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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第200話 説明と来賓

お気に入16340超、PV33850000超、ジャンル別日刊73位、応援ありがとうございます。


無事、インフルエンザ治りました。







 ざわつく生徒や保護者を一瞥した後、校長先生は徐にマイクの前に両手を持ち上げた。

 そして……打ち合わせた。柏手の破裂音がマイクを通じ増幅され、スピーカーから爆音となって出力される。突然グラウンドに響いた爆音に、ざわめいていた生徒も保護者も体を一瞬硬直させ沈黙する。


「皆さん……」


 その一瞬グラウンドに広がった沈黙を逃さず、校長先生はたった一言でグラウンドに居る全ての人の注目を自分に集めた。

 

「只今より、リレー種目が中止に至った経緯を説明いたしますので、暫しの間ご静聴下さい」


 そう言っても、校長先生は軽く頭を下げる。

 その結果、校長先生の姿を見た生徒や保護者は戸惑いの表情を浮かべつつも、誰も口を開かず静かに耳を傾け話を聞く姿勢を示していた。


「では、今体育祭においてリレー種目が中止になった経緯を御説明させていただきます。事の始まりは、先週他校で先行して行われた体育祭です」


 校長先生は一旦そこで言葉を切り、グラウンドを一瞥する。 

 その言葉と動作だけで、多くの生徒と保護者から"やっぱりそれが中止の理由か……"と言った雰囲気が漏れ出す。


「既に御存知の方も多い事かもしれませんが、簡単に御説明させていただきます。まず……」


 校長先生は先週の体育祭中に起こった事故について簡単に説明し、その対策の一つとして探索者資格の保有の有無で生徒の出場種目を分けた事を告げる。一瞬、保護者席から校長先生……学校側の対応に不満を漏らす様な雰囲気が立ち上がったかに見えた。


「我々としましても、多くの生徒に体育祭というイベントに楽しく参加して貰おうと、出来る限りの手を尽くし努力をしてきました。何せ、新学期始まって初めて全校生徒で行う一大イベントなのですから……」


 だが、生徒の為にと言う校長先生の言葉に、学校側の対応を批難するように立ち上がった保護者席の雰囲気は萎えるようにして消えた。生徒の楽しみの為に頑張っていたと言われたら、特にこれと言った問題が起きていない現状では表立っての批判はしづらいからな。

 そして校長先生は保護者席の反応を一瞬目を向け確認した後、表情を無念気なものに変え口を開く。


「ですが……昨日行った事前リハーサルにおいて、大きな問題が発生しました」


 校長先生の大きな問題という言葉を聞き、保護者席が一瞬ざわめき、生徒側は苦々し気な表情を浮かべた。


「リレー競技中に走者の生徒が転倒、猛スピードのままにコースアウトし保護者席予定エリアに飛び込んだと言う問題です。考えてみれば……起きて当然の問題でした」


 校長先生は考えが至らず申し訳ないと、謝罪の言葉を生徒達に向け口にし頭を下げた。

 まぁ、ここで学校側の配慮不足だったと明言しておかないと、リハーサルで転倒した生徒が原因でリレー種目が中止になったと思われかねないからな。そうなったら転倒した生徒は針の筵で、イジメの原因に為りかねない。一時的には保護者から批難されるかも知れないが、学校側に責任があると明言しておけばより面倒な問題が起きないように事前に防げる。


「万一本番で同様の事……多数の保護者の方々が観覧なさる保護者席に生徒が飛び込んでしまったら、多数の怪我人が出るのは必至です。それは起こしてはいけない、防がねばならない事故です」


 校長先生は言葉を切り、毅然とした有無を言わせない眼差しで生徒と保護者を一瞥する。生徒と保護者達は校長先生の迫力に押され、異論も口にできず押し黙った。

 特に生徒は実際に昨日のリハーサルで、走者がコースアウトし保護者席予定エリアに飛び込んだ所を目の当たりにしたからな。怪我人が出る危険性を訴えられれば、反論は出来ないだろう。と言っても、校長先生が言っている事自体は正論だから、迫力負けしなかった生徒からも特には反論されなかっただろうけどな。


「そしてリハーサル後、職員会議を開きこの問題への対策を協議いたしました」


 その一つが、中止になった生徒会から俺達への協力要請だな。方法としては無茶な案だけど、やって出来ない事はない。見た目は肉壁だけど。


「……ですがそれも、一つの通達が教育委員会から届いた事により状況が変わりました」


 若干意気消沈した様子で校長先生は一瞬間を開けた後、教育委員会からの通知の存在を告げる。校長先生からは無念そうな雰囲気が滲み出ており、見ていた者達は通達の中身が不本意な物だったのだろうと察した。


「その通達の中身ですが、体育祭におけるリレー型種目の実施自粛を要請する……と言う物でした」


 リレー型種目の実施自粛要請……か。

 要請とは言ってるけど、拒否できない命令だよな。実質中止命令だろうが建前上、リレー型種目を実施するか否かは各学校の判断に任せるという事だろう。中止を決めたのは学校だから教育委員会に責任はない、っていう批判逃れだよな……これって。


「なお、通達にはリレー型種目を実施する場合、最低限これらの注意要項を厳守するようとありました。その内の幾つかを、皆様にもお伝えしたいと思います」


 校長先生は小さく息を吸い間を開けた後、実施条件を口にする。


「一つ、リレー競技を行うトラックと観覧席の間に十分な広さの緩衝地帯(エスケープゾーン)を設置する事。一つ、観覧席の前には衝撃吸収材を設置し観覧者及び生徒の安全を確保する事……とのです」


 リレー型種目の実施条件を聞き、俺は思わず首を左右に動かしグラウンドの様子を確認し目を伏せた。

 十分な広さの緩衝地帯……ね。


「通達にある緩衝地帯の基準では、最低でも観覧席との間は15m以上確保する事と記載されています。そして皆様のご覧になっている様に本校のグラウンドは広いとは言えず、リレーを実施するには十分な緩衝地帯の確保は困難です」


 校長先生の言う様に特別グラウンドが狭いとは思わないが、規定にある様な広さの緩衝地帯を設けられるほど余裕があるとは言えない。

と言うか、都市部に建つ多くの公立校じゃ緩衝地帯の条件はクリア出来ないんじゃないか? 私立校や市街地外に建つ学校なら、クリア出来るかもしれないけど……。


「また衝撃吸収材にしましても、急な事もあり必要数を確保する事が出来ませんでした。同様の通達を受けとった各校が一斉に器具レンタル会社に問い合わせ及び発注を行った結果、需要過多で対応不能という状態に陥ったからです」


 生徒と保護者達の間から手詰まり感に満ちた溜息が漏れ、グラウンド全体に重苦しい雰囲気が広がった。

 








 体育祭開始10分と経っていないにもかかわらず、グラウンドには重苦しい沈黙が広がっていた。校長先生が告げた実施条件を守る必要がある以上、今後体育祭でリレー型種目を本校で行う事は困難である事が確定したからだ。 

 リレー種目や騎馬戦などの肉体が激しく接触する系の競技が無い体育祭か……スッゴく盛り上がらない物になりそうだな。そんなやる気が削がれた俺達生徒の内心を察したように、重く沈んだ雰囲気を吹き飛ばすかの様に校長先生が声を張り上げる。



「ですが皆さん! 通達には、悪い話ばかりが記載されていた訳ではありませんよ。通達にはリレー種目の実施自粛要請の他に、来年度の体育祭についての提案がなされていました」


 その校長先生の言葉を聞き、再び生徒と保護者の視線が校長先生に集まる。

 

「通達によると、今回の自粛要請により、今後の体育祭でリレー系種目の実施が困難になる学校が多く出る事になる。故に来年度の体育祭において、グラウンドの広さに余裕のある学校との合同体育祭の開催や、陸上競技場等を複数校で貸し切り合同体育祭の開催を提案する……との事です」


 他校との合同体育祭と聞き、生徒や保護者の間に漂っていた重苦しかった雰囲気は吹き飛び、一気にグラウンド中が騒然とした騒ぎになる。

 まぁ確かに、学校の狭いグラウンドでリレーが出来ないなら、リレーが出来る広い場所を借りるっていうのも一つの解決方法だよな。


「勿論、合同体育祭という案は今はまだ試案の段階ですので、決定事項と言う訳ではありません。ですが今後、他校や教育委員会と相談検討し具体案を詰める予定です」


 合同体育祭という話に現実味がおび、生徒や保護者は共にいろめきだちグラウンドの騒がしさがより増す。先程までの重苦しい雰囲気はどこに行ったのか、と言わんばかりの変わりようだ。

 校長先生はそんなグラウンドの様子を黙って見守り、ある程度騒ぎが落ち着いたのを見計らい口を開く。


「改めて申し上げます。今体育祭では申し訳ありませんが、各リレー種目を行う事が出来ません。リレー種目に出場する予定だった生徒の皆さん、お子様の活躍を楽しみにしておられた保護者の方々。急なプログラム内容の変更、誠に申し訳ありません」


 そう述べた後、校長先生は左右の保護者席と正面の生徒たちに向かって深々と頭を下げる。すると一瞬の間を開けた後、グラウンド全体からは盛大な拍手が鳴り響く。

 ……何で拍手が鳴るんだ?と思いつつ、俺も周りに合わせ拍手をしていた。











 学校長挨拶を終え、校長先生が朝礼台を下りていく。取り敢えず皆、リレー種目の中止は受け入れたようだ。でも、リレー系種目が無くなるとなると、かなり体育祭のプログラムが無くなるんだけど……午前中で終わらないかな?   

 そんな事を思っている内に、開会式のプログラムは進む。


「それでは続きまして、来賓挨拶に移ります。来賓代表として、日本ダンジョン協会支部課長の脇田様よりお言葉をいただきます」


教頭先生のアナウンスに促され、スーツ姿の中年男性が朝礼台に上る。中年男性……脇田さんは柔和な笑みを浮かべながらマイクの前に立った。


「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございます」」」


 ダンジョン協会の課長さんの出現に、探索者資格を持つ生徒は一斉に緊張の面持ちを浮かべ、誰かが何か問題を起こしたんじゃないかと言う不安気な声と、噂の探索者がうちの学校に居るんじゃないかと言う期待の声が聞こえて来る。 

 その誰かが何かっての……物凄く心当たりあるなぁ。俺は荒れる内心をひた隠しにしながら、ポーカーフェイスを顔に貼り付けたまま脇田課長に視線を向け続ける。


「先程ご紹介に与った通り、私はダンジョン協会の者です。探索者資格をお持ちの生徒さんも大勢いらっしゃると思うので、意外と身近な関係ですね。と言いましても、私は事務方なので直接顔を合わせた事がある人はいないと思いますが……」


 軽い冗談を交えつつ、脇田さんは優しげな口調で生徒達の緊張と不安を解く様に語りかけて来る。

 そして生徒達の雰囲気が解れ始めたのを見て、脇田さんは来賓の目的を話しはじめた。


「本日、私がこの学校をお伺いした理由の一つには、探索者資格を持つ高校生が参加する体育祭の模様を視察する事です。昨今のスポーツ事情は皆さんもご存知の通り、現在探索者資格保有者は公式大会への出場が制限されています。これは探索者と非探索者の間に存在する、大幅な基礎能力の差により競技の公平性が確保出来ないから、と言う理由からです」


 脇田さんの話を聞き、探索者になった事により運動部を辞めた生徒は顔を苦々し気に歪め、探索者資格の有無で新規部員の確保に苦慮する残留部員は不機嫌そうな雰囲気を漏らす。

 

「ですので、探索者資格保有者と非保有者が混じって行われる高校の体育祭を視察する事により、今後の探索者資格保有者と非保有者が共に参加する一般スポーツイベントを開催する際の参考にしたいと思っています。既に開始前にリレー型種目に関する問題点と対策も出ており、大変有意義な視察だと感じています」


 脇田さんの言葉に、多くの生徒は若干不愉快そうな雰囲気をあらわにする。まぁ今後の為に必要な事だとは言え、面と向かって観察サンプルにすると言われたら不快な気持ちの一つにもなるよな。

 でも、何でわざわざ生徒達の敵愾心を煽る様に話をするんだ?と、俺は内心脇田さんの話し方に疑問符を浮かべた。


「さて、余り長々と話を続けるのも宜しくないと思うので、そろそろ私の話は終わりにさせて頂きます。生徒の皆さん、怪我が無い様に体育祭頑張って下さい」


 脇田課長は軽く一礼し話を締め、疎らな拍手を受けながら朝礼台を後にした。生徒はそんな脇田課長の後ろ姿に戸惑い、困惑する様に小声でザワめく。ザワメキは教頭先生の注意アナウンスが響いた事で直に収まったが、微妙な空気のまま開会式は進行する。

 そして生徒会長挨拶と選手宣誓を経て漸く、開始早々波乱に満ちたダンジョンが出現してから初めての体育祭が始まった。




















 

実際にリハーサルで走者が転倒し保護者席エリアに飛び込んだ場面を見たので、生徒もリレー種目中止に文句は言えませんよね。


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