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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第10章 注目株って響きは良いけど
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第208話 ダンジョンアタック開始前の面倒事 

お気に入り17520超、PV19590000超、ジャンル別日刊48位、応援ありがとうございます。






 ダンジョン前のロータリーに到着したシャトルバスから降りた俺達は、ダンジョンアタック前の探索者で賑わう広場を眺めながらノンビリと受付へと移動する。今日は泊まりなので、帰宅の移動時間を気にして探索時間を短くする必要が無いからな。

 そしてノンビリ歩いていると、途中で普段に比べ高校生っぽい若者の比率が多い事に気が付いた。

 

「何か……何時もより若い連中が多いな」

「そうだな。明日、学校が休みの所が多いのか?」

「そうかもしれないわね。ウチの学校みたいに、昨日が体育祭だったのかもしれないわよ」

「俺達みたいに、明日休みだからダンジョンアタックを!って連中が多いって事か……」


 と、俺達が若者比率増加について話をしていると、美佳と沙織ちゃんが大きく頷きながら会話に参加してくる。


「うんうん、そうだよね。次の日が学校だと、ダンジョンアタックの疲れが出て午前中の授業とか一寸辛いもん。ね、沙織ちゃん?」

「うん。特に理系の授業が辛いかな、眠くなるし……」

「そうそう。何で今日この授業があるんだろう……って何度も思ったよ」


 美佳達の愚痴を聞き、俺達はダンジョンが民間向けに解放された初めの頃の教室の様子を思い出す。ああ、そう言えば良く、休み明けの授業中に居眠りしている奴が居て怒られていたな……と。アレの原因は、ダンジョンアタックの疲れが出ていたからか。自分達がダンジョンアタックで肉体的な疲れを感じた例が余りなかったので、その辺の事を考慮し忘れていた。高レベルだと、疲労回復も早まるのかもしれないな。

 気まずい表情を浮かべながら俺達3人は顔を付き合わせ、愚痴を漏らし合う美佳と沙織ちゃんに聞こえない様に小声で相談をする。


「……もう少し、2人の休憩時間を増やした方が良いかな?」

「それもあるだろうけど、どちらかと言ったらアタック後のケアじゃ無いか?」

「そうね。クールダウンのストレッチ何かが、不足していたのかもしれないわね」

「マッサージ機でも買って家に置いておくかな……。別に美佳専用じゃ無くても、家族皆で使えるし……」


 そして2人に気付かれない様に話し合った取り敢えずの結論としては、就寝などの休息による回復が蓄積した疲労を上回る様になるレベルまでは、探索中の休み時間を増やし探索終了後に十分なケアを行うという物だ。レベル20ぐらいまで上げれば、回復と疲労は逆転するかな……? まぁ、やってみれば分かるか。

 そしてそんな話し合いをしていたら、何時の間にか俺達は受付がある倉庫の前に到着していた。


「まぁ取り敢えず、先に受付を済ませよう。何時までもココに佇んでいても、他の人の迷惑だろうしね」


 話し合いに意識が傾いていたので少々倉庫前で立ち止まったが、後ろから他の利用者も近付いてきていたので俺達は倉庫の中に足早に入っていく。








 倉庫に入った俺達は、少々長く伸びる受付の列の最後尾に並んだ。まぁ、長いと言っても20人ぐらいしか並んでないんだけどな。少し前に比べたら、短い短い。

 そして15分程で、俺達に受付の順番が回ってきた。


「お願いします」

「はい。お預かりします」


 預かっておいた全員分の探索者カードを提出し、何時もの様に受付を行う。だがここで、何時もと少し違う事が起きる。

 何かに気が付いた受付の係員さんが受付手続きを行う手を止め、俺達に話し掛けてきた。


「あっ、えっと、九重様、広瀬様、柊様……で、よろしいでしょうか?」

「えっ? あっ、はい。そうですけど……何か?」

「申し訳ありません。実は、御三方宛ての伝言を御預かりしています」

「伝言……ですか? 何方からでしょうか?」

「伝言書を御渡ししますので、差出人と内容の方は其方を御覧下さい」

「……分かりました」


 面倒だな。まぁ所謂、個人情報の保護措置って事なんだろうけど。

 そして受付係の人は一枚の伝言書をプリントアウトし、他人から中身が見えない様に三つ折りにして俺達に手渡してくる。


「どうぞ、此方です。それと御手数ですが、此方に御受け取りのサインを……」

「あっ、はい」


 受付係の人が差し出してきたタブレット端末に受け取りのサインを記入し、代わりに提出していた探索者カードと人数分のロッカーキーを受け取る。


「では、お気を付けて」

「はい。ありがとうございました」


 多少時間が掛かったが、無事受付を終え俺達は一先ずロビーの人気が無い壁際へ移動した。受け取った伝言書の内容を確認する為だ。

 そして俺は壁に背中をつけ、皆はそんな俺を覆い隠す様に囲む。


「じゃぁ、開けてみるぞ」

「おう。やってくれ」

「それにしても、私達に伝言だなんて一体何かしら?」

「一寸、受け渡し方法が仰々しかったよね」

「それだけ、重要な事が書かれているんじゃ無いかな?」

「まぁまぁ、取り敢えず読んでみるぞ」


 俺は折りたたまれた手紙を開き、伝言書の内容に目を通す。


「えっと……? 伝言の差出人は、株式会社カブラギ特殊流通物産? ……聞いた事無い会社だな。皆は知ってるか?」

「聞いた事無いな……」

「私も。それより特殊流通物産って何を扱ってる会社よ……って言いたくなるネーミングね」

「多分、ダンジョン産の品物を扱ってる会社じゃないのかな?」

「あっ私、その会社の名前聞いた事あります」

「「「「えっ? 本当?」」」」


 名前を知っていると答えた沙織ちゃんに、思わず俺達の視線が集まる。


「はい。確か新聞か雑誌か何かの広告に、その名前が出ていた様な気がします」

「そっか。と言う事は取り敢えず、存在しない架空の会社って訳じゃ無いって事だな……」


 伝言を預かる心当たりは無いので、偽名を名乗った悪戯かと思ったが、その可能性は低くなったな。


「まぁ、大樹。取り敢えず、伝言の内容を確認してくれ」

「そうだな。何々……?」


 伝言書を不審に思い躊躇していると、裕二に早く読む様に促された。まぁ確かに、伝言内容を確認しないと話が始まらないからな。俺は皆が見守る中、無言で伝言書に目を通していく。

 そして……。


「……」


 最後まで伝言を読み終えた俺は、伝言書を折り畳み右手で眉間を揉む。

 伝言内容は、予想外と言えば予想外だが、ある意味予測出来ていた内容だった。


「……で? 伝言の内容は、一体何だったんだ?」

「……ほら」

「ん?」


 俺は裕二に伝言書を渡しながら、読み取った伝言書の内容を皆に教える。


「言っておくけど、大きな声を上げるなよ? 伝言書の内容は簡単に言うと、俺達3人へのスカウトのお誘いだ」

「「「スカウト?」」」

「ああ。俺達がダンジョンから需要が高いアイテムをコンスタントに回収してくるから、是非ウチの会社でその力を発揮して欲しい、ってさ」


 伝言の内容を教えると、事前に注意していたので大きな声こそ上げていないが、驚愕した表情を顔に貼り付けていた。

 まぁ、そう言う反応になるよな。


「それにしても、需要が高いアイテム?ですか……」

「簡単に言うと、20階層以降で採取出来るアイテムの事だよ。例えばホラ、皆大好きミノ肉とかな。伝言書を読む限り、今の所、少数でその階層まで潜れて需要が高いアイテムを一定数回収出来る探索者チームの数はそんなに多くないみたいだよ」

「成る程。だから、お兄さん達にスカウト話を?」

「そうみたい」


 沙織ちゃんの質問に答えていると、裕二が読み終えた伝言書を柊さんに手渡しながら話に参加してくる。


「にしても、コレに書かれているスカウト条件……良いのか悪いのか判断に困るよな」

「だよな。俺達以外なら、良い条件なんだろうけど……」

「「正直、微妙だよな」」


 俺と裕二は互いに微妙にバツの悪い表情を浮かべながら、困った様に頬を掻く。


「確かに2人が言う様に、微妙な条件ね」


 同じく、伝言書に書いてあるスカウト条件を流し読みしたらしい柊さんも伝言書を俺に返しながら、俺達と同じ様に微妙な表情を浮かべながら同意する。

 すると、俺達のそんな反応に興味が湧いたらしい美佳が、伝言書を見せてくれとせがんできた。


「ねぁ、お兄ちゃん? 微妙な顔してるけど、何て書いてあるの? 私達にも見せてよ」

「……まぁ良いけど、大きな声を出すなよ?」

「うん! 分かってる」

「……ほら」


 美佳に伝言書を渡しながら、俺は二人にスカウト話に対する自分の意思を伝える。


「俺としては、この話は断ろうと思うけど……2人はどうする?」


 色々面倒な身の上だからな。俺としては余り、こう言ったスカウト話は乗り気で無い。

 

「俺も、断るかな……」

「そうね、私も……」

「そっか……」


 どうやら二人も、俺と同じくスカウトは断る事にしたらしい。まぁ、そうだよな。

 そして、どう返事を返すかと言う疑問を乗せた視線を裕二と柊さんに送った。すると、一瞬悩んだ様に目を閉じた裕二がハッキリと答えを口にする。


「詳細を聞く気があるのなら連絡をくれ、と書いてあったからな。別に話を聞く気が無いなら、無視しても良いんじゃ無いか?」

「……そうね。変に連絡を取ったりして、それを切っ掛けに……とかなったら面倒だものね。返事はしないでおきましょう」

「了解。まぁ一応伝言の受け取りサインはしてあるし、返事をしないって事はスカウトを断ったって受け取って貰えるだろうさ……多分」


 取り敢えず、俺達3人の中ではスカウト話に関する結論は出た。

 しかし……。


「ええっ!? お兄ちゃん達、この話断るの!?」

「コレ、結構良いスカウト条件だと思いますよ!?」


 俺達が断ると決断を下した事に、スカウト条件に目を通していた美佳と沙織ちゃんが小声ながらも驚きの声を上げた。まぁ、新人探索者や一般人目線からしたら、そう言う反応に成るか。

 俺は美佳の手の中の伝言書を回収しつつ、二人に表向きの断る理由を教える。 


「まぁな。確かに好待遇に見えるけど、正直言って余り魅力的な話じゃ無いんだよ。コレに挙げられているスカウト条件って、俺達にとっては余りメリットにならないんだ。例えば報酬にしたって、ココに書かれているくらいの額なら普通に稼げるしな」

「武具の貸し出しにしたって、今更装備品を変更して態々性能の低い物を使うのもメリットが無いな」

「ダンジョン内に泊まり掛けで行う遠征道具の費用は会社で持つって言われても、私達の場合……日帰りで行き来出来ているから今の所いらないものね」

「「……」」


 俺達がスカウトを断った理由を教えると、美佳と沙織ちゃんは少々引き攣った表情を浮かべながら一歩身を引いた。いや、そこで引かないでくれないかな……。

 何にしても、俺達3人にとって表向きの理由だけでもスカウトを受けるメリットがほぼ無いというのが現状だ。あっ、もしかしたら書類関係は少しは減らせるかも?


「まぁそう言う訳で、このスカウト話は断るって結論に至ったって訳だ」

「そ、そうなんだ……」

「な、成る程……」


 微妙に納得がいっていない様な表情を浮かべているが、どうやら2人とも理解はしてくれたらしい。まぁ、これ以上騒がれないだけマシか。

 さて、結論も出た事だし、この話はここら辺で終わりにするとしよう。


「じゃぁ、そろそろ着替えに行こうか? 何時までもこの話に掛かりっ切りになっていたら、日が暮れるしな」

「そうだな。これ以上結論が出た話題をネタに、時間を浪費するのはやめておこう」

「そうね。ほら、二人とも。何時までも固まっていないで、着替えに行きましょう?」

「「あっ、はい……」」


 そろそろ着替えに行こうと促すと、柊さんが話の衝撃で固まった美佳と沙織ちゃんの手を引き更衣室へと入っていく。そして俺と裕二は、そんな美佳と沙織ちゃんの姿に苦笑を漏らした後、自分達も更衣室へと入っていった。








 着替えとストレッチ体操等の準備を済ませた俺達は、場所を移動しダンジョンに入るゲート前の行列に並んでいた。まぁこの列は何時もの如く、100人近い人が並んでいるので入場するには今暫く時間が掛かりそうだ。

 なので、その待ち時間の間に今日のダンジョンアタックの予定を確認する。


「今日の予定としては、7階層の手前まで潜り、美佳と沙織ちゃんにモンスターとの戦闘経験を積ませる事で良いよな?」

「ああ、それで良いと思うぞ」

「ええ、問題無いわ」


 裕二と柊さんの同意を得た後、俺は軽く頷きながら美佳と沙織ちゃんに視線を向ける。


「と、言う訳だ二人とも。二人は出来るだけ対モンスター戦を熟して、戦闘経験とレベルを上げる様に」

「うん!」

「分かりました!」

「そして最後、今日の締めくくりとして7階層に降り、一度だけ人型モンスターとの戦闘を行おうと思う。それまでに、心積もりをしておく様に」


 俺がそう言うと、美佳と沙織ちゃんの表情が若干強ばった。二人とも、フルイの事を知っている様だ。

 だが……。


「……二人とも。コレは探索者を続けていこうと思うのなら、誰もが何れは経験する事だ。コレを乗り越えられないのなら、探索者を辞めるか表層専門の探索者に成るしか無い」

「……そう、だね。うん、分かった」

「……分かりました」


 緊張で二人は押し黙って仕舞ったが、入場順番は容赦なく迫る。

 そして……。


「次の方どうぞ!」

「あっ、はい。今、行きます」


 事務的な手続きを終え、俺達は入場ゲートを潜った。


「じゃぁ、行くぞ」

「おう」

「ええ」

「……うん」

「……はい」


 俺達3人は普段通りに。そして美佳と沙織ちゃんは、緊張で若干身を固くしながらダンジョン探索を開始した。

 















主人公達にも、スカウトのお誘いが……。まぁ積極的に目立とうとはしていませんが、それなりコンスタントに稼いでいますからね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 協会は素材を入手した人の個人情報を保護してないのか? 高額な物もあるし危ないだろ
[気になる点] なぜ受付が民間企業のスカウト話を・・・? ダンジョンは公的機関が運営しているのでは無いのでしょうか。
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