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第20話 エンカウント率、低っ!

お気に入り6270超、PV10600000超、ジャンル別日刊14位、応援有難うございます。

 

  

  

 

 ダンジョンを出てゲートを抜けた俺達はまず、コンテナ型のエアシャワーと滅菌灯が設置された衛生管理エリアを通り抜けた。

 一応、自衛隊や厚労省の合同調査チームがウイルス等の有無に付いてはダンジョンが公開されるまでの半年の間に徹底的に調べ上げ、危険なウイルスはいないと結論はだしてはいる。

 が、しかし、深層部は未だ手付かずな為、万が一の可能性を考えこの設備が設置されており、ダンジョンへ潜った探索者には例外無く全員の設備使用が義務付けられていた。バイオハザードの危険を考えればこの程度の措置も仕方ないのだろう、しかし……。

 

「まるで、俺達が病原菌の様な扱いだな」


 俺は思わずそう口にした。

 保護グラスを掛け紫色の明かりが灯るコンテナの中を、エアシャワーを浴びながら誘導灯に従い1分以上かけてゆっくり歩く。何処の映画だよと思った俺は悪くない筈だ。


「消毒液を振りかけられなかっただけ、まだマシと思った方が幾分良いぞ」 

「そうね。この程度じゃ、本格的なバイオハザード対策には程遠いしね」

「まぁ、そうなんだろうけどさ、はぁ」

 

 二人の言うとおりだろう。

 本気で政府がバイオハザードを警戒しているのなら、世論が煽られていたとしても民間人のダンジョン侵入など許す筈がない。そして、許可するにしても最低でも防護服の着用を義務付け、この程度の簡易設備でお茶を濁す様な真似で済ます筈がないだろうからな。ダンジョン帰還後に隔離病棟に移された後、各種検査で数週間に渡って拘束されるはずだ。


「はぁ。それじゃぁ、柊さん。着替えが終わったら、受付の待合スペースに集合でいい?」

「ええ、分かったわ」

 

 俺と裕二は柊さんと更衣室の前で分かれ、更衣室の中へと入って行く。

 バックパックに仕舞っていた鍵でロッカーを開け、中に剣や防具等の装備品をウェットペーパーで拭いて収納した後、俺と裕二は着替えと携帯お泊りセットを持って更衣室の隅に設置してある脱衣所付きのコインシャワーに入った。コインシャワーの事は、ダンジョン協会のHPの中で施設紹介欄に掲載され知っていたので、予め用意してきていた。中は意外と広く1m四方はあり、狭く感じる様な圧迫感は感じない。コイン投入口を見ると、100円で5分間使用出来る様だ。使い方の説明図を見た後、コインを投入しシャワー室の洗浄ボタンを押す。すると、シャワー室の中から高圧洗浄水が噴射する音が響き、洗浄は10秒程で終了した。こう言う設備は初めて使用するが、中々凄い光景だな。着ていたジャージを脱ぎ、俺は携帯お泊りセットを持って早速シャワー室へ入る。

 利用可能時間内にシャワーを済ませた俺は、元々着て来ていた服に着替え更衣室を出る。丁度裕二もシャワーを終えた様で、髪の毛をタオルで拭きながらシャワー室から出てくる所だった。


「あっ、裕二。そっちはどうだった?コインシャワーって初めて使ったけど、俺は結構良かったと思うんだけど?」

「そうだな。もっと狭っ苦しくって使い辛いかと思っていたけど、使ってみたら随所に工夫が行き届いていて意外に快適だったな」

「まぁ、強いて難点を言えば、ヘアドライヤーを設置していて貰いたかったかな?」


 俺はまだ湿気ている髪をタオルで拭きながら、不満点を挙げる。まぁ、こんな山奥では、シャワーが浴びられるだけでも贅沢なのだろうが。上を見ればキリがないな。


「後で、受付に設置の要望を出してみたらどうだ? 要望が多ければ、コイン式の奴なら、その内設置してくれるんじゃないか?」

「どうだろ?設置する気があるのなら、最初っから設置されてると思うし」

 

 髪をタオルで拭きながら、俺達はシャワーコーナーからロッカーへと戻った。着替え終えた戦闘服や装備品を纏めショルダーバッグへ収め、不知火の簡易手入れを行う。

 俺は鞘から不知火を抜き、天井の蛍光灯に翳す。


「……刃毀れはないな」

「一応それは軍刀だからな。粗悪品でもない限り、一回使っただけで刃が欠ける様な事はないさ」


 俺と同じように武器をチェックしている裕二の言う通りだ。主武装がこの程度で刃毀れして貰っては困るからな。一応短期間ではあるが、コイツもレベル上げ時に所持していたので多少は強度や切れ味は強化されている。尤も、強化具合は戦闘服としても使っていた部屋着ジャージには遠く及ばないがな。

 これは、二人と一緒にダンジョンへ潜る事が決まるまで、装備品の事を深く考えずにレベル上げをした弊害だ。俺自身のレベルが高くなり過ぎていて、レベルアップに必要なEXPが多く短期間では不知火の強化が出来なかったのだ。なので、不知火の強化具合は二人の得物に比べ、遥かに低い。

 正直、素手で殴った方が、不知火を使うより強いと言う、本末転倒な事態になっている。が、まぁ、モンスターを素手で殴り殺すよりは、不知火を使って斬り殺した方が、幾分かは精神的にはマシだ。


「でも、まぁ。研ぎ直しはしといた方が良いぞ? 手入れの手を抜くと、後で自分にしっぺ返しが来るからな」 

「分かってるよ。重蔵さんに口酸っぱく言われてるから」


 刃の研ぎ方は、重蔵さんに嫌と言うほど習った。研ぐのに時間は掛かるが、一応合格点は貰っている。


「後、研いだら試し切りはしとけよ? 下手な研ぎ方だと切れなくなるからな」


 俺は無言で頷く。

 日本刀に限らず、刃物は研ぎ方が悪いと本当に切れなくなるからな。不知火を初めて自分の手で研ぎ、試し切り用の大根が切れなかった事は結構衝撃的だった。なのでそれ以来、毎日家の包丁を使って研ぎの練習をしている。御陰で母には毎日包丁の切れ味が良いと好評だ。

 

 

 

 

 

 

 

  

 簡単な武器の手入れが終わった俺達はバッグに武器を収納し、荷物を持って更衣室を出た。待合スペースに受付の係員以外の人影はなく、待合スペースはがらんとしている。 

 

「さて、柊さんが出てくるまで、どう時間を潰す?」

「ジュースでも飲みながら待っていれば良いんじゃないか?」

「……」

「……」


 待合スペースに設置してある椅子に荷物を置き、俺と裕二は無言で対峙する。そして、示し合わせた様に同じタイミングで……。


「「最初はグー! ジャンケン、ポン!」」


 俺がグー、裕二はパー。つまり俺の負けだ。 


「くっ!」

「よしっ!」


 俺は自分が出した拳を凝視し悔やむ。

 二人で何をしていたかと言うと、要するにどちらがジュースを買いに自販機コーナーまで走るかと言う事だ。


「俺コーラな。はい、160円」

「……っち、行けば良いんだろ行けば」

「そう言う事。……ああ、そうそう」


 裕二が俺に顔を寄せ、周りに聞こえない様に小声で耳打ちをする。


「換金用のスキルスクロールは?」

「もうバッグの中に入れてる」

「そうか」

 

 裕二が耳打ちしてきた内容は、事前に決めていた事の確認だ。

 流石に短期間で数万円に及ぶ出費は高校生にとってキツい物が有り、ここらで少し金策をしておこうと言う事で話が纏まっていた。貯めていた小遣いにお年玉貯金も、装備品を揃えるので使い切ったからな。

 なので、自宅のダンジョンからドロップし、ダブついているスキルスクロールを1つだけ換金する事にしたのだ。換金するスキルスクロールの種類は、ダンジョンに入る前に協会のHPに載っている買取表で数が出回っておりそこそこの額の物を確認し決定した。


「じゃ、買ってくるわ」


 裕二に荷物の管理を頼んでプレハブ倉庫を出た俺は、自販機コーナーでコーヒー、コーラ、レモンティーと何時もの個人の好みに沿った組み合わせで購入する。

 ペットボトルを腕に抱えプレハブ倉庫に戻ると、柊さんも着替え終えた様で裕二と雑談をしながら椅子に座って待っていた。柊さんはシャワーを浴びた髪の毛が完全に乾いていない様子で、仕切りにタオルで髪の毛を拭いている。


「おまたせ、買ってきたよ」

「おう、大樹。買い出し(パシリ)、ご苦労様」

「まぁ、ジャンケンで負けたからな。ほら裕二、コーラ。それと、はい柊さん。レモンティーで良かったよね?」

「ええ、ありがとう九重君。お金は後で渡すわ」


 俺は抱えていたコーラとレモンティーのペットボトルを二人に渡す。俺も空いてる椅子に座って、コーヒー缶のキャップを開け一口飲む。程良い苦味が口の中に広がり、ようやく緊張で強張っていた体の力が抜けホッと溜息を吐く。二人も似た様な感じで溜息を吐いていた。

 

「それにしても、思ったよりダンジョン内でモンスターに遭遇しなかったよな?」

「そうだな。朝から潜り続けて……4時間弱か」

「その間に私達が遭遇したモンスターの数は、たった3匹……3匹よ? 1階層目とは言え、4時間近く潜って少なすぎない?」

 

 マッタリとした空気の流れる俺達の話題に上がったのは、ダンジョン内でのモンスターの少なさに関しての話だ。モンスターとのエンカウント率の低さが気にかかった。

 少し頭を捻っていると、ある推測が思いつく。


「もしかして、各階層における適正人数を大幅にオーバーしてるんじゃないのか?」

「? どう言う事だ?」

「つまり、今この場にいる探索者達の中には、表層階以降に潜れる実力者が殆ど居ないんじゃないのかって事だ」

 

 思い出すのは、朝の駅にたむろしていた探索者達のレベルだ。あの時は、調査サンプルが少なかったので確信を持てなかったのだが、もしかしたら国内における民間人探索者の平均レベルは俺達が思っていた物より大分低いのかもしれない。


「深く潜る事が出来ないのなら、必然的に探索者達の狩場は表層階に集中するわね。リポップ速度が討伐数に比例する様な仕組みでもない限り、殆どのモンスターはリポップ直後に過密度で彷徨っている探索者に即狩られるわ」


 そうなると、当然レベルアップに必要なEXPは中々集まらず、表層階以降に潜れる様な探索者は生まれない。そんな伸び悩む探索者がダブついているダンジョンに、新しい探索者が急増する。モンスターの取り合いが激化しない訳がない。

 つまり、この時点で負のスパイラルが完成していると言う事だ。


「ああ、なる程。だからモンスターとはあまり遭遇しなかったのか……」

「モンスターが蠢いてる筈のダンジョン内で、リポップ点から動いているモンスターの方がレアとか無いわ」

「本当にそうよね」


 嫌な結論に、俺達は頭を抱えながら思わず溜息が漏れる。

 こうなると、ダンジョンへの入場に人数制限をかけてでも、表層階以降へ潜れる人材を育成する必要が出てくるのではないだろうか?探索者達の狩場をある程度分散させなければ、この負のスパイラルを解消させる事は難しいだろう。

 しかし……。

 

「ゲームじゃない以上、死に戻りなんて戦法が使えるわけ無いからな。表層階以降の高レベルモンスターを相手にレベルアップ、なんて真似が出来ない以上は時間がかかるだろうな……」

「だろうな。今回俺達は3匹しかモンスターと戦って倒さなかったけど、移動時間や戦闘時間、戦闘後の休憩を合わせれば、1日に数十匹のモンスターを倒す事なんて無理だろう。無理をすれば、疲労や判断力の低下でモンスターの餌だ」

「探索者達のレベルが低い以上、EXPの低いモンスターの数をこなすしか無いんだろうけど……その数がいないんじゃ」


 場に沈黙が流れた。考えれば考えるだけ、詰んでる感をヒシヒシと感じる。

 つまり、駅で見たベテランっぽい1桁後半の探索者達は、探索者第1期生でスタートダッシュを決めていた者達という事だ。1月近く経ってもレベルが2桁にも達しないって……。


「なぁ、俺達のレベルって」 

「広瀬君、それ以上は言わないで」

「……」


 結果論だが、今の状況を考えると柊さんや裕二の言う様に、安全マージンとして過剰なまでにレベルを上げないでおいて良かったのかもしれない。だが、命の危険がある以上は安全マージンの為にもレベルを上げられるだけ上げようと思いもしたが、ステータス偽装のスキルスクロールがないので探索者の平均レベルからかけ離れた様な状態はさけたかったんだけど……な。

 抑えていたつもりのレベル上げさえ、現状では随分と、探索者の平均レベルからかけ離れていたようだ。でも、誰が予想つく?探索者の平均レベルが、2ヶ月近く経っても10を超えていないなんてさ?


「……取り敢えずさ、ドロップアイテムを換金しに行かない? 今ここで考えても、どうしようもないみたいだしさ」

「……そう、だな。換金に行くか」

「そうね。ここで幾ら考えてもどうしようもないわね」


 俺達はこの問題を棚上げして、ドロップアイテムを換金しに行く事にした。

 何か最近、物事を棚上げする事が多くなってきた様な気がする。でも、只の高校生ではどうしようもない事も事実だし……はぁ。俺は缶に残ったコーヒーを一気に流し込む。

 俺達は荷物を持ってダンジョンの入口があるプレハブ倉庫を後にし、隣の事務所兼換金所があるプレハブ倉庫に移動した。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

一つのダンジョンに人が集まり過ぎて、エンカウント率が最悪の状態になっています。運営なんて存在しない以上は、ポップ率のバランス調整なんかないですからね。

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― 新着の感想 ―
武器のレベルアップ、本体がレベルアップする時と同時なの? 経験値別じゃないのかw 真面目にダンジョン潜る人は1回壊れるだけで詰みなのでは? 雑魚に持たせて1から2に上がったら取り上げて別のLv1に持…
[一言] その分、死人が出る確率が少ないからちょうど良いのかも。政府としても中高年がお亡くなりになるならともかく、若年層の死亡は増やしたくないだろうし
[一言] 最低限と言いながら、裕二よりレベル上げてる柊さんに笑ってしまった笑
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