第212話 中々の成果だな……
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着替えを終え更衣室を出た俺と裕二は、自動販売機でジュースを購入し待合場の椅子に腰を下ろした。
「取り敢えず、1日目は何とか無事に終わったな」
「そうだな。2人とも今日1日で、それなりに戦闘経験値を積めた事だろうし、何かしらの手応えは得られただろうさ」
ジュースを飲みながら、俺と裕二は今日の探索について簡単な反省会を行う。気が付いた自分達の引率の手際の不備、休憩を取る間隔、戦闘時のフォロー等々、浅く広くと言った具合で話は多岐にわたる。
そして、その話の中でやはりこの話題が上った。
「それにしても裕二、ゴブリンを倒した時の沙織ちゃんの反応ってさ……」
「ああ。ちょっと、注意して置いた方が良いかもな」
俺と裕二はその時の事を思い出し、何とも言えない表情を浮かべた。美佳が精神的ショックでグッタリしていたのに対し、沙織ちゃんは平然としていた上に若干高揚してたからな。
「別に血に酔っているって訳じゃ無いだろうけど、若干戦闘狂気質が見え隠れしてるんだよな……」
「……爺さんに相談して、普段の稽古に精神修養の項目を増やして貰う様に話を進めるか」
「その方が、沙織ちゃんにとっても良いか。本人が大怪我をしてからじゃ、何を言っても遅いしな」
「だな」
俺と裕二は軽く頷き合いながら、互いに乾いた笑みを浮かべあった。……稽古で改善するかな?
そして俺と裕二がジュースを飲み終えた頃、更衣室から3人が出てくる姿が見えた。さっき別れた時より、美佳と沙織ちゃんが若干元気そうに見える。
「お待たせ、二人とも」
「大丈夫だよ、そんなに待ってないから」
俺と裕二に申し訳なさ気な口調で謝罪する柊さんに、軽く片手を挙げながら答える。まぁ実際は15分程待ったが、ここでそれを言うのは野暮と言うものだろう。
そして俺は視線を、若干眠そうな美佳と沙織ちゃんに向ける。
「ああ……大丈夫か、二人とも?」
「うん、大丈夫!」
「はい、大丈夫です!」
二人とも、気力で保っているって感じだな。気が抜けたら、直ぐに寝そうだ。
まぁ、初めての長時間探索だったから仕方がないか。
「それより、お兄ちゃん! 早く換金しに行こうよ!」
「あっ、ん? 休憩はしなくて良いのか?」
俺は飲みかけのジュース缶を美佳に見える様に掲げながら、一服していかなくて良いのかと問い掛けた。
「うん、今休んだら寝ちゃいそうだし……ね?」
「うん。座り込んで一服していたら、多分寝ちゃいます」
「そっか……柊さんは?」
沙織ちゃんも直ぐに移動する派みたいなので、俺は視線を少しずらし柊さんにも確認を取る。
「私も良いわよ。ジュースは向こうで、換金手続きの待ち時間中に飲む事にするから」
「分かった。じゃぁ、移動しようか」
3人の意思を確認した後、俺と裕二は少し残った飲みかけのジュース缶を一気に煽り飲み干し席を立った。
換金受付がある建物に入ると、中は順番待ちの探索者でゴッタ返していた。普段この時間は利用しないので分からなかったが、どうやらこの時間帯が換金のピーク時間帯らしい。何時も俺達が換金を行う時の、1.5倍は順番待ちしている人が多いかな?
俺達は先ず、受け付け番号を発券機で取得する。
「235番か……」
「……20人待ち、って所か?」
「そうだな。順調に進めば……3、40分待ちって所かな?」
「「3,40分……」」
美佳と沙織ちゃんが、マジかと言った表情を浮かべながら項垂れた。まぁ疲れて眠気と戦っている所に、3,40分待ちは辛いよな。
俺は首を左右に振って、待合室の空き席を探す。すると……。
「あっ、アソコの席、空いたみたいだぞ」
俺は待合室の一角を指さし、たった今空いた席を皆に教える。
しかし……。
「でも、お兄ちゃん。アレって2人席だよ? 私達5人いるから、皆は座れないよ?」
美佳が指摘する様に、空いたのは2人掛けの席で皆で座る事は出来ない。その為、他にも空席待ちをしている探索者達も、人数の関係で遠巻きに空席を眺めているだけだった。
まぁ、疲れている時に椅子に座れる奴と座れない奴が出たら、小さな問題でも諍いが起きる可能性があるからな。連携を重視する探索者チームなら、変な諍いを避ける為にも遠慮するか。
「取り敢えず、美佳と沙織ちゃんが座れれば良いんじゃないか。2人とも、結構疲れているみたいだしさ。良いよね裕二、柊さん?」
「ああ、俺は別に構わないぞ」
「私も良いわよ」
「と、言う訳だ。さっ、他の奴に席を取られる前に行こう」
俺達への遠慮から渋る美佳と沙織ちゃんの背中を押しながら、俺達は空席へ移動する。肉体的な疲労の具合で言えば俺達、ほぼ消耗していないのと同じだから美佳と沙織ちゃんが遠慮する必要は無いんだけどな。まぁ、その事を知らないから遠慮するだろうけどさ。
そして空席に到着した俺達は、未だ渋る美佳と沙織ちゃんを強引に席に座らせた。
「受付順が来たら起こすから、2人とも仮眠してて良いぞ」
「えっ、でも……」
「少しでも寝ておけ、その方が後々楽になるぞ」
「う、うん」
俺がそう言うと気が抜けたのか、暫くすると美佳と沙織ちゃんは互いに肩を寄せ合い小さな寝息を立てながら眠り始めた。
「やっぱり、かなり疲れていたみたいだな」
「そうだな」
「じゃぁ、私はジュースを買いに行ってくるから、2人はその間、美佳ちゃんと沙織ちゃんの事お願いね?」
「了解、任せてよ」
そう言って、柊さんは自販機コーナーへと歩いて行った。その間、俺と裕二は眠る美佳と沙織ちゃんが見える壁際の位置へと移動する。流石に通路上にいたら、他の人の迷惑になるからな。
そしてジュースを買って戻って来た柊さんを交え、反省会の続きをしながら時間を潰した。
『整理番号札235番をお持ちの方、受付窓口までお越し下さい』
待つ事30分。電光掲示板に俺達の待ち受け番号が点灯し、機械音声の音声案内が響いた。
「ん? ああ、漸く順番が回ってきたみたいだな」
「じゃぁ、2人を起こさないとな」
「そうね」
そう言って柊さんは、肩を寄せ合い椅子で寝ている美佳と沙織ちゃんに近付き声を掛ける。
「美佳ちゃん、沙織ちゃん。順番が回ってきたわよ、起きて」
「「う、ううん……」」
「ほら、早く起きないと順番が飛ばされちゃうわよ?」
柊さんが肩を揺すりながら声を掛けるが、美佳と沙織ちゃんは中々目を覚まさない。これは、かなり深く寝入ってるな。
そして暫く3人の攻防を眺めていると、2度目の音声案内が鳴り響く。
「ああ、もう……。九重君、広瀬君、悪いんだけど、先に行って手続きを始めておいてくれないかしら? このままだと、私達の順番を飛ばされちゃいそうだし」
「分かった。じゃぁ、先に行ってるよ」
「2人を頼むね、柊さん」
「ええ、直ぐに起こして行くわ」
俺と裕二は美佳と沙織ちゃんを起こそうと格闘する柊さんを置いて、番号札を持ち買取受け付けカウンターへと足を進めた。
「すみません、遅くなりました」
「いいえ、構いませんよ。で、本日はどう言った御用件でしょうか?」
「ドロップアイテムの買取をお願いします」
軽く頭を下げつつ受付に向かうと、若干苛立ってそうな雰囲気を纏った営業スマイルを浮かべた窓口係員の人が応対してくれた。
「では先ず、探索者カードの掲示をお願いします」
「はい」
「お預かりします」
俺は懐から探索者カード取り出し、受付係員の人に差し出す。受付係員の人は受け取った探索者カードを素早く機械に通し、身元確認を行う。
「はい、結構です。では、買取品の提出をお願いします」
返却された探索者カードを受け取りながら、裕二が持っていたドロップアイテムを入れた袋をカウンターの上に置く。すると、今回は結構なドロップアイテムを取得したので、結構重々しい音が響いた。
「結構数があるみたいですね、袋ごとお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では買取査定を行いますので、此方の番号札をお持ちになってお待ち下さい」
「はい」
差し出された番号札を受け取り、俺と裕二は未だ来ない3人が待つ待合室の椅子へと戻った。
元いた椅子に戻ると、美佳と沙織ちゃんが眠そうな表情を浮かべながらペットボトルのスポーツドリンクを飲んでいた。アレは確か、柊さんが自分の飲む物と一緒に買ってきたやつだったな。
ユックリ3人に近付くと、俺達が戻ってきた事に気づいたので軽く片手を上げながら声を掛ける。
「おはよう。取り敢えず、買取手続きはしてきたよ」
「ありがとう、2人とも。ごめんなさいね、窓口まで行けなくて」
「別に良いよ。美佳と沙織ちゃんの面倒を見ていてくれてありがとうね、柊さん」
俺は申し訳なさそうな表情を浮かべる柊さんに、別に気にするなと言った口調で答える。
すると、眠そうな表情を浮かべていた美佳と沙織ちゃんが頭を下げた。
「ごめんなさい」
「すみません」
「2人も気にしなくて良いよ。直ぐに起きられなかったって言う事は、それだけ疲れていたって事だからね。休める時は休んでおいてよ。なっ、裕二?」
「そうだな。アレだけ直ぐに眠れたって事は、それだけ体が睡眠を必要としていたって事だからな」
俺と裕二は頭を下げる美佳と沙織ちゃんにも、気にするなと伝えておく。すると若干バツが悪そうな表情を浮かべながら、美佳と沙織ちゃんは下げていた頭を上げた。
そして……。
「まぁそれより、ほら。お前が持っておけよ」
俺は先程受付係員の人から預かった、査定待ちの番号札を美佳に手渡しておく。
「今回は査定して貰う数が多いから、少し時間が掛かると思う。その間に、その眠そうな目を覚ましておけよ?」
「……うん。ありがとう」
お礼の言葉を口にしながら、美佳は俺が差し出した番号札を受け取る。
そして待つ事、10分程。査定が終了し呼ばれたので、再び俺達は窓口へと向かった。
「お待たせしました、此方が今回の査定明細になります。ご確認下さい」
「「はい!」」
美佳と沙織ちゃんは、受付係の人から差し出された明細に目を通していく。
そして2人の視線が買い取り査定合計額の欄に到達した時、一瞬肩を震わせた後に驚愕の表情を貼り付けた顔を俺達に向けてきた。
「お、お兄ちゃん……これって」
「こ、これって……ほ、本当なんですか?」
「ん? どれどれ……」
俺達は美佳と沙織ちゃんが持つ明細を覗き込み、2人が何に驚いているのか理解した。
買取査定額合計、73万7350円か……。低階層のドロップ品の割に中々良い額だ。ヤッパリ数が有ると、それなりの買取額にいくな。
「今回は結構、頑張ったな」
「えっ!? 言う事、それだけ!?」
「ん? ああ、まぁ大体こんな物だろう。数が多かったとは言え、買い取って貰ったのは低階層のドロップ品が主体だからな」
「「ええっ……」」
俺達が買取合計額の数字を確認しても平然と流す態度を見て、美佳と沙織ちゃんは信じられない物を見る様な眼差しで俺達を見てきた。と、言ってもな……。俺達だけでダンジョンに潜る時は大体、もう一桁上の買取額がザラだ。そうなると、この位なら特に驚く様な買取額では無い。
そして、そんな遣り取りを俺達がしていると、受付係の人が軽く咳払いをしてから話し掛けてくる。
「ええっ、それと。此方の品はマジックアイテムの様なので、査定額の通知書類は後日郵送にてお知らせいたします。御手数ですが買取はお預かり書と査定通知書類をお持ちになり、お近くの協会で手続きを行って下さい」
「「は、はい」」
「では買取を御希望の場合は、此方の欄に買取確認のサインをお願いします」
美佳と沙織ちゃんは買取査定書にサインを入れ、受付係の人に返却した。
「ありがとうございます。それでは買取額の振込口座は……九重様の口座でよろしいでしょうか?」
どうやら先程俺の探索者カードを使用して手続きしたので、振込先も俺の口座と思っている様だ。
「あっ、すみません。買取金の振り込みは、この2人の口座に2分割して振り込んで下さい」
「分かりました。では、お二方の探索者カードを御提出下さい」
「「は、はい!」」
美佳と沙織ちゃんが少し慌てた様子でバッグを探り、見つけ出した探索者カードを受付係の人に提出した。2人とも、そんなに慌てなくても大丈夫だよ……。
「確認しました、ありがとうございます。では、お二人の口座に分割し振り込ませて頂きます。それと、査定通知書類の郵送先は……」
「あっ、こっちの子の方にお願いします」
「分かりました。では査定通知書類の方は、岸田様の方にお送りさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
俺達は返却された美佳と沙織ちゃんの探索者カードと、提出したマジックアイテムの預かり書を受取ってから買取カウンターを後にする。ふぅ、やっと終わった。
二人は多少寝坊しましたが、無事に換金出来ました。マジックアイテムであるナイフの査定結果は、後日ですけどね。




