第232話 期末考査
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予想よりも早く、数日程で俺達の周りで起きていた騒動もそこそこ落ち着いた。何故なら、来週に期末テストが控えていたからだ。部活も試験休みに突入し、学校中がピリピリとした雰囲気に包まれた試験モードに突入していた。
無論、俺達も友達と休み時間に雑談をしつつ試験勉強に勤しむ。母さんにも言われたが、探索者業が忙しいから成績が落ち赤点を取りました……では、探索者を辞めろと言われるのが目に見えてるからな。
「なぁ、九重? この問題って、この公式を使って解けば良いんだよな?」
授業と授業の短い休み時間に、俺は頭を掻いて表情を歪めた重盛から、先程の授業で出された数学のミニテストの問題について質問を投げ掛けられた。因みに重盛が悩んでいる問題は、クラスでも正解者が半分を切っていた難しい問題だ。
「ん? どの問題だ? ああその問題か……ああ、そうだな。その公式を使えば、問題無く解ける筈だぞ」
「そっか、サンキュー」
重盛は俺に教えられた公式を使って、問題を解き直し始める。暫く黙って重盛の後ろ姿を見守って待っていると、どうやら問題が解けたらしく少し晴れ晴れとした表情を浮かべ背筋を伸ばした。
そこで俺は、重盛に少し気になっていた事を聞いてみる事にする。
「で、重盛? お前、今回の試験は大丈夫そうか? 前回の中間は、盛大に爆死しただろ?」
「おう! 前回のテストではミスったが、今度こそデカい金鉱脈を掘り当ててやるよ!」
「金鉱脈って……また山張りしてんのか?」
「今度こそ大丈夫だって!」
俺は重盛の答えに呆気に取られ、若干頬が引き攣った表情を浮かべる。コイツ……前の失敗を懲りてないのか?
それに今度こそって……どこからその自信が湧いて出てくるんだよ?
「おいおい、重盛。前回の事を反省して、試験範囲を万遍無く勉強しようとは思わないのか?」
「無理無理。時間が無くて、範囲全体なんてカバー出来ないって。それに、やれたとしても浅く広くだから、高得点には繋がらないよ」
「毎日少しずつやってれば、そこまで無理な範囲じゃ無いと思うんだけどな……」
「テストは一夜漬けで何とかするタイプだから、毎日勉強するって習慣は俺にない」
「それ、胸を張って言う事か……?」
コイツ、完全にギャンブラー気質だよな。ハイリスクハイリターン狙いって……。
俺は付ける薬無しとばかりに、小さく溜息を吐いた。
「まぁ、俺の事は良い。それより九重。もう、体育祭関連の騒動は収まったのか?」
「ん? ああ、校内に関してはな。もう前みたいに、廊下を歩いてたら質問攻めに遭うなんて事は無いぞ」
「そっか……。惜しかったな、短い有名人生活で」
「別に、惜しくは無いさ。寧ろ、早々に騒ぎが沈静化してホッとしてるよ。コレも体育祭後直ぐに期末テストがあるお陰だな」
翌週に期末テストが無ければ、もう少し長引いた可能性は高い。ホント、名前も知らない多数の人から質問攻めに遭うのは結構精神的にクルからな。早めに騒動が収束して、良かったよ。
そんな俺の浮かべた安堵した表情に、カラカイが上手くいかなかった事に面白くなさそうな表情を浮かべた。
「……本当に残念じゃなさそうだな」
「当然だろ? 廊下を歩く度に、誰かしらから質問攻めに遭うんだぞ? ここ数日、鬱陶しい事この上ないったら……」
トイレに行くたびに質問攻めに遭って、結局用を足せなかった事が何回かあったからな……忌々しい事に。お陰で、次の授業時間中は全然集中出来なかった。
何事も、程々が良いって事だな。
「そんな物か」
「そんな物だ」
俺の素っ気ない返答に重盛もつまらな気ではあるが、一応俺の主張に納得した様な表情を浮かべる。
そして暫く俺と重盛は話を続けていると、次の授業の担当教師が教室に入ってきたので俺達は話を止め、重盛は自分の席に戻っていった。
週の前半は体育祭関連で一騒動あったが、無事に週末を迎えた。何時もならダンジョン探索に行くなり、探索者としての鍛錬等をするのだが、今回は期末テストが間近に迫っていると言う事もありお休みだ。
代わりに、何時ものメンバープラス館林さんと日野さんの2人を加えて試験勉強を行う事にした。
「すみません。私達まで一緒に勉強を教えて貰って……」
「良いの良いの、気にしないで」
俺は恐縮した様子で礼の言葉を述べる館林さんに、軽く手を振りながら気にするなと伝えた。
しかし初めて勉強会に参加するという事もあり、館林さんと日野さんは俺の気軽な態度とは正反対に緊張した面持ちで落ち着き無くそわそわしている。
何故なら……。
「えっと、その、広瀬先輩。今日は勉強会の会場に、お家を貸して頂きありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
「何、気にするな」
勉強会の会場にと、裕二の家の使っていない広間を提供してくれたからだ。
俺達としては既に何度も訪れ慣れた裕二の家だが、初めて来た館林さんと日野さんにとっては完全に住む世界が違う邸宅だからな……無理もない。緊張の一つや二つはしても、仕方がないだろう。
「さてと、じゃぁ勉強会を始めようか?」
「「「「「「はい!(おう)(ええ)」」」」」」
テーブルにそれぞれ教科書とノートを広げ、テスト範囲の問題を解いていく。
暫く無言で問題を解くペンが滑る音だけが響いていたが、次第に問題の解き方を尋ねる話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、麻美ちゃん? この問題って、どう解いたら良いの?」
「ええっと、コレはね? ココを先に解いてから、出た答えをこの公式に代入すれば良いのよ」
「ああ、成る程! ありがとう麻美ちゃん!」
問題の解き方が分からなかった日野さんは、館林さんに教えて貰いながらどうにか問題を解いていく。どうやら日野さんは数学が苦手らしい。
そして、次に悲鳴を上げたのは美佳だ。
「ああぁ、もう! 何でこんなに歴史って覚える事が多いのよ!」
「まぁまぁ美佳ちゃん、落ち着いて。幾ら愚痴を漏らしても、覚えない事にはしかたが無いんだから、頑張って覚えよ?」
「……うん。でも、こうも似たような出来事が何年も連続で続く所なんて、ホント訳が分からなくなちゃうよ」
「単語単語で覚えようとするから、分からなくなるんだよ。関連する出来事を一つの流れとして覚えていくと、結構覚えられるよ?」
「そうかな……?」
「そうだよ」
美佳も沙織ちゃんの助言を頼りに、四苦八苦しながら歴史を覚えていく。
そして俺も……。
「ちょっと良いかな、柊さん。この古文の訳って、これで良いかな?」
「ちょっと見せて貰うわね。ええっと……? ああ、ここの現代語訳ね。うーん、良いんじゃないかな? 多分、この訳で問題ないはずよ。でも……ねぇ広瀬君? 広瀬君は、この訳で良いと思うかしら?」
「どれどれ? ああ、この訳か……。まぁ問題は無いと思うけど、こっちの訳の方が先生受けは良いんじゃ無いか?」
そう言って、裕二は訳文を俺のノートに書き込んでいく。俺達の中で一番古文が得意なのは、裕二だ。本人曰く、小さい頃から家伝の古文書に触れていた事が良い方向に影響しているらしい。
興味本位で以前見せて貰った古文書だが、ミミズがのたうち回っているような見た目で、現代語訳どころか文字として認識する事も俺には出来なかった。アレが読めるなんて裕二凄えな、と感心したのが記憶に残っている。
「ああ成る程、確かにコッチの訳の方が内容が分かりやすいな」
「大樹がした訳でも問題ないとは思うけど、ちょっと引っかかりがあると言うか……まぁそんな感じだ」
「確かに、広瀬君が訳した文の方が流れとしてはスムーズね」
微妙なニュアンスの違いなのだろうが、同じ内容でも裕二が現代語訳をした文の方がスッと内容が頭に入ってくる。ホント、良くこんなに翻訳が辞書も無しに出来る物だ。
「ありがとう裕二、柊さん。こっちの訳でいってみるわ」
「おう」
「ええ」
とまぁ、そんな感じで俺達は互いに教え教わりつつ試験勉強を進めていった。
試験範囲はそこそこ広いが皆、毎日少しずつ勉強はやるタイプだったので大幅に苦戦する事が無かったのは幸いだったな。とりあえず赤点は回避出来るだろう……多分。
期末テストが近づくに従い、校内で俺達に演武に関して質問をしてくる者は消えていき、俺達はやっと穏やかな学校生活を取り戻し期末テストの試験1日目を迎える事が出来た。
まぁ、スカウト話は依然として減らなかったけどな。とりあえず、相手の事情(期末テスト期間中)も考えずスカウト攻勢を掛けてくるような会社には入る気は無いと断っているので、今後は噂を聞いてスカウトも減るだろう……と期待したい。
「で、重盛? 本当に、今回も山を張ってるの?」
「ああ。勿論。今回こそはバッチリだ!」
「……そうか。まぁ、頑張れよ」
「おう!」
俺は半眼になりながら、自信ありげな様子の重盛を何処か遠い存在のように眺めた。
どうやら重盛の奴は前言通り、本当に前回の中間と同じように山張り一夜漬けスタイルで期末テストに挑むらしい。前回爆死したのに、同じ戦法を本当にもう一度やるなんて……チャレンジャーとしか言いようがないな。頭に無謀なって言葉が付くけど。
「……大丈夫かな、重盛の奴?」
「まぁ、本人が選んだ道だ。生暖かく見守ってやろう。……他に方法もないしな」
「……そうだな」
俺と裕二は皆が最後の最後まで真剣な眼差しで教科書を読み返している中、流し読みするように教科書を眺めている重盛の背中をみて、テスト後どうやって慰めるか頭を悩ませた。と言っても、俺達自身もテスト前なので悩んだのは一瞬だけどな。実際に悩むのは、テストが終わった後だ。
そしてついに、テスト用紙の入った封筒を持った教師が教室に入ってきた。
「頑張ろう」
「お互いにな」
俺と裕二は互いの健闘を祈りつつ自分の席に着き、期末テスト最初の科目にのぞんだ。
ペンが滑る音だけが響く静まりかえった教室に、チャイムが鳴り響いた。
「はい、終了。全員ペンを置いて、解答用紙を前に回せ」
その試験監督官の宣言を以て、今回の期末テスト全ての試験科目が終わる。テスト用紙を前の人に渡したその瞬間、俺は何とも言えない解放感を感じた。恐らくこの感情は、一部の者を除いてクラスメイト全員の共通した感情だろう。
そして俺は何の気なしに一部の者……に目をやって一瞬目を見開いた。何故なら……。
「おう、九重! どうだった、テストの出来は!?」
「えっ、ああ、そこそこイケたと思うぞ……?」
「そうか! 良かったな!」
「あっ、ああ」
満面の笑みを浮かべやたらハイテンションと言うか、上機嫌な重盛の様子に俺は思わず若干引いた。
と言うか、コレはもしかしたら……。
「なっ、なぁ重盛? もしかしてお前、今回のテスト……」
「ああ、バッチリ金鉱脈を掘り当ててやったぜ!」
「……マジかよ」
どうやら重盛が上機嫌だった理由は、張った山が大当たりを出したからだったようだ。それも大当たりを。
「正にど真ん中!って感じだ! まぁ、80点以上は堅いな!」
「……それって、今のテストだけの話しか?」
「まさか!? 全教科、当ててやったぜ!」
「……おいおい、全教科って」
どうやら重盛の奴、今回の期末テストでは特大の山を掘り当てたようだ。前回の中間は完全に外れたのに、良く掘り当てられたな。
と言うか、80点以上は堅いって……またヤバい山の張り方してるよ、コイツ。外れたときの事、一切考えてないだろ。
「それより九重、この後何処かでテスト明けの打ち上げしないか?」
「えっ、ああ悪い。この後、部活の方で集まる事になってるんだよ……折角誘ってくれたのに悪いな」
「おお先約有りか……まぁ仕方が無いな。となると、広瀬の奴も誘うのは無理だな」
「そうなるな。新しく入った部員の歓迎会をしようって話になっていたんだけど、先の前半はアノ騒ぎだったし、後半はテスト期間でそんな事をする雰囲気でも無かったからな。と言うわけで、テストの打ち上げを兼ねた歓迎会をしようって話になったんだよ」
「成る程な。と言うか、お前等の部活に新入部員はいったのかよ……」
「ああ、美佳……妹のクラスメイトが興味を持ってくれたみたいでな」
俺は重盛に新入部員に関して少し話し、ついでに資格取得を目指している事も教えておいた。
「へぇー、部活動でそんな資格を取るんだ」
「部の実績稼ぎって面が強いけどな。まぁ、持ってて困る資格って訳でもないよ」
「それもそっか……」
などと重盛と話している内に何時の間にか終業のHRの時間になっており、担任から10分程の連絡事項伝達を受けてHRは終了した。
これで期末テストも本当に終わりだ。後は……来週の結果待ちだな。
テスト前一週間って、えらく早く時間が経つように感じれましたよね。




