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第233話 や、野営、ですか?

お気に入り19250超、PV24480000超、ジャンル別日刊40位、応援ありがとうございます。


第11章スタートします。






 

 期末考査も終わり、久しぶりに俺達は部室に集合した。皆、暗い表情は浮かべていないので、テストはそこそこの出来だったみたいだ。

  

「先ずは皆、期末テストお疲れ様」

「「「「「「お疲れ様(です)」」」」」」


 俺が始めに慰労の言葉を口にすると、皆も若干気を緩めた表情を浮かべながら返事を返してくる。

 

「で、如何だった? テストの出来の方は? 赤点、取ってないよな?」

「おう、大丈夫だと思うぞ」

「私も大丈夫よ」


 不安げな表情一つ浮かべていない所を見るに、裕二と柊さんは大丈夫らしい。

 逆に。


「日本史が少し自信ないけど、赤点は取ってないと思うよ」

「平均点ぐらいは取れてると思うので、たぶん大丈夫です」

「私は数学が少し……」

「ご心配なく、たぶん大丈夫です」


 沙織ちゃんと館林さんは大丈夫そうだが、美佳と日野さんは若干の不安があるようだ。勉強会の時に苦手科目潰しはしていたが、元々苦手科目なので不安で二人とも自信が無いらしい。

 そんな風に皆のテストの出来を聞いていると、裕二が俺にテストの出来を問い掛けてきた。


「そう言う大樹は、如何なんだ? 苦手だった古典は大丈夫だったのかよ?」

「ああ……うん。まぁ、大丈夫だよ。……多分」


 俺は裕二の問いに、頬を指先で掻きながら視線を逸らした。

 取り敢えず、赤点は回避出来ては居ると思う。が、平均点を超えているかと聞かれたら?だけどな。


「……お兄ちゃん」

「……九重先輩」

「……」


 仲間を見付けたとでも言いたげな眼差しを送ってくる美佳と日野さんの視線に、俺は思わず無言で天井を仰ぎ見た。何か大切なものが、ガリガリと音を立てて削られている様な気がするな……。

 俺は暫し天井を眺めた後、軽く咳払いをして話題を切り替える。 


「ま、まぁ何だ? 兎にも角にも、一先ず全員赤点は免れそうだな……」

「……ああ、そうだな」


 裕二の若干呆れたような呟きを無視し、俺は館林さんと日野さんの方を向き話を続ける。 


「館林さん、日野さん。少し確認しておきたい事があるんだけど、良いかな?」

「「何ですか?」」

「ほら。ウチの部ってさ、二人以外は皆探索者をやってるじゃない? で、二人は探索者をやってみる気があるか確認しておこうと思ってね。勿論、部員なんだから探索者をやるのが当然だなんて言う気は無いから、嫌なら嫌って言ってほしい」


 俺の問い掛けに、館林さんと日野さんは互いに困惑した顔を見合わせ黙り込む。

 

「「……」」

「まぁ、いきなりこんな事を聞かれても、即答で答える事なんて出来ないよね。返事は直ぐにしなくて良いから、少し考えてみておいてよ」

「「……はい」」


 俺は悩み込む館林さんと日野さんから視線を外し、他の4人に話し掛ける。

 

「それで今週の週末なんだけど、どうする?」

「どうするって、ダンジョンに行くか行かないかって事よね?」

「あっ、うん。そうそう。試験明けだけど、まだ結果は出ないからね。試験結果が気になってって事なら、無理をせずに止めておくってのも手だからさ」


 気掛りがあって注意力散漫の状態でダンジョン探索に行くと、思いがけない怪我を負う可能性があるからな。できる限り、ダンジョン探索には万全の状態で臨むに限る。

 

「そうね。私は特に気掛りって事は無いけど……」


 そう言って、柊さんの視線が俺と美佳の間を彷徨った。はい、その通りです。心配の種を抱えているのは、俺と美佳だけなんですよね……はぁ。

 と、そんな遣り取りを俺と柊さんがしていると、裕二が横から口を挟んできた。


「なぁ、ちょっと良いか二人とも?」

「ん? 何だ、裕二?」

「試験前って事で言って無かったんだが実は、試験が終わったら2人を連れて顔を出せってウチの爺さんが言ってたんだよ」

「……重蔵さんが?」


 重蔵さんからの呼び出し? 何かしたっけ、俺達?

 呼び出しを受ける心当たりが無い俺と柊さんが首を傾げると、裕二が補足説明を始める。


「ああ。夏休みの過ごし方について、少し話をしておきたいってさ」

「……夏休みの過ごし方?」


 俺は意味が分からず首を傾げたが、何か思いついたらしい柊さんが軽く目を見開き口を開く。


「広瀬君。それってもしかして、夏休み中にするつもりだって言ってた、長時間ダンジョン探索の件についての事?」

「ああ。その件について、夏休み前に話したいってさ」


 2人の遣り取りを聞いて俺は、重蔵さんの話ってその件かと納得した。

 ここ最近、俺達のダンジョン潜行階層記録は30階層で止まっている。それは俺達にそれ以降の階層に潜る実力が無いという話では無く、純粋に探索にかける時間が無いからだ。ダンジョンは基本的に、潜れば潜る程に帰路も長くなる。よってダンジョンの潜行探索にかけられる時間は、どんなに多く取れても探索予定時間の半分程度しかつかえない。基本、俺達は土日などの週末に日帰りでダンジョン探索を行っているので、ダンジョン探索に割ける時間は多くとも半日程度しか使えない。

 コレが多いか少ないかと聞かれれば、学生探索者としては多い部類だろう。だが、潜行階層数でトップを争うプロ探索者達から見れば確実に少ない。トップ連中ともなれば、基本的にダンジョン内で何日もキャンプを張って探索を続けているだろうからな。

 だから俺達は更なる階層へ到達する為の探索時間を捻出する為、夏休みを利用して数日間潜行する事を計画していたのだ。この件は前々から重蔵さんにも話していたので、この話に関連して重蔵さんから呼び出しを受けると言う事も無くは無い。


「なる程。じゃぁ、早めに裕二の家に行った方が良いか?」

「少しぐらいなら、遅くなっても問題は無いと思うぞ。別に、急いでこいとは言われてないからな」


 とは言え、余り遅くなるのも考え物だろうな。そう思い、チラリと柊さんの方を向いてみると、同意するように軽く頷かれたので早めに行くとしよう。

 なので、俺は申し訳なさげな気持ちを視線に乗せ、俺達の様子を窺っていた美佳達に向ける。


「えっと、なんだ? そう言う訳なんで……」

「ああ、うん。私達の事は気にしなくて良いよ、お兄ちゃん。特にコレと言って話があるわけでもないし、あまり重蔵さんを待たせるのも悪いだろうから」

「そ、そうか? 悪いな……」


 俺は若干バツが悪い表情を浮かべながら、美佳達に軽く頭を下げた。

 と言うわけで本日の部活動は終了となった訳なのだが、これから重蔵さんと話し合いをする俺達とは別に、美佳達は4人でテスト終了の打ち上げと、先程俺がした提案の相談を受けるという事で近くのファミレスに行くらしい。まぁ館林さんも日野さんも、経験者の話は聞いた方が決めやすいだろうからな。


「じゃぁ、2人をよろしくな。念の為言って置くけど、無理に誘わなくて良いからな?」

「うん、分かってる。聞かれたら体験談とかは話すけど、無理な勧誘はしないよ。そう言うのは、後藤君達のせいで懲りてるからね」

「だな。じゃぁ、よろしく頼むな」

「うん。お兄ちゃん達も、重蔵さんとのお話頑張ってね」


 美佳と少し話した後、俺達は校門の前で別れそれぞれの目的地へと歩き始めた。






 裕二の家に向かう道すがら、俺達は館林さんと日野さんについて話をしていた。


「2人はどうするかな?」

「さぁな? でもまぁ、探索者をやるって言うのなら予定通り美佳ちゃん達に任せるよ。無論手助けはするけどな」

「そうね。でも、無理に探索者をやる必要も無いと思うわ。体育祭の件とウチの部に入った事で、彼等からの強引な勧誘は無くなるでしょうしね。2人がやりたくないと言ったら、普通の部員として実績稼ぎを頑張って貰えば良いわ」


 柊さんの言うように、館林さんと日野さんが探索者をやらないというのならば、確かに部の実績稼ぎに集中して貰うというのも一つの手だろう。ダンジョン探索と資格取得という二足のわらじより、資格取得に集中して勉強した方が合格率は高いだろうからな。創部間もない部で資格取得者が一人でも出れば、最初の実績としては十分だろう。

 少なくとも今年度の実績だから、即廃止という話にはならない筈だ……って、あれ? 俺達が探索者業に専念するのなら、館林さん達には部の活動に集中して貰った方が良いような気がしてきたな。 


「まぁ後は、本人の気持ち次第だからな。美佳達の話を聞いて、如何するか決めてくれれば良いと思う。どっちを選んだとしても、特に問題は無いんだしさ」

「……まぁ、そうだな」

「そうね」


 などと話しながら歩いていると、何時の間にか俺達は裕二の家の門前に到着した。俺達は何時も通り門を潜り、重蔵さんが待っているだろう道場へと移動する。

 だが、扉を開き道場の中を覗いてみたが誰も居ない。まぁ、何時も何時も道場に待機しているって訳じゃ無いか。


「居ないな……部屋に居るのかな? 悪い大樹、柊さん。ちょっと呼んでくるから、待っててくれ」


 そう言って裕二は、母屋の方へと重蔵さんを探しに歩いて行った。俺と柊さんは一瞬顔を見合わせた後、道場へと足を踏み入れる。勝手知ったるなんとやらだな。

 そして道場に入った俺と柊さんは窓を開け換気をした後、座布団を何時もの定位置に置き話し合いの場を整えた。だが、まだ重蔵さんと裕二は姿を見せない。只座って待っているのも暇なので、お茶を用意しようかと思ったが……如何なんだろ? やっても良いんだろうか?


「まだ来ないわね」

「あっ、うん。そうだね」

「……お茶入れてくるわ。九重君はいる?」

「えっ、あっ、うん。ありがとう」


 俺が動くより前に、同じく暇を持て余していたらしい柊さんがお茶を酌みに行った。

 ……どうしよう? 本格的にやる事が無くなっちゃったよ。






 柊さんが入れてくれたお茶を飲みながら待つ事、15分。制服から私服に着替えた裕二が、茶菓子を持って道場に姿を見せた。

 そして俺と柊さんがやっと来たかと言いたげな視線を送ると、少しバツが悪そうな表情を浮かべながら謝罪の言葉を口にした。


「悪い悪い、お待たせ二人とも。ちょっと待たせちゃったな」

「……別にそこまで待ってないから良いよ」

「……お茶頂いているわ」


 裕二は座布団に座りながら、俺と柊さんに軽く頭を下げる。


「で、重蔵さんは?」

「今、電話応対中。もう少ししたら、ココに来るよ。それとコレ、お茶菓子持ってきたから好きに摘まんでくれ」

「サンキュー」

「ありがと広瀬君……お茶はいるかしら?」

「あっ、ありがとう。貰うよ」


 裕二が持ってきた茶菓子を摘まみながら、重蔵さんが来るのを待つ。

 そして裕二に遅れる事10分程し、重蔵さんが道場に姿を見せた。


「すまんな。ワシが呼び出したのに、待たせてしまって」

「あっ、いえ。俺達も連絡無しで来ましたし、気にしないで下さい。それとお茶、先に頂いてます」

「いやいや、遠慮せんで飲んでくれて構わんよ」 

「どうぞ重蔵さん」

「おお。すまんな、柊の嬢ちゃん」


 そう言って重蔵さんは座布団に座り、柊さんが用意したお茶を一啜りした。俺は一服したタイミングを見計らい、重蔵さんに話し掛ける。


「それで重蔵さん。裕二から触り程度には聞きましたけど、なんで俺達を呼び出したんですか? 夏休みの件でとは聞きましたけど……」

「ん? おお、そうじゃったそうじゃった。その件で、お主等を呼んだんじゃったな」


 重蔵さんは表情を引き締め姿勢を正し、俺達の顔を一瞥する。俺達も重蔵さんの雰囲気が変わった事を察し、姿勢を正し話を聞く姿勢を整えた。

  

「お主等、夏休みに入ったらダンジョン内での宿泊を前提にダンジョン探索をすると言っておったな?」

「はい。日帰りじゃ、今到達している階層以降の探索は時間的に無理ですからね。今まで以上に深く潜ろうとしたら、どうしてもダンジョン内で寝泊まりする必要があります」

「そうじゃろうな。お主等から聞いた話からすると、今到達している階層に移動するだけで持ち時間が潰れているみたいじゃしの。お主等が今以上に、ダンジョンの奥深くに潜ろうとすればダンジョン内で寝泊まりするのは必須じゃろうな。じゃがお主等……」


 重蔵さんは俺達3人……いや、俺と柊さんに半ば確信した眼差しで問い掛けてきた。


「野営……いや、本格的なキャンプをした経験はあるか?」

「「……」」


 重蔵さんの問いに、俺と柊さんは目を左右に泳がし沈黙した。

 そして目線を逸らしながら、絞り出すような声で…。


「……えっと、学校の自然教室で、少し」

「……私も」

「……はぁ。ヤッパリの」


 俺と柊さんの返事に、重蔵さんは大きな溜息を吐きながら眉間を揉みほぐしていた。

 何か……すみません。

















最近ブームですが、野営は元より本格的なキャンプって、何かキッカケが無いと中々手がでませんよね。

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― 新着の感想 ―
今度は元自衛隊か元レンジャー舞部隊の野営訓練か? てか外部勢力による治安悪化の話とかでていた割に全然話進まないな
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