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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第10章 注目株って響きは良いけど
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第230話 新入部員獲得

お気に入り18800超、PV23390000超、ジャンル別日刊32位、応援ありがとうございます。







 俺の漏らした言葉を耳にした館林さんと日野さんは、不安げな表情を浮かべながら無言で俺達の反応を窺っていた。まずったな……、思わず、いらない事を口走っちゃったよ。

 入部する意思が固まっていないこの子達には、今はまだ話さなくて良かった事なのに……仕方ない。

  

「……まだ推測の段階で、確定事項じゃないからね?」


 俺はバツが悪い表情を浮かべながら前置きをし、館林さんと日野さん……ついでに橋本先生にも生徒会と話した後藤達が今後起こしそうな行動予測について話す。話し始めた当初は怪訝げな表情を浮かべ俺の話を聞いていた3人も、推測の根拠になる事柄を幾つか上げていく内に徐々に頬が引き攣りだしていった。

 3人とも、俺が語る推測がありえるかもしれない……そう思い至ったらしい。


「現段階では、あくまでも予測でしか無いんだけどね。でも、館林さん達から聞いた後藤達の様子からすると、何かしらの動きがあったのは確実だと思うよ。でないと流石に、こうも早く立ち直るのは妙だからね。これが1人2人なら、諦念から自暴自棄になって楽天的な思考に至ったって思えるんだけど……」

「グループの主要メンバー全体の雰囲気が明るくなっているとなると……何かしらかの新しい考えの下で動き始めているって考えた方が良いだろうな」

「目指すものの善し悪しに関係なく、目標を持って動いているのなら落ち込んでなんていられないものね」


 厄介な予測が、一歩一歩足音を立てながら近づいてくるのが聞こえてくるようだ。

 そして俺達の話を聞き終えた橋本先生は難しい表情を浮かべながら頭痛がすると言いたげに頭を抱え、館林さんと日野さんは助けを求めるように不安に満ちた眼差しを美佳達に向けていた。

 

「貴方達のお陰で、あと一歩で問題が解決するかもしれない方に向かっていたのにね……」

「すみません。外部からの干渉を考慮していませんでした……」

「……いえ、別に貴方達が悪いわけでは無いわ。館林さん達の話を聞く限り、貴方達の行ったこと自体には十分な牽制効果はあったみたいだし。はぁ、体育祭の本番直前だからと言って後回しにせず、貴方達の演武で彼等が動揺している内に私達教員が彼等と話をしていれば……もしかしたらその段階で問題は解決していたかもしれなかったわね」

「「「……」」」


 橋本先生の漏らした愚痴に、俺達は思わず小さく頷いてしまった。

 だが、今年の体育祭は探索者学生と一般学生の混合開催という異例づくしで、教員も対応に追われとてもでは無いが他に回せる手は無かったというのは少し考えれば明白だ。でなければ、生徒会がリハーサル後に安全対策のフォローに出張るなんて事ないわけだしな。あの事だけでも、どれだけ職員が体育祭の対応に追われていたのかが分かる。

 そんな俺達のやり取りの横で、日野さんは不安げな表情を浮かべながら美佳と沙織ちゃんに話し掛けていた。


「ねぇ、美佳ちゃん? 先輩達が言っている事って……」

「多分だけど、そこまで見当外れな事は言って無いと思うよ。一瞬だったけど後藤君達、今日の朝登校した私と沙織ちゃんに凄い目を向けてきたもん。ねっ、沙織ちゃん?」

「うん。表情には出さず直ぐに視線も逸らしたけど凄く忌々しそうな眼差しだったから、彼等がどう言う感情を私達に向けているか雄弁に物語ってたね……」

「「……」」


 無表情の上に淡々とした口調で語る美佳と沙織ちゃんの様子に、館林さんと日野さんは引き攣った表情を浮かべ絶句していた。まさか自分の所属するクラスで、こんな牽制合戦が裏で行われていただなんて思っても見なかっただろうからな。






 暫く時間をおいて動揺の収まった館林さんと日野さんに、今更のような感がするが改めて入部する意思が有るか無いか確認を取る事にした。

 

「で、こんな話を聞かせた後でなんだろうけど……どうする? ウチの部に入る?」

「えっと……」

「その……」


 俺の問いに、館林さんと日野さんは困ったような表情を浮かべながら顔を見合わせ……覚悟を決めたように小さく頷き合う。

 

「「お願いします」」

「それは入部する……と受け取って良いのかな?」

「「はい」」


 小さな声ではあるが2人とも、力強く頷きながら肯定の意思を示す。

 

「念の為に確認しておくけど、ウチの部は色々面倒な事情があるけど……良いんだね?」

「……はい、その辺の事情は分かってます」

「ウチのクラスが騒動の中心になっている以上、このままだと何れ巻き込まれそうですからね。何も知らないで巻き込まれるより、せめて自分で進む道は選びたいです」

「そっか……」


 どうやら全てを納得した上で、館林さんも日野さんもウチの部に入部する事を決めたらしい。


「それに、私と涼音はまだ誕生日が来てなくて探索者資格が取れないからと、コレまでは後藤君達からの勧誘もあまり強引でありませんでした。けど……」

「私と麻美ちゃんは、7月末と8月上旬生まれでもうすぐ誕生日なんです。そうなると、夏休み明けには後藤君達から勧誘が来るかもしれないと思ってました。先輩達の話を聞いてると、新規勧誘は控える様になるかもしれませんけど……」

「無いとは言い切れませんからね。ホント、どこから私達の誕生日情報が漏れたんだか……」


 館林さんと日野さんは心底ウンザリとしたと言いたげな表情を浮かべながら、胸に溜まった鬱憤を吐き出すように小さく溜息をついた。 

 そう言えば、美佳達の誕生日の情報も後藤達に流れている節があったな。誰かその手の噂話に詳しい……もしくは保管されている生徒の個人情報資料を閲覧したのだろうか? 確か学校に届け出ている入学関係書類等には、生徒の生年月日の記入欄もあったしな。 

 

「分かった。じゃぁコレからよろしく、館林さん、日野さん」

「「よろしく御願いします!」」


 こうして、館林さんと日野さんの入部が決定したので、さっそく、橋本先生が持っていた入部届に必要事項を記入して貰う。本人の意思確認をしたとは言え、一応生徒会傘下の一組織として、こう言った書類手続きは、ちゃんとしておかないといけないからな。

 そして必要項目を記入し終えた入部届を橋本先生に提出した事で、正式に館林さんと日野さんはウチの部の部員になった。






 正式に入部したので俺は、館林さんと日野さんにウチの表向きの活動方針を説明する。


「とりあえず裏事情は一旦置いておくとして、ウチの部の活動目的を説明しておくね。ウチの部は部名にあるように個人事業研究……要するに、個人事業を行う際にあると便利な資格を取得しようって事だね」

「資格……ですか?」

「ああ。部活の活動実績として分り易いのは、何らかの大会で優勝したとかだろ? でもウチの場合は研究……他所と活動内容で競うような部活じゃない。でもそうなると、どう言う形で活動実績をアピールするのかって話になってくるんだ」

「成る程……確かに大会とかに出ないとなると、どんな活動実績があるのか説明しづらいですもんね」

「そう言う事。確かに文化祭なんかで研究内容を発表するって手もあるけど、正直研究と言ってもハウツー本に載っているような内容を学生向けに翻訳して貼り出すぐらいしか無いからね」


 来場者にお茶濁しのような内容だ、なんて揶揄される光景が目に見えるな。


「でも、その際に部活を行った結果、何か公認資格を取得したって看板があれば真面目に活動しているってアピール出来ると思うんだよ」

「ソレで資格を、と言う話になるんですね!」


 日野さんが感心したように、目を輝かせる。

 内容が分からずとも、何々の資格を取得と堂々と書かれた看板がコレ見よがしに置かれていたら、人は訳も分からないまま凄いと感心するフリをするからな。そうなればお茶濁しの内容も、なぜだか立派な内容に見えてくるという不思議な現象が起きる。

 ほんと、人の感性って不思議だよな……。


「でも先輩? 資格って一口に言っても色んな資格があると思うんですが……何の資格取得を目指んですか?」

「俺達が活動実績として資格取得を目指しているのは、今の所は簿記資格だよ」

「簿記……ですか?」

「部活内容とも合致する資格だからね。事務作業をする上では、あると便利な資格だ。その上、受験資格も申し込むだけというお手軽さだよ」


 目指す資格によっては年齢制限なり実務経験なりと色々な面倒な受験資格があるが、簿記に関して言えばソレが無い。必要書類を送付して受験を申し込み、受験料を払い込めばOKだ。

 その上、俺達が取得を目指すのは簿記3級。真面目に勉強すれば、一発合格も無理では無い。


「成る程……」

「と言っても受験料は自己負担になるから、取るか取らないかは2人の意思に任せるよ」


 流石にお金が掛かる以上、部活だからといって資格取得を強制する訳にはいかないからな。あくまでも資格取得は、表向きの活動実績を上げる為だ。俺達の場合、本気で資格取得を目指し活動している訳ではないしな。 

 一応資格としては、大学受験や就職で優遇される事があるので、あって困るという物では無い。


「分かりました。考えてみます」

「うん」


 館林さんと日野さんは、少し眉を顰めながら考え込むような表情を浮かべた。いきなりの話だからな、直ぐには答えは出ないか。

 だけどまぁ、とりあえずコレでウチの部の活動説明は終わりだな。








 部活も終わり館林さん達と別れた俺達は、校内に残る生徒達の目を避けるように下校した。基本的に、今校内に残っているのは部活に精を出す生徒が主なので、朝のように取り囲まれるという事は無いとは思うが念の為だ。

 お陰で俺達は生徒達に囲まれる事も無く、無事に校外へと脱出する事が出来た。


「ふぅ……思ったより簡単に脱出する事が出来たな」

「そうだな。でも、また明日になれば……」

「囲まれるでしょうね」

「「ええっ……」」

 

 俺達は思わずウンザリした表情を浮かべながら振りかえり、今しがた脱出に成功した学校を憂鬱な眼差しで眺めた。流石に登校拒否まではしないが、また明日も学校で野次馬に取り囲まれるのかと思うと……はぁ。


「とりあえず、帰ろう。何時までもココにいると、誰かに声を掛けられるかもしれないからね」

「「「「おう(ええ)(うん)(はい)」」」」


 若干重くなった足取りで、俺達は学校から足早に離れた。

 そして、そこそこ離れた所で歩く速度を緩めた俺は、館林さん達に聞き忘れていた事を美佳に聞いてみる。


「そう言えば美佳、館林さん達は探索者資格を取るような事は言ってたか?」

「えっ!? ええっと……沙織ちゃん?」


 美佳は俺の質問に若干慌てながら目を泳がせた後、沙織ちゃんに丸投げした。


「えっと……本気で取る気があるかどうかは知りませんけど、確か2人とした雑談の中で取ってみようかな、的な事は前に言ってました」

「そっか」


 沙織ちゃんが若干自信なさげな様子で、館林さん達も探索者資格を取る可能性がある事を教えてくれた。明日にでも、その辺の事は本人に聞いて確認しておこう。

 けどもし、館林さん達が本気で探索者資格を取る気があるのなら……。

 

「美佳、沙織ちゃん。1つ提案があるんだけど、良いかな?」

「何、お兄ちゃん?」

「何です?」

「もし館林さん達が探索者資格を取るって言ったら、2人で館林さんと日野さんの基礎指導してみないか?」

「「ええっ!?」」


 俺の提案に、美佳と沙織ちゃんは驚きの声を上げる。ついでに、裕二と柊さんも声こそ上げていないが、俺の提案に目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。

 いきなりこんな提案したらまぁ、そう言う反応になるよな。


「ええっと、それってどう言う意味? 私達が麻美ちゃん達に指導するって……」 

「まぁ何だかんだと理由はあるけど……最終的にはお前達の為だな」

「私達の為……ですか?」


 美佳と沙織ちゃんは意味が分からないと疑問符を浮かべ、裕二と柊さんは何かに気が付いたような表情を浮かべた。察した上で話を止めにかから無いという事は、裕二も柊さんも概ね同意という事だろう。

 そして俺は疑問符を浮かべる美佳と沙織ちゃんに、返事の意図を説明する。


「ああ。一応、お前達にはこの間の遠征で探索者として必要な知識と経験の基礎は叩き込んだつもりだ。後は、日々の鍛錬と経験の積み重ねだよ」

「「……」」


 最低限の教える事は教えたと伝えると、美佳と沙織ちゃんの目に若干不安の色が浮かぶ。別にコレから全く手を貸さないと言う訳では無いが、徐々に美佳達の探索に手を貸す比率は落としていくつもりだ。

 何れは独り立ちさせないとイケないからな……俺達にも言える事だけど。


「だけど、自分を高める訓練だけじゃ気付かない事ってのが結構あってな? 実際俺達も、2人を指導している過程で自分のいたらない点てのが結構あったんだよ。ねっ。裕二、柊さん?」

「ああ、そうだな。実際、自分達では上手く出来ていたと思っていた事でも、美佳ちゃん達に教えるって事で情報や経験を整理しなおしてみると、もっとこういう風に改めた方が良いと思えた事が沢山出てきたよ」

「そうね、人に教えて初めて気が付くって事が多々あったわね」

「と、言う訳だ。館林さん達への指導を兼ねて、自分達のコレまでを振り返ってみないか? 絶対に役に立つ経験だからさ」

「「……」」


 俺の言葉に美佳と沙織ちゃんは不安げな表情を浮かべ、どうして良いのか分からないといった様子で押し黙った。












まずは、二人の入部決定です。このまま順調に部員が増えると良いのですが。


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