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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第194話 リハーサルでやらかす

お気に入り15970超、PV16660000超、ジャンル別日刊43位、応援ありがとうございます。


あけましておめでとうございます。今年も応援の程、よろしくお願いします。





 俺達が入場をする際、各部活を紹介するアナウンスが流れた。それに合わせ俺達は、応援席に向かって手を元気よく振り自分達の存在をアピールする。一応、部活紹介のアナウンスにあわせ応援席から歓声は上がってくるが、まだ知名度が小さいので歓声は疎らで小規模だ。

 まぁ、創部して1ヶ月も経ってないからな……こんな物か。


「他の部に向けられる歓声に比べると、俺達の部は少し寂しいな……」

「仕方ないわよ、広瀬君。私達の部は出来たばかりで、他の部に比べるとまだ全然知名度足りないんだから」


 前を歩く裕二と柊さんの会話が、歓声に掻き消される事なく俺の耳に届く。

 そして次の部の紹介アナウンスが始まり、歓声の矛先が後から入ってきた同好会の面々に移ると美佳は不満気な表情を浮かべながらポツリと心内を曝け出す。


「……誰も私達に注目しないね」

「そうだね。でも、今それを気にしてもしょうがないよ」

「……うん」

 

 慰める様な沙織ちゃんの言葉に、美佳は不承不承と行った様子で頷く。

 まぁ苦労して作った同好会なのに、全く生徒の注目を集めていないとなると美佳でなくとも不満は募るってものだ。もう少し、反応が欲しいよな。

 そして各部の入場が終わり、朝礼台の前に部活動紹介に参加する18団体の列が出来た。


「それではまず、5分間の部の活動アピールを行って貰います。アピール中に、他の部とぶつからない様に運動場全体に広がって下さい。では、散開!」


 アナウンスの散開指示に従い、各部が一斉に運動場に広がりアピールを始める。本部テント前付近に陣取り、教員や観客の注目を集め活動内容を周知させようとする文化部。各組の応援席側に陣取り、生徒達の注目を集め新入部員を得ようとする運動部。各部ともに、自分達のアピール目的に合わせ最適な場所をイチ早く確保していく。

 そして俺達はと言うと……1番人が少ない運動場中央部に陣取っていた。


「ねぇ、お兄ちゃん? 何で私達、運動場の真ん中でやるの? 生徒の注目を集めるなら、私達も応援席側でやった方がいいんじゃない?」

「そうですよ、お兄さん。後藤君達を牽制するなら、私達の組の応援席の前でやるのが一番ですよ……」


 俺達が運動場の真ん中に陣取った時、美佳と沙織ちゃんが不満を漏らした。まぁ二人にしたら、鬱陶しい輩に対する絶好の牽制チャンスだからな……。

 だけど……。


「いや。二人の言いたい事も分かるんだけど……アレ見てよ」

 

 俺は2人にそう言って、各組の応援席前を指差す。そこには、各組の応援席の前で各運動部が必死の様子で活動紹介兼新入生部員の勧誘活動を行っている姿があった。

 各部とも探索者資格を所有する部員が、公式試合には出られないからと根刮ぎ退部した為に存続の危機に立っているからだ。特にルールが定める1チームに必要な選手の定員をわり、活動休止しているサッカー部や野球部等は必死でアピールをしている。


「あんな中じゃ、俺達がやろうとしている事は出来ないだろ? 勿論、アイツ等を避けて手合わせする事ぐらいは簡単だけど、近くでやるとアピール妨害だとか言われそうで面倒だしな」

「「うっ……」」


 俺の言い分に美佳と沙織ちゃんは押し黙り、その様子を見て裕二と柊さんは苦笑を漏らした。

 そして軽く手を打合せながら、俺は4人に指示を出す。


「じゃぁ時間もないし、そろそろ始めようか?」

「そうだな。まだ何もやってないのは、俺達だけみたいだしな」

「そうね。じゃぁ広瀬君、お手柔らかにお願いね」

「任せて」


 裕二と柊さんは軽く言葉を交わした後、手合わせを始める為に俺達から少し距離を取り構えをとる。2人の間に、緊迫した空気が流れる。

 そして……。

 

「大樹、合図を頼む」

「了解。よーい……始め!」


 柏手の音が響くと同時に、裕二と柊さんが同時に動き間合いを詰める。まず最初に攻撃を繰り出したのは、裕二。グラウンドに靴の形が残るくらい強く踏み込ながら、右ストレートを柊さんの顔目掛けて繰り出す。風切り音を響かせる裕二の拳が真っ直ぐ飛んでくるも、柊さんは慌てる事なく裕二の右ストレートに右手の裏拳を当て軌道を逸らして躱し、直ぐに左のフックを裕二の脇腹に繰り出しカウンターを狙う。


「「あっ!」」


 美佳と沙織ちゃんはいきなり勝負がついたか?と思ったみたいたが、裕二は柊さんの左フックが脇腹に触れた瞬間、体を高速回転させ左フックの衝撃を完全に逃しながら左の肘打ちで柊さんの顳顬こめかみを狙う。だが、柊さんは前転気味に裕二の肘打ちを回避しながら左足の踵を掬い上げる様に振り上げ、肘打ちで開いた裕二の左脇を狙った。しかし、裕二は肘打ちが空振りに終わったとみた瞬間、即座に距離を取っていた為、柊さんの踵蹴りが裕二の体を捉える事は無い。

 そして一旦距離を取った2人は一瞬、互いに相手の次の出方を伺う素振りを見せるも即座に間合いを詰め激しい攻防を再開した。


「うん。張り切ってるな、2人とも……」

「「……」」


 俺は裕二と柊さんの、丁々発止の手合わせに感心する。2人の手合わせは見た目や響く音が派手だが、受け流しは完璧なので2人の受けるダメージは皆無だ。実際、何時もの稽古とは真逆に、ワザと踏み込む音を大きくしたり、攻撃では無駄に風きり音をたてるなど見栄えがする様に動いているしな。

 

「よし、2人はあのままで大丈夫だな。美佳、沙織ちゃん、じゃぁ俺達も手合わせを始めようか?」

「「……」」

「ん? どうしたんだ、2人とも? そんな顔をして?」


 裕二と柊さんは放っておいても大丈夫だと判断した俺は、美佳と沙織ちゃんに俺達も手合わせをしようと話し掛けたがふたりの浮かべる表情を見て戸惑う。2人が裕二と柊さんの手合わせを見て、目を開いて驚きの表情を浮かべていたからだ。

 あれ以上の手合わせ風景も、二人は道場で何度も見た事があるだろうに……。


「……ねぇ、お兄ちゃん? アレ、ちょっとやり過ぎなんじゃないかな?」

「……そうか? 確かに派手な音は出してるけど、手合わせの動き自体はそう大した物じゃないぞ? 最初の打ち合いだって、何度も練習した殺陣同然だったしな」

「そうかもしれないけど……ホラ」


 そう言って美佳は視線を俺の背後……応援席の方に向ける。俺は何があるんだ?と思いながら美佳の視線を追って首を回してみると、そこには目を見開き驚愕の表情を浮かべ動きを止めている運動部の面々がいた。

 ……あれっ?


「さっきから運動部の人達、裕二さんと雪乃さんの手合わせに釘付けだよ」

「お兄さん、中には何か諦めたような表情をしている人もいますよ?」

「……」


 あちゃぁ……この程度でもやり過ぎだったか。もしかしたら俺達、新入生が入部して部活動が再開する事に一抹の望みをかけていた人達にトドメを刺しちゃったかもしれないな。

 俺は一瞬、裕二と柊さんに手合わせを一旦中断する様に言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。今更2人の手合わせを止めても、手遅れだしな。 


「……まぁ、何だ? やっちゃった物は仕方ない、このまま予定通り続けよう。幸か不幸か運動部の注目が裕二と柊さんに集まったおかげで、応援席の生徒の注目は予想より集められたみたいだしね」

「う、うん。分かった……」


 応援席の前でアピールをしていた運動部の人達が動きを止め裕二と柊さんの手合わせに注目したお陰で、応援席に座る生徒達の視線も2人の手合わせに集まっている。無論、応援席に座る生徒の大半は探索者資格を有しそれなりに戦えるのだろうが、その殆どはダンジョンでモンスター相手に腕を磨いた我流の者ばかりだ。ちゃんとした武術の技術が下地にある同年代の2人の手合わせは、そんな彼らの興味を強く引いたようだ。

 俺は美佳と沙織ちゃんから少し距離を取り、構えを取らずに自然体で相対する。

  

「良し……掛かって来い」


 俺の手合わせ開始の声を聞き、美佳と沙織ちゃんは不安気な表情で顔を見合わせた後覚悟が決まったらしく、手を胸の高さまで持ち上げ半身に構えを取る。


「「……行くよ(ますよ)、お兄ちゃん!(さん!)」」


 そう言って動き始めた美佳と沙織ちゃんは、俺の左右に別れながらほぼ同じタイミングで間合いを詰めてきた。まだ探索者を始めたばかりの2人のレベルは低く、俺達の様な常人を遥かに超えた身体能力はないが、それでも五輪のゴールドメダリストクラスの身体能力はある。

 俺達の間にあった間合いは瞬く間に無くなり、美佳と沙織ちゃんは裕二や柊さんには及ばないまでも大きな踏み込み音をたてながら、助走の勢いを殺す事なく大きな風きり音を発する蹴りを俺の腹目掛けて繰り出してきた。俺は慌てず美佳と沙織ちゃんの繰り出してきた蹴り足を掴みとり、力の流れに逆らう事無くベクトルをズラしながら2人を宙に放り投げる。重蔵さんに習った、合気の一種だ。

 

「「っ!」」


 空中に放り投げられた事を瞬時に察した美佳と沙織ちゃんは冷静に姿勢を立て直し、地面に叩き付けられる事も無く足から着地し地面を数m滑って止まった。

 

「おいおい、2人とも……。いきなりフェイントも入れずに、真正面から分かり易い大ぶりの攻撃は頂けないぞ?」

「うん、そうみたいだね……」

「大体、今みたいな大振りの攻撃を決めたいのなら、小技やフェイントを繋げて、相手が攻撃を躱せない状況に持ち込んでから繰り出さないと、俺が今やってみせたみたいなカウンターを取られるぞ?」

「うん。でも……見栄えはしたでしょ?」


 俺の注意を聞きながら美佳は、イタズラが成功したと言いたげな笑みを浮かべながらはにかんだ。確かに美佳の言う通り、女の子2人が宙に放り投げられ滑りながら着地するという光景は見栄えする構図だよな。

 

「確かに、そうだな」

「じゃぁ、次行くよ!」

「おう」


 今度は美佳の後ろに沙織ちゃんが隠れる様につき、縦一直線に並んで俺に向かって来た。

 そしてまず美佳が、俺の顎目掛けて右フックを繰り出してくる。俺は軽く上体を逸らし美佳のフックを交わした後、目の前に伸びた美佳の腕を掴み再度放り投げようとしたのが……伸びた美佳の手は取らず右に左斜め後ろに軽く飛んで2人と距離を取った。

 何故なら美佳が攻撃を繰り出したのと同時に、美佳の後ろについていた沙織ちゃんが低い体勢で俺の左前に飛び出し、下段水平蹴りで俺の足を刈りに来たからだ。

 

「ああ、これでもダメか……」

 

 俺が沙織ちゃんの蹴りを簡単に回避したのを見て、美佳は少々やっぱり駄目だったか……と言った諦めた様な表情と、失敗した……と言った残念気な表情が入り混じった微妙な顔を浮かべている。沙織ちゃんも美佳と同じ様な表情を浮かべているが、俺を見据える目には力が残っており一矢報いてやろうと言う気概が見て取れた。まだ何か、策があるのかな?

 そして俺が美佳と沙織ちゃんの次の出方を窺っていると、アピールタイム終了のアナウンスが流れてきた。 

 

「時間です。各部はそれぞれのアピールを終了し、元の位置に戻って整列をして下さい。これより、部活対抗リレーを始めたいと思います」

 

 終了のアナウンスを聞いた各部の選手達、特に応援席の前でアピールをしていた運動部系の選手達は、白昼夢でも見たような表情を浮かべている。彼等は元の位置に戻る際、俺達……裕二と柊さんを警戒する様な眼差しで見ていた。


「お疲れ」

「お疲れ様」


 少し離れた場所で手合わせをしていた裕二と柊さんが、軽く手を掲げながら俺達の所に戻ってくる。あれだけ激しく動いて手合わせをしていたにも関わらず、2人の体操服は大して汚れてもいなかった。


「お疲れ、2人とも。随分派手な手合わせだったね?」

「まぁ、な。と言っても、普段出ない様に気を付けている音を出しただけなんだけどな?」

「重蔵さんにも、普段は音を立てるなって言われているものね」


 重蔵さん曰く、拳や蹴りを繰り出す時に発生する風きり音や、踏み込んだ足場を踏み砕くのは、力を無駄に浪費している証拠だと。その為、最近の俺達と重蔵さんの稽古では、攻防で発生する衝突音以外の動作音を消す様に気を付けている。と言っても、稽古中にこんな真似が出来る様になったのは、極々最近の事なんだけどな。今の俺達の技量では、強く意識して動いていないと直ぐに動作音が出る。

 重蔵さんが言う、無意識下でも戦闘時の動作音を消す事が出来る様になるのは何時になる事か……。


「あの、お兄さん? 手合わせの評価は後でする事にして、取り敢えず元の位置に整列しませんか? 他の部の大半は、もう整列していますし」

「えっ? ああ、そうだね。じゃあ皆、急いで移動しようか?」


 沙織ちゃんに指摘され辺りを見渡してみると、殆どの部が既に元の位置に戻っていたので、俺達は慌てて移動する。

 















部活アピールのリハーサルで、少々やらかしてしまいました。

派手な音や振動による演出って、内容がショボかったとしても結構強い印象を残させますからね。

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