第228話 スカウトされる?
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動画騒動に関する注意を伝え終えた橋本先生は、軽く息を吐きながら俺達の顔を一瞥し少し躊躇しつつ口を開く。
「それと、もう一つ。貴方達に伝えておかないといけない事があるのだけど……」
「何ですか?」
橋本先生は何か歯切れが悪い表情を浮かべ、俺が尋ねると言いにく気に話し出す。
「今朝から学校に、貴方達に関して問い合わせる電話が幾つか来ているのよ」
「それって、もしかして……?」
「察しの通りよ。体育祭で貴方達の活躍を聞いた人や、件の動画を見た人がスカウトの電話を学校に掛けてきているのよ。貴方達と話をしたいから、面会の場を作って貰えないか?ってね。学校としては生徒の意思を確認していないから面会の場を作れると約束できないから、生徒の意思を確認してからって返答させてもらうって返しているわ」
「「「……」」」
マジか。体育祭では派手な演武をしたので、ある程度学校外部からも注目を浴びる覚悟はしていたけど……学校挟んでスカウト交渉って。一応さ?俺達まだ高校2年なんですけど、ね?
俺達3人は思わず顔を見合わせ、戸惑いと困惑の表情を浮かべ合った。
「ええっと皆、大丈夫? 話を続けても良いかしら?」
憂鬱そうな雰囲気を纏い、一斉に黙り込んだ俺達を見かねたのか、橋本先生は心配げな表情を浮かべながら、話を続けるかどうか尋ねてくる。俺達、そんなに具合悪そうに見えていたのかな?
「……あぁ、はい。大丈夫、です」
「そ、そう? じゃぁ、話を続けるわね?」
俺が話の継続を御願いするのに合わせ、裕二と柊さんも無言のまま橋本先生に向かって頷き話を続行する事に同意する。聞きたくないなって気持ちはあるけど、聞かないって訳にはいかないからな。
そして、俺達が話を継続する事に同意したのを確認した橋本先生は、スカウト電話の内容について話し始めた。
「今日学校に掛かってきた貴方達に関する電話は、3つ。1つ目は、ダンジョン産の商品を扱う商社系の会社から。2つ目は、探索者向けの装備品を扱っている生産メーカーから。そして最後の3つ目は、ダンジョン協会からよ」
橋本先生は俺達に向けた右手の指を折りながら、学校に電話を掛けてきた相手の肩書きを説明する。そっか、1日で3件もスカウトが来ていたのか。
しかもその内の1つは、ダンジョン協会って……嫌な予感がする。
「じゃあ、それぞれ簡単に要件を説明するわね。1つ目の会社の要件はズバリ、貴方達のスカウトよ。と言っても、直ぐにウチの会社に就職してくれって言う話では無いけどね。先ずは、簡単なアイテム収集依頼業務を熟してみませんか?ってお誘いよ」
「えっと……どう言う事ですか?」
「要するに、青田買いよ。有望な探索者を見付けたから、他の会社が興味を示す前につながりを持っておきたいって所かしら。もし電話の話通りに貴方達がこの会社からの御仕事を良く受けていたら、他の会社はさぞかしスカウトの声を掛けづらくなるでしょうね」
確かに、橋本先生の言う通りだろうな。
仮に年齢等が理由で所属フリーの有望な学生探索者がいたとしても、既に他社の手が掛かっている状況だとスカウトの声は掛けづらい。何せその状況は言ってみれば、スカウトという名の他社の有望株に対する引き抜き行為だからな。下手をしなくとも、同業他社に対する明確な敵対行為だ。相手の恨みを買うのは、必至だろう。
「細かいスカウト条件なんかは教えて貰えなかったけど、簡単な依頼業務とは言え同業他社に負けない雇用条件は提示出来る用意はあるって言ってたわ」
「他社には負けない、ですか。……随分曖昧な雇用条件ですね」
「そうね。相手の言う同業他社が、どう言う会社の事を指しているのか明言していない物ね。もし凄く雇用条件の悪い会社の事を言っているとしたら、業界平均以下の雇用条件で依頼を受ける……なんて事もあり得るわ」
「ですね」
怖い怖い。甘い話には穴があるって言うしな、警戒していて警戒し過ぎって事は無いだろう。まだ相手側の雇用条件詳細は不明だが、安易にスカウト話に飛びつくのは危険だ。先ずは、相手の素性を調べないとな。
等と考えていると、俺と同じように不信感から眉を顰めながら話を聞いていた柊さんが、橋本先生に質問を投げ掛ける。
「橋本先生。そのスカウト電話をしてきた会社って、何て言う会社ですか?」
「名前? えっと、チョット待ってね。確か……」
柊さんの質問に橋本先生は一瞬目を泳がすと、机の上に置かれていたメモ帳を手に取りページをめくる。
「そうそう、株式会社○○○商事って名前の会社よ」
「○○○商事、ですか? 聞いた事無いわね……九重君と広瀬君は聞いた事ある?」
「「……聞いた事無いね(な)」」
柊さんの質問に、俺と裕二は頭を左右に振って知らないと返事を返す。
すると、橋本先生が会社概要について補足説明をしてくれる。
「まぁ貴方達が知らないのも、無理無いわ。この会社、問い合わせがあってからネットで調べてみたけど、会社創設は今年の3月だもの。知名度って言う意味では、まだまだ無名の小さな会社よ」
「今年の3月創設って言う事は……ダンジョンブームに乗って起業したベンチャー企業の1つって事ですか?」
「多分、そうね」
橋本先生は頷きながら、裕二の疑問を肯定した。今年出来た小規模のベンチャー企業と言う事は……美佳達(新人個人事業主)と同じって事だな。
……うん。お話し合いは辞めとこう。
そして、一つ目の会社の説明が終わり、2つめの会社の説明が始まる。
「さて、じゃぁ2つ目の会社の説明をするわね。2つ目の会社の要件は、自社が生産している装備品を身に着けてダンジョン探索している姿をネットに流して欲しいという物よ」
「それって、動画投稿サイトに良くある……」
「そう、商品レビュー動画の投稿ね。皆が体育祭で活躍した動画の再生数が、短期間で急上昇した事に目を付けたみたいなのよ。注目されている貴方達が自社商品を使って活躍して、その動画をアップすれば提供した商品の売り上げが伸びるってね」
つまり、2社目の要件はスポンサー契約……て事か?
俺は頭の後ろを掻きながら、どうする?と言った視線を裕二と柊さんに送る。
「えっと、先生? 具体的に、そのメーカーさんは何を作っているんですか?」
「チョット待ってね。ええっと……主な商品は防具系の装備品ね」
事前に調べていたらしく、橋本先生はメモ帳片手に裕二の質問に少し考えてから答えを返す。
って、防具系かよ。
「防具系、ですか……」
「あら、如何したの? 防具系の物だと、何か都合が悪いのかしら?」
「えっ、あっ……はい。チョット問題が……」
橋本先生の疑問に、裕二は自分達の回避主体の戦闘スタイルでは防具系の商品レビューは難しいと言う事を説明する。基本的に俺達の戦闘スタイルは、敵に攻撃の機会を与える前に斬り伏せるか、敵の攻撃を回避してからカウンターで斬り伏せるという物だ。元々俺達と低階層帯に出現するモンスターとの間には、かなりのレベル差がある。その為、俺達は最初の1月程を除いて敵の攻撃を真面に受けた覚えが無い。
更に……。
「俺達がメインに活動している階層だと、余程の物で無いと新品の防具なんて役に立ちませんよ」
裕二の言う通り、碌な強化が成されていない新品の防具など、20階層以降のモンスターが相手だと段ボール並みの防御力でしかない。故に新品の防具を使うのならば、鉄板を紐で体に括り付けた方がまだ効果的だ。若干重いだろうけど。現に俺達が現在使っている安物の防具も、強度面だけの話で言えば装甲車の装甲板程度の防御力はある。それだけ、レベルアップに伴う装備品の強化は重要なのだ。
なので正直に言って、新品の防具など新人以外の探索者にとっては必要としていない。
「そっか。じゃぁ、新品の防具を提供して貰ったとしても……」
「使えませんね、いろんな意味で」
メーカーの要望を聞き、モンスター相手に防具のアピールをしようとすれば防御力不足で怪我をおう可能性が高い。その上、防具の防御力に見合ったモンスターと戦おうとすれば、いつも活動している階層で得られる収入よりも、依頼の報酬が下回る可能性が高い。
つまりこの話、俺達にとって得られるものはないといえる。中には名が売れて有名になれるという意見もあるだろうが、俺達としては名が売れるという行為に魅力は感じられないしな。
「じゃぁ、しかたないわね」
「はい。残念ですけど」
裕二はたいして残念そうではない表情を浮かべながら、橋本先生に依頼をお断りする意思を伝え、その脇で俺と柊さんは顔を縦に振って賛成の意思を伝えた。
それにしても新品の防具か……いらないな。
そして2社の要件説明が終わりいよいよ問題の3つ目、ダンジョン協会の話が始まった。
「じゃぁ3つ目、ダンジョン協会からの要件なんだけど……」
橋本先生は一瞬言いよどみ躊躇した後、ダンジョン協会からの要件を口にする。
そんなに言いづらい内容なのだろうか?
「要件自体は、さっきの2社と同じく貴方達にたいするスカウトよ。ただ……ね?」
「ただ?」
「ダンジョン協会からのスカウトって言うのは、外部協力員として登録してくれないかって話なのよ」
「……外部協力員?」
初めて聞く役職名だな。
「それって、どう言う事をするんですか?」
俺は首を傾げながら、橋本先生に内容を尋ねる。
「電話口で簡単に聞いただけだから、詳しくは分からないんだけど。最近探索者が問題を起こす事が増えてきたから、賛同してくれる探索者を集めて街を見回ったりして治安向上をはかる組織を創設しようとしているらしいのよ」
ようするに、探索者の起こす問題は探索者の手で事前に摘み取ろう……的な組織か? 確かに、探索者が警察のお世話になる様な悪さが多発すれば、探索者に対する世間の印象が悪化するからな。自浄作用があるって所をダンジョン協会主導で示し、探索者は協会の統制下に置かれているから安全ですよってアピールをしたいのだろう。
だけど……。
「えっと、先生? 何でそんな組織が、学生メインなんですか? そう言う組織って普通、中心メンバー以外は大人がボランティア的な感じで参加する物じゃ?」
「無論、メインの構成員は大人らしいわよ。ただ、学生が参加する事で、学生探索者の軽挙妄動を牽制したい狙いもあるらしいのよ」
「ああ、成る程」
確かに身近にそんな組織に属する人がいたら、軽挙妄動に出ようとする学生は減るかもしれないな。
しかも、その参加メンバーが学校で有名な探索者であったのなら、牽制効果は更に高まるだろう。
「で、今回体育祭で活躍して凄い探索者として全校生徒の注目を集めている貴方達には、是非この活動に参加して欲しいって打診なのよ。……どう?」
「「「……」」」
俺達は互いの顔を見合わせ、困ったような表情を浮かべながら思案顔を浮かべた。どう?と言われても、正直返事に困る。この部の創設目的からすると、ダンジョン協会のお墨付きを貰えるに等しいこの話は喜んで受けるべきだろう。
しかし……。
「どうする?」
「いや、拙いだろ」
「そうね。出来れば、ダンジョン協会とは距離を置いておきたいわ」
俺達は橋本先生に背を向け、頭を付き合わせながら小声で参加するかどうか相談する。だが、話の結論としての答えは既に出ていた。引き出しダンジョンや飛び抜けた高レベル探索者であるという爆弾を抱えている以上、ダンジョン協会とは出来るだけ距離を置いておきたいからな。
だがそうなると、打診を断る理由が問題だ。創部理由に留年探索者の軽挙妄動に対する牽制とうたっている以上、断るにはそれなりに筋が通る理由が必要だろう。となると……。
「すみません、先生。このお誘い、お断りしたいとおもいます」
俺は橋本先生に向かい頭を軽く下げながら、お断りの返事をする。
すると橋本先生は不思議そうな表情を浮かべ、理由を尋ねてきた。
「何故と聞いて言いかしら? 結構良い話だと思うんだけど……」
「確かに留年生の問題を解決するには良いお話だと思うけど、問題が解決した後の事を考えるとチョット……」
「解決後も、ずるずるとダンジョン協会の紐付きになりそうですからね」
「それに、学校内で問題を収めるのにはそれなりに知名度が必要ですけど、学校外での過剰な知名度は余り欲しくないです。今日の騒ぎを経験しただけでも、有名人が凄く疲れるという事が分かりましたから……」
「「「はぁ……」」」
俺達は一斉に、心底疲れたと言う表情を浮かべ溜息を吐く。すると、橋本先生はそんな俺達の様子に若干頬を引き攣らせた。多分、今日の騒ぎを思い出しているのだろう。
そして……。
「そ、そう……分かったわ。じゃぁ、じゃぁ先方にはお断りの返事を入れておくわね」
「「「お願いします」」
俺達は軽く頭を下げながら、橋本先生に礼を述べながら頭をさげた。
そしてスカウト話が終わり4人で雑談をしていると、部室の扉が開き美佳と沙織ちゃん、そして同級生らしき女の子2人組が入ってくる。……って、誰?
体育祭の活躍がスカウトの目に止まり、所属勧誘からスポンサー打診まで……。




