際に食べたことはないから食べてみたい!」
鍋か……小嵐さんも煮込み系の料理が良いって言ってたからな。
……あれ? 鍋って煮込み料理だっけ?
「美佳はこう言ってるけど、大樹はどう? 鍋で良いかしら?」
「うん。良いけど……」
「良いけど?」
「解体を手伝ってくれた人が、取ったイノシシは大物だから肉が少し硬いかもしれないって。だから調理法としては、煮込み系をお勧めするって言われてたんだ」
俺が小嵐さんに言われた注意点を口にすると、母さんは眉を少し顰め思案を始める。
「煮込み系の料理ね……」
「ええ、私鍋が良い! お肉を煮込む時間を長くすれば、大丈夫だよ!」
母さんは俺の話を聞き鍋をやめようかと考えているようだが、美佳は強固にお鍋を推奨する。
最終的に2人の視線が俺に集中……つまり俺が決めろってことか。
「……鍋で良いんじゃないかな? 美佳が言うように、煮込む時間を長めにしてさ」
「……そうね。初めて食べるものなんだし、実際に料理してみないとわからないものね。じゃぁ、お鍋にしましょう」
「やった!」
俺の意見を採用した母さんの決定に、美佳は両手を上げながら笑顔を浮かべる。そんなに食べてみたかったんだな、イノシシ鍋。
そして俺は喜ぶ美佳から顔をそらし、今まで会話に参加せず話し合いを静観していた隣に座る父さんに話しかける。
「と言う訳で鍋になったけど……父さん的には大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。大樹が取ってきたっていうイノシシ肉、楽しみにさせてもらうよ」
何も問題ないといった表情を浮かべ父さんの表情に、俺はある疑問が浮かんだ。
「? あれ、父さんイノシシ肉食べたことあるの?」
「ああ。以前出張したときに、塩焼きでご馳走になった事がある。少しクセが残っていたが、中々美味しかったぞ。豚肉より、味が濃かったかな?」
「へぇ……」
でも、クセか。俺達素人が解体した肉……思いっきりクセが残ってそうだな。指導してもらったけど、大丈夫かな?楽しみで仕方がないといった表情を浮かべ喜ぶ美佳の様子に、俺は肉の出来が若干不安になった。これで肉がクセだらけで不味かったら、トラウマになるかもしれないな。
「楽しみだな、イノシシ鍋」
うん。その時は素直に謝まって、責任を取って肉は俺が食べて処分しよう。
俺は笑顔の美佳を眺めながら、若干悲壮な覚悟を決めた。頼むから、美味しく食べられる肉であってくれと。
翌日、休日明けの学校に気怠さを感じつつ登校すると、疲れた様子で机に突っ伏す裕二の姿があった。
声を掛けるのに一瞬躊躇したが、軽く頭を左右に振ってから声を掛ける。
「おはよう、裕二。どうしたんだ? 月曜日の朝から、随分と疲れ切っている様子だけど……」
「……ん? ああ、大樹か」
裕二は上体を起こさないまま、伏せていた顔だけ横に傾け俺の顔を見てくる。その顔には、僅かばかりの疲労の色が見て取れた。
昨日、駅で別れた時は、特に疲労の色なんてなかったのに……ほんとどうしたんだ?
「……大丈夫か?」
「ああ。少し疲れているだけで、特にこれといった問題はないよ。それと、おはよう」
裕二は怠そうに上体を起こしながら、挨拶をしてくる。見たところ、疲労は肉体的なものじゃなく精神的なものが原因なのかな?
そして俺は一旦断りを入れてから荷物を自分の机に置き、改めて裕二に話しかけると疲れている理由を教えたくれた。
「昨日帰ってから、爺さんにキャンプの内容を報告したんだよ。そしたら……」
「そしたら?」
「ぬるいって言われたよ」
「ぬるい? ……どの辺が?」
いや、まぁ確かに結構のんびりとした普通のキャンプっぽくはあったけど、夜番やイノシシの件とかもあったからそこまではぬるくないと思うけど……。
「夜中は襲撃役と警護役そして休憩役に分かれて、交代で模擬襲撃訓練ぐらいしておけってさ」
「えっと……」
疲れたように吐き出された裕二の言葉に、俺は何て答えれば良いのか分からない。初めての野営訓練で夜番をやるのに、3役を交代で回して訓練をしろって……マジかよ。
俺が話を聞いて信じられないといった表情を浮かべているのを見て、裕二は苦笑を漏らした。
「俺も、大樹と同じ反応をしたよ。そしたら爺さん曰く、この程度の予行演習をしていないと、幻夜の奴がやろうとしている訓練はつらいぞってさ」
「いやいや、この程度って……。幻夜さんは、一体どんな訓練を用意してんだよ」
「さぁ、な? だけど、俺達が想像していたものより凄い事になるだろうな」
裕二のその言葉に、俺は週末行われる予定の訓練を思い大きな溜息を吐くと共に肩を落とした。月曜の朝から、裕二がグッタリとしていた理由がわかったよ。
今から週末のことが憂鬱で仕方がない。
「おはよう。どうしたの二人とも、朝から深刻そうな顔をしてるけど? 貴方達の周りだけ、空気が淀んでるわよ?」
俺と裕二が週末の訓練を思い沈み込んでいると、登校してきた柊さんが心配げな表情と声で話しかけてきた。
って、俺達そんなに深刻そうな雰囲気を出してるの?
「おはよう、柊さん。ちょっと、ね」
「ちょっとって雰囲気じゃないように思えるけど、まぁ大丈夫なのよね?」
「あっ、うん。大丈夫だよ……多分」
「随分自信なさげな返事ね、自分達の事でしょ?」
苦笑にも似た笑みを浮かべた柊さんが、俺の要領を得ない返事に若干困惑したような眉を顰めた。
いや、俺達だけじゃなく、柊さんにも関係することなんだけどね。たぶん柊さんもこの話を聞いたら、俺達と同じ様な反応をすると思う。
午前中の授業が終わり、俺達は部室でお弁当を突いていた。裕二の話を聞き意気消沈している柊さんと一緒に。
「週末が今から憂鬱ね……」
柊さんが弁当を突きながらポツリと漏らした言葉に、俺と裕二は無言で頭を縦に振って頷いた。
「もう! お兄ちゃん達、月曜から暗いよ!」
俺達が纏う淀んだ空気に、美佳が眉を顰めながら抗議の声を上げる。
そんな美佳の声に反応し視線を巡らせてみると、声に出してこそいないが沙織ちゃんや舘林さん、日野さんも若干迷惑そうな表情を浮かべていた。
「……あっ、悪い」
「しっかりしてよね。せっかく返ってきたテストの結果が良かったから、皆で良かったねって喜んでたのに雰囲気台無しだよ」
美佳は少し怒ったような表情を浮かべながら、不機嫌な理由を告げる。
「ん? って、良かったのか?」
「もちろん! 試験勉強を頑張ったおかげで、返ってきたテストは全部平均点以上だったんだから」
「そ、そうか……皆もそうなの?」
美佳の返事に若干驚きながらも感心しつつ、他の3人にもテスト結果を尋ねてみる。
すると……。
「はい。私も美佳ちゃんと同じで、返ってきたテストは今のところ全部80点以上です」
「私も平均点以上ですけど、流石に全部の教科が80点以上とはいきませんでしたね」
「私は……ギリギリ平均点以上を維持って感じかな?」
どうやら今回のテスト結果は、かなり良い出来だったようだ。日野さんはちょっと残りが心配そうだけど。
「それで、お兄ちゃん達の方はどうだったの? まさか赤点は取ってないよね?」
と、そんな風に考えていると、今度は美佳が興味深々といった表情を浮かべながら俺達にテスト結果を聞いてきた。
「だれが、赤点なんかとるかよ。とりあえず俺も、80点以上は取れてるよ」
「俺も苦手科目を除いて、80点以上だな」
「私も80点以上取れているわ」
問題なく、俺達も平均点以上は取れている。その上、柊さんは80点以上と言っているが俺は知ってる。チラリと見えた柊さんの返却された答案には、すべて90点台の数字が書かれていた事を。
別に隠さなくてもと思わなくもないが、嘘は言ってないからな嘘は。
「そっか。じゃぁ今回のテストは部員皆、何も問題ないってことだね」
「そうだな。皆試験前に勉強を頑張った成果が出たってことだな」
先程まで俺達のせいで空気が暗く淀んでいた部室に、歓喜と安堵に満ちた笑顔と笑い声で満たされた。この調子なら、残りのテストも良い結果が期待できそうだな。
残る心配事は、今週末の幻夜さんの訓練か……。
期末テストは全員無事にクリア出来たみたいですが、重蔵さんの苦言?のせいで週末行われる幻夜さんの訓練に戦々恐々と……。




