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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第205話 説教?と一泊二日探索の準備

お気に入り16620超、PV18370000超、ジャンル別日刊31位、応援ありがとうございます。







 道場の板場に敷いた座布団の上に正座で座る俺達の前に、目を閉じ腕を組んだ重蔵さんが無言で座っていた。

 ……何だろ? 道場にいる筈なのに、まるで時代劇のお白洲で裁きを待っている罪人の心境だ。


「……」

「「「……」」」


ち、沈黙が痛い。既に、この体勢になって5分以上。そろそろ、何かしらの反応を示して欲しい。俺達三人は顔を動かさず視線を向けあい、誰か重蔵さんに声を掛けろよと牽制しあう。

 すると……。


「お主ら……」

「「「! は、はい!」」」


腕組みを解きながら、重蔵さんはユックリ目を開けながら俺達に声を掛けてきた。

 俺達は緊張した面持ちで、重蔵さんの話に耳を傾ける。


「まずは、お疲れじゃったなと言っておこう」

「「「は、はい」」」

 

 重蔵さんの労いの言葉に、俺は少々上擦った声で返事を返す。


「お主ら……声が上擦っとるぞ? 別に怒っておる訳ではないから、そんなに緊張するではない」

「「「は、はい……」」」


 安堵の息を漏らす俺達の様子に、重蔵さんは苦笑を漏らす。


「ワシが事前に聞いておった演武の内容と、お主らが行った演武の内容が違っておったからの。余り派手な演武はしたくないと言っておったお主らがアレをしたんじゃ、演武内容を変更する必要があった理由を聞いておきたくての。何があったんじゃ?」

「は、はい。えっと、その……」


 俺は重蔵さんに、本番で演武内容を変更した理由を説明していく。

 リハーサルで行った演武を見た観客の反応や、美佳達に聞いた本番当日の朝の後藤グループの様子等を……。


「なる程の。確かにその様な反応を得られておるのなら、演武内容を変更するのもアリじゃな。予定通りの演武では観客に与えるインパクトを配慮しておる分、問題の連中に与えるインパクトも弱いしの。相手が怯んでおる所に、更なる一撃を加えるのは確かに有効じゃろう。じゃが……」


 俺の説明を聞き重蔵さんは納得した表情を浮かべ頷いていたが、直ぐに心配気な表情を浮かべる。


「確かに、お主らが行った演武なら連中への牽制としては満点じゃろう。じゃが、本当に良かったのか? あの様な演武を行えば、お主らが学校で集める注目は予定していたものより遥かに大きな物じゃぞ?」

「勿論、それは覚悟していますよ。確かに重蔵さんの言う通り、今回の演武を見て俺達に興味を持つ、或はチョッカイを出して来ようとする連中が出てくると思います。でもそれは、元の演武を行っても出てくる問題ですし、それなら今ここで確実に後藤達の問題にクサビを打ち込んでおいた方が良いと考えました」


 問題を複数同時に抱え対処不能になる前に、解決出来そうな問題は早めに片付けておきたいからな。

 少なくとも、学校関係や協会関係で問題が出てきそうだし。


「そうか……お主らが分かった上で行ったのであれば、ワシが口を出すのは無粋と言うものじゃな。じゃが、何かあれば相談ぐらいは乗るので遠慮するでないぞ?」

「「「はい!」」」


 重蔵さんは俺達の覚悟を決めた目を見て、それ以上この件に関しては何も口を出してこなかった。











 演技内容の変更に対する叱責という懸念事項が解決し、緊張感が解れた俺達はお茶を飲みながら重蔵さんと明日からの遠出の件について話をしていた。


「そうか。明日から5人で、泊まりがけでダンジョンに潜りに行くのか」

「はい。探索者の平均から見ると、最近探索者を始めた美佳達のレベルは低いですからね。重蔵さんの指導のお陰で、技量面では後藤グループの連中に勝っていると思うんですけど、レベルという基礎能力面が劣っているのは紛れもない事実です。今回の体育祭の件で美佳達は確実に後藤グループの目についているでしょうから、休み明けまでにそれなりのレベルまで底上げしておいた方が良いと思うんですよ」


 俺がそう言うと、重蔵さんは小さく頷いた。


「そうじゃな。確かにそこそこ仕込んでいるとは言え、嬢ちゃん達はまだ探索者を始めて日が浅いからの。まだ技量差だけで相手を制する事が出来ると言えん以上、基礎能力面を鍛え他の探索者と比べ劣っておらん様にするのは大切じゃろな」

「なので、1泊2日のダンジョンアタックです。日帰りだとダンジョンとの行き帰りの移動時間を考慮すると、美佳達を連れてダンジョンアタック出来る時間は半日もありませんからね。泊まりなら、帰りの時間を考慮しなくて良いですから」


 流石に、まだダンジョンアタックの経験が浅い美佳達が同行するのでは、ダンジョン泊など以ての外だし、緊張やストレスなどの精神衛生の面から見ても、程々の所で切り上げダンジョンの外に出る必要がある。これを無視して深入りしたりすると、PTSDなんかを発症して大変な事になりかねないしな。

 

「まぁ、無理をするでないぞ。何だかんだ言っても、嬢ちゃん達の経験は少ないんじゃからな。無理をしていそうに見えたら、無理をせずに撤収するのじゃぞ」

「はい、それは勿論。無理をさせて、2人が大怪我でもしたら一大事ですからね」


 取り敢えず今回のダンジョンアタックは、1日目と2日目の前半は低階層のモンスター退治でレベル上げに必要な数を熟し、2日目の最後に人型モンスターとの戦闘って所かな? レベルは2人とも10越えを目指し、最後に人型と戦って経験を積んで貰おう。初日に人型モンスターを倒したら、動揺して真面にダンジョンアタックは続けられないだろうからな。

 何せ、それなりに経験を積んだ状態の俺達でも、初めての人型モンスターとの戦闘後は動揺してミスを犯したからな、用心しておくに越した事はない。


「そうか。じゃぁワシは、お主等がダンジョンから帰って来てから、改めて嬢ちゃん達を鍛え直してやるとするかの……」

「……えっ、鍛え直す?」

「ん? 如何したんじゃ?」

「鍛え直すって……」

「何、当たり前の事じゃろ? レベルが上がって基礎能力が上がるという事は、今までの体の動きと感覚に誤差が生じるという事じゃ。特に今回のダンジョンアタックでは、嬢ちゃん達のレベルが一気に上がりそうじゃしの。お主等も知っておるだろうが、感覚の擦り合わせは重要じゃぞ?」

「そ、そうですね……」


 ごめん。美佳、沙織ちゃん。ダンジョンアタック明けは、重蔵さんとの猛稽古に決まっちゃったよ。

 俺は心の中で、楽し気に体育祭の打ち上げをしているだろう美佳と沙織ちゃんに謝っておいた。








 重蔵さんとの話が終わった後、俺達は裕二の部屋に移動した。明日、宿泊するホテルを決める為だ。

 だが、コレが意外と難航する。


「ああ、ダメだ。ここも明日の予約は一杯だってさ」

「はぁ、コレで3軒目だな」


 PC画面を睨みつつ協会オススメの探索者向けのホテルを探すが、何処も予約で一杯で明日宿泊出来そうにない。


「やっぱり、一般のホテルに泊まるしかなさそうだ」

「でも、一般のホテルだと荷物の保管場所がな……」


 裕二のその言葉を聞き、俺は困った様に頭を掻く。探索者向けのホテルだと、探索者が持っている刀剣類を預ける頑丈なガンロッカーが準備されている所が多いが、一般のホテルだとその手の設備は殆ど用意されて居ない。武器の保管や盗難防止の観点から考えると、探索者が利用する宿泊施設は出来るだけその手の設備が整っているホテルの利用が協会からも推奨されている。


「ねぇ二人とも、コレ見てよ。ちょっと宿泊料は高いけどこのホテル、その手の設備を備えた部屋もあるみたいよ?」

「どれどれ?」


 俺と裕二がPC画面を睨んで頭を掻いていると、スマホを弄っていた柊さんが俺達に検索画面を向けてくる。


「あっ、本当だ。確かにガンロッカー設置って書いてあるね。でも…… 」

「1泊朝食付きで18000円か……高いな」

「確かに、協会がオススメする探索者向けホテルの素泊まり4980円と比べたら高いけど、他に泊まれそうなホテルが無いんだからしょうが無いじゃない。それにココ、最終チェックインが23時まで大丈夫ってなっているから、かなり遅い時間までダンジョンに潜っていられるわよ?」

「「……」」


 確かに柊さんの言う通り、他に泊まれそうなホテルがない以上、ココにするしかないんだろうな。

 少々皆で顔を見合わせ沈黙した後、俺と裕二は軽く息を吐きながら首を縦に振った。


「分かった。ココに泊まる様に予約を入れよう」

「そうだな。流石に野宿……って訳にはいかないからな」

「決まりね。じゃぁ、予約手続きをするわね」


 そう言って、柊さんはホテルに予約電話を入れ始めた。


「……あっ、もしもし? はい、明日の宿泊予約を入れたいんですが。はい、宿泊利用は5人。男2人女3人の2部屋お願いしたいんですが……あっ、大丈夫ですか? じゃぁ、1泊朝食付きのプランでお願いします」


 無事予約が取れそうなのか、柊さんは俺と裕二にOKサインを向けてくる。

 そして氏名等の予約に必要な情報を伝えた後、柊さんは一番ネックになっている事をホテル側に伝えた。


「ああそれと私達、探索者をやっている高校生だけなんですけど大丈夫ですか? ……ああ、分かりました。じゃぁ保護者の同意書があれば、高校生だけでも宿泊は大丈夫なんですね? ホテルのHPの方に同意書の見本が掲載されている、ですか……。分かりました、じゃぁ当日それを持参しますね。はぁい。じゃぁ、明日よろしくお願いします」


 軽く頭を下げながら柊さんは電話を切った後、俺達の方を向く。


「予約完了よ。ただし、聞いていたと思うけど未成年者だけで宿泊をするのなら、保護者から宿泊同意書を貰っておいて欲しいそうよ」

「宿泊同意書か……まぁハイクラスホテルっぽいしね。確かに未成年者だけでホテルに泊まろうとするのなら、保護者の同意書の一枚は提出して貰いたいってなるか」

「そうね。ああそれと広瀬君、同意書の見本はホテルのHPにあるそうだから人数分印刷して貰えるかしら?」

「ああ、良いぞ。ちょっと待ってくれ」


 そう言って裕二はホテルのHPを開き、目的の未成年者宿泊同意書を人数分印刷していく。


「ほら、人数分出来たぞ」

「ありがとう、広瀬君」

「サンキュ、裕二」


 俺と柊さんは印刷された同意書を受け取った。

 一人一枚か……美佳の分は持って帰るとして、沙織ちゃんの分は家のポストにでも投函しておくか。







 宿泊するホテルも決まったので、俺と柊さんは裕二の家をお暇する。

 そして柊さんを家まで送っていく道すがら、柊さんは俺にアピール演技の時に使わなかった熊の着ぐるみの今後の扱いについて話を振ってきた。

 

「で、九重君? 結局、如何するの?」

「如何するの……、って言われてもね。今の所、他に使う予定はないしな……暫くは仕舞い込んでおくしかないかな?」

「……そう。折角作ったのに、タンスの肥やしになるのね」

「えっと……その、ごめん」


 残念そうな表情を浮かべ軽く俯いた柊さんに、俺も軽く頭を下げながら謝っておいた。 

 そんなに気に入っていたのかな、アレ?


「ああ、その……柊さん? 何だったら熊の着ぐるみ、柊さんが預かってくれないかな? 俺が預かってても、仕舞い込んでおくだけだしさ。ほら、柊さんの所ならお店のインテリアにも使えるかな……って」


 珠に、鹿や動物の頭部剥製や鷹等の鳥の剥製なんかを置いてる店もあるんだから、熊の毛皮がインテリアとして飾ってあっても……自分で言ってて無理がある様な気がするなコレ。

 そんな俺と同じ考えに至ったのか、柊さんも俺の提案を聞き苦笑を浮かべている。


「流石に、お店のインテリアとしては使えないわよ。デフォルメしているとは言え、入店したらラーメン屋の壁に熊が掛かっていたらお客さんが驚くわ」

「そ、そうだね……」

「ああ、でも。預からせて貰えるのなら、預かろうかしら? 良いわよね?」

「あっ、うん」


 お店のインテリアにと言う俺の提案は却下されたが、熊の着ぐるみは柊さんが預かる事になった。

 そして柊さんを家に送り届けた際、明日の事で少々英二さんと揉めたと言うか小言を貰ったが、美雪さんの援護も有り無事柊さんの外泊許可が下りる。別にそう言う意図はなかったのだが、娘を持つ親御さんからしたら心配になるんだろうな。







 柊さんと別れた後、俺は沙織ちゃんの家に立ち寄りポストに宿泊同意書を入れてから家に帰り着いた。

 後で沙織ちゃんには、明日の予定と同意書の存在をメールして置かないとな。


「ただいま」

「お帰りなさい」


 帰宅の声を掛けると、リビングの方から母さんの声が聞こえてきた。鞄を持ったままリビングに入ると、父さんと母さんがソファーに座ってTVを見ていた。


「遅かったわね、大樹」

「ちょっと寄り道しててね、美佳は?」

「美佳なら一度帰ってきた後、体育祭の打ち上げがあるからって出かけたわよ」


 美佳の奴、一度着替えに帰ってきていたみたいだな。まぁ、制服姿だと目立つしな。


「あっ、そうだ。父さん、母さん、ちょっとコレにサインしてくれないかな?」

「ん? 何にサインするの?」


 俺は鞄から裕二に印刷して貰った、宿泊同意書を父さんと母さんに手渡す。


「明日から1泊の泊まりがけで、ダンジョンに行く事になったんだ。それは予約したホテルに、高校生だけで泊まる為に必要な保護者の同意書だよ」

「泊まりがけって……体育祭が終わったばかりなのに旅行に行くの?」

「旅行……って訳じゃ無いけど、うん、まぁ。如何しても、行って置いた方が良いと思ってね」

「「……」」


 父さんと母さんは同意書に視線を落としたまま、渋い表情を浮かべる。まぁ、いきなり泊まりで出かけるから同意書にサインしてくれ、じゃ戸惑うよな。

 

「……同意書が2枚あるって言う事は、美佳も一緒に行くって事よね?」

「うん。と言うか、今回のお泊まりは美佳と沙織ちゃんをダンジョンで鍛えるのが目的なんだ」

「そう。美佳と沙織ちゃんの為に、ね……」


 母さんは同意書から視線を俺に移し、真意を探る様な目つきを向けてくる。 

 そして数秒。俺と母さんの視線が交わった後、母さんは息を吐きながらテーブルの上の小物入れに入っていたボールペンを手に取った。


「まぁ、良いでしょう。でも子供達だけのお泊まりだからって、ハシャギ過ぎちゃダメよ?」

「うん、その辺の節度は心得ているつもりだよ」

「本当かしらね……」


 そう言いながらも、母さんは宿泊同意書にサインをしてくれた。

 良し。コレで明日の遠征における、最大の関門は突破したな。俺は父さんと母さんのサインが書かれた2枚の同意書を受け取りながら、明日からの遠征成功に気合いを入れる。














体育祭編終了です。

閑話を数話挟んだ後、新章に入ります。

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― 新着の感想 ―
両親は体育祭を観に来たんだよね。 部活紹介の演武の感想とかないのかな? この親なら絶対何か言いそうなんだけどなぁ。
今更なんだけどなんで学校の現状説明しないの?
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