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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第10章 注目株って響きは良いけど
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第211話 結構、図太いんだね……

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 俺は周囲を警戒しつつ、美佳の様子を窺った。大分良くなってきた様だが、未だ美佳の顔色は若干悪い。ヤッパリ、初めてのゴブリン討伐は大分堪えたらしい。

 あの様子だと、自分の中で折り合いを付けられる様になるには、まだまだ時間が掛かりそうだな。

 

「大丈夫、美佳ちゃん?」

「は、はい。さっきまでよりは大分……」

「そう。でも、あまり無理はしないようにね? キツかったら、皆に言って休憩を取るから」

「ありがとうございます……」


 柊さんは美佳の肩に軽く手を置きながら、優しげな口調で気遣いの言葉を掛けている。美佳も若干覇気が無いものの、口調自体は確りした様子で柊さんに返事を返していた。

 会話を聞く限り大丈夫そうだけど、暫くは様子見だな。


「あの……お兄さん。ちょっと良いですか?」

「ん? 如何したの、沙織ちゃん?」


 手にした槍を軽く握りしめ緊張した面持ちの沙織ちゃんが、直ぐ前を歩く俺に話しかけてきた。

 どうしたんだろう?


「美佳ちゃん、大丈夫ですかね?」

「うーん、中々難しい質問だね。一応柊さんにフォローして貰っているけど、最終的に乗り越えられるかどうかは美佳次第だからね」

「……」

「でも、まぁ……多分大丈夫だろう。美佳なら、時間は掛かっても乗り越えられるはずさ」

「……本当ですか?」

「多分、ね」


 俺が少々自信無さ気に曖昧な口調で大丈夫だと誤魔化す様に伝えると、沙織ちゃんが疑わしげな眼差しを俺に向けてきた。いやぁ、本当だからね?

 なので俺は、大丈夫だと言った根拠を説明する事にした。


「人型モンスターとの戦いでリタイアする探索者の多くは大体、戦闘終了直後に急性ストレスで胃の内容物をもどす傾向が多いらしい」

「……えっ?」

「他にも、軽い錯乱状態に陥って仲間の制止を振り切って暴れたり、罪悪感から自分の行いを責め自傷行為に走ったりする輩も居たりするらしいんだ」

「えっ、えっ……それ本当ですか?」

「ああ。美佳は今の所気落ちこそしているが、それらに類する行動は取っていない様子だからな。だから俺も、多分大丈夫だろうって言っているんだよ」


 俺の説明を聞き沙織ちゃんは、神妙な表情を浮かべながら柊さんに寄り添われながら歩いている美佳に視線を向けていた。

 だけど……。


「沙織ちゃん。美佳を心配してくれるのは嬉しいんだけど、周囲の警戒は緩めない様にね。どこからモンスターが出てくるか分からないからさ」

「あっ、はい! すみません!」


 美佳の様子を心配するあまり、周辺への警戒を緩めた沙織ちゃんに俺は注意をする。一応、俺と裕二で前後を固めながら敵襲や罠を警戒しているとは言え、ダンジョン内で警戒を緩めて良い理由には成らないからな。

 そして、俺に注意された沙織ちゃんは謝罪の言葉を口にしながら、鋭い眼差しで周辺警戒を再開した。







 敵を探し歩き回る事、15分。途中、非人型モンスターとの戦闘を数回熟した末に漸く見付けた。美佳が倒したのと同じ人型モンスター、ゴブリンだ。

 そして時を同じくして、ゴブリンも俺達の存在に気付き威嚇の咆哮を上げた。


「じゃぁ頑張って、沙織ちゃん」

「……はい!」


 俺がそう促すと、小さく深呼吸をしてから沙織ちゃんが一歩前に出る。

 そして、横を通り抜ける際、沙織ちゃんの横顔を確認すると、顔に不安と緊張の色が色濃く出ていた。ただ……。


「……沙織ちゃん?」 


 俺は思わず、小声で沙織ちゃんの名前を漏らした。何故なら、一瞬だけ見えた沙織ちゃんの瞳の中に昏い喜びの光が見えた気がしたからだ。うーん、アレって前何処かで見た事がある様な気が……。 

 そんな疑問を俺が思い浮かべている内に、沙織ちゃんは慎重な足取りでゴブリンとの間合いを詰めていく。


「ギャァ! ギャァ!」

「……」

「ギャァ!」

「……」

「……」

「「……」」


 威嚇の咆哮を上げていたゴブリンは、自分との距離を詰めてくる沙織ちゃんを敵として認識したらしい。威嚇の咆哮をやめ、右手に持っていた棍棒を体の横に引いて振りかぶりながら腰を少し落とし、何時でも飛び掛かれる体勢を取る。沙織ちゃんが棍棒の間合いに入ったら、飛び掛かって仕掛ける待ちの体勢らしい。

 先程美佳が相手をした、先制攻撃スタイルのゴブリンとは対照的な戦闘スタイルだな。


「ふぅぅ……」


 沙織ちゃんはゴブリンの持つ棍棒の間合いの外で歩みを止め、腰を落としながら穂先をゴブリンに向けた槍を引く。その姿は、矢を放つ前の張り詰めた弓の様だ。

 そして互いの視線が一瞬混じり合った後、ゴブリンと沙織ちゃんは同時に踏み込みながら攻撃を繰り出した。


「はぁっ!」

「ギッ!」


 先に攻撃が相手の体に当たりそうになったのは、リーチが長い沙織ちゃんの槍だ。真っ直ぐ突き出された沙織ちゃんの槍はゴブリンの顔に向かって進んだが、躊躇したからなのか狙いが中心線上から外れていたらしく、ゴブリンが顔を傾けた事で穂先が頬を軽く切り裂くだけに終わり、ゴブリンを仕留めるには至らない。その為、一撃で仕留めるつもりだった攻撃が外れた事に沙織ちゃんは驚き、一瞬動きを硬直させてしまった。

 そしてゴブリンはその隙を見逃さず、体の横に構えていた棍棒を沙織ちゃんの脇腹目掛けて水平に振り抜く。


「ギッ!」 

「!?」


 ゴブリンは自分の攻撃が当たる事を確信し小さく喜びの声を漏らし、沙織ちゃんは自分の脇腹目掛けて迫り来る棍棒に一瞬目を見開く。俺は咄嗟にゴブリンの攻撃から沙織ちゃんを守ろうと動こうとしたが、沙織ちゃんが起こした次の行動で手出しするのを辞めた。

  

「っ!」

「!?」


 沙織ちゃんは咄嗟にジャンプし、脇腹に迫り来る棍棒を躱して見せたのだ。逆に、ゴブリンは渾身の力を込めて振っていたのか、沙織ちゃんと言う目標を見失い威力優先で大振りした棍棒に振り回され大きく体勢を崩していた。

 そして前宙気味にジャンプした沙織ちゃんは上下が逆転した体勢のまま体を半分捻りながら素早く槍を引き戻し再攻撃の準備を整え、空振りで大きく体勢を崩したゴブリン目掛けて……。


「やっ!」


 ゴブリンが無防備に晒す後頭部目掛けて、沙織ちゃんは槍を繰り出した。繰り出された槍は今度こそ狙い違わずゴブリンの後頭部に命中、穂先がゴブリンの頭部を貫通する。

 頭部を貫かれたゴブリンは即死したのか、膝から力が抜け空振りの反動もあり錐揉みする様に崩れ落ちていく。


「っと」


 沙織ちゃんはゴブリンが錐揉みしながら崩れ落ち始めた事を察し、瞬時に引き抜く事が困難な槍から手を離し着地の体勢を整える。武器に固執し無様な着地を決め隙を晒すより、武器を手放し着地後も直ぐに対応出来る事を選んだらしい。

 多数を相手にしているのなら武器を手放すと言う選択は余り褒められた物では無いが、1対1で相手に致命傷を与えた後ならその選択も悪くないだろう。


「……」


 槍を手放した事で綺麗に着地を決めた沙織ちゃんは、素早く予備武器の短刀を構え血を流し地面に倒れているゴブリンからの追撃に備え油断なく警戒をする。

 そして、暫く警戒し睨み合いが続いているとゴブリンの体が粒子化し始めた。 


「……ふぅぅっ」

「お疲れ様、沙織ちゃん」


 ゴブリンの体が粒子化し始めた事を確認し、沙織ちゃんは漸く警戒を解いた。最後まで油断しない、良い心構えだ。

 俺は粒子化し始めたゴブリンの脇を抜け、沙織ちゃんに歩み寄りながら労いの言葉を掛ける。


「槍を外した時はヒヤッとしたけど、良く冷静に対処出来たね?」 

「れ、冷静じゃありませんでしたよ。攻撃を躊躇したせいで、最初は外してしまいましたし……」

「それでも、怪我も無く初めてのゴブリンを倒せたのは上出来だよ」

「そ、そうですか?」


 俺が褒めると、沙織ちゃんは少し照れ臭そうに顔を逸らした。


「それはそうと、沙織ちゃん。気分はどう? 吐き気とか無いかな?」

「……大丈夫、ですね。特にこれと言って、気分が悪い事はありません」

「そう……」


 沙織ちゃんの顔をよくよく観察しても、無理をしている様には見えない。どちらかと言うと、若干高揚している様にも見える。どうやら沙織ちゃんは言い方はアレだけど、だいぶ図太いタチらしい。

 美佳は未だに気分が悪そうな表情を浮かべているのに、たった今戦い終えた沙織ちゃんは元気な物だ。 


「まぁ、大丈夫ならそれに越した事は無いから、良いか」


 俺はそう呟いた後、沙織ちゃんが倒したゴブリンが消えた場所に視線を移す。粒子化は既に終わっており、ゴブリンが倒れていた場所には沙織ちゃんの槍とナイフが落ちていた。

 どうやら、あのナイフが今回ドロップ品の様だ。


「今回はドロップ品があったみたいだよ、沙織ちゃん」

「えっ? ……あっ、本当だ!」


 ドロップ品のナイフを見付けた沙織ちゃんは、嬉し気に声を上げる。美佳がゴブリンを倒した時は、何も出無かったのにな。沙織ちゃんは自分の槍を回収し、ドロップ品のナイフを拾い上げる。

 あのナイフ……解体ナイフだな。


「これって、只のナイフ……なんですかね?」

「協会に鑑定して貰わないと、ドロップ品の詳細は分からないな。只のナイフなのか、特殊能力付きのマジックアイテムなのか……」

「えっ!?これ、マジックアイテムかもしれないんですか!?」

「外見だけで言うと、解体能力が付いたナイフに似ているから、可能性はあるよ」

「やった!」


 俺が今回のドロップ品がマジックアイテムの可能性があると教えると、沙織ちゃんは諸手を挙げ喜びの声を上げた。って、危ないな! 嬉しいってのは分かるけど、近くに人が居る時にナイフを持ったまま暴れないでくれよ……。

 ああ因みに鑑定した結果、今回ドロップしたナイフは解体ナイフで間違いない。結構流通している数が多い種類のマジックアイテムだけど、マジックアイテムはマジックアイテム。そこそこの値段で買い取って貰えるだろう。


「おおい、2人とも! 目的の戦闘も出来たんだから、そろそろ上に戻らないか?」


 俺と沙織ちゃんがドロップアイテムについて色々と話をしていると、隊列の後方で警戒を続けている裕二が上に戻ろうと声を掛けてきた。

 

「ああ、悪い! そうだな! 目的も達したんだし、今日はそろそろ上に戻ろう」


 俺は皆にも聞こえる様に、大きな声で裕二に返事を返す。沙織ちゃんは大丈夫みたいだけど、美佳は未だ調子が悪い様だから長居は無用だな。


「と言う訳だから、沙織ちゃん。上に帰ろうと思うけど、槍の方は大丈夫かな? ゴブリンに刺さったままだったし、不具合があったりはしないかな?」

「えっ、あっ……ちょっと待って下さい! 確認します!」

 

 そう言って沙織ちゃんは、回収した槍を穂先から石突まで隈無く目を走らせていく。レベル強化補正や元々丈夫に出来ているとは言え、ゴブリンに刺さったまま結構激しく地面に叩き付けられていたからな。不具合が出ていないか、武器の点検は必須だろう。

 そして1分程掛けてチェックを行った結果、沙織ちゃんは心底安心した様な笑みを浮かべながら異常なしと報告してくる。只でさえ金欠の沙織ちゃん達にとって、武器の修理費の捻出など死活問題だろうからな。  


「大丈夫です。血や脂の汚れ以外は問題ありません」

「そう、良かった。じゃぁ、汚れを落としたら出発しようか?」

「はい!」


 沙織ちゃんはバックパックからメンテナンス道具を取り出し、ゴブリンの血や脂で汚れた槍を拭き上げていく。本当なら俺達の洗浄スキルを使って汚れを落とすのが手っ取り早いのだろうが、美佳達が自分達の持っていないスキルに頼り切りになって、武器の簡単な手入れも出来なくなって仕舞っては拙いからな。

 帰還前や返り血を全身に浴びるとかでも無い限り、自分達が洗浄スキルを習得するまでは自力で武器の簡易メンテ位はして貰おう。


「出来ました!」

「よし、じゃぁ出発しようか。皆、上に戻ろう!」


 沙織ちゃんの出発準備が出来た様なので、俺は他の3人に帰路につこうと告げた。







 十時間近くぶりに、俺達はダンジョンの外へ出た。

 

「ふぅ、やっと出られた」

「結構、帰り道でもモンスターと戦ったな」

「そうね。寧ろ行きより、帰りの方が戦った数は多かったんじゃ無いかしら?」

「「……」」


 俺、裕二、柊さんの3人は軽口を叩きながら軽い足取りで出口のゲートを潜ったが、俺達の後ろに付いてきている美佳と沙織ちゃんは足取りこそ確りしているが疲労困憊と言った様子だ。

 まぁ小まめに休憩を挟んでいたとは言え、連戦に次ぐ連戦だったからな。ダンジョンから出た安心感で、疲労が一気に出たんだろう。

 

「2人とも、大丈夫か?」

「……うん、何とか」

「……大丈夫です」


 口では2人とも大丈夫とは言っているが、その表情には疲れの色が色濃く出ている。もう少し早めに、ダンジョン探索を切り上げてた方が良かったかな?

 そして、俺達は衛生エリアを抜け更衣室の前に移動する。


「まぁ、何にしてもお疲れ様。後は着替えて、今日の成果を換金をするだけだからさ。もう少し頑張ってよ」

「うん」

「はい」


 換金と聞き、美佳と沙織ちゃんは若干元気を取り戻す。今回の探索では結構ドロップ品を得たので、換金額はそれなりに期待出来るだろう。

 

「じゃぁ柊さん、2人の事を頼むね」

「ええ、任せて」


 そう言って、柊さんは美佳と沙織ちゃんを連れ更衣室の中へと入っていった。















 

美佳ちゃんに比べ、沙織ちゃんは大分精神的に強かったみたいです。

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― 新着の感想 ―
精神的っていうか、狂気度の違いというか…… 師匠はこの辺り見抜けなかったのかな 1年ズが何かしてきたら真っ先に首狩り族になりそうな子だぞ
[気になる点] この世界の常識は分かりませんが、レベルアップを目的にダンジョンに入る場合でも、受付で自身の鑑定を行わないことが普通なのでしょうか? 例えるならダイエットを始める人が体重計に乗らないこと…
[一言] 妖刀があったら真っ先に憑りつかれるタイプの笑顔をしてて、今後のダンジョン探索にわくわくしてきますね(_・
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