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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第10章 注目株って響きは良いけど
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第206話 初めてのお泊まり遠征へ

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 枕元で鳴り響く目覚ましアラームを止め、目元を擦りながら上体を起こしベッドの上で背伸びをする。


「……朝か」


 カーテンの隙間から薄らと明るくなり始めていた空を眺めながら、俺は欠伸を噛み殺しながら眠たげな口調で声を漏らす。去年の今頃なら体育祭明けで、体の節々に筋肉痛の違和感を感じていたが……今年は全く感じない。

 まぁ今更、体育祭程度で筋肉痛なんかにはならないけどな。


「……起きるか」


 二度寝したいという誘惑を撥ね除けながら俺は名残惜しげにベッドから降り、換気の為に窓を開けてから部屋を出る。階段を降りる途中、下から朝食の香りが漂ってくるので母さんはもう起き出しているらしい。

 

「……おはよう」

「ああ、大樹? おはよう」


 リビングに入ると、ソファーに座ってTVニュースを見ていた母さんが返事を返してきた。


「早いわね、もう起きたの?」

「うん。今日明日と泊まりで出かけるから、忘れ物が無い様に荷物をチェックする時間を取ろうと思ってね」

「あらっ、昨日準備しなかったの?」

「したけど、急いで準備したから入れ忘れがあるかもしれないしね。ほら確認ってさ、準備した流れでやるより、暫く間を開けた方が見落としは少ないじゃない?」

「そうかもね……」


 俺が早起きした理由を説明すると、母さんは説明に納得した様な表情を浮かべた。

 荷造り直後のチェックって、入ってないのに入れたと思い込む事があるから確実性が低いんだよな……。


「じゃぁ俺、顔洗って部屋に戻るね」

「分かったわ。じゃぁ、忘れ物が無い様にね?」

「うん」

 

 母さんに返事を返しリビングを出て、洗面所で洗顔をしサッパリした俺は荷物チェックの為に部屋へと戻った。

  

「さて、さっさとチェックを済ませるか」


 今回持って行く荷物は何時もの探索者セットに加え、1泊2日分の着替えなどを入れた小さめのショルダーバッグだ。探索者セットを慣れた手付きでチェックした後、昨日急いで準備したお泊まりセットを確認していく。するとヤッパリ、チェック漏れの品が出て来た。

 と言っても、歯磨きセットなんだけどね。


「うーん、どうしよう? 途中のコンビニで買って行くか……まぁ別にホテルに備え付けの物を使っても良いんだろうけどさ」


 少し悩んだ後、俺はホテルに備え付けの物を使う事に決めた。途中、コンビニによって買うのも面倒だしね。

 そして10分程掛け、持って行く荷物のチェックを終えた。

 

「良し。チェック終了、っと。取り敢えず、歯磨きセット以外に漏れはないかな」


 チェックを終えた荷物を入り口の扉近くに寄せ、俺は部屋着から外出服に着替える。そして着替えを終えようとしていると、部屋の外から扉が開く音と足音が聞こえてきた。どうやら美佳も、起き出してきたらしい。

 さてと、じゃぁ下に降りて朝食を食べるか。 










 リビングに降りて見ると、美佳だけで無く父さんも起き出してきていた。


「おはよう、父さん、美佳」

「ん? ああ、おはよう」

「……おはよう」


 父さんは読んでいた新聞から視線を俺に向けながら、美佳は眠そうな眼差しと声で返事を返してくる。


「大樹、降りてきたのね。直ぐ朝食の用意をするから、座って待ってて」

「はぁい」

「それと美佳、貴方は顔を洗っていらっしゃい。凄い顔よ?」

「……うん」


 母さんの指示に従い、俺はソファーに美佳は洗面所へと移動する。

 そして俺がソファーに座ると、読んでいた新聞を俺に見える様に広げながら父さんが話しかけてきた。


「大樹、昨日はお疲れ様だったな。ほらここ、昨日の体育祭関連の記事が新聞に載ってるぞ」

「えっ、どこどこ?」


 一瞬、昨日の俺達の活躍?が新聞に載ったのかと動揺したが、父さんが広げた紙面に書かれていたのは昨日の急な通告に関する記事だった。紙面の片隅に数行の、小さな記事だったけど。

 

「えっと? 昨日開催された全国の高等学校体育祭で、文科省の急な実施種目制限通告に現場が混乱す……か。確かに、アレは混乱するよな。って、ん? 見学に赴いた保護者からは非難の声、文科省に抗議の電話が殺到……」

「いきなり半分以上の競技が中止になったからな。我が子が出場する競技を楽しみにして来校していた保護者からしたら、文句の一つでも言いたかったんだろう」

「それにしても抗議の電話って……行動力がある人が多いね」


 俺は記事を読み終えた新聞を父さんに押し戻し、前のめりになっていた体勢を直す。

 そして、新聞を押し戻された父さんは新聞を畳み俺に話しかけてくる。


「それにしても大樹、昨日の今日と忙しいな?」

「えっ? ああ、泊まり遠征の事?」

「ああ。今まで泊まり掛けでダンジョンに行った、って事が無かったからな。それにしても、急にどうしたんだ?」


 父さんは不思議そうな表情を浮かべながら、そう疑問を投げ掛けてくる。


「えっと……ちょっと訳があって早々に、美佳と沙織ちゃんに探索者として力を付けて貰おうかな……って」

「訳……な? もしかしてそれは、昨日の体育祭でお前達がハッチャケた事と関係があるのか?」

「ハッチャケって……」

「普段探索者としての力を誇示しないお前達が、昨日の体育祭に限ってあんな派手な演技をしたんだ。それなりの理由があるんじゃ無いか?とは考えるさ」

「……」


 留年生問題……後藤達の事を詳しく説明した事は無かったが、俺達が何かしらの問題を抱えている事は父さんも察していたらしい。

 そして、俺が何と言うかと押し黙って悩んでいると、父さんは小さく息を吐きながら苦笑を漏らした。

 

「まぁ、あまり無茶だけはするなよ? それと、何か相談したい事があったら何時でも相談しにこい、話を聞いてやる事くらいなら父さんにも出来るからさ」

「……うん。分かった」  


 俺は父さんの気遣いに内心で感謝しながら、言葉少なく頷き返事を返す。  

 そして暫く俺と父さんの間に沈黙が流れていると、リビングの扉が開き洗顔を終えた美佳が戻ってきた。


「おはよう!」


 先程の寝ぼけている様な挨拶とは違い、少し高揚している様な元気な声で美佳が挨拶をしてきた。


「おはよう、美佳」

「……何か楽しそうだな?」

「うん。皆で旅行に出かけるなんて初めてだから、昨日から楽しみだった!」

「あぁぁ、まぁ旅行と言うか遠征な? 主な目的は、ダンジョンで美佳と沙織ちゃんのレベル上げだぞ?」

「それは分かってるよ。でも、折角皆でホテルにお泊まりするんだし……」

「……うん、まぁダンジョンからホテルに戻ったら、次の日に疲れが残らない程度に楽しめば良いさ」

「うん!」


 果たしてダンジョンアタックが終わった後、美佳と沙織ちゃんに遊ぶ気力と体力は残っているんだろうか? ……別体力とか言って、遊ぶ気力が湧いて出て来そうだな。

 俺はダンジョンアタックの後の女子会を夢見て喜んでいる美佳に、生暖かい眼差しを送った。 


「皆、朝ご飯出来たわよ。並べるから、テーブルに座ってちょうだい」

「「「はぁい」」」


 朝食の準備が出来たと母さんに促され、俺達3人は朝食が並ぶ自分達の定位置の椅子に座って行く。

 さてと、集合時間も近い事だし手早く食べるか。









 朝食を済ませた後、俺と美佳は歯磨きなどを済ませ自室に戻り出発の準備を進める。と言っても、俺は既に着替えも済ませているので用意していた荷物を取りに戻るだけで済むんだけどな。俺は入り口の脇に用意していた荷物を持って、リビングへと戻った。

 因みに戻る途中、美佳の部屋から慌ただしい物音が聞こえたんだけど……昨夜の内に準備していなかったのかな?


「おっ、早いな大樹」


 荷物を持ってリビングに入ると、父さんと母さんがソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。


「……泊まりの割に、何時もと余り荷物の量が変わって居ないみたいだな? 泊まり道具はどうしたんだ? 先に宅配便で送ったのか?」 

「追加の荷物は、コレだけだよ。一回分の着替えと小物だけだからね」


 父さんには俺が持つ荷物が何時もと変わらない様に見えたらしく、お泊まりセットは持って行かないのかと聞いてくる。なので俺は、お泊まりセットを入れた小さめのショルダーバッグを掲げ追加分はコレだけと伝える。それにしても宅配便か……確かに長期滞在などで荷物が多いのなら、先に宅配便でホテルに着替え一式を送るって方法は有りだな。

 そして俺はリビングの隅に荷物を置いた後、冷蔵庫にある麦茶をコップに注いでソファーに座った。 


「ねぇ、大樹? 美佳は一緒に降りてこないの?」

「うん。さっき美佳の部屋の方から慌ただしい物音が聞こえたから、もう少し掛かるんじゃ無いかな?」

「そう……。お友達との集合時間には間に合うのよね?」

「大丈夫。駅までの移動時間を含めて見ても、あと20分以内に家を出れば十分間に合うよ」

「そう」

 

 俺は麦茶を飲みながら返事を返し、TV画面を眺める。日曜日という事もあり、TV画面にはバラエティー系情報番組が映っていた。因みに内容は、スイーツ特集だ。

 何でも、ダンジョン産の卵を使って作ったプリンが大人気らしい。


「ダンジョン食材を使った商品も、随分浸透したよね……」

「そうだな。ダンジョン食材が出まわる様になってから、まだ半年一寸しか経っていないんだよな」

「今じゃ、スーパーでも普通に並んでるわよ? 特設コーナーの、一寸した高級品扱いだけど」

「少し前までの、ブランド和牛みたいな扱いだよね」

「値段的に言えば、その通りよ」


 ダンジョンが民間に解放されドロップ食材が市場に出まわり始めた頃は、有名デパートの店ぐらいにしか置いてなかったのに……今じゃ地元のスーパーでも気軽に買えるんだ。そりゃぁ、ドロップ食品の買取額も安くなるよな。初期の頃は需要と供給のバランスが極端に需要に傾いていたから、どんなドロップ食材でも良い値段で買ってくれていたのに……いやぁ懐かしいね。先駆者が儲かり、後追いの者が損するって言う話が本当だって実感するよ。

 そして他愛の無い話をしながら時間を潰していると、リビングの扉が開き美佳が荷物を持って入ってきた。


「遅かったな美佳……と言うか、何だその荷物? お前、何泊するつもりだよ?」

「女の子は泊まり掛けだと、荷物も多くなるの!」

「いや……。だからと言って、そのボストンバッグは無いだろ……」


 漸く部屋から降りてきた美佳が持っている荷物は何時もの探索者セットに加え、運動部の学生が使う様な大型のボストンバッグだった。幾らホテルに置いていくとは言え、荷物が多すぎるだろ……。

  

「兎に角、これは全部必要なの!」

「あ、ああ、そうか。まぁ、お前が必要だって言うのなら、そうなんだろうな……」

「うん!」


 俺は自信満々で言い切る美佳の姿に軽く溜息を吐きつつ、視線を時計に向け時間を確認する。ああ、そろそろ家を出ないといけないな……。

 

「まぁ、用意が出来ているのなら良い。時間も時間だから、そろそろ出発するけど……良いよな?」

「うん、大丈夫!」


 美佳の返事を聞き、俺はソファーから立ち上がり自分の荷物を手に取る。


「良し、じゃぁ行くか。と言う訳だから、父さん母さん。行ってくるね」

「ああ、気を付けてな。美佳を頼むぞ、大樹」

「気を付けるのよ。美佳、ちゃんとお兄ちゃん達の言う事を聞いて怪我をしない様にしなさい」

「うん、任せてよ」

「分かった、じゃぁ行ってくるね!」


 父さんと母さんに出発の挨拶をした後、俺と美佳は荷物を持ち家を出た。さぁて、泊まり遠征の始まりだ。








 集合時間の少し前に待ち合わせ場所である駅のロータリーに到着すると、何と言うか……妙に注目されている様な視線を感じる。試しに顔を左右に振って辺りを見回してみると、同年代らしき者達が俺達……と言うか俺を見て口元を隠しながら小声で話をしていた。 

 もしかして、顔は知らないけど同じ学校の生徒か?


「……ねぇ、お兄ちゃん? 私達さ、何か注目されてない?」

「そう、みたいだな……」

「もしかしてさ、私達に視線を向けてきている人ってウチの学校の生徒かな?」

「その可能性はあるな。何せ昨日の体育祭では、アレだけ派手な事をしたんだ。顔を覚えている奴が俺達に気が付いて注目したとしても、何も可笑しくないからな」

「そっか……」


 急に気恥ずかしくなった俺と美佳は、何とも言えない居心地の悪さを感じつつ視線を避ける様に壁際へと移動した。只、多少視線の数は減った様な気がするが、未だ多くの視線を集めている気がする。クソっ! こんな事になるって分かっていれば、眼鏡や帽子なんかの変装道具を用意して置けば良かったよ。

 そして俺と美佳は互いにスマホを操作する振りをしながら、他の3人が早く来てくれる事を切に祈る事しかなかった。 
















新章スタートです。

早速、大樹君達は注目の的ですね。

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― 新着の感想 ―
なんかちょこちょこ朝かとか起きるかとかの独り言入るけど、そんな事言うやつ居ないと思う。 ふあーねむっとかもうちょっととか現実感のある独り言の方が良いと思います。
[一言] スポーツ系への心配より、畜産系への心配をする方が大事な気がする、スーパーの陳列内容だなぁ(。。 探索者が増えて行ったら高級和牛、売れなくなりそう。
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