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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第185話 裕二、憂さ晴らしに暴れる

お気に入り15260超、PV15130000超、ジャンル別日刊33位、応援ありがとうございます。

祝,1500万PV達成しました。皆様、応援ありがとうございます!



この度レッドライジングブックス様と結んでいた、出版契約に関して「解約合意書」を取り交わしました。

詳しくは、活動報告の方に記載しています。

応援して下さっている皆様、ご心配をおかけしています。





 

 着ぐるみを着た裕二は自分の姿に黄色い歓声を上げる手芸部員達を掻き分けながら、ユックリとした足取りで俺達の元まで歩み寄ってくる。

 ……扱いが、完全にイベントや観光地のマスコットだよな。 


「うんうん。普通に歩く分には、今のところ問題ないみたいね」

「……柊さん」


 俺は思わず、隣で着ぐるみ姿の裕二を見ながら着ぐるみの出来を評価する柊さんに半目で非難めいた眼差しを向けてしまった。だって……ねぇ?

 しかし、そんな俺の視線は物ともせず、柊さんは裕二に声をかける。


「着心地はどう、広瀬君? どこか引っ掛かったり、突っ張ったりする様な所はないかしら? 気になるところがあるのなら、言ってくれれば直ぐに手直しするわ」

「……じゃぁ、一つだけ良いかな?」

「何かしら?」


 柊さんにどこか手直しする所は無いかと聞かれ、裕二は熊顔フード……愛らしいクマさんフードを上げながら平坦な声で修正希望点を提案する。


「このフードの外見なんだけどさ、もう少しこう……どうにかならないか? ほら、もう少しデフォルメ色を薄めて、リアル系に寄せるとかさ……」

「却下よ」

「きゃ、却下?」

「ええ。そのフードは今回の衣装作成で、私達が何度も手直しをして作った所なのよ? 動くのに問題がないのなら、変更しないわよ」

「……」


 裕二は一瞬、真顔で修正案を却下した柊さんを凝視した後、顔を少し振って美佳と沙織ちゃんの顔を見る。俺も釣られて美佳達の方に視線を向けると、そこには少々残念と言うか悲し気な表情を浮かべた美佳と沙織ちゃんがいた。

 

「うっ……」

 

 裕二は二人の悲しげな視線に罪悪感を感じたのか、バツの悪そうなうめき声をあげ視線を反らす。別に裕二が罪悪感を感じる必要は無いんだろうけど、こんな表情されたら面と向かって見た目が嫌だから変えて欲しい……とは言いづらいだろうな。


「で、広瀬くん。他には、何か手直しして欲しい所は無いかしら? 無いのなら、少し動いて貰いたいのだけど……」

「……」


 裕二は諦めた様に肩を落とし、着ぐるみを着たまま軽くラジオ体操の様な動きを行う。

 そして……。


「……軽く体を動かす分には特に問題ないよ」

「そう、よかった。じゃぁ……九重君?」

「はっ、はい!」


 俺は柊さんに視線を向けられ、思わず背筋を伸ばして引き攣った表情を浮かべ返事を返す。


「? どうしたの、九重君? 何だか、妙に緊張しているみたいだけど……」

「い、いや別に……何でもないよ。で、何? 柊さん?」

「……まぁ、良いわ。あのね、少し広瀬君と手合わせをしてくれないかしら? 戦闘時の着ぐるみの出来を、チェックしたいのよ」


 そう言って柊さんは、被服室の後ろの方を指さす。……って、柊さん。被服室は作業台が部屋イッパイに置いてあるから、手合わせをするようなスペースはないんだけど……。

 そう思いながら疑問の視線を柊さんに向けると、柊さんは分かっていると言いたげに軽く頭を縦に振った。


「本当なら運動場か中庭なんかの広い場所でやれば良いんでしょうけど、今の段階で大勢にアレ(熊の着ぐるみ)を見せると本番でのインパクトが薄れるわ。それは私達にとって、あまり好ましくないでしょ?」


 ・・・確かに。柊さんの言う通り、今の段階で中庭や運動場で着ぐるみを晒すと、体育祭本番でのインパクトが薄れるよな。でも、ここで手合わせをしたら手芸部員達経由で話が広まるんじゃ・・・。

 とそう思い手芸部員の方に顔を向けていると、そこにはスマホを取りだし裕二の着ぐるみ姿を写真に収めている手芸部員達の姿が・・・って、断りも入れず何やってんの!?


「柊さん、目茶苦茶写真撮られてるよ!? 良いの、あれ!?」

「ええ、姿写真ぐらいなら問題ないわよ。寧ろ、事前の話題作りには好都合ね」

「・・・事前の話題作り?」


 写真を撮られている事に慌てる俺とは対照的に、柊さんは小さく微笑みながら写真を撮られても問題ないと言う。・・・あれ? さっきと言ってる事が違わないか?

 俺は意味が分からず、小さく首を傾げた。すると、柊さんは右手の人差し指を立て説明を始める。


「私が多くの人に見せたくないって言っているのは、着ぐるみを来た広瀬君が動く姿よ」

「動く姿・・・?」

「そっ。彼女達が今撮っているのは、動画じゃなく写真よね? ここで彼女達が九重君達が手合わせをしている姿を見た後、その事を他の人に話そうとする時には今撮っている写真を使うはずよ。その写真に写っている可愛らしい熊の着ぐるみが、今度の体育祭で凄い演武をするって聞いたら……興味を引かれるわよね? 特に、噂の動きを押さえた動画が無かったら」


 ……なる程、そういう狙いか。確かに、体育祭本番前に凄いという噂話が上っていれば、本番での注目度はかなりの物になるだろうな。特に俺達の場合、創部して間もないから知名度も低いからな……この程度の小細工は必要か。

 俺は柊さんの説明に納得し、軽く頷いた。


「そう言う訳だから、お願いね。多少動きづらいでしょうけど、九重君達ならここで軽い手合わせをするくらい問題ないわよね?」

「う、うん。まぁ……」

「幸い、被服室の作業台は固定されていないから、机を動かせばそこそこの広さは確保出来るわ」


 そう言って、柊さんは作業台の端に左手をかけ軽々と持ち上げた。安定性重視の作業台だから、そこそこ重いはず何だけど……柊さんには関係ないか。

 俺は裕二に一瞬視線を送った後、首を軽く縦に振りながら柊さんに了承の返事をする。


「了解。じゃぁ……準備しようか?」

「おう」「うん」「はい」

 

 俺達は手芸部の人達に断りを入れた後、手分けして作業台の移動を始めた。











 作業台を片付け被服室の後ろ半分に即席で作った闘技場で、美佳達や撮影禁止を伝えられた手芸部員に見守られながら俺と裕二は無言で対峙する。

 因みに、裕二は可愛らしい熊さんフードを深く被り、着ぐるみの構造的に手先だけが露出した仁王立ちの熊さんになっていた。


「裕二……大丈夫か?」

「……ああ」

「……そうか」


 俺はフードのせいで顔は見えないが、肩を落とし落ち込んでいる様に見える裕二を心配し声をかける。だが裕二は短い返事を返すだけで、口で言うほど大丈夫そうには見えない。心なしか……熊さんフードの目のハイライトが消えているように見えるのは気のせいだろうか?

 そして、そんなやり取りをしていると柊さんが俺達に声をかけてくる。 


「二人共、準備は良い?」

「あっ、うん。俺は良いよ、柊さん」

「……ああ、俺も大丈夫だ」

「そう。じゃぁ時間もない事だし、そろそろ始めましょう。それと広瀬君。不具合を確認するだけだから、着ぐるみを壊さない様に無理な動きはしないでね? 九重君も」

「……分かった、壊す様な無理はしないよ」

「了解」


 壊さない様にか……まぁ柊さんの心配も尤もだろうな。俺と裕二が本気で動き回れば、仮に熊の毛皮部分は無事でも普通の布で縫い合わせている部分が耐え切れずに破ける事は目に見えている。さっき裕二がラジオ体操モドキをしているのを見た感じ、普通に動く分には着ぐるみの関節部の可動域に問題はなさそうだったけど本格的に動いた場合はわからないからな……。

 うん。上段蹴りを繰り出したら股の部分が裂けました……とか言う事になりそうだな。

 

「お願いね。じゃぁ……」


 そう言って、柊さんは両手を胸の前で肩幅に開き……。 


「始め!」


 両手を打ち合わせ、被服室の中に柏手の音を響かせた。俺と裕二はその音を合図に、腕を胸の高さに上げ構えを取り相手の出方を見る。


「「……」」


 って、ん? 今、ハイライトが消えていた熊さんフードの目が光った様な気が……。

 と、俺がそんな事を思っていると裕二がボソッと呟く。

 

「……行くぞ」


 そして次の瞬間、裕二は腰を落とした低い体勢のまま一歩で俺の間合いに踏み込んでくる。俺はフードの事に気が取られていたと言う事もあり、裕二の踏み込みに一瞬反応が間に合わず裕二の接近を許してしまった。


「……ふっ!」


 裕二は息を吐くと共に、俺の顎を狙い下から打ち抜く様な右の拳を繰り出してきた。って、いきなりアッパーカット!? おいおい! コレ、単に着ぐるみの調子を確認する為の軽い手合わせだよね!? 何でいきなり、俺の意識を刈りに来てるの!?

 俺は上体を後ろに逸らし、必死に裕二の拳を躱す。裕二の拳は俺の眼前を通り、前髪数本を掠めながら頭上に抜けた。


「……ちぃ」


 おい、聞こえたぞ!? 今、舌打ちしたよね!?  何!? 裕二のやつ、マジで俺の意識刈り取るつもりだったの!? 熊さんフードのせいで裕二の顔は見えないが、熊さんフードの目が何時の間にか獲物を狩る色をしていた。

 そして裕二は咄嗟に拳を躱した為に体勢が崩れた俺に、容赦なく追撃を仕掛けてくる。裕二は俺の左足の踝を狙い、刈り取るように鋭いローキックを放ってきた。


「っ!?」


 俺は咄嗟に床を両足で蹴って後ろに飛び被服室の壁際ギリギリで着地、距離を取って裕二の更なる追撃がないか鋭い眼差しで警戒する。すると裕二は俺が本気で警戒し始めたのを察し、それ以上の追撃はせずユックリとした動きで構えを取り直していた。

 俺はその余裕が有る動きに少し苛立ち、今度は俺から裕二に仕掛ける。床を蹴って裕二の間合いに正面から踏み込み、裕二の胸目掛けて右の拳でパンチを繰り出す。


「……」


 だが真正面からの小細工のないパンチという事もあり、裕二は俺の拳を簡単に弾いて躱す。しかし、パンチが弾かれる事は始めから想定済みだった俺は、すかさず体当たり気味に追撃の左の肘打ちを裕二の胸に打ち込もうとしたのだが……これも裕二が俺と同じく右の肘打ちを繰り出し防ぐ。互いに肘で押し合う鍔迫り合いの状態になったが、いまは好都合だ。

 俺は裕二に、美佳達や手芸部員達に聞こえない様に小声で先程の攻撃に関して文句を言う。


「おい、裕二! コレ、着ぐるみの出来を見る為の手合わせだぞ!? さっきの攻撃は何だよ! 何いきなり、勝負を決めに来ているんだよ!?」

「……」


 だが裕二は俺の抗議の声に反応せず、無言で肘に更に力を込め俺の肘を押してくる。


「裕二!」


 俺が少し声を大きくし更に問い詰めると、裕二は小さく溜息を吐いた後に返事をする。


「……単なる憂さ晴らしだ。悪いけど大樹、少し付き合って貰うぞ!」

「はぁ!? って、お、おい!」


 憂さ晴らし……つまりは八つ当たりだと聞いて俺は驚きの声を上げようとしたが、裕二が俺の腹部に左の掌を押し当てた後に力を込め肘の力を抜いた事に慌てる。掌を対象に密着させた状態で脱力……つまり裕二は重蔵さんに習ったアレを使う気でいるのだ。アレ……密着状態での攻撃を可能とするゼロ距離打撃を。

 俺は慌てて先程と同様に後ろに跳躍して距離を取ろうとしたが、裕二の八つ当たり発言で意識に一瞬空白が出来た事と、突然力を抜かれた事で体勢を崩した事で一歩間に合わなかった。


「ふっ!」

「っ!?」


 裕二の攻撃からの離脱が間に合わないと判断した俺は、咄嗟に掌が当てられた腹部に力を入れ衝撃に備える。だが、裕二のゼロ距離攻撃は俺の予想以上に強烈だった。鋭く突き刺さった裕二の掌は、俺の防御を突き抜け内臓を揺らす。裕二の攻撃を受けた俺は、痛む腹を押さえながらタタラを踏みながら後退る。痛ってぇな……。裕二、お前ドンだけ着ぐるみの出来に不満を溜め込んでんだよ!? 俺は思わず忌々し気に、裕二を睨みつけた。

 つい先程まで可愛らしいと思っていた熊の着ぐるみが、毛皮の元となった本物のビッグベア以上の威圧的な雰囲気を発していた。心なしか、熊さんフードの目が血走っているように見える。アレって、装着者の精神状態に左右されて変る物なのだろうか?


「「……」」


 俺は痛む腹を摩るのを辞め、腕を胸の前に構え間合いを計りながら裕二を睨みつける。

 そして、俺は先程のお返しとばかりに……。


「はっ!」


 俺は素早く踏み込み、裕二の側頭部……フードを深く被っている為に死角になっている所を狙って上段蹴りを放った。だが当然、見え見えの動作で正面から繰り出した俺の上段蹴りに裕二は反応し、カウンターを取ろうとしてくる。 


「ふっ!」


 裕二は俺の上段蹴りを軽く上体を後ろに逸らす事で躱し、お返しとばかりに前蹴りを放ってきた。俺の狙い通りに……。

 そして裕二が前蹴りを放った瞬間、俺の狙い通り何かが破れる音が被服室に響いた。


「やめ!」


 その音が聞こえた瞬間、柊さんの静止を求める鋭い声が被服室の中に響き、真っ直ぐ放たれた裕二の前蹴りは俺の腹に当たる寸前で止まる。俺は手合わせ前に心配していた事が当たった事にやっぱりと思う一方、狙い通りに事が運んだ事に思わず裕二に顔を向け表情をニヤケけさせてしまった。


「……」


 柊さんは前蹴りの体勢のまま固まる裕二に、無言のまま歩み寄っていく。

 裕二の八つ当たりのせいで散々痛い思いをしたんだ、壊すなと言われていた着ぐるみを壊した事を柊さんにせいぜい怒られろ。


「ねぇ、広瀬君? 私、手合わせをする前に着ぐるみを壊さないで、って言ったわよね?」

「あ、ああ。そうだな……」

「じゃぁ、それはどういう事? 股の部分、完全に破けちゃってるじゃない……」

「ご、ごめん!」


 裕二は勢い良く頭を下げ、静かに怒る柊さんに謝る。その際、熊さんフードの目が怯えている様に見えたのは気のせいだと思いたい。 


「それと九重君?」

「はっ、はい!」


 やばっ、こっちに飛び火した。  

 

「九重君にも私、着ぐるみを壊す様な事しないでって言ってたわよね? 何で態と、広瀬君が着ぐるみを壊す様な動作を誘ったの?」

「えっ、あの、その……」


 俺が八つ当たりの仕返しとは言えず口篭っていると、柊さんは眉を危険な角度に上げ床を指さす。


「2人共、正座」

「「えっ?」」

「良いから正座」

「「は、はい」」


 有無を言わさない柊さんの迫力に俺と裕二は静々と従い指さされた床に正座をし、俺と裕二が正座をしたのを確認した柊さんは説教を開始する。

 そして、壊すなと念押しされていたのに着ぐるみを壊したので、俺達は反論も出来ず只々平謝りしながら柊さんに頭を下げ続けた。はぁ、仕返しの方法をミスったな……。








 柊さんは暫く俺と裕二に如何に毛皮を加工し着ぐるみを作るのが大変だったかと言う説教を続けたが、美佳と沙織ちゃんの説得と弁護により怒りを収め、裕二に着ていた着ぐるみを脱ぐ様に指示をし着ぐるみの修理と改修に取り掛かった。

 そして……。


「悪かったな大樹、八つ当たりなんかして……」

「いや。俺の方こそ、わざと着ぐるみを壊すように誘ったりしてゴメン」


 俺と裕二は移動した机を元に戻しながら、先程の手合わせの事に互いに謝った。

 はぁ……痛いし説教されるし散々だよ全く。 















八つ当たりで暴れた結果、着ぐるみを破損させてしまい柊さんに説教されてしまいました。たまにありますよね、運動中にズボンの股が不意に裂けるって事。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] フードの付いた着ぐるみってことは、今回製作された着ぐるみは遊園地なんかで見られる被り物的な物ではなくて着ぐるみパジャマ的な物なのかな? [一言] デフォルメされた熊の着グルミを作るのに…
[一言] 熊の怨念が籠った呪いの着ぐるみに進化したのかもしれない(諸説あり
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