表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
214/636

第191話 リハーサル開始

お気に入り15790超、PV16170000超、ジャンル別日刊30位、応援ありがとうございます。





 朝食を済ませ美佳と一緒に学校に登校すると、校内の雰囲気が普段と些か違っていた。耳を澄ませてみると、運動場から気合が入っているらしい応援団の声出し練習の声が聞こえてくる。

 俺は美佳と昇降口で別れ自分の教室へ向かう道すがら、廊下でスレ違う生徒の内の多くが既に体操服に着替えていることに気がついた。どうやら皆、何時もより少し早めに登校して着替えを済ませているらしい。


「おはよう」 


 教室の後ろの扉から朝の挨拶の声をかけながら教室に入ると、そこには何時もこの時間にいる人数より少ない数の体操服に着替えたクラスメイトが椅子に座って雑談をしていた。 


「……アレ? コレだけ?」


 俺が思わず教室に居る人数の少なさに疑問の声を上げると、入口の近くの席に座っていた女子生徒が振り向きながら事情を教えてくれた。


「ほら、九重君。アレよ、アレ」

「アレ?」


 女子生徒が指さす先……教室前方の黒板を見ると、チョークでとある指示が書かれていた。


「ああなる程……2年男子は視聴覚室、女子は被服室で体操服に着替えておくように、か。そう言えばそうだったね。なる程、だからこんなに教室にいる人が少ないんだな」


 1年ぶりなので、忘れていた。普段の体育の時は着替える時にそれぞれ男子更衣室女子更衣室を使うのだが、体育祭などの一斉に着替える必要があるイベントの時は特別教室を更衣室替わりに使うんだったな。


「そう言う事よ。だから九重君も、HRに遅れない様に早く着替えて来た方がいいわよ」

「そうだね。教えてくれてありがとう」


 俺は女子生徒にお礼を言った後、自分の机に通学バッグを置き体操服が入った布袋を取り出す。余計な荷物は邪魔だからな。

 そして制服の上着を脱いで椅子の背凭れに掛けた後、2年男子の更衣室に指定されている視聴覚室へ移動を始めた。さて、どれくらい混んでるんだろうな?







 視聴覚室に到着すると、既に教室の中は着替える生徒で一杯になっていた。どうやら俺は、出遅れたらしい。取り敢えず俺は、少し背伸びをして視聴覚室の中を見回す。どこか着替えられそうな空いているスペースは……っと、あった。

 視聴覚室の後ろ、資料が保管されているスチールロッカーが並べられているスペースの一角に、どうにか着替えられそうな場所を見つけ、俺は他の誰かに場所を取られない様にと急いで混み合う人の隙間を潜って移動する。


「ふぅ……、何とか場所取り成功」


 俺は、背の低いスチールロッカーの上に体操服が入った布袋を置き、着替え場所を無事確保出来た事に安堵の息をついた。しっかし……むさっ苦しいよな、ここ。いくら普通の教室より広い特別教室とは言え、これだけ人が集まると息苦しいな。

 俺はすし詰めの部屋で体操服に着替える周囲の男達を一瞥し眉を顰めた後、気持ちを切り替え無言で手早く着替えを始めた。


「……ふぅ。さて、教室に帰るか」


 体操服に着替え終えた俺は壁に掛かった時計で時間を確認し、着替えた制服を布袋に詰め人混みを掻き分けながら視聴覚教室を出る。その際、入口の近くのテーブルに荷物を置き体操服に着替えようとしている重盛の姿が目に入ったので、俺は軽い調子で声をかけた。


「よう、重盛。おはよう」

「ん? ああ九重か、おはよう。もう着替えたんだな……」

「ああ」


 重盛は俺の体操着姿を見て、若干疲れた様子で小さく溜息をついた。 

 ん? どうしたんだ?


「どうした?」

「いや、ちょっと場所取りに手間取ってな。もう少し早く登校してればよかったな、ってさ」

「ああ、なる程……」


 俺は重盛の漏らした愚痴を聞き、視聴覚教室の中を見回した。俺が着替え始めた時より、明らかに視聴覚室の中にいる人の数が増えている。中には床に通学バッグを置いて体操服に着替えようとしている人もいるので、明らかに部屋の許容量をオーバーしているっぽいよな。

 時間的に見ると今が一番登校者……更衣室の利用者が多い時間か。


「まぁ、何だ? HRの開始時間に遅れないようにな?」

「ああ、分かってるよ」

「そっか。じゃぁ、俺はもう行くな」

「おう。また後でな」


 着替えを再開した重盛との雑談を辞め、俺は視聴覚室を後にした。明日はもう少し早めに登校して、余裕を持って着替えるか。

 







 着替えを終えた俺が教室に戻ると、既に半分程の席が体操服姿のクラスメート達で埋まっていた。教室の中を軽く見回してみたが、裕二と柊さんの姿はまだない。どうやら2人は、着替え途中らしいな。

 俺は自分の席に座り、布袋に仕舞った制服を取り出し畳み直す。急いで視聴覚室を出たから、適当に袋に突っ込んできたからな。今の内に綺麗に畳み直しておかないと、直ぐ服にシワが残る。

 

「おはよう大樹、先に体操服に着替え終わってたんだな」

「ん? ああ、裕二か……おはよう」


 制服を畳み直していると背後から声を掛けられたので振り向くと、そこには体操服に着替えた裕二が通学バッグを持って立っていた。どうやら裕二は先に視聴覚室に直行して、体操服に着替えてきたらしい。


「それにしても裕二、良く教室に来なくて更衣室の場所分かったな?」

「ん? 何言ってんだ、大樹? 更衣室の場所なら、昇降口の掲示板に貼り紙が貼り出されてたぞ?」

「えっ?」

「気付かなかったのか?」

「あ、ああ。そっか……昇降口の掲示板に、な」


 俺は軽く後頭部を掻きながら、気恥ずかし気に裕二から視線を逸らした。

 あちゃぁ……気が付かなかったな。昇降口の掲示板なんて、滅多に目を通さないからな……気を付けよう。

 

「でもまぁ、俺も掲示板の前に人集りが出来てなかったら気が付いていなかっただろうな」

「人集り?」

 

 あれ? 俺が昇降口を上がった時には、そんな人集りは無かったぞ? ああもしかしたら、俺が上に上がった後に誰かが掲示板の貼り出しを見つけて、それに釣られて人集りが出来たのかもしれないな。

 その人集りがもう少し早く出来てくれていれば、俺も教室に来る前に貼り紙の存在に気付いてたのに。


「そこそこの人集りだったぞ。大樹が登校した時には、あの人集り無かったのか?」

「ああ。そっか……昇降口の掲示板に貼り出してあったんだな」

「まぁどっちにしても、体操服に着替えられたんだから別にどっちでも良いんじゃないか?」

「まぁ、そうなんだけどな」


 遅刻ギリギリで駆け込みでもしない限り、別にどっちの貼り紙を見ても問題ない。

 俺はそう結論づけながら、畳み直した制服を布袋に入れて通学バッグに仕舞った。


「ああ、そうだ裕二」

「ん? 何だ?」


 自分の席に荷物を置き戻ってきた裕二に、俺は声をかける。 


「もしさ、今日のリハーサルの時に部活紹介アピールをする事になったら、どこまでやるか決めておかないか? 多分小道具類は使わないだろうけど、アピール場所の位置決めぐらいはするだろうしさ。その流れで……って事もあるし」

「ああ、そう言う事か。そうだな。確かにその時の為にも、ある程度事前に決めておいた方が良いだろうな」

「だろ? 俺としては、軽い手合わせ程度でお茶を濁そうかと思ってるんだけど……裕二はどうだ?」

「俺もそれで良いと思うぞ? そう言う流れになった時に、何もしないってのもアレだしな。かと言って、あまり派手なのも、本番の時の印象が薄れそうだし……今日やるのなら軽い手合わせでお茶を濁すのが無難だろう」


 裕二も俺の提案に賛成らしく、もしリハーサルでアピール練習をやるのなら軽い手合わせをするという事で話は一致した。

 ああそうだ、念の為に……。


「一応言っておくけど、裕二。この前の被服室でした手合わせの時みたいな攻撃は、リハーサルではやるなよ? アレ、結構痛かったんだからな?」

「ああ、勿論しないよ。あの時は悪かったな、大樹。あの時は、ちょっと気が立ってたんだよ……」

「まぁ分からないでもないけど、とりあえず頼むな」

「おう」


 裕二の表情が苦々しいものに変わり始めたので、軽く一言注意してこの話は終わりにする。あまり長々とすると、リハーサルの手合わせ中に不幸な偶然が起きるかも知れないからな。

 何事も、引き際を弁える事は肝心だ。








 暫く裕二と雑談をしていると、何時の間にか時間が過ぎており教室の前の入口からジャージ姿の平坂先生が入ってきた。

 

「おーい。お前ら、席に着け。HRを始めるぞ」


 平坂先生の注意を切っ掛けに、席を離れて喋っていた生徒達が自分の席へと戻っていく。

 そして生徒達が全員自分の席に戻ったことを確認し、平坂先生は朝礼を済ませ話を始める。


「さて。今日は知っての通り、体育祭の通しリハーサルだ。直前になって色々と変更があって戸惑ったこともあるだろうが、明日の本番を成功させる為にも確り手順を確認するように。特に、自分の出場種目の時に集合に遅れるなよ」

「「「はい!」」」

「それと、通しリハーサルは午前中で終了する予定だが、午後からは会場設営や使用器具出し、各組別の決起集会なんかもあるから気を抜かないように。全体的に体育祭に対するやる気が薄い生徒が多いが、直前で怪我をして体育祭を一日中見学するなんて事になったらカッコ悪いからな」


 平坂先生の忠告に、話を聞いていた生徒達の間から小さな苦笑いがもれる。体育祭に向けるやる気が薄い事は、生徒達が一番自覚している事だからな。

 平坂先生はそんな教室内の雰囲気を察し、軽く咳払いを入れ話を締めにかかる。


「さて。取り敢えず、他に連絡事項も特に無いのでHRはこれで終わりにしよう。リハーサルはこの後直ぐに始まるから、皆遅れない様に運動場に移動するように」


 廊下からHRを終え運動場に移動を始めた生徒の足音を耳にし、平坂先生は最後の締めの声をかけた。


「……日直」

「起立、礼」

「「「「ありがとうございました」」」」


 日直の挨拶で生徒が一斉に礼をするのを確認し、平坂先生は足早に教室を出て行った。さて、頑張るか。







 ほぼ同じタイミングでHRを終えた生徒が集中し混雑する昇降口を抜け運動場に出ると、既に運動場には体操服姿の生徒が大勢いた。

 

「昇降口はかなり混んでいたけど、もう結構な数が運動場に出てきているな……」

「まぁ何時までも教室に残っていても仕方ないからな、結局出て来ないといけないんだから皆さっさと出てくるさ」

「まっ、そうだな」


 俺は裕二に軽く返事を返しながら、運動場を一瞥してみた。すると運動場の一角……体操服の色からして1年生が集まる辺りに妙な集団がいた。

 アレは……。


「アイツ等が例の、問題の1年生探索者グループか……」


 裕二が目を細めながら、若干不機嫌そうな声色の声で呟く。

 

「うーん。何と言うか……浮いてるよな、アイツ等」

「……そうだな」


 パッと見ただけでも、リーダーらしき留年生の周りにいる取り巻き以外の一年生達は、遠巻きに彼らを敬遠している姿が見て取れた。だが、あからさまに嫌悪の目を向けているのは少数で、大半の1年生は嫌がってこそいるが見て見ぬふりをしている。なる程。あの様子だと、少し潮目が変われば簡単に留年生達側に転びそうだな。 あの様子だと夏休み以降……いや。今回の体育祭の結果次第では拙い事になるかもしれない。やっぱり美佳達の為にも、今回の体育祭で少し派手になっても牽制しておかないとな。

 留年生グループの姿を確認し、部活動紹介のアピールについて改めて頑張ろうと考えていると、背後から重盛が声を掛けてきた。


「おいおい、どうしたんだ二人共? そんなに険しい表情をして……」

「ん? ああ、ちょっとな……」

「いや、ちょっとって……。今にも食ってかからんばかりの表情と雰囲気だった……って、ん?」


 軽く顔を引き攣らせながら俺達に一言忠告を入れてきた重盛は、俺達の視線の先を辿って俺達が不機嫌になった原因を目にし首を傾げた。

 

「……どうした、重盛?」

「いや。お前らの視線の先に、珍しい奴がいたな……って」

「……知ってるのか?」

「あ、ああ少しな。アイツの事だろ」

 

 そう言って重盛は、問題の留年生を指さした。


「アイツ、去年俺と同じクラスだったんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。確か去年の11月頃にダンジョンに入って、大怪我をして休学になったって聞いていた。アイツ、復学してたんだな……」


 どうやら、本当に知っているらしい。しっかし重盛の奴、アイツと元クラスメイトだったのか……。まぁ、それなら丁度良い。アイツの人となりについて、少し話を聞いて見るか。

 裕二もアイツについて、聞きたそうにしているしな。


「なぁ、重盛? 少しアイツについて話を聞いてもいいか?」

「ん? 別に良いけど……大して親しくはなかったからあまり詳しくは知らないぞ?」

「簡単な人となりが分かれば良いだけだから、頼むよ」

「まぁ、それで良いのなら……」


 俺の頼みを聞いて渋々とだが、重盛は例の留年生について話をし始めてくれた。


「えっと、先ずアイツの名前は後藤久志(ごとう ひさし)。留年して1年生だけど、俺達と同い年だよ」


 体操服をチャラく着崩した色黒の男子生徒を指さしながら、重盛はそう言った。

















リハーサルスタートです。それと遂に留年生探索者の名前が判明、重盛くんの元クラスメイトでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんかそんな気がしてたが、野口じゃなかったか・・・
留年生男だったんか…… ずっと女子と思って読んでたわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ