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第21話 買取と反省会

お気に入り6360超、PV1110000超、ジャンル別日刊9位、応援有難うございます!



 

 

   

 

 プレハブの中に入ると、人気が疎らなガランとした窓口カウンターが並んでいた。どうやら他の多くの探索者達は、まだダンジョン内に潜っている様で、数人待合椅子に座っているだけだ。

 俺達は取り敢えず入口の側に貼り付けられている案内看板を見て、買取りカウンターの場所を確認する。買取りカウンターは入口を入って右手の方向の一番奥、7番窓口と書かれていた。買取りカウンターまで移動し、窓口横の発券機から整理番号をもらう。番号はそれぞれ5,6,7番。まだそれ程ダンジョン攻略を終えた人はいないようだ。

 

「整理券番号5番のお客様、買取窓口までお越し下さい」 


 整理券番号を受け取り、荷物を待合椅子に置いていると直ぐに呼ばれる。人が少ないので、待ち時間は0の様だ。布袋に入れたスキルスクロールを持って、俺は受付カウンターに向かった。

 

「お待たせしました、本日のご用件は?」

「ドロップアイテムの買取をお願いします」

「では先ず、探索者カードを提出して下さい」

「はい」 


 テンプレ対応通り俺は、買取係員の女性に探索者カードを渡す。係員の女性は受け取った探索者カードをリーダーに通す。

 

「次に、こちらのカメラの赤いランプをご覧下さい」


 係員の女性は、整理券発券機と反対側にあるカメラを指さす。ICチップが付いているのは知っていたが、顔認証機能まで付いてるとは聞いていなかったんだけどな。俺はカメラに顔を向けて、少しの間じっとする。  


「はい、本人確認はこれで終了です。買取物品をよろしいでしょうか?」


 俺は袋からスキルスクロールを取り出し、買取りカウンターの上に置いた。

 スキルスクロールを見た係員の女性は息を呑み、軽く目を見開く。やっぱりスキルスクロールが、買取に出されるのは少ないようだな。


「これは……スキルスクロールですね」

「ええ。運が良かったみたいです」

「そうですか……申し訳ありませんが、マジックアイテムに関する買取査定には確認作業に少々時間がかかります。今この場で査定額を算出する事が出来ないので、協会の方でお預かりし後日査定額を通知するという流れに成りますがよろしいでしょうか?」 


 まぁ、そうなるか。

 でも、どうやって確認するんだ?スキルスクロールは一度開いたら、対象者にスキルを付与した後ゴミになるんだけど。

 聞いてみるか。


「それは良いんですが、大丈夫なんですか? 聞いた話だと、スキルスクロールは一度開いたらゴミになるって聞いたんですけど。流石に買い取って貰う前にゴミにされたら困るんですが……」

「安心して下さい。数は少ないですけど、協会本部にはマジックアイテム等を鑑定するマジックアイテムがあります」

「鑑定するマジックアイテム……ですか?」

「はい、鑑定スキルが付与された鑑定メガネと言うマジックアイテムです。ダンジョン協会の方で極小数ですが確保しています。ですが、全国から集まるマジックアイテムを鑑定するのには、数が足りず時間がかかっているのが現状です」


 へー、スキルとしての鑑定の他に、鑑定が付与されたマジックアイテムなんて物があるのか。自衛隊とかの精鋭チームがダンジョン深部で確保したのかな?


「1週間ほどで鑑定が終了し、査定額の通知書類が郵送される筈です。お手数ですが、お預かり証明書と査定通知書類をお近くの協会にお持ち下さい。買取り手続きが行えます」

「1週間ですか……」


 意外に時間が掛かるなと言うのが、俺の本音だ。

 しかしまぁ、ここでダダを捏ねてもしょうがないか。 


「分かりました。よろしくお願いします」

「はい、承ります。では、こちらがスキルスクロールのお預かりに関する書類です。内容をご確認の上、下記のサイン欄にサインをお願いします」

「はい」

 

 俺は係員さんから書類を受け取る……って細かい文字だなこの書類。もう少し大きく書いてくれないかな?

 鬼の如き細かい文字に不満を抱きつつ、俺は書類に一通り目を通していく。内容を要約すると、マジックアイテムが危険物だった場合の取り扱いについてかかれている。鑑定の結果、マジックアイテムが危険物だった場合、協会側が廃棄処分にするので探索者は拾得権を放棄する事に同意すると言う内容だ。 

 ……って、これ。探索者側が鑑定スキルや鑑定アイテムを持っていなかったら、協会側……と言うか国側の都合で預けたマジックアイテムを危険物と主張され良い様に没収されないか?探索者側にはマジックアイテムがどういう物か分からないから、危険物と言われたら反論する事も難しいから素直に従うしかないだろうし……おいおいおい、良いのかよこんなので?

 

「すみません、この規約ってスキルスクロールが危険な物だった場合も適用されるんですか?」

「はい。中には犯罪性が高いスキルもあるようなので、そう言う物に関しては廃棄処分する規定になっています。その場合、処分完了後に通知書類を郵送します」

「そうですか……」


 うわー、返答に迷いがないな。つまりこれは、そう言う回答のマニュアルが協会中に出回っているって事か。適正に運用されているなら問題ないけど、こう言う規定を悪用する輩って絶対出てくるからな。

 ……って、ん?もしかしてコレって、鑑定スキル持ちを探し出す罠か?さっき係員の人が言っていた様に、鑑定アイテムが少ない今、ダンジョン内でスキルスクロールを使って鑑定スキル持ちになった人材を確保する事は急務だろうから、査定内容に抗議してくる輩は鑑定スキル持ちである可能性が高いって。

 未成年の武器購入に罠を仕掛けるような協会と国だからな、可能性としてはありそうだ……。

 嫌な推測にゲンナリとしながら、俺は預かり書類にサインを書く。

 

「はい、確認しました。お預かり証明書を発行しますので、少々お待ちください」


 書類のサインを確認した係員の女性は、プリンターでお預かり証明証を発行しながら収納箱を用意する。係員の女性はあえて俺の目の前でスキルスクロールを箱に収め、蓋を開封防止テープで閉め預かり証明書のバーコードシールを箱の表面に貼った。

 

「こちらがお預かり証明証になります。買取手続き時に必要になるので、紛失しない様に保管して下さい。本日は御利用ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 預かり証明書を受け取り、俺は係員の女性に軽く会釈しながら買取り窓口を離れた。

 手続き自体は簡単だったのに、すごく疲れたな。

 

 

 

 

 

 

 俺達はドロップアイテムの買取り手続きを終え、背を伸ばしながら建物の外に出た。

 裕二の拾得した銅鉱石は買取額は思った以上に良く、1400円前後で買い取って貰え、取り敢えず電車代は出たと言える。

 しかし、柊さんが拾得したコアクリスタルはそれほど高価格では買い取って貰えず、500円程だった。

 

「今の状態だと、1日潜っても1万円を超えて稼ぐのは難しそうだな」

「だな。競争相手が多すぎてモンスターとのエンカウント率が低すぎる上、例えモンスターを倒したとしても得られるドロップアイテムの買取価格がな……」

「運良くマジックアイテムでも取得しないと、命懸けなのに赤字よね」

 

 似た様なレベルの探索者達が集中しすぎた結果、今のダンジョン攻略は収支バランスが狂っている状態だ。本来なら探索者が上手く各階層毎にバラけた状態で存在するのが適切なのだろう。その状態なら、モンスターの過剰な取り合いなど発生せず、適当な収入を得られる状態になったはずだ。

 

「時間を置いたら、状況が改善すると思う?」

「無理じゃないか? これから更に探索者になってダンジョンに潜る人達は増えるだろうし」

「そうね、むしろ悪化するしかないんじゃないかしら?」


 この事態に至った失敗原因は恐らく、第1回特殊地下構造体武装探索許可試験に定員を設けなかった事ではないだろうか?1度にダンジョンに入る人数を試験で調整していれば、上手い具合にレベル帯が分散していた可能性はあった筈だ。


「こうなると、何時古参と新参の間でイザコザが起きても不思議じゃないな……」

「そうね。私達はまだ学生だから、学校の合間に来る程度で趣味の範囲を超えないわ。でも、探索者として生計を立てようと思っている人達からしたら、趣味程度でダンジョンへ潜ろうとしている探索者達の増加は死活問題よ。常人以上の能力がある分、万一探索者同士で殴り合いの揉め事にでもなったら……」


 そのシーンを想像したのか、柊さんの顔色が悪い。

 まぁ、普段モンスター相手に戦っていたような探索者が、人の殴り方を知っているとは思えない。人間なんてチョット殴る場所が悪ければ直ぐに死ぬのに。ましてやレベルアップで強化された身体能力で拳を振るえば……。 


「そこまでバカじゃない、って期待するしかないんじゃないか?」

「そう、だな」


 裕二の言う様に、そう期待するしかないだろう。だが、時として感情に流され考え無しに動くのも人間だ。ニュースで探索者同士の乱闘による死亡事故が報道されない事を祈るしかないだろうな。 

 溜息を吐きつつ、俺達はシャトルバスの発着所へ移動し時刻表を見た。時刻表によると、次のシャトルバスが来るのは20分後の予定だ。

 俺達は発着所に設置してある椅子に座って、シャトルバスを待つ事にした。背凭れに体重をかけ雲が流れる青空を見ながら、俺はポツリと独り言を漏らす。 


「……こうしていると、やっと終わった。って感じがするな」

「そうだな。実戦経験て言う収穫はあったし、俺達にも色々問題があるのが分かったしな」

「そうね。でも、九重君の御陰でかなり変則的な実戦経験だったわよ?」


 俺の独り言に反応した裕二と柊さんが、相槌を入れる。

 いや柊さん、確かに変則的ではあったけど、一番重要な経験は得られたじゃない。

 

「モンスターを自分の手で殺す、って言う経験を安全に出来た事は良い事じゃないの?経験して初めて分かったけど、確かにステータス的には俺達の方がモンスターを圧倒していた。でも、今の俺達の精神状態じゃ、モンスターを殺し続けて潜り続ける事なんて、とてもじゃないけど出来ないんじゃないかな?」

「……そうね。確かにそうだわ」

「……大樹の言う通りだろうな。俺なんか、たった一太刀モンスターを切っただけで……」


 モンスターを殺した瞬間を思い出した俺達は、若干顔色を悪くしながら沈黙する。

 ステータスが上がったとしても、精神的に強くなる訳じゃない。その事を実感出来たのが、今回の一番の収穫だと俺は思う。ダンジョンに潜り続けると言う事は、モンスターを殺し続けるという事だ。ステータスだけでなく、精神的に強くなければこれ以上は無理だろう。

 今回ダンジョン内で殺したモンスターが、犬や兎と言う身近な生物の形をとっていたのも殺した時には結構精神的に効いた。スライムは不定形の粘性体だった分、殺しても精神的衝撃度と言う意味では少なかったのだが、今回殺したモンスターからは夥しい量の血が溢れ出た。

 それだけどで俺達は……。


「……二人とも提案なんだけど、暫くの間は今回みたいに少しダンジョンに入ってモンスターと戦って帰るっていう方針にしない? とてもじゃないけど今の状態じゃ、ダンジョンの奥深くまで潜るのは無理だと思うんだ」

「……俺はその方針で良いと思う。この段階で無理をするのは不味い気がするからな」

「私はそれで良いと思うんだけど……」

「何か問題があるの?」

「お店の方がね」 

 

 そうだった。柊さんはお父さんが経営しているお店の食材調達の為に、ダンジョンに潜るって言っていたな。柊さんとしては早々に目的の階層、オークが出ると言う10階層まで潜りたいはずだ。

 でも、新作ラーメンてそんなに短期間で作れるものなんだろうか?


「お父さんが最近、ダンジョン食材を使ったラーメンの試作を食べさせてくる様になったのよ。この分だとそう遠くない内に、完成品を売り出すわ。売れば売るだけ赤字になる様な物を……」


 出来るみたいだ。柊さんのお父さん、料理に関しては相当凄腕の様だ。でも、その為に娘をダンジョンに放り込む原因を作るのはどうかと思うけど。 

 柊さんは深い溜息を吐いた後、俺と裕二の目を見て宣言する。


「でもだからと言って、無理強いをする気はないわ。私も時間をかけて慣れた上で、ダンジョンの奥へ向かう方針に賛成よ」

「……良いの?」

「ええ。ここで無理をしたら後々後悔する事になるわ。今回の経験でそう感じたわ」


 迷い無く言い切る柊さんの姿に、俺と裕二は顔を見合わせた後。


「分かった」

「でも、何か状況に変化があったら直ぐに教えてね」

 

 こうとしか言えない。

 でも、ダンジョンに慣れたら出来るだけ早く10階層まで潜ろうとは思う。俺と裕二はアイコンタクトで、その事を互いに確認した。

 そんな時、購買店のプレハブ小屋の方から大きな音が響く。何事かと俺たちが顔を向けると、そこには吹き飛んだドアの上に10代後半、俺達とさして変わらない年齢の少年が腹を押さえ咳込みながら乗っていた。

 えっと、何事?

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……が、なろうの第23回「今日の一冊」で紹介されました!

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― 新着の感想 ―
ラーメン屋の父親、自分で素材取りに行かないのかな? 仕入れするなら単価くらい目に入りそうなのに。
[気になる点] 生活費切実っぽい設定なのに、商品知識や国外レートなどググってないのが不思議。
無理をしたら…と言っているが戦闘が無いから無理のしようがない気がする トラップも無いしダンジョンに慣れる事すら出来ないからさっさと進むべきだし何より女の父親がやばすぎて困惑する アンチコメみたい…
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