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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第10章 注目株って響きは良いけど

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幕間 弐拾九話 学校の有名人

お気に入り19190超、PV24310000超、ジャンル別日刊55位、応援ありがとうございます。





 体育祭の代休が明け、何時ものように通学路を歩いて登校しているのだが……何か何時もと通学路の雰囲気が違った。初めは、体育祭の熱が残っているのかな?と思っていたのだが、直ぐに違うと気が付く。登校中の他の人達の話し声に耳を傾けてみると、何と言うか……体育祭の余韻を楽しんでいると言うより、誰か有名人がこの近くに来ていると騒いでいるみたいだった。 

 こんな朝っぱらから、TVのロケでもやってるのかな?


「よっ、おはよう」

「ん? ああ、おはよう」


 後ろから声を掛けられたので振り返ってみると、そこにはクラスメートの友人がいた。俺は挨拶を返した後、少し雑談を交えてから通学路の雰囲気が変な理由を知らないか尋ねてみる。

 すると……。


「ああ多分、例の人達が近くにいるんじゃないか?」

「……例の人達?」

「ほら。この間の、体育祭で皆を驚かせた……」

「ああ! あの人達か」


 指摘され、俺は軽く手を打ち合わせながら納得した。彼が言っているのは、部活動紹介の時に凄い演武を披露したある部活の人達の事だろう。あの人達、本番と予行演習の演武で話題を掻っ攫っていったからな。

 お陰で部活紹介後、全くと言って良い程に観客の目を集められなかった他の部活の人が意気消沈している姿は背中が煤けてたけど……。  


「確かにあの人達が近くにいるとしたら、一目見てみようって野次馬が群がるのも分かるな」

「だろ? あの人達もウチの生徒な以上、この時間帯の前後で登校してきているだろうしな」

「5人いたからな。1人ぐらいは、この時間帯に登校していても可笑しくはないか……」


 俺と友人は軽く頷き合いながら、少し早歩き気味に足を進め始める。興味があるかないかと言ったらあるので、見れるのなら見てみたいからな。

 そして学校の校門が見えてきた辺りで、周囲のざわめきがにわかに大きくなり始めてきた。もしかして……。


「おい、見て見ろよアレ」

「ん? ……凄い人だかりだな」


 俺と友人の視線の先には、人だかりに囲まれた1人の男子生徒と2人の女子生徒の姿があった。あの男子生徒は確か、本番で2人相手に大立ち回りをしていたやつだな。

 体育祭の時はあんなに凄腕の戦士といった感じで勇ましい姿だったのに、今は周りのハイテンションに困惑し酷く戸惑っている。本当に、あんな大立ち回りをやった奴と同じ人物なのか信じられないな。


「質問攻めだな」

「ああ。あの大立ち回りのお陰でアイツら、一躍有名人だもんな。まぁ、あの姿を見ていると羨ましくはないけどさ」

「そうだな。アイツの後ろに隠れている女の子達なんて、質問してくる連中の圧に少し怯えてるしな」

「……あっ、本当だ。周りの奴らは、気付いてないのか?」

「質問に夢中で、気付いてないんだろうな」


 男子生徒は困惑しながらも、質問の矢面に立って女の子達を庇っていた。受け答えはギコチナイものの、女の子達に質問の矛先が向かないように立ち回っているのは見事なものだ。

 とは言え、助けられるかと言えば……。


「今アソコに飛び込んでいって、俺達が人だかりを解散させようとしても……無理だろうな」

「だな。寧ろそんな事をしたら、興味の対象を取り上げたって俺達が囲っている連中に絡まれる可能性が高いな」

「こんな時は、教員が強権を振って生徒達を解散させるのが有効なんだろうけど、何処にも居ないんだよな」


 俺は顔を左右に動かして辺りを見回してみるが、騒ぎを聞きつけて駆け寄ってくるような教員の姿は何処にも見られなかった。と言う事は、この人だかりが出来たのはつい今し方って事なのかな?

 なので、俺はどうする?と言った視線を友人に送ってみたのだが……目を閉じ力無く頭を左右に振られた。 


「まぁ……何だ? もうすぐ予鈴が鳴る時間だから、誰かが気付いて声を上げれば自然と人だかりも解散するさ。皆、遅刻はしたくないだろうしな」

「……そう、だな」

「それに体育祭であんな大立ち回りをしたアイツらなら、いざとなれば人集りぐらい振り切って逃げられる筈さ」


 俺と友人は質問攻めに遭う彼等に自分達の無力さを謝りつつ黙祷を捧げた後、人だかりの脇を抜け昇降口へと向かう。昇降口は玄関先で人だかりが出来た影響か、普段激しくごった返すこの時間帯にしては珍しくガラガラと言って良いほど開いていた。

 彼等には申し訳ないが……助かります。

 





 今学校で一番話題の人物が登校したという話を聞き、私は友達と一緒に隣のクラスへ野次馬をしに行ったのだが、既に先客達が鈴なりのように窓やドアに張り付いて中を窺っていた。

 ……凄い人気だな。


「うわっ……凄い人の山だね」

「そうだね。でもまぁ、体育祭であんなパフォーマンスを見せられたんじゃ仕方が無いよ」

「凄かったもんね、アレ」

「うん。予行演習の時も凄かったけど、本番のパフォーマンスは圧巻だったよね」

「うんうん」


 私と友達は何とか人集りの隙間を見付け張り付き、教室の中を窺いながら小声で先日行われた体育祭の話をする。本当、あの人達がやったパフォーマンスは正に圧巻。本番前日の予行演習の時に行われたアレを見た時、私は始めは良く分からなかった。だって、いきなり人が凄いスピードで殴り合い始めるんだよ? 一瞬、何事!?って本気で心配したもん。踏み込む度に地鳴りがして、パンチやキックを繰り出す度に凄い風切り音もするしね。

 正直予行演習の時のパフォーマンスは、呆気に取られている内に終わっちゃったから凄いという感想以外は良く憶えていない。でもお陰で耐性が出来たのか、次の日の本番で行われたパフォーマンスはしっかりと見る事が出来た。


「あんな演舞、私達には出来ないよね」

「うん。と言うか、私達どころかウチの学校の人は殆どが出来ないんじゃ無いかな? 確かに、同じような速さで動ける人は居ると思うよ? でも探索者だからといって、誰でもあんな綺麗な動きで出来るわけじゃ無いもん」


 ウチの学校の2,3年生も、殆どの人が探索者をやっている。そのトップクラスの人達ともなれば、素人に毛が生えた程度の私達とは比べものにならない動きをしているし、イベントなどで高レベル探索者という人達の演武を見た事があった。

 でも……。


「大体の人は適当に蹴ったり殴ったり、斬ったり突いたりしてたよね」

「うん。中にはちゃんと武術を習ったらしい人も居たけど、あの人達みたいに流れるように演武が出来るってレベルじゃ無かったよね」

「そうそう。力が急激に向上したせいで振り回されて、慣れているはずの演武も何処か動きがギコチなかった感じだったよね」

「そうそう。跳ね回りそうになるのを抑えて、無理矢理形にしている……みたいな?」


 イベントで演武を披露するプロやセミプロが比較対象として正しいのかどうか分からないが、間違いなく動きとしては彼等の方が上だと私は思った。多分あの人達は、探索者になって向上した自分の力を完璧に扱えているのだろう。

 そして自分も探索者の端くれなので、短期間で急上昇した力を御する事の難しさは分かっているつもりだ。


「だから、びっくりだよね。私達と同い年なのに、アソコまで出来るなんてさ」

「ホントホント」


 未だ、自分に出来ていない事を、完璧に熟している人を見ると、ホントに凄いと思うし、尊敬もする。だからこそ、そんな人が近くに居れば、一目見てみたいと思った私の行動は、仕方ない。……うん、仕方ないんだよ。

 例え、扉の奥を覗いた先で目が合ったクラスの人に邪魔くさそうな眼差しで見られたとしても! 


「あっ、居た! 多分、あの人だよ」

「どれどれ? あっ、本当だ。あの時2人を相手にして、大立ち回りをした人だ」


 非難の眼差しに耐えながら教室の中を覗いていた私と友達は、ついにクラスメイトに囲まれ困った表情を浮かべながら質問に答えている目的の人物の姿を捉えた。

 だがこうして制服姿の彼をみていると、極普通の同世代の男の子にしか見えない。本当に彼が、あの演武をしたのかと一瞬疑いたくなった。


「演武をした3人は同じクラスだって噂を聞いたけど……まだ一人しか来てないの? 他の人は?」

「まだ時間はあるから、もう少し遅れてくるんじゃ……って、あれ?」


 ふと気が付くと、私達と同じように扉に群がっていた野次馬が扉から離れていた。何で?


「ああ、すまない。そこ通して貰えるか? 教室に入れないんだけど……」

「あっ、すみません! 直ぐにどきます!」


 若干気怠げな男の声で扉の前を塞いでいた事を咎められた私と友達は、慌てて頭を下げながら視線を逸らしつつ謝罪の言葉を口にし扉から離れる。

 そして少し間を開け顔を上げると、今しがた私達を咎めた人の正体が分かった。


「あっ、あの人……」

「演武をしてた人だね」


 彼はクラスメートに挨拶をしながら席に着いたが、椅子に座る後ろ姿から憔悴している様子が簡単に見て取れた。何だか……申し訳ないという気持ちが沸々と込み上げてくる。

 そして……。


「……帰ろうか? そろそろ良い時間だし」

「……そうだね。もう一人の姿を見れなかったのは残念だけど、これ以上ここに居るのは迷惑そうだもんね」


 先に来ていた人と一緒にクラスメイトの質問攻めにあう姿を見て、私達は自分のクラスに引き上げる事にした。先生が此方に歩いてきているのを見ると、もう本当に時間も無いみたいだしね。

 そして自分のクラスに戻る途中、涼しい表情を浮かべ競歩のようなスピードで廊下を歩み過ぎ去っていく女子生徒とスレ違ったけど……多分アレ、演武をした最後の一人じゃなかったかな? 歩き去って行くスピードがほぼ短距離走だったけど、見た目は完全に歩いていたし。何と言うか彼女、無駄に高度な技術を使ってるな……。

 





 朝の職員会議で、先日行われた体育祭に関連したとある出来事が取り沙汰された。何でも先日行われた体育祭の録画映像がネットに流出し、ちょっとした炎上騒ぎが起きていたらしい。

 そして、生徒からの連絡で気付いた学校は即刻ネット会社に削除依頼を提出、動画の削除に成功したとの事だ。だが、アップされた元動画が消されたとは言え、コピー動画や炎上していると言う掲示板は依然として存在しているらしく、関連して校内で騒動が起きないように注意して欲しいとの通達があった。


「ですので、各先生方は生徒達の動向に注意を払って下さい」


 恐らく教頭が言っている炎上した動画というのは、ある生徒達が体育祭でおこなったパフォーマンスのことだろうな。確かにあのパフォーマンス動画がネットに上がったら、それなりの反響があるのは当然だろう。現に俺もあの時、体育祭本番と予行演習で行われた生徒達のパフォーマンスを見て、度肝を抜かれたからな。

 そして、伝達事項を伝え終えた教頭は話を締めに掛かるが、ある事を思い出したらしく一つ話を付け加える。


「それと来週の後半は期末テストがありますので、体育祭明けで気分が浮ついている生徒も多いと思いますが、上手く気持ちをテストモードに切り替えさせて下さい。では以上で、職員会議を終わります。皆さん、今日も一日頑張りましょう」

「「「はい!」」」


 職員会議が終わり、受け持ちクラスを持つ先生方が散っていく。俺は今年は受け持ちクラスが無いので、1限目の授業で使うプリントなどを用意するためコピー機置き場に向かう。先程教頭が言ったように、来週の後半に期末テストが控えているので、気持ちを切り替えさせるのに用意したミニテストを刷る為だ。テストの難易度はわざと難しく設定しているので、恐らく生徒の多くは半分取れるか取れないかだろう。

 コレの出来で危機感を覚え、試験勉強に身を入れてくれると良いのだけど……。


「ん? ああ、橋本先生。おはようございます」

「? あっ、おはようございます。先生もプリントのコピーですか?」 

「ええ。今日の授業で使うミニテストを刷ろうかと」


 コピー機には、先客がいた。今年から教員になった、橋本先生だ。新卒間もない彼女だが、今では彼女もちょっとした有名人である。

 

「それにしても大変ですね。橋本先生が受け持っている部活の生徒達の事でしょ? 教頭先生が言っていたのは?」

「え、ええ、はい。お騒がせしてすみません」

「いえ。生徒達も立ち上げたばかりの部活を盛り上げようと張り切った結果でしょうし、投稿動画が炎上した件にしてもお宅の部の生徒が直接煽ったわけではないのでしょう? でしたら、橋本先生がお気になさる必要はありませんよ。ちょっと運が悪かっただけですよ」

「あっ、ありがとうございます」


 俺の気にしなくて良いと言う気遣いに、橋本先生は軽く頭を下げながらお礼の言葉を口にした。

 そして軽く雑談をしながら橋本先生のコピーが終わるのを待っていると、唐突に大声で橋本先生が呼ばれる。


「橋本先生! 外線1番にお電話です」

「えっ!? は、はい! あっ、でも……」

「先生のコピーの続きは私がやっておきますので、先生は電話に出て下さい。お客さんを余り待たせるのは、失礼ですからね」

「あっ、えっと、ありがとうございます。すみませんが、よろしく御願いします」

「ええ」


 橋本先生は頭を下げ礼の言葉を口にした後、小走りで自分の机に戻り電話に出ていた。

 そして、漏れ聞こえる会話の受け答えと困惑し曇る表情から、どうやら彼女の受け持った部活の子に対するスカウト話のようだ。確か彼女の受け持っている部には、3年生は所属していなかったと思うのだが……。

 結局、彼女の電話は全てコピーを刷り終わるまでには終わらず、俺は印刷し終えた彼女のコピー用紙を机に届ける事になった。まぁ良いんだけど、彼女も大変だな。











次話から新章スタートします。

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