第196話 リハーサルも終わり……
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部活動対抗リレーのリハーサルが終わり、美佳達と別れ自分達の応援席に戻ると周りに座るクラスメイト達に袋叩きにされた。良い意味のだけど……。
「凄い演舞だったな、九重!広瀬!」
「何なんだよ、アレ! まるで漫画じゃないか!」
「いつの間に、あんな事が出来る様になったんだよ!」
皆、興味津々といった様子で、俺や裕二の背中や頭を叩きながら質問を浴びせてくる。
って、おい!? 今、俺の頭を思いっきり叩いたのは誰だ!? 座っている応援席の座面が、軋む音をたてたぞ!? 探索者じゃなかったら、首が折れてる威力だぞ!?
「ええぃっ!? 好い加減、鬱陶しい!? お前等、ちょっと離れろ!?」
あまりの集中攻撃具合に俺は大声で抗議の声を上げ、俺と裕二を叩き続けるクラスメイト達を散らしにかかる。模擬戦でちょっとやり過ぎたので、引かれるかもと心配していたが……この反応は想定外だった。
抗議の声に反応し叩いていた連中が素直に離れ、俺と裕二は軽く安堵の息をつく。
「で? あの演舞はどう言う事だ?」
「アレはダンジョンでのレベル上げと、練習の成果だよ!?」
一拍間を開け、皆の代表として重盛が質問をしてくる。
「練習って……あれ、随分本格的な武術系の演舞だったぞ? どんな練習をしたら出来る様になるんだよ……」
「裕二の実家がそれ系の家だから、今回の部活アピールでインパクトを残す為に皆で教えて貰ったんだよ!」
「それ系って……広瀬の実家って、道場か何かって事なのか?」
「ああ……言ってなかったか?」
「聞いてねえよ!?」
重盛は驚きの声を上げ、周りの連中も小さな声で囁き合いながら騒ぐ。あれ? 重盛には言ってなかったっけ? まぁ、聞かれなければ進んで言う様な話でもないしな。知らなくても可笑しくはないか……。
そして、俺は重盛やクラスメイト達が騒ぐのを横目に、チラリと柊さんの方に視線を送る。そこには先程の俺達と同じように、周りに座るクラスメイトの質問攻めにあう柊さんの姿があった。
「柊さん、凄い!」
「ねぇねぇ、柊さん! どうやったら、あんな風に動ける様になるの!?」
「雪乃! アンタ、何時の間にあんな事が出来る様になったのよ!?」
「ええっと……」
柊さんは困った様な表情を浮かべながら、丁寧に質問に答えていた。積極的にダンジョンに潜る女子も多いから、あれだけ派手な模擬戦を繰り広げた柊さんに興味津々と言ったところなんだろう。素人が我流で鍛えただけじゃ、あの模擬戦は出来ないからな。
と、そんな風に俺達が応援席で騒いでいると、突然運動場に連続で響く和太鼓の音が聞こえ始めた。
「ん? あっ、もう応援合戦の時間か……」
視線を入場門の方に向けると、太鼓の音に合わせ長い赤い鉢巻きを巻いた応援団長を先頭に応援団員達が入場してきた。どうやら、紅組から始める様だな。
俺は周りに集まっている重盛をはじめとしたクラスメイト達に視線を向け、怒られる前に早く元の場所に戻れと忠告する。すると、俺の視線に気づいたクラスメイト達は軽く目配せをし素早く元の席に戻っていった。
それぞれの組の応援合戦も終わり、リハーサルも午後のプログラムに移る。午後最初の種目は、組別職員対抗リレーだ。各組に属するクラスの担任教師が、自分の生徒達が座る応援席に向かって手を振りながらジャージ姿で入場門から登場する。
すると応援席に座る生徒達は、自分のクラス担任の名前を大声で叫ぶ。
「先生、がんばれ!」
「無理をして、怪我をしないで下さいよ!」
皆口々に、カラカイ混じりの声援を送る。先生達もにこやかに、そして軽く怒る様な素振りを交えながら生徒達からの声援に応えていく。
俺はそんな光景を見ながら、ふとした疑問を思い浮かべた。
「そう言えば……なぁ裕二?」
「ん? 何だ?」
「あの先生達の中にも、橋本先生みたいに探索者資格とった人っているんじゃないのかな?」
俺は思い浮かんだ疑問を、隣に座る裕二に問い掛けてみた。
「ああ確かに、その可能性はあるな。でも、探索者資格の有無で生徒達も出場種目を分けるんだ。探索者資格を持っている先生なら、辞退して出場はしないんじゃないか?」
「言われてみれば、そうだな……」
裕二の返事を聞き、それもそうかと俺も納得した。大人だもんな、そこら辺はちゃんと自重するよな……と。
そして職員達の入場が済むと、各組の第一走者がスタートラインに着く。因みに、職員レースは各組6人。第一走者は全員年老いた女性教師で、女男女男女男の順で走るらしい。
「位置について……用意……スタート!」
破裂音が響き、先生達が一斉に走り出す。うーん。何と言うか……遅い。頑張って走っているのは分かるのだが、遅いのだ。
だがそんな先生達の頑張って走る姿に、応援席からの声援の声は更に大きくなる。
「抜ける抜ける! あと少しだよ、先生頑張れ!」
「先生! 追いつかれますよ、早く早く!」
中々の接戦に、生徒達もヒートアップし声援に熱が籠もる。だが、コースを半周する頃には次第に各走者間の差が開いていく。最後尾の走者も荒い呼吸を繰り返しながら必死に走っているが、先頭の走者と最後尾の走者の間には15m程の差が出来ていた。
「ああっ……ダメか」
「先生、諦めるな!」
走者間の差を広げながらレースは進むが、第2コーナーを抜け最後の直線に差し掛かった所で先頭走者の直ぐ後ろにつけていた2番目の走者がラストスパートを掛ける。顔を赤く染めながら大きく腕を振り、必死の形相で先頭の後を追う。
そして、両者はゴールライン直前で横に並び……。
「ほぼ同着だな」
「ああ。って大丈夫か、アレ?」
裕二は心配気な眼差しで、ラストスパートを掛けゴールした後、四つん這いに倒れて息を整える教師を心配している。因みに俺は、あぁやっぱりあの先生、最後のラストスパートはかなり無理をしていたんだな。今日はリハーサルなんだから、無理しなくて良いのに……と思った。
そして、何とか呼吸を整えた先生は自分の列に戻り職員リレーのリハーサルは終了、生徒達の声援を浴びながら先生達は退場していく。
職員リレーの後、ダンスなどの団体競技や学年別対抗リレー、組別対抗リレーを行い、無事に予定時間内に閉会式を迎える。
そして俺達は開会式の時と同様、朝礼台の前に列を作って並んでいた。
「ではこれより、閉会式を始めます!」
閉会式の開始を告げるアナウンスが流れ、朝礼台に校長先生が立った。
「まずは皆さん、お疲れ様です。ええっ……」
校長は朝礼台のマイクの前に立ち、今回のリハーサルについての評価を語る。各競技での生徒の動きや、リハーサル進行のスムーズさなど。
「途中何度かヒヤッとする場面もありましたが、皆無事に怪我をする事もなくリハーサルを終える事が出来嬉しく思います。明日の本番でも怪我人が出ない様に安全には十分に気を配って、思い出に残る体育祭にして下さい。以上です」
校長は軽く一礼し、朝礼台を降りていった。
それにしても、最後にチクリと釘を刺してくるな。ヒヤッとする場面って、最初のリレーで転けた探索者の事を言っているんだろう。確かにアレが起きたのが、明日の体育祭本番だったら大惨事になっていた可能性もあるからな。校長のあの言葉は、ハシャギ過ぎずもう少し周りに気を配れって忠告しているのだろう。若しくは体育祭の実行委員や教員に、安全対策が不十分だから早急に対策をとれという指示だったのかもしれないな。
「続きまして、結果発表に移りたいと思います」
アナウンスが流れると、運動場に並ぶ生徒達の視線が数字の無いスコアボードが掲げられている校舎に集まる。
「紅組……123点!」
紅組の列から歓喜の声が上がり、スコアボードに点数が張り出される。
「続きまして青組……109点!」
数字がスコアボードに掲げられると青組の列からは落胆の溜息が響き、紅組の列からは歓喜の声が上がる。
「最後に白組……131点! よって、白組の優勝です!」
白組……俺達の列から盛大な歓喜の声が上がる。周りのクラスメイト達は諸手を挙げ喜び、互いにリハーサル優勝を称え合う。俺も周りの皆に合わせ優勝を喜ぶ歓喜の声を上げるが、リハーサルなんだからここまで喜ばなくても良いんじゃないかな……と内心思った。
そして白組が十秒程喜びの声を上げた後、表彰式に移るとのアナウンスが響き次第に大きな歓喜の声が収まっていく。
「白組の応援団長は、朝礼台に上がって下さい」
アナウンスの指示に従い、白組の応援団長が朝礼台に上る。
そして白紙の画用紙らしき紙を持った校長が朝礼台に上り、中央にあるマイクを挟んで応援団長と対面する。
「優勝おめでとう」
「ありがとうございます!」
校長から表彰状を受け取った応援団長は校長に軽く一礼した後、白紙の画用紙を俺達白組に見える様に掲げる。すると先程以上の大きな歓声が、白組の列から上がった。でも、白紙ってのは締まらないよな……。
そして表彰式も終わり、PTA代表と来賓代表の挨拶が行われた後……。
「以上を持ちまして、閉会式を終了します」
体育祭の通しリハーサルは無事に終わった。内容は大幅に省略しまくったが、明日の本番での動きは大まかには把握出来たのでやった意味はあったな。
そして運動場に並ぶ俺達が閉会式終了のアナウンスを聞きダレて姿勢を崩していると、アナウンスで新しい指示が出される。
「皆さん! この後の予定についての話がありますので、もう暫くその場に待機して下さい!」
そのアナウンスを聞いた生徒達は、列を大きく乱さない様にしながら周りの人と暇潰しに話し始めた。
その場で待機する事、2,3分。朝礼台に教員の一人が上り、ようやく新しい指示が出される、
「ああ、静かに! これから予定について話をするので、静かにする様に」
先生はそれだけ口にし、生徒達の間のざわめき声が消えるのをじっと待つ。
そして待つ事、1分弱。漸く運動場からざわめき声が消え、これからのスケジュールが発表される。
「それではまず、この後の予定についてだが……」
話を聞くと、取りあえず午前中の予定はこれで終了らしい。昼食休みを挟んだ後、各クラス毎に割り振られた体育祭の準備や清掃を行うとの事だ。割り振りは、午後の作業を始める前に各クラスの担任から伝えるらしい。
各組の決起集会は、各作業終了後に行うとの事。
「以上だ。では、解散」
解散指示がだされ生徒達は、直ぐに教室へ戻ろうとする者や、その場で友達と話をする者、別の組にいる友達に会いに行こうとする者等々、各々がバラバラに別れ動き出したせいで混沌とした人の流れが生まれ身動きが取りづらい。
俺は近くにいた裕二に、この後どうするか話しかける。
「なぁ、どうする裕二? 今から教室に戻るか?」
「もう少し、様子を見た方がよくないか? 今昇降口に行っても、大混雑しているだろうしな」
「そうだな……」
裕二に返事を返しながら、俺は視線を昇降口に向ける。そこには教室に戻ろうとして、昇降口に長蛇の列を作る多数の生徒の姿が見えた。
「あの列が半分ぐらいになるまでは、ここで待っていようぜ。今行っても、揉みくちゃにされるだけだしな」
「そうだな」
そして結局、昇降口の混乱を避け俺達が教室に戻り昼食に有り付けたのは、解散指示が出てから10分以上経ってからだった。
昼食休みも終わり、自分の席に座って午後からの作業指示を聞こうと待っていると、ジャージ姿の平坂先生が教室に入ってきた。
平坂先生は教壇に立つと、軽く室内を一瞥してから口を開く。
「まずは、リハーサルお疲れ様。思った以上に、盛り上がっていて安心したよ。まぁ、明日もこの調子で怪我をしない様に頑張ってくれ」
「「「「はい!」」」」
平坂先生の中々高評価なリハーサル評価に、皆で返事を返す。まぁ、探索者を分けたリレーなんかも、前評判にも関わらずそこそこ盛り上がってたしな。この調子で明日の本番も盛り上がれば、保護者や来賓からやる気が無いなんて評価は貰わずに済むだろうな。
「それじゃぁ、午後からの作業割り振りを発表するぞ。ウチのクラスの担当は、本部からみて左側の保護者席。その境目となる、トラックの外周に杭を打ってのロープを張り巡らせる事だ」
「「「「ええっ……」」」」
「文句を言うな、これも誰かがやらなくちゃいけない作業なんだからな。それに、これだけの人数で一度に作業すれば直ぐに終わるさ。あと、お前達の大半は探索者資格持ちだろ? グラウンドに杭を打つぐらい、軽い作業じゃないか……」
杭打ちとロープ張りと聞き、クラス中から面倒な作業に当たったと不満の声と溜息が漏れる。だが平坂先生の説得を聞き、言われてみれば簡単な作業かもしれないと思い直した。
そして教室の外の廊下から他のクラスの生徒が運動場に移動する声が聞こえ、仕方ないかと言った諦めにも似た納得する空気が教室に満ちる。
「よし。じゃぁ他のクラスも移動を始めた事だし、ウチのクラスも作業を始めるぞ。ほら、さっさと移動して作業を始めろ」
「「「「はーい」」」」
手を叩きながら告げられた平坂先生の号令を合図に従い皆、渋々と言った様子で動き出した。
だが……。
「ああ、そうそう。九重、広瀬、柊」
「はい? 何ですか?」
「お前達は別だ。今から、生徒会室の方に行ってくれ」
「はい? 生徒会室?」
皆と一緒のロープ張りに行こうとしていた俺達は、平坂先生にそう言われて呼び止められた。
でも、なんで生徒会室なんだ?
「何でも、体育祭の安全確保に関して頼みたい事があるらしい。取りあえず、話だけでも聞いてこい」
「は、はい……」
体育祭、安全確保……いやな予感がしてきたな。
無事、リハーサル終了です。
そして生徒会からの呼び出し……一体何を頼まれるのやら。




