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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第11章 夏休みにむけての準備

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第239話 一夜を明かし

お気に入り19680超、PV25780000超、ジャンル別日刊30位、応援ありがとうございます。


 新年、あけましておめでとうございます!

 昨年は暖かい応援ありがとうございました、今年も応援のほどよろしくお願いします。







 レトルト食品ばかりの夕食を終えた俺達は竈の火を囲み、コーヒーを片手にのんびりとした雰囲気の中で話をしていた。


「静かだよね……」

「そうね。川を流れる水の音や、風で揺れ擦れあう木の音しかしないものね」

「たまには、こう言うのも良いだろ? 町中の喧騒を忘れるにはさ?」

「そうだな……」

 

 顔を上げ空を見てみると、そこには見渡す限り満天の星空が広がっていた。普段地元で見上げる空と同じ空のはずなのだが、ここで見る空は全く別のものに見える。

 特に一際目を引くのは、多くの星が一直線に密集した景色……天の川だ。


「天の川って、本当に川みたいに見えるんだな。こうやって目の当たりにすると、名前の由来がみたまんまなんだなと実感するよ」

「町中じゃ、街灯やビル明かりが邪魔をして見づらいからな。ここみたいに人工光の少ない場所にでも来ないと、こういう風には見えないだろうさ」


 特に深く考える事もなく、その都度思いついた話題を肴に穏やかに時間が流れていった。

 だが、そんな穏やかな時間にも終わりは来る。


「さて、そろそろいい時間だし休むとしよう」

「ええ、もう少し起きていてもいいんじゃないか? 特に明日、何かするってわけでもないんだしさ?」

「いや、まぁ確かに、それはそうなんだが……あくまでも今回のキャンプは、今度やる野営訓練の予行演習だからな? 休める時には、体を休めるようにした方が良い。それに……」

「それに?」

 

 裕二は少し言い出しにくそうな口振りで、目線を少し横にそらす。


「野営中の夜番って、何もないとひたすら暇なんだよ。特に、少人数でやる場合はな。話し相手もいないから、孤独感が半端ないんだよ」

「それは……」

「しかもだ、他の仲間が近くで休んでいるから、無駄に音をたてたりして騒ぐの御法度だしな」

「「……」」

 

 裕二の話を聞き、俺と柊さんはその状況を想像しゲンナリとした表情を浮かべた。


「念の為に言っておくけど、イヤホンで音楽を聴くとかっていうのも駄目だからな? 夜番はあくまでも、周辺に異常がないかを警戒するのが役割だ。夜、周辺の様子を調べる重要な器官である聴覚を封じるのは、夜番としては失格だな」

「勿論、その辺は分かってるよ。夜番の役目を果たしつつ、暇……というか孤独に耐えるのが重要だって事だろ?」

「ああ、その通りだ。なれないと、ほんの数時間の夜番でも精神的にかなりクルからな……」


 裕二はどこか遠くを見るような眼差しをしながら、小さく溜息を吐いた。

 何か嫌な思い出でも、あるのだろうか?


「どのくらい暇……孤独かは、体験してみたら分かるよ」

「そ、そうか」

「……」


 裕二の悟ったような表情と口調に、俺と柊さんは思わず口元を引きつらせ若干引いた。

 そして暫くの間、俺たちの間に微妙な雰囲気が流れたが、自分が作った場の気まずい雰囲気に気付いた裕二が咳払いをし場を仕切りなおす。


「まっ、まぁそれはそれとして、夜番の順番を決めよう。ネットで調べた、昨日の日の出が大体4時半だから……」


 裕二は腕時計を確認し、現在時間を確認する。俺もつられ時計を確認すると、時計の針は21時の少し前を指示していた。


「だいたい、1人2時間半交代ってところかな?」

「……つまり、明日は4時半起きってことか?」

「日の出とともに、俺達も活動開始ってことだよ」


 だいぶ早起きだな……と、俺は起きられるかどうか不安で少し表情を暗くした。


「まず最初の夜番は、柊さんにやってもらおうと思うんだけど、どうかな?」

「……私から?」


 順番はジャンケンかクジ引きで決めるのかと思っていたのだが、裕二の中では既に順番が決まっているようだ。


「流石に女の子が寝ているテントに夜中近寄るのは、下心がなくても気まずいからね。柊さんが最初に夜番をしてくれたら、少しは気楽だよ。柊さんも、寝起き顔をあまり見られたくないだろ?」

「……そうね。気遣い、ありがたく受け取っておくわ」

「うん」


 確かに裕二の言うように、女の子が寝ているテントに近づくのは少し気まずいよな。それなら裕二の言うように、柊さんには最初の夜番をしてもらった方が都合は良いか。

 柊さんも裕二の説明に納得しているみたいだから、最初の夜番で決まりだな。となると……。


「2番目は俺がやるから、大樹は3番目をやってくれ」

「……良いのか?」

 

 裕二の提案に、俺は少し驚く。2番目は3番目に比べ、途中で起きて寝るという手間があるので、まとめて睡眠がとれない一番つらい順番なんだが……。


「ああ、かまわないぞ。俺は割と寝付きもいいほうだし、夜番をした事がない大樹に2番目をやらせるのも酷だろうしな」

「……サンキュ」

 

 俺は裕二の気遣いに、短くお礼の言葉を告げた。

 こうして今日の夜番の順番は、柊さん、裕二、俺という順番に決まった。






 柊さんに夜番を任せた俺と裕二は、それぞれのテントの中へと入った。


「……寝るには十分な広さだけど、狭いは狭いよな」


 寝袋を広げ、テントの中を見回しポツリと感想を漏らす。テントを建てた時は広いように思えたのだが、やはり1人用は1人用だな。


「やる事もないし、とりあえず寝袋に入って横になるか」


 まだまだ眠気はこないのだが、起きてても仕方がないので俺はライトを消して寝袋に潜り込み横になった。そこそこ標高のある山の上という事もあり、竈から離れるとだいぶ涼しい。自宅で準備をしているときは、夏に寝袋はな……と思っていたが、ちゃんと準備しておいてよかった。

 

「……眠れない」


 寝袋に入って横になって10分ほど経つのだが、少しも眠気が来ない。テントの壁越しに薄っすらと見える竈の明かりを眺めながら、ボンヤリとした思考で幻夜さん主催の訓練に思いをはせる。

 今回のキャンプはあくまでも、野外活動に慣れるというものだったのでツラいと思う場所はあまりなかった。だがそれでも、やはり普段の生活と違うので勝手がわからない部分も多かった。


「竈を使って料理するのも、意外と苦労したしな……」


 レトルト食品オンリーの夕食とはいえ、お湯を入れたりパッケージごと湯煎する必要はある。普段コンロを使えば簡単に出来る作業も、薪をくべて火力調整をする必要がある竈を使ってとなると勝手が違った。

 手早くお湯を沸かそうと薪を追加し火力を上げようとしたら、入れた薪が多すぎたらしく火柱が立ち上がって鍋が火に包まれ煤だらけになるわ、お湯に灰が入って沸かしなおす必要が出てきたりと……苦労したな。


「でも、来週の訓練では竈を使ったりしないんだろうな」


 前回の訓練を思えば、幻夜さんの訓練はかなり厳しいものになると思う。野営訓練……今から不安でしょうがない。戦々恐々としながらそんな事を考えていると、次第に思考が鈍くなっていき……視界が暗転した。






 俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。寝惚け眼を薄っすらと開くと、テントの壁に竈の明かりに照らされた人影が映っていた。眠りについていた意識が浮かび上がり、次第に周囲の状況が認識できるようになってくる。

 って、この声は……。


「……裕二、か?」

「ああ、そうだ。おはよう、大樹」

「……ああ、おはよう」


 俺は目を擦りながら寝袋を着たまま上体を起こし、テントの外にいる裕二に返事を返す。


「もう、交代の時間なの?」

「ああ。それと当たり前だが、特に異常はなかったぞ」

「そっか……」


 俺は寝袋から抜け出し、テントの外へと出る。テントの外は相も変わらず、真っ暗な闇と満天の星空が広がっていた。

 うん。静かすぎて、不気味に感じるな……。


「大丈夫か、大樹? 目、醒めてるか?」

「あっ、うん。まだ若干頭が寝ぼけてる感はあるけど、だいたい目は醒めてるよ」


 眉間を揉みながら頭を軽く左右に振り眠気を飛ばそうとしている俺に、裕二は若干心配げな表情を浮かべている。そんなに心配しなくて、大丈夫だって。 


「……そうか。お湯は沸いているから、コーヒーでも飲んで頭を起こすといい。あと竈に薪は追加しておいたから、暫くは大丈夫だと思うぞ」 

「ああ、サンキュ。助かる」

「じゃぁ、大樹。後は頼むな?」

「おう、任せてくれ」


 裕二が右手をあげバトンタッチをするような仕草をしたので、俺も右手を伸ばし裕二と軽くタッチを交わした。


「それじゃ、お休み」

「お疲れさん」


 タッチを終えた裕二は若干満足げな表情を浮かべ、自分のテントへと入っていった。

 

「……まずはコーヒーでも飲んで、頭を完全に叩き起こすか」


 裕二を見送った後、俺は竈で火にかけられ勢いよく湯気を立てるケトルを眺めた。

 ……って、沸騰しすぎじゃないか、あれ?

 





 空が白みはじめ、徐々に周囲が明るくなり始めてきた。鳥達も起きたのか囀り声が聞こえ始め、静かだった山がにわかに活気づき始める。


「もうすぐ、日の出の時間か……」


 俺は竈に薪の小枝を投げ込みながら、背伸びをしつつ太陽が出てくるであろう山裾を眺めた。 


「思ってたより、随分と長かった気がするな……」


 裕二と夜番を交代し、2時間半。寝る前に裕二が忠告していたように、何も起きない夜番は恐ろしく暇……孤独だったな。むやみに大きな音を立てるわけにもいかず、眠気と闘いながら竈の火を眺めつつ周囲を警戒し続ける……なかなか精神にクるものがあった。

 暇で暇で仕方なかった夜番のことを思い出していると、山の裾から一瞬強い光がさす。


「あっ、日の出」


 目を細めながら見てみると、山の裾から徐々に太陽が姿を出してくる。直視するには眩しいには眩しいのだが、なぜか目が離せない。

 そして暫く日の出を眺めていると、ものの数分で太陽は完全に山の裾から姿を見せた。

 

「おはよう、九重君」


 俺が日の出に見入っていると、いつの間にかタオルや洗面道具を持った柊さんがテントから出て来ていた。


「おはよう、柊さん。早起きだね」

「朝日でテントの中が明るくなったら、自然とね」

「そう。今から顔洗いに行くの?」

「ええ。ちょっと行ってくるわね」

「うん、行ってらっしゃい」


 俺は洗顔をしにいった柊さんを見送り、ケトルに水を入れお湯を沸かす準備を始める。夏とはいえ、早朝の山中は中々肌寒いからな。二人にも暖かい飲み物くらい、用意しておこう。 

 そしてケトルを竈にかけたところで、今度は裕二がテントから出てきた。


「……おはよう」

「おはよう、裕二。眠そうだけど、大丈夫か?」

「ああ。ちょっと眠たいけど、大丈夫だ」

「とりあえず、顔でも洗ってきたらどうだ? 目が覚めるぞ」

「そうだな……行ってくる」


 裕二はいったんテントに戻り、タオルを手にもって洗顔をしに向かった。

 俺は裕二を見送った後、腕時計を確認しポツリと漏らす。


「まだ5時前なのに、結局全員起床か……早くね?」






 洗顔を終えた二人に目覚ましのコーヒーを手渡した後、俺は朝食の準備を始めた。といっても、昨日の夕食と同じく全部レトルトなんだけどな。

 もちろん昨日の反省点は踏まえた上で準備を進めているので、朝から火柱が立つなどの事態は発生しなかった。一度失敗を経験すれば、注意すべき点は見えてくるからな。


「もうすぐ温まるから、ちょっと待っててくれ」

「急がなくても良いぞ、大樹。まだまだ朝早いしな」

「といっても、他にする事ないけどね」


 柊さんの突っ込みに、俺と裕二は小さく笑い声を漏らす。確かに柊さんの言うように、これと言って他にする事はないしな。

 そんな少し和んだ空気の中、裕二が俺と柊さんに向け問いかけてくる。


「で、どうだった2人共? 実際に夜番をしてみた感想は?」

「暇……の一言だな。正直言って、眠気との戦いだったな」

「そうね。眠気を抑えながら、周囲を警戒する集中力を保つのがつらかったわね」


 俺と柊さんの感想を聞き、裕二は我が意を得たりといった表情を浮かべながら大きく頷いた。


「1人で夜番をやる場合、眠気は一番集中力を阻害する要因だからな。集中力が落ちれば、それだけ注意力も散漫になりやすい。いかにして眠気を振り払い、注意力を保つか……それが重要だ。多分、今度の幻夜さんの訓練では、その辺を重点的についてくると思う」

「「……」」


 裕二の推測を聞き、俺と柊さんは表情を引き締めた。つまり夜野営している所を幻夜さん達が襲撃し、俺達はそれを防ぐ訓練……という事なのだろう。

 いつ襲撃かわからない中で体を休めながら、夜番は眠気と闘いながら集中力を保ち続ける……か。


「まぁ、あくまでも俺の予測だけどな。実際どういう訓練をするのかは、当日になってみないとわからないよ」

「お、脅かすなよ裕二……」

「そうよ。と言いたいけど、可能性としては高いのよね?」

「可能性としてはね。まっ、ここで色々考えてもしかたないよ。それより大樹、そろそろ温まったんじゃないか?」

「えっ? ああ、本当だ。もう良さそうだな」


 俺は煮え立った熱湯で暖められたレトルト食品を鍋から取り出し、それぞれの皿に盛りつけていく。ちなみに、温めていたのはレトルトカレーとごはんだ。

 全員分を盛りつけ配り終えると、俺は二人に視線を送ってから手を合わせ……。


「じゃぁ、いただきます」

「「いただきます」」


 かなり早めの朝食を始めた。

 これ食べ終わったら、電車の時間まで何をするかな……。
















 3人しかいないので、3交替で夜番です。ただ竃の火を眺めながら周辺警戒……恐ろしく暇そうですよね。

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