第186話 簡易事前調査をしてみると……
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この度、レッドライジングブックス様と結んでいた、出版契約に関して「解約合意書」を取り交わしました。詳しくは、活動報告の方に記載しています。皆様、ご心配をおかけしました。
コレからも朝ダンの連載は続けていきますので、応援のほどよろしくお願いします。
部活が長引き夕日が落ち辺りも暗くなっていたので、俺と美佳は沙織ちゃんを自宅まで送り届けた後に帰宅した。流石にこんな時間に、沙織ちゃんを一人で帰す訳には行かないからな。
「ただいま……」
「おかえりなさい」
玄関を開け俺が声をかけると、リビングの方から母さんの声が聞こえてくる。また、それと一緒に少々帰宅が遅かったと言う事もあり玄関にまで夕飯の匂いが漂っていた。この匂いからすると……今日の夕飯はカレーかな?
俺と美佳は一瞬顔を見合わせた後、玄関を上がって荷物を持ったままリビングへと顔を出す。
「ただいま母さん」
「ただいまー」
「おかえりなさい、2人とも。今日は遅かったわね?」
リビングに顔を出すと、食器をテーブルに並べ夕飯の準備を済ませた母さんがソファーに座ってTVを見ていた。うーん、帰る前に沙織ちゃんを送ってくるから少し遅れるって連絡を入れておけば良かったかな。
沙織ちゃんの家を経由して帰ると、遠回りになるから普通に歩いていると30分は掛かるからな。
「ゴメン、母さん。ちょっと体育祭の準備に手間取って帰るのが遅くなったから、沙織ちゃんを家まで送ってきたんだよ」
「あら、そうなの? それなら一言連絡を入れてくれれば良かったのに……」
「ゴメン。今度は気をつけるよ」
俺は小さく愚痴混じりの溜息をつく母さんに軽く頭を下げ、うっかり連絡し忘れた事を謝る。
「まぁ、良いわ。それより2人とも、ご飯にするから早く着替えていらっしゃい」
「「はぁーい」」
俺と美佳はソファーから立ち上がり夕食の準備をし始める母さんに返事を返した後、リビングを出て自分の部屋へと向かった。
美佳と別れ自分の部屋に入った俺は通学バッグを机の上に置き、制服から部屋着に着替える。その際に姿見で裕二に殴られた腹部を確認してみると、肌が拳の形に少々赤くなっていた。青痣や内出血と言う訳ではないが、こうして目に見える形で痕が残っていると裕二の苛立ち具合が良くわかる。
でもな……レベルアップ強化された俺の体にアレだけの衝撃を通して腹に跡が残るって言う事を考えると、探索者じゃない常人に使っていたら内臓損傷か破裂していないか?
「明日、帰りに何か奢ってやるか……」
俺は羞恥心で転げまわっている裕二の姿を想像し、明日の帰りに何か奢って慰めてやろうと考えた。たい焼きでも奢ってやるか……。
そして着替えを終えた俺はリビングで夕飯の準備を進める母さんを余り長く待たせるのはマズイなと思い部屋を出ようとしたが、出る直前に部屋の隅に置かれたソレが目に入った。
「……ああそう言えば、一昨日届いてたんだよな、コレ」
俺は未開封の大手通販サイトの段ボール箱を見ながら、どうしようかと頬を掻いた。
そして俺はチラリと机を見た後、決断する。
「うーん、今晩調べるか」
そう決めた俺は、部屋の隅に置かれた段ボール箱を机の近くに移動させる。
そしてダンボール箱を移動させ終え、カッターナイフで封を切ろうと机の引き出しの中を探していると部屋のドアがノックされた。
「お兄ちゃん。私、先にリビングに下りるね! お兄ちゃんも、早く下りてきてよ」
「ああ、分かった」
ドアをノックしたのは美佳だった。どうやら、美佳の方が先に着替え終わったらしい。俺は美佳が階段を下りていく足音を聞きながら、引き出しの中から見つけ出したカッターナイフをダンボール箱の上に置いた。
「開封は夕飯を食べ終えた後だな」
俺は箱の事を一旦棚に上げ、部屋を出てリビングへと下りて行った。
「お待たせ」
「ん? ああ大樹、やっと下りてきたのね。もう直ぐご飯の準備が出来るから、テーブルに座って待っていて」
「うん」
台所でカレーの入った鍋を温め直している母さんの指示に従って、俺はメインのカレー以外が並んだテーブルに座った。
「珍しく私より下りて来るのが遅かったね、お兄ちゃん」
テーブルに座ると、不思議そうに首を傾げながら美佳が話しかけてきた。まぁ、普段は俺が声をかけて先に下りるもんな。
「チョッと、部屋で片付け物をしていたからな」
「片付け物?」
「一昨日届いた、ネット通販で注文していた物だよ」
「それって、このまえ玄関においてあった、あの大きなダンボール箱の事?」
「そっ、それ」
俺がダンボールが遅れた理由だと教えると、美佳は納得したような表情を浮かべる。
「お兄ちゃん、あれって何が入ってたの?」
「ん? チョッとした玩具だよ」
「玩具?」
「ああ」
部類としては、アレって玩具だからな。例え美佳が興味を持って見たいと言い出しても、見られて特に困る事は無い。
そんな事を考えながら美佳と話をしていると、台所からオーブントースターの加熱終了ベルと母さんの声が聞こえてきた。
「二人とも、出来たわよ」
そんな声と共に、母さんは両手にカレー皿を載せたお盆を持って歩み寄って来た。
「あれ? カツカレーなんだ」
「ええ。昨日貴方がお土産にって、オーク肉を持って帰って来たじゃない? それを使ったのよ」
「ああ、そう言えば……」
どうやらカレーの上に乗っているカツは、昨日俺達が持ち帰ってきたオーク肉を使った物のようだ。因みにこのカツ、デパ地下の惣菜店などで買おうとすると安くなった今でも一つ1000円は超える。
「もっとも、貴方達が帰ってくるのが思ったより遅かったから、揚げ立てとはいかなかったけどね?」
「ご、ごめん」
「ふふっ、冗談よ。さっ、食べましょう」
カレー皿を配り終えた母さんは、表情が少し引きつった俺と美佳に苦笑を浮かべながら席に着く。
「それじゃぁ、いただきます」
「「いただきます!」」
母さんの食前の挨拶に合わせて、俺と美佳も手を合わせ挨拶をする。今日のメニューはオーク肉を使ったカツカレーをメインに、味噌汁、野菜サラダ、漬物だ。
俺はまず、オーク肉を使ったカツにスプーンでカレールーを掛け、半分に切り分けて口に運ぶ。うん、カレールーがオーク肉のカツとミスマッチしてるな……。俺はそんな事を考えながら、口に入れたカレーを飲み込んだ。だが、どうやらそれは俺だけの感想ではなかったようだ。
「……ねぇ、お母さん? このカレー、味薄くない? 水分量間違えてない?」
「そんな事ないわよ。ちゃんとパッケージの分量通りで作っているから、薄いって事は無い筈なんだけど……」
美佳も母さんもカレーをスプーンで啄きながら、顔を少し顰めながら不満を口にする。レシピ通り作ってるって事は、市販品のルーではオーク肉のカツは受け止めきれなくて味のバランスが崩れているって事か……。
俺は不満顔の二人に、味が薄いと感じる理由をつぶやく。
「カツの味が濃厚過ぎて、母さんが使ったルーじゃ力負けしているんじゃないかな? 多分……」
「あっ、そうか……」
「あら。じゃぁ、オーク肉のカツをトッピングに使うには、専用のカレールーを使わないといけないわね。でも専用のカレールーって、安売りはしないし高いのよね……」
美佳はカレーの味に違和感を覚えた理由に納得したような表情を浮かべ、母さんは少し困ったような顔をした。焼肉などのシンプルな料理は別にして、オーク肉等のモンスター肉を家庭料理で使うのはマダマダ難しいようだ。
家庭でモン肉を使うなら、単純な料理がベターだって事だな。
「でもまぁ、別に不味いって言う訳じゃないんだから、これで大丈夫だよ」
「……うん、まぁそうだね」
「……そうね。今度作る時は、其の辺にも気を付けながら作ってみるわ」
俺達は少々味に不満はある物のこういう物だと納得し、スプーンを進め微妙な味わいのカツカレーを食べきった。不味くはないんだよ、不味くは?ただ、違和感がスゴいってだけでさ……。
「「「ごちそうさま」」」
全員が食べ終えた事を確認し、俺達は手を合わせ食後の挨拶を済ませた。
そして母さんは食べ終えた食器の片付けを始め、美佳はソファーに移動しTVを見始めたので、俺は2人に一声かけてリビングを後にし自分の部屋へと移動する。さて、スライムダンジョンの調査を始めるか。
自分の部屋に戻った俺は早速椅子に座り、開封作業の途中だった段ボールの封を切る。
「ええっと? これが内容物の納品書で……うん、ちゃんと注文通り入ってるな」
俺はダンボール箱の中から、納品書と照らし合わせながら注文した商品のチェックを行う。足りない商品や間違った品が入っていたら、早目に交換して貰わないといけないからな。
ダンボール箱から全ての商品を取り出し終えた俺は、その中から同じパッケージをした2つの小箱を手に取る。
「まずは、これからだな」
机の上に小箱を置き箱の中身……多機能置時計を取り出す。年月日と時間に加え、気温や湿度なども表示出来る品だ。俺は説明書に一通り目を通し、初期設定の仕方と使い方を確認した後、予め100均で購入しておいた単三電池を組み込む。
2台あるので手間が増え、少々面倒だったが、パソコンで現在時刻を表示し、設定時間を同期させる。電波時計で自動設定出来る機能もあったが、今回の検証では邪魔になるため、電池を入れる前に切っているので、全て手動だ。尚、初期設定終了後になって、自動設定が終了した後に機能を解除すれば良かったと気付き、ちょっと落ち込んだ。
「取り敢えず、こっちの準備は完了だな……」
俺は同じ時刻を刻む2つの置時計を見た後、視線をスライムダンジョンの入口の引き出しに向けた。
これからする事に一瞬躊躇し一呼吸入れた後、俺は軽く自分の頬を両手で叩き覚悟を決める。
「よし……やるか」
俺は空間収納を開き、塩の入った密閉容器を取り出し机の上に置く。ダンジョン出現以来、1年以上繰り返している動作なのだが……これからやる事を考えると妙に緊張するな。
そして俺は机の一番下の引き出し……スライムダンジョンの入口を開けた。
「……うん。何時も通りの光景だよな」
引き出しを開けた先に何時も通りスライムが鎮座している姿を見て、俺は妙な安心感を覚えた。ここ一年でこの光景も、すっかり俺の日常の一つになったもんだな……。
俺はそんな自分の思考に苦笑を漏らしながら、スライムを観察する。アレは……只のスライムだな。
「……」
俺は無言で容器に入った小さめの計量スプーンで塩を掬い、引き出しの真下に鎮座するスライム目掛けて振り掛けた。
「!?!?!?」
塩が掛かったスライムは、もがく様に体を激しく伸縮させながら体の体積を減らしていき……消滅した。何時もながらの光景だが、スライムに塩は致命的だよな……。
因みに、今回は残念ながらドロップアイテムは何も出現しなかった。まぁよくある事だし……良いか。
「これで準備は出来たな……」
俺は顔を引き出しに近づけダンジョンの中に他にスライムが居ないかを軽く確認した後、机の上に準備した置時計の内の一つを手に取り、もう一方の時計の時間とズレがないかを確認する。
うん、大丈夫そうだな。
「設置場所は……部屋の隅が良いか。中央付近だと、リポップしたスライムに壊されるかもしれないしな」
俺は念動力を使い、手に持っている置時計を部屋の隅に設置する。持ってて良かった、念動力スキル。これがなかったら、ダンジョンに入らず置時計を破損させず設置するのは難しかっただろうな。
置時計を部屋の隅に無事設置し終えた俺は顔を引き出しから離し、椅子に座り直すとスライムダンジョンの入口である机の引き出しを閉じた。
「……」
机の引き出しを閉じた後、俺は机の上に残した置時計の時間を無言で眺めた。眺めていた時間は1分程の筈なのに、もっと長く待った様な気がする。
そして、長い1分間と言う待ち時間を我慢した俺は一呼吸間を空けた後、意を決し机の引き出しを開ける。
「今度はビッグスライムが出たか……。えっとビッグスライムには……コレだな」
引き出しを開いた先にはビッグスライムが鎮座していた。俺は出現したスライムの種類を確認した後、今度は大きめの計量カップを手に取って塩を掬いビッグスライム目掛けて振り掛ける。するとビッグスライムは先程のスライムと同様に、もがく様に激しく体を伸縮させた後に消滅した。
しかし今度は先程とは違い、ビッグスライムが消滅した場所にドロップアイテムが出現。念動力を使い拾い上げてみると、大きなコアクリスタルだった。
「まぁ、コレは今回の本命とは違うオマケだしな」
ちょっと残念。やっぱり、マジックアイテムやスキルスクロールは中々出ないな。
俺はコアクリスタルを空間収納にしまった後、本命を回収する為に顔を引き出しに近づけ、先程設置した置時計を視界に入れる。念動力は便利だけど、効果を発揮させる目標を視界に入れ認識しておかないと使えないと言う制限はこう言うとき面倒だよな。
「っと、回収成功」
俺は念動力スキルの使用制限に愚痴を漏らしながらも、無事に置き時計を回収した。
「さて、実験の結果は……っと。 げっ!?」
俺は回収した置き時計の時刻表示を見て、思わず驚愕の声を上げた。
何故なら……。
「……時間……ズレてるし」
つい先程時刻を合わせていた筈の机の上の置き時計と回収した置き時計は、俺の目の前で刻々と各々違う時間を刻んでいた。
内部調査の前の簡易事前調査を開始。行きなり衝撃的な調査結果が出ましたが、まだまだ調査は続きます。




