第198話 手合わせの成果?
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大林先輩達と明日の配置について打ち合わせをした後、俺達3人は運動場に出た。既に本部周辺のテント類は設営完了しているので、もうウチのクラスが担当している準備作業は終わっているかもしれないが合流しない訳にもいかないからな。
そして急いで用事を済ませて来た様に見える様に小走りで担当場所に移動してみると、予想通り境界のロープ張りを終えグループに分かれ暇潰しの雑談しているクラスメート達の姿があった。
「ん? おお、九重、広瀬、柊。 もう、生徒会の用事は済んだのか?」
もうやる事はないなと思い、小走りを辞め歩いていると俺達の接近に気が付いた平坂先生が声を掛けてくる。
「あっ、はい。終わりました」
「そうか。で、どんな用事だったんだ?」
「明日の本番での、安全対策についてです。今日のリレーで、転倒した走者が観客席まで飛び込んだじゃないですか? それを防ぐ為に、協力して欲しいとの事でした」
「ああ、アレか……」
俺が呼び出された理由を簡単に説明すると、平坂先生はリレーで走者が転倒した時の事を思い出した様に渋面を作る。
「学校の方でもレンタル業者なんかにコーナークッションマットは無いか問い合わせしているんだが、交渉が難航しているらしい。納期が明日の早朝と言う事もあるが、他の学校からも同様の問い合わせが来ているらしくてな……」
「そうですか……」
「出来る限り手は尽くして居るんだが、流石に時間がな。それで生徒会の方にも何かアイディアはないかと相談してみたら、あちらでも手を打ってみると言っていたが……何て言われたんだ?」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら、平坂先生は俺達にそう問い掛けて来る。
「道具や設備を準備する時間も無いので、もし本番で走者が転倒し観客席に飛び込みそうになったら、俺達に転倒した走者を受け止めて欲しい……と言った物ですけどね」
「受け止めるって……それはお前達だけでと言う事か?」
生徒会が用意した対策を聞き、平坂先生は少し驚いた様な表情を浮かべる。
「もちろん、他にも協力者はいますよ。ウチの学校に在籍するトップクラスの探索者の人達が、俺達と同じように協力する事になっています」
「そうか……。本当ならその手の役割は学校職員がするべきなんだろうが、職員の殆どは探索者資格を持っていないからな……。お前達の代わりをしようにも、残念ながら職員では力不足で代役は務められないのは明白だ」
「探索者資格を持っていない先生達じゃ、受け止めようとしても転倒者と一緒に観客席に突っ込むのがオチですからね」
「ああ。それにお前達の代わりの受け止め役として、探索者資格を持つイベント警備員を派遣してもらおうにも明日じゃな……」
平坂先生は軽く溜息を吐いた後、疲れた様な表情を浮かべながら俺達を見る。
「今日の放課後に開かれる職員会議の如何によっては、明日の体育祭がどうなるか分からん。こちらも全力を尽くすが、手配が間に合わなかった時は申し訳ないが、お前達の力を借りる事になるかもしれない。その時は……怪我をしない様に頼む」
「「「はい」」」
複雑な表情を浮かべながら、平坂先生は俺達に軽く頭を下げながらそう言った。
終了予定時間まで体育祭の準備……と言う名の時間潰しをした後、俺達は各組別に明日の決起集会を行った。リハーサルの後と言う事もあり、各組の決起集会はそこそこの盛り上がりを見せ、学校が心配するやる気の無い姿を明日の本番で保護者達に見せる心配は無いだろう。
そして無事に決起集会を終え、視聴覚室で手早く着替えを済ませた俺と裕二は教室でHRが始まるのを雑談しながら待っていた。
「それにしても……どうする裕二? 転倒者の受け止め役だなんて」
「今更、文句を言っても仕方が無いだろ。受けてしまった物はどうしようもない、やるしか無いさ」
「まぁ、そうだろうけどさ……」
裕二に愚痴を漏らし諫められた後、俺は思わず溜息をついた。
そして、そんな俺の姿を見た裕二は俺の気を逸らそうと話題を振ってくる。
「そう言えば大樹……お前はコーナーのどこを担当する様になったんだ?」
「はっ、えっ? ああ、えっと……第1コーナーの入り口だよ。裕二は?」
「俺も、第1コーナーの入り口担当だよ」
「裕二も?」
「ああ。彼等なりに、俺達の実力を疑っての配置……って所だな。まぁ会長に言われたからと言って、はい。そうですか。……とは行かないだろう。部活動紹介でやった模擬戦を見たからと言って、実際に手合わせをした訳じゃないからな。それにアレくらいの模擬戦、そこそこのレベルと実戦経験があれば出来ない事もないだろうからな」
あの場に居た連中なら、似た様な模擬戦は出来るだろう。裕二も柊さんも、かなり控えめにやってたからな。
しかし、会長の説明を否定しながらも俺達の参加を拒否しなかった以上、多分あの場に居た連中は俺達の実力を自分達に近しい若しくは若干劣る位……と判断しただろう。ただ、感情の面で納得は出来ないだろうけどな。ライバルグループと切磋琢磨し学校内でトップクラスの探索者に数えられるようになった自分達と、今まで碌な噂も無かったのにポッと出の俺達が同格だ……と言われても簡単には納得出来ないだろう。
だからこその、第1コーナーの入り口と言う配置。今一信用出来ない俺達には、一番重要度が低い場所を……と言った所だろうな。
「でもまぁ、楽と言えば楽な配置だから良いんじゃないか? 転倒した走者が飛んでこない事が、一番良い事なんだしさ」
「まぁ、それもそうだな」
第1コーナーの入り口付近なら、スタート直後であまり加速もしていないだろうから転倒する者はそういないだろうしな。
「お疲れ、九重、広瀬」
「ん? ああ重盛か、お疲れ」
「お疲れ」
着替えを終え教室に戻ってきた重盛が、俺の隣の席に座りながら声を掛けてきた。
「なぁなぁ、生徒会に呼ばれるなんてお前等、一体何をしたんだ?」
「何もしてないよ。明日の体育祭の事で、ちょっとしたお願いをされただけだ」
「ちょっとしたお願い、ね……」
重盛は俺の言葉を信じてないのか、疑う様な眼差しを向けてくる。何が言いたいんだよ。
「本当は、部活紹介の時の手合わせの件で呼ばれたんじゃないのか? お前等、結構派手にやってたし……」
「……違うよ」
「そうか? 今まで何の噂もなかった様な奴等が、いきなりあんな手合わせを見せたんだ。生徒会側としても、警戒の一つも見せるってもんじゃないのか?」
その言葉を聞き、俺は重盛が何を心配しているのか察した。ああ、成る程。確かに内情を知らなければ、端から見るとそう言う風に考えるか……。
俺は軽く息を吐いた後、重盛に少し内情を教える。
「生徒会には、創部許可を取る時にある程度俺達の探索者としての実績は伝えてあるから、その心配は無いよ。なぁ、裕二?」
「ああ。俺達がどう言う事を部活紹介のアピールでやるか、概要は事前に生徒会側に伝えていたからな。今回の呼び出しは、別件だよ」
「……そうか」
俺と裕二の説明を聞き、重盛は少し安心した様な表情を浮かべる。
「心配してくれてありがとうな、重盛」
「ありがとうな」
「……ふん」
俺と裕二は軽く手を上げながら重盛に礼を言うと、重盛は照れくさそうに視線を逸らした。
そんな重盛の姿を見ながら俺と裕二が苦笑を漏らしていると、教室の前扉からジャージ姿から何時ものカッチリした服装に戻った平坂先生が入って来る。先生も着替えたんだ……。
「HRを始めるぞ。お前等、自分の席に戻れ」
そして裕二と重盛は平坂先生の号令を聞き、俺に一言断りを入れ自分の席へと戻っていった。
特に大きな連絡事項もなくHRは終わり、俺達は美佳と沙織ちゃんと校門近くで待ち合わせをして帰路へとついた。その道すがら、美佳と沙織ちゃんは不機嫌そうな表情を浮かべながら、俺達に愚痴を漏らしてくる。
「もう聞いてるの、お兄ちゃん!?」
「はいはい、聞いてるよ」
「ほんとあの連中ときたら、グチグチと嫌みたらしく……!」
美佳は憤りに震える声で、部活動紹介のアピールをした後の後藤グループの様子を訴えてくる。
何でも部活動紹介を終え応援席に帰ると、後藤グループの連中が早速突っかかってきたそうだ。と言っても、裕二と柊さんの手合わせを見た直後と言う事もあり、直接手を出してくる事は無かったらしい。まぁ俺達と言う明らかに格上の存在が後ろ盾にいるとハッキリしている以上、幾ら1年生の間で幅を効かせているとは言っても迂闊に手は出せないよな。
だがその分、色々と嫌みを言われたらしい。
「大体、誰が寄生探索者よ! 自分達は後藤君に負んぶに抱っこでレベル上げして、武器や防具の入手だって後藤君頼りだった癖に! ねっ、沙織ちゃん!」
「うん。確かに私達もダンジョン探索はお兄さん達に頼ってるけど、武器や防具は自分でお金を稼いで入手したし、武器の扱いも重蔵さんとの稽古で覚えたもんね。全部後藤君任せのアイツらに、私達が貶される謂われはないよ」
「うんうん!」
鼻息を荒くしながら美佳は沙織ちゃんの言葉に大きく頭を縦に振り、その後胸の中に貯まった物を大きな溜息とともに吐き出していた。余程、後藤グループの態度が腹に据えかねていたんだな。
そんな2人をどうやって宥めるかな……と言った眼差しで眺めながら、俺は2人の話を聞いた上で疑問に思った事を聞いてみる事にした。
「なぁ、美佳? 取り巻きの連中の様子は大体分かったけど、問題の後藤君本人は何かしてこなかったのか?」
「えっ? そう言えば後藤君、自分じゃ絡んでこなかったな……。沙織ちゃんは、後藤君に何か言われた?」
「ううん。後藤君、私達の事を忌々しそうな目では見てきたけど、結局最後まで何も言ってこなかったよ。寧ろどちらかと言うと、取り巻きの人達と私達のやりとりをハラハラしながら見守っていた……って感じだったかな?」
どうやら後藤君、それなりに勘は良いらしい。自尊心が強そうに見えたけど、裕二と柊さんの手合わせを見て自分じゃ相手にならないって感じ取ったようだな。大怪我をした経験から来る本能だろうか? 美佳達と争うと俺達が出張ってくるかもしれないからと、敵対する事は避けているって所かな?
この分なら口で嫌みは言って来るかもしれないけど、直接美佳達を害する様な行動には出ないかもしれない。勿論、後藤君が取り巻き連中の手綱を握れていればの話だけど……。
「そっか。じゃぁ美佳達には悪いけど、暫くは我慢して貰って様子見って所だな」
「……そうだな。このまま連中が大人しくなってくれるのなら、態々敵対する必要は無いからな」
「そうね……。ごめんね、美佳ちゃん沙織ちゃん。暫く不快な思いをする事になるかもしれないけど、我慢して貰えるかしら? 勿論、相談は何時でも受けるからね」
俺達3人は申し訳ないと言った表情を浮かべながら、暫くの間我慢を強いる事になる美佳と沙織ちゃんに頭を下げる。直接的な害は無くとも、嫌みを言われ続けるのはかなり精神的にキツいからな。
すると美佳と沙織ちゃんは顔を見合わせた後、頭を左右に振りながら声を掛けてくる。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。元々こう言う事になるかもとは思っていたから、気にしないで」
「そうですよ。それに直接手を出してこないだけ、思っていたよりマシな展開ですよ」
美佳と沙織ちゃんは覚悟を決めた眼差しで、俺達に向けそう言った。
そうだったな。美佳も沙織ちゃんも、その辺のリスクは覚悟の上でこの話に乗ったんだった。でも……。
「そっか……。でも2人とも、辛くなったり危ないと思ったら直ぐに俺達に話してくれよ? 絶対、何とかしてやるからさ。なっ、裕二、柊さん?」
「ああ、そうだな。何時でも声を掛けてくれ。いざとなったら、俺達が直接出向いて話を付けるからさ」
「そうね。出来るだけ穏便に事を収めたいとは思うけど、美佳ちゃんや沙織ちゃんに怪我をさせてまで穏便に済ませるつもりは無いわ」
俺達が不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、美佳と沙織ちゃんは若干引き攣った様な表情を浮かべながら頭をカクカクと上下に振った。
後藤君とその取り巻き連中の出方次第だけど、話し合いがお話し合いにならない事を祈ろう。まぁもし、お話し合いをする事になったら、手加減はするつもりはないけどな。
「う、うん。も、もしもの時はお願いするね……」
「で、でも。出来るだけ、穏便にお願いしますね?」
「「「ああ(ええ)、任せてくれ(ちょうだい)」」」
俺達の返事を聞き、美佳と沙織ちゃんは何かを決意した様な表情を浮かべながら溜息を漏らした。
いよいよ次回、体育祭本番です。
そして、後藤君はギリギリの所で踏み止まったようですが、仲間に足を引っ張られそうな予感が……。




