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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第195話 文化系って一体……

お気に入り16090超、PV32540000超、ジャンル別日刊32位、応援ありがとうございます。


更新が遅れて、すみません。






 俺達が急いで元の位置に戻ると早速、第一レースの準備が始まる。今回のリハーサルでは各レースの第一走者だけが走るので、右端から6列。先頭に並ぶ生徒達が部活名が呼ばれるとともに、仲間の声援を受けながらスタート位置につく。

 この第一レースに出場するのは運動系の部活で、野球部・サッカー部・バスケ部・卓球部・陸上競技部・水泳部の6組だ。


「……皆、気合い入ってるな」


 俺はスタート位置につき、先程俺達が与えた衝撃から立ち直り大袈裟に手を振りながら、出走前のアピールする各部の部員達を見ながら感心する。気持ちの切り替えが早いな……と。

 すると、そんな俺の呟きを聞いた前に座る裕二が、半目で後ろを振り返りながら声をかけてくる。 


「まぁ、それはそうだろ。水泳や陸上なんかの個人競技に出場する選手がいる部はまだ辛うじて活動出来ているけど、他の運動系の部活は部員が足りなくて大体が活動停止中だからな。ここでアピールして、まだ探索者資格を取っていない1年生を勧誘しないと廃部の可能性も出てくるからな……」

「廃部か……」

 

 俺は裕二の話を聞き、確かにな……と同意する。既に幾つかの運動部は、去年の段階で部員がゼロになり廃部になっているからな。

 

「そうね。この先1年以上も公式の対外試合に出場出来ないとなると、残っている部員も諦めて部活を辞めるかもしれないわ」

「かもね。うちの学校、スポーツ特待はやってないからな。残ってる部員も辞めようと思ったら、簡単に辞められるしさ」


 振り向きながら話に参加してきた柊さんの言う様に、今目の前で必死に勧誘アピールしている部員達が辞めると廃部直行だからな。裕二の言うスポーツ特待制度を利用して入学していれば、辞めるに辞められないと言う事もあるんだろうが、うちの学校はそこまでスポーツに力を入れていない。残っている部員達は全員、普通の一般生徒だ。


「という事は、あのアピールの気合いの入り様は最後の頑張り……と言った物なのかもな」

「多分そうだろう。今回新入部員を獲得出来なかったら……諦めて辞める部員も出てくるだろうな」


 一人辞めたら、連鎖的に辞めていきそうだな……。

 そして、俺達がそんな話を小声でしている内に、第一レースのスタート準備が整った。スタートラインの横に立つ教員が、スターターピストルを持った腕を掲げ……。


「位置について。用意……スタート」


 破裂音が響くと同時に、第一走者達が一斉に飛び出す。横一線……と言いたい所だが、トップに躍り出たのはやはり陸上部。見事なスタートダッシュを決め、トップのまま第1コーナーに飛び込みジリジリと2位との差を広げていく。


「やっぱり陸上部は、スタートの加速の仕方が上手いな」

「ああ、そうだな」


 陸上部の第一走者はトップを維持したままコーナーを抜け、直線で一気に加速していく。そんな陸上部の後に続いて水泳部とサッカー部が抜きつ抜かれつの2位争いをし、野球部、バスケ部、卓球部と言う順で続く。

 そして、第一レースは、陸上部が2位以下を大きく離したまま、そのまま1位でゴール。2位は僅差でサッカー部、水泳部は惜しくも3位。4位はバスケ部で、5位は卓球部。野球部は走者が第2コーナーで転倒した為、6位という結果で終わった。


「野球部は残念だったな……」

「そうだな。あそこで走者が転けていなかったら、4位には成れただろうからな」

「でも彼がコーナーで転けたおかげで、応援席の応援は陸上部より野球部に集まってたわよ?」

「そうかもしれないね」


 柊さんの指摘に頷きながら、俺は頬を掻きつつ自分の元いた列に戻る走者達の姿を目で追っていた。

 野球部は体を張って笑いと注目を取りに行った……と言ったら良いのかな? その証拠に転倒し最下位でゴールした選手を、野球部の連中は責めるのではなく褒めているし、そんな姿を目にした他の部は上手くやったな……と言う視線を送ってるしさ。


「この部活対抗リレーは順位より、どれだけ応援席の注目を集めたかの勝負だからな。その視点で言えば、陸上部は試合に勝ったけど勝負で野球部に負けたって事になる。もしこれが明日の本番だったら、陸上部とサッカー部は決勝レースがあるから引き分け判定だろうけど……」

「今日はリハーサルだから、決勝レースはないしな。今日の所は、野球部の作戦勝ちだろう」

「だな」









 そんな風に俺達が第一レースについて話をしている内に、各部の第一走者がスタートラインに並び第二レースの出走準備が進んでいた。第二レースに出るのは柔道部、ダンス部、美術部、軽音部、吹奏楽部、茶道部の6つ。運動部2に文化部4の組み合わせだ。

 しかし、運動部の第一走者は非探索者の部員だが文化部の第一走者は探索者……運動部の2人に勝ち目はないだろ。一レースの出走者の割り振り上仕方ない事なのだろうが、良いのだろうか?


「去年の体育祭のリレーなら、この割り振りだと運動部が圧勝してたんだろうけどな……」

「まぁ、今年は逆の結果になるだろうさ。探索者じゃない運動部の部員達じゃ、勝ち目がないだろうよ」

「探索者の運動部参加は敬遠されているけど、文化部に関してはそんな縛りはないものね」


 柊さんの言う通りだ。公式試合に参加出来ないと知った運動部の探索者部員は次々と辞めていったが、運動能力を競う訳ではない文化部に探索者部員の公式大会出場禁止と言う縛りはない。

 そのせいか、運動部を辞めた探索者部員の一部は文化部に移籍し新しい楽しみを見いだしていた。


「となると、今スタートラインに立っている何人かは元運動部かもしれないね」

「その可能性は、なくもないな」


 俺達はスタートラインに並ぶ第一走者に、その辺の事情を伺う様な視線を送った。

 そして、そんな俺達の視線を気にもせず第二レースがスタートする。


「位置について……用意……スタート!」


 破裂音が響くと同時に、走者達は一斉に走り出した。だが開始早々、レースは大きく動く。最初の一歩を踏み出した時点で、柔道部とダンス部が置き去りにされたのだ。

 たった一歩。そのたった一歩で柔道部とダンス部は、先行する美術部、軽音楽部、吹奏楽部、茶道部に3m以上の差をつけられたのだ。


「たった一歩で、あの差か……」

「まぁ探索者と非探索者が一緒に走り出せば、ああなるわな……」

「どんどん差が開いていくわね……」


 レースが始まってまだ数秒しかたっていないのに、既に文化部と運動部の間には絶望的な差が出来ていた。柔道部とダンス部が第1コーナーの半ばを走っているのに、美術部、軽音楽部、吹奏楽部、茶道部は半周のラインを超えて抜きつ抜かれつの1位争いをしている。現在進行形で差が開き続けている以上、ここから柔道部とダンス部が逆転をするのはほぼほぼ不可能だろう。

 

「あっ、茶道部がスパートをかけた」

「他の部も慌てて追随してスパートを掛けてるみたいだけど、あの茶道部の部員……他の部の走者より数レベル高いみたいだな」

「そうね。少しずつだけど、差が広がってるわ」


 第2コーナーを抜けるまで団子状態だった集団から、茶道部の走者が絶妙なタイミングを見極め飛び出す。飛び出した茶道部の走者はジリジリと後続との差を広げながら一気にゴールラインを走り抜け、その直ぐ後を吹奏楽部、美術部、軽音楽部の順でゴールラインを潜った。

 だが……。


「先頭がゴールしたのに、柔道部とダンス部はようやく半周か……。やっぱり、探索者と非探索者を一緒に走らせたらダメだな」

「確かに。あの走者達も頑張って走ってるけど、やるせない雰囲気が滲み出てるもんな」

「人数が増えて混雑するでしょうけど、運動部は運動部の括りで第一レースに組み込んだ方が良いわよね」

「そうだね……」


 文化部が走り終えてもコースを走り続ける柔道部とダンス部に、応援席から諦めるなと励ます声援が響く。大差……どころでは無い差が出来ているが、柔道部とダンス部の走者は声援に後押しされ諦める事無く走り続ける。

 そして先にゴールした文化部に遅れる事十数秒、ダンス部、柔道部の順でゴールし第二レースは終了した。








 第二レースも終わり、いよいよ俺達にも出走順が回って来る。因みに、今日のリハーサルで走るのは沙織ちゃんだ。当初は俺達3人の内の誰かが走ろうかと思っていたのだが、アピールタイムで少々やり過ぎた感があったので急遽出走者を変更した。


「じゃぁ、行ってくるね」

「頑張ってね、沙織ちゃん!」

「うん」


 スタートラインに並ぼうと立ち上がった沙織ちゃんに、美佳が励ましの声を掛ける。変な緊張もしていない様なので、大丈夫そうだな。 

 だが取りあえず、一言声を掛けておこう。


「沙織ちゃん、無理はしなくて良いからね」

「まだ探索者を始めてそれほど経っていないんだ、他の部の走者に後れをとっても気にするな」

「そうよ、沙織ちゃん。他の部の走者は2,3年生が中心なんだから、無理をして転倒したりしない様にね」

「はい!」


 俺達の慰め混じりの激励を聞き、元気よく返事を返しながら沙織ちゃんはスタートラインに移動した。

 そして各部の走者が出そろい、第三レースの準備が整う。因みに、第三レースに出場するのはウチの同好会とパソコン同好会、演劇部、手芸部、放送部、調理部だ。


「沙織ちゃん、大丈夫かな……」

 

 スタートラインに2,3年生を中心に並ぶ中、沙織ちゃん1人が1年生と言う状況を美佳は心配げな眼差しで見守る。


「うーん、流石にあの面子相手に沙織ちゃんが勝つのは難しいかな?」

「流石に探索者を始めて一月程度の沙織ちゃんじゃ、技量は兎も角基礎レベルが足りないからな……」

「そうね……他の走者は大体レベル20前後はあると思うわ。レベル一桁の沙織ちゃんじゃ、付いてくのが精一杯でしょうね」

「ええっ……」


 俺達の呟きを聞き、美佳は不機嫌そうでありながら、どこか納得している様な表情を浮かべる。美佳も沙織ちゃんが勝てないであろうと言う事自体には気が付いているのだろうが、俺達が最初から負けると言っている事が気に入らない様だ。

 そして美佳が不機嫌そうな表情を浮かべながら抗議の声を上げようとすると、スタートラインの方からレース開始を促す教員の声が響いてきた。


「位置について……用意……スタート」


 破裂音が響き、走者が一斉に走り出し第3レースがスタートした。

 そして予想通り、第1コーナーを抜けると沙織ちゃんは集団から後れを取り出す。恐らく模擬戦などで戦えば、レベルが上の彼らが相手でも技量で勝る沙織ちゃんが勝てるんだろうけどね。やっぱり、こう言う競技だとレベルの差が顕著に出るな……。


「頑張れ、沙織ちゃん!」


 俺は必死に沙織ちゃんに応援の声を上げる美佳を見ながら、早めに2人のレベルを底上げさせようと思った。

 そしてレースは進み、第2コーナーに入る前に団子状態だった集団からトップに調理部が躍り出て後続を引き離していく。活動内容的に演劇部がトップに立つと思っていたのだが、予想外のところが出て来たな。

 

「調理部がトップか……意外だな」

「そうか? 俺は結構、妥当な結果だと思うぞ」

「妥当?」

「ああ。多分アイツら、部活で使う材料を自分達でダンジョンに行って調達してきてるんじゃないか?」

「あっ……」


 俺は裕二の言葉を聞き、ハッとした表情を浮かべ柊さんの顔を見る。そうだよな、調理部ならダンジョンに食材捕獲とかしに行っていても不思議は無いよな。柊さんのダンジョンに潜る理由も、最初はそれだったしね。

 しっかし、使う食材を部員が現地調達しに行く調理部か……随分アクティブな部活だよな。


「今回のリレーに出ている走者は、食材調達担当の連中なんじゃ無いか? 元運動部なら、最初っから調理部だった奴より動けるだろうからな。それに、定期的に食材を調達する為にダンジョンに潜っていれば、レベルも自然と高くなるだろうからな」

「ああ、成る程……」


 運動部で公式活動が出来なくなったから喰い気に走った……って所か? まぁ確かに最初の頃はダンジョン食材を扱ってた料理屋って、基本的に高級料理ばかりだったからな。只の高校生が気軽に食べに入れる程、手ごろではない。

 そんな話をしていると、柊さんが手を打ち合わせ何かを思い出す。


「そう言えば……ウチの調理部って高校生料理大会で入賞していたわね」

「と言う事は、材料さえ持ち込めばそこそこのレストランレベルの料理が食べられると言う事か……人気は出そうだな」

「ああ」


 食欲旺盛な高校生の胃袋をつかんだ結果、元運動部の有能な食材調達係を得られたって所か……。

 そしてレースは調理部がトップのままゴールし、演劇部、放送部、手芸部、パソコン同好会、ウチと言う順で終わった。


「お疲れ様!」

「お疲れ、沙織ちゃん」


 ゴールし列に戻ってきた沙織ちゃんに、俺達は労いの言葉を掛ける。


「はい。でも、すみません。ビリになっちゃって……」

「さっきも言ったけど、結果は気にしないで良いよ。別に何が何でも良い結果を残そうって、縋ってた訳じゃ無いからね」

「はい」


 そして第三レースも終わり、部活動対抗リレーは終了する。本来はこの後、各レースの上位2組参加による決勝レースがあるのだが、今回はリハーサルなので決勝レースは省略されこのまま退場する事になった。前半は少しやらかした感があるけど、後半のレースでそこそこのバランスは取れたと思う……取れていたら良いな。

 俺はそう思いながら応援席を一瞥し、アナウンスの指示に従い退場門からグラウンドを後にした。
















文化部と運動部の立場が逆転しています。まぁ文化部は運動部と違い、探索者部員が退部とかしていませんからね。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな調理部あったら入部してたろうなぁ
[良い点] 文化部の方がうごけるって、え、ダンジョンすげ〜
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