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第16話 パーティーを強化しようと思ったんだけど

お気に入り6070超、PV867000超、ジャンル別日刊7位、応援有難うございます。

 

 

 

 

  

  

 秘密の暴露を終え、少し胸のつっかえが取れた俺はお茶を飲みながら二人が落ち着くのを待った。二人は卓袱台に突っ伏しながら、頭の中を整理している様だ。

 申し訳ない事をしたが、何とか自分の中で折り合いを付けてもらうしかない。

 

「まぁ、色々言いたい事はあるだろうけど、ダンジョンに行くのなら、二人にはやっておいて欲しい事があるんだけど……」


 二人が折り合いを付けた所を見計らい、俺は許可試験を受けた時から考えていた提案をする。

 

「ダンジョンへ行く前に、ここでレベル上げをしてからにしない?」

「「えっ?」」


 命懸けのダンジョン探索だ、安全マージンを確保する為にもレベル上げはして置いた方が良い。ここのダンジョンを使えば、安全にレベルが上げられるからな。


「幸か不幸か、このダンジョンに出現するモンスターは全てスライムなんだ。さっきも見て貰った様に、スライムは塩を使えば大した労もなく倒せるから、数をこなせばレベルは確実に上げられるよ。現に俺も、スライム討伐で結構レベルを上げているからね」

 

 二人の疑いの篭った視線が俺に向けられる。いや、そんなに疑わなくても……。

 

「大樹、その話は本当か?ちょっと信じがたいんだが……」

「私も」

「講習でもダンジョンには多種多様なモンスターが生息しているって言っていたぞ?」

「単一種のモンスターしか出ないダンジョンだなんて」

「まぁ、そうは思うだろうけど」


 本当にスライムしか出てこないんだよ、このダンジョン。通常のスライムの他に、大きさや属性の違う派生型の様な奴は出てくるけど、スライム種以外がダンジョンに出てきた事は一度もないんだ。


「俺が自分で半年間毎日観察し続けた結果、本当にスライムしか出現していないんだよ」

 

 俺が二人の目を見ながら、嘘偽りがない事を訴える。

 

「……」

「……」

「……」


 沈黙が痛い。本当の事を言ってはいるが、中々信じて貰えないであろう事は俺も認識している。しかし、信じて貰わないと話が進まない。


「……本当の様だな」

「……ええ」

 

 ふう。どうやら信じてくれたようだ。安堵の息を漏らしながら、俺は胸をなでおろす。

 

「信じて貰えて良かった。じゃぁ、早速始めようか」


 俺達は卓袱台から立ち上がり、塩の入った段ボールから幾つかの小分けした袋と計量カップ、スプーンを取り出し机へ移動する。  

 

「今度は二人にやって貰うよ。EXPはモンスターを倒した人にだけ入るシステムみたいだから、二人にモンスターを直接倒してもらう必要があるんだ。ああ、心配しないで。塩をかけるだけの簡単な作業だから、簡単な……」

 

 どうも、気が滅入る。半年間毎日続けてきた事なのだが、やっていた事を改めて認識すると……。 

 便利な効果がある称号だと思っていたスライム族の天敵と言う称号も、今となっては大量虐殺をした罪科のようなに感じる物だ。

 俺が話の途中で突然落ち込んだ事に、二人は何とも言えない表情を浮かべていた。


「……まっ、取り敢えずやってみよう。大樹、塩をくれ」

「あっ、うん」


 俺は引き出しを開け、ダンジョンの中に鎮座するスライムを確認する。どうやらノーマルタイプのスライムのようだ。


「あのタイプなら、スプーン一杯分もあれば大丈夫だな。はい」


 俺は計量スプーンに塩を盛り、裕二に手渡す。計量スプーンを受け取った裕二は、俺が渡した塩の量に不安そうな顔を浮かべる。


「……おい。本当にこれっぽっちで大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。ここ半年で色々統計を取った結果、あのタイプのスライムにはこれ位の量で十分。安全率も入れた上で、その量が適量だよ」

「……そうか」

「ほら早く」 

 

 今一腑に落ないと言う表情を浮かべる裕二の背中を軽く押し、引き出しの前へ押し出す。

 裕二も覚悟を決めたのか、計量スプーンをダンジョンに鎮座する引き出しの上に移動させ、スライム目掛けて計量スプーンを一気に傾けた。塩がスライムに触れると、すぐに効果が出る。スライムは苦しそうに伸縮を繰り返しのたうち回り始め、次第にその体積を減らしていく。体の体積が元の半分を下回ろうとした時、中心部にあった黒い球体が砕け散り光の粒子となってスライムは消滅した。


「な?簡単だったろ?」

「あっ、ああそうだな。だが、これは……」

「……簡単過ぎる、だろ?」

「……」


 俺の問いに、裕二は生唾を飲み込みながら無言で頷く。俺は未だ引き出しの中のダンジョンを凝視している裕二を横に押しのけ、机の引き出しを一旦閉め、再び開く。

 消えた筈のスライムが再び出現している事に気が付いた裕二は、目を見開き絶句している。俺はその事には構わず、引き出しの中を覗き込み中のスライムを確認した。


「げっ……上位グレータータイプ」


 ダンジョンの中に出現した新しいスライムは通常タイプの5倍ほどの大きさ、ビーズクッションサイズのスライムだ。藍色の体をウネラセ伸び縮みさせ、形を自在に変えていた。

 俺は一歩離れていた柊さんに手招きをし、引き出しの中のグレータースライムを見せる。

 

「……何あれ?さっき見たのより、かなり大きいみたいだけど?」

「グレータースライム。さっき裕二が倒したノーマルタイプの上位種だよ。属性は持っていないけど、ノーマルタイプ以上の物理耐性持ちだよ。滅多に出て来ない上位種なんだけどね」

「グレータースライム……」


 柊さんは俺の言葉を繰り返すように口ずさみながら、グレータースライムを見続ける。俺はその間に、グレータースライムを倒すのに必要な量の塩を計量カップに移していた。


「はい、柊さん」

「……こんなに?広瀬くんの時とは量が違いすぎない?」


 計量カップ一杯に入った塩を受け取り、柊さんは困惑気味に俺に量が間違っていないか確認してくる。いや、まぁ……確実性を取るとそれ位の量になるんだよね。


「スライム族にとって塩は致命傷になる物質だけど、種類毎に致死量が変わってくるんだよ。グレータークラスだと、最低でもこれ位はかけないと」

「そう」


 俺の説明を聞き終わった柊さんは、躊躇する事無くグレータースライム目掛けて計量カップを一気に傾けた。塩の塊の直撃を受けたグレータースライムは一瞬体を震わせた後、体を伸縮させ苦しみながら体の体積を減らしていく。元の体積を半分ほどに減らしたあたりで、グレータースライムは砕け散り姿を消す。

 そして、スライムが消えたダンジョンの床には、拳大のコアクリスタルが転がっていた。


「……これは、ダメね」

「……簡単過ぎるから?」

「ええ。九重君がこのダンジョンの事を、自分でどうにか出来るって思う様になった筈だわ」


 柊さんは難しい表情を浮かべ俺を見つめる。


「九重君。あなたの安全マージンを作る為に、このダンジョンを使ってレベルを上げると言う提案には乗るわ。だけど、最低限のレベル上げを終えたらココを使うのはやめましょう」

「……柊さん?」

「このダンジョンは言ってみれば、チュートリアルダンジョンよ。何でこのダンジョンが九重君の部屋に出現したかは分からないけど、このダンジョンは余り使わない方が良いわ」

「……俺もそう思うぞ、大樹」

「柊さん、裕二」

  

 二人の提案に俺は困惑した。ここで上げられるだけレベル上げしておけば、安全マージンは確保出来るというのに、何故と。 


「確かにこのダンジョンを使ってレベルを上げれば、安全は確保出来るでしょうけど、代わりに私達の認識がドンドンズレて行くわ。新人探索者が普通あのレベルのモンスターを倒せる様になるのに、どれ位の期間がかると思う?絶対に2,3ヶ月では足りないわよ?」

「……大樹。実技講習の時、トラップを全て回避して出て来られたのも、このダンジョンを使った成果による物だったのか?」

「あ、ああ」


 裕二の質問に俺が吃りながら答えると、裕二はこれみよがしに溜息を吐いた。


「……お前、もう認識がズレてるぞ。あのトラップ実習はな、受講生が時間以内にクリア出来る様な難易度の物じゃないんだぞ?」

「え?」

「え?じゃない。え?じゃ。あんな複合トラップの巣窟を、何の訓練もした事がない一般人が突破出来るか!? 単純に身体能力が高かったとしても無理だ! トラップに関する知識があって、専門の訓練を受けた事が無ければクリア出来るか!」


 裕二の反応を見る限り、どうやら柊さんの言っている事は正しいようだ。

 言われてみて、改めてあの時の事を思い出せば確かに、俺の行動はズレているとしか表現出来ないな。解析鑑定スキルを用いてトラップの全てを看破していたからこそ、レベルアップで向上した身体能力任せで時間内に突破出来た……出来てしまった。

 うん、ヤバイな。あの時の俺は、悪目立ちするだけだと思ったけど、悪目立ちどころの問題じゃない。その筋の人間じゃないか、協会に目を付けられている可能性も出てきた。 

 俺が顔色を悪くしていると、柊さんが追い討ち気味に話しかけてくる。


「……使い続けるのは不味いと思わない?」

「……そう、だね」


 素直に同意するしかない。

 恐らく、このままの感覚でダンジョンに行けば実技講習時以上に悪目立ちしてしまう可能性がある。裕二や柊さんに許可試験の受講を誘われた時、積極的に反対しなかった理由の一つにモンスターを脅威に思わなかった事もある。

 危険を危険と感じられなくなるなんて、慢心以外の何者でもない。

 

「最低限のレベル上げを終えたら、普通のダンジョンへ行きましょうね?」

「あっ、はい」


 有無を言わさない、柊さんの凄みが効いた笑みに、俺は白旗を揚げた。

 いや、だって本当に怖いんだよ?今の柊さんって。裕二だって柊さんの後ろで、雰囲気に押されて思わず後ずさってるしさ。


「広瀬くんも良いわね?」

「あっ、ああ、問題ない。元々このままダンジョンへ行くつもりだったしな」

「そう。それは良かったわ」


 柊さんの鋭い眼差しに気圧された裕二は、吃りながら柊さんの提案に同意した。

 そして、裕二の同意を得た柊さんは再び俺の方を向き、俺の両肩に手を置き……。


「九重君……ダンジョン関係で他に秘密にしている事があるのならば、今のうちに全て吐きなさい」

「……はい」

 

 この後、俺は柊さんによって、洗い浚いダンジョンに関する情報を吐かされた。なぁおい、裕二。見てないで助けろよ。えっ、無理?まぁ、そうだよな、うん。

 ……女の子って怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、学校の終わった二人は放課後に毎日家に寄る様になり、俺の日課になっているスライム潰しに参加するようになった。毎日数時間、引き出しの扉を開け閉めしながらスライム目掛けて塩を振り掛け続ける虐殺と言う名の作業に。一度俺が行ってデータを揃えていたと言う事もあり、二人のパワーレベリングは極めて効率的に進んだ。

 二人に秘密を暴露した日に、予めネットで追加発注しておいた塩を出現するスライムに応じ適切な量を使って次々と倒して行く。俺の時の様にスライムの致死量を探る為の試行錯誤をする必要がないので、手早く進むスライム討伐で出現するドロップアイテムは、柊さんに吐かされた念力スキルと空間収納スキルをフル活用して回収していたのだが量が多く空間収納の許容量ギリギリまでに迫った。どう処分すれば良いんだよ、これ。はぁ……。

 そして、レベルがそこそこ上がった時、空間収納に仕舞っておいたスキルスクロールを取り出し二人に見せて選んで貰った。

 

 

 名前:広瀬裕二

 年齢:16歳

 性別:男

 職業:学生

 レベル:25

 スキル:身体能力強化〔P〕7/10・知覚鋭敏化〔P〕4/10・高速思考〔P〕3/10・斥力鎧〔A〕1/10

 HP:255/255

 EP:10/130


 

 名前:柊雪乃

 年齢:16歳

 性別:女

 職業:学生

 レベル:27

 スキル:身体能力強化〔P〕4/10・気配感知〔A〕2/10・気配隠蔽〔A〕2/10・風魔法〔A〕1/10

 HP:255/275

 EP:100/140

 

 

 裕二が前衛、柊さんが中衛、俺が後衛と言った形で自然と纏まった。

 俺の解析鑑定スキルでスキルスクロールの詳細が分かっていた事もスキル決めの時に役だち、EPリソースを無駄に消費した歪なスキルを構築せずに済んだ。ある程度法則性が解明され始めているとは言え、ゲーム等と違い手引書など無いこの世界においてスキル決めは、探索者としての今後を大きく左右する大博打とも言える。

 まぁ、そんなこんなでバタバタと慌ただしい日々を過ごし、少しずつ準備を整えていた俺達はようやくダンジョンへ乗り込む準備を全て整えた。

 向かうは街から程近い山の麓に誕生したダンジョン。周辺都市圏に在住する探索者が集う、今一番ホットな場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

劇的レベルアップを期待されていたと思いますが、何事も程々が良いかなと……。

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