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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第183話 舞台道具作り

お気に入り15060超、PV14740000超、ジャンル別日刊33位、応援ありがとうございます。







 若干遅れて登校した俺と美佳は昇降口で別れ、俺は重い足取りで教室へと向かっていた。教室へ向かう途中、他のクラスの生徒達がダンジョン関連の話をしているのを耳にすると、ついつい其方に意識が傾いてしまう。

 曰く、妙な三人組がダンジョンに出た。

 曰く、見た目からしてヤバイ連中なのでは?  

 曰く、威圧感が凄くて直視出来なかった。

 等など……幸い正体はバレていない様だが、穴があったら入りたい。


「……」


 俺は顔を若干引きつらせながら無言で廊下を通り抜け、足早に自分の教室の中へと逃げる様に入って行く。

 だが教室の中に入ると、そこには……自分の机で力無く天板に突っ伏している裕二の姿が見えた。

  

「……お、おはよう、裕二」

「……」


 通学バッグを机に置いたあと、俺は戸惑い気味に声を掛けるが裕二から返事が無い。だが声を掛け暫くすると、裕二は俯かせていた顔を90度曲げ若干虚ろな眼差しで俺を見上げて来て……。


「……ああ、大樹か。……おはよう」

「あ、ああ」


 張りの無い淡々とした声で、裕二は俺に挨拶を返してくる。

 ……おい、本当にどうした? 


「……どうした?」

「……ちょっと、な。……なぁ、大樹? 教室に来るまでに、何か噂話聞いたか?」

「……えっ? ああ、ええっと……どの噂だ?」

「ダンジョンに変な3人組が現れたって噂だよ……」


 ああ、なる程。裕二もあの噂話を聞いていたから、こうなったのか……。


「……今日はちょっと早目に登校したんだけどさ、学校に着いたら昨日ダンジョンに行っていたらしい生徒が廊下や教室でこの話題を話していたんだよ。この話題を耳にする度に、生傷に塩を擦り込まれるみたいでさ……」

「……確かに」


 俺は裕二の言葉に同意する。確かに朝から、闇に葬り去りたい俺達の真新しい黒歴史をほじくり返され続けたら、精神的に参るよな。

 美佳と母さんとのやり取りで、何時もより登校時間が遅れたのはある意味幸いだったらしい。何時も通りの時間に登校していたら、俺も裕二のように精神的にやられていたかもしれないな。


「……だけどまぁ、いい加減なれたよ」


 そう言って裕二は突っ伏していた上体を起こし、俺の顔を真っ直ぐ見て忠告してくる。


「大樹も、今日1日は覚悟しておいた方が良いぞ? 中々精神的にクルからな」

「……あ、ああ」


 若干ヤサグレているが、裕二の忠告はしっかり聞いておこう。ほんと、気持ちを強く持っていないと精神的にヤラレそうだよな。 

 全く、これならまだダンジョンでモンスター相手に戦ってる方がマシだよ……。








 裕二の忠告に従い、覚悟を決めて午前中の授業を受けたが……中々キツかった。授業中は当然ながら私語をする者は居なかったのだが、トイレや教室移動の合間合間で耳に入ってくる噂話の多くは俺達の変装に関するもので、その話題で盛り上がられているのを見ると俺の心に見えない何かが突き刺さる。ホント、正体バレていないよね?  

 まぁ、そんなコンナで何とか午前中の授業を乗り切った俺達は、人目を避けるのも兼ね部室で昼食を取っていた。


「「はぁ……」」

「どうしたのよ、二人共? ご飯を食べながらそんな大きな溜息をついて……」


 俺と裕二が弁当を食べる手を止め大きな溜息をつくと、柊さんが不快そうな表情を浮かべながら眉を潜める。だが、寧ろ俺達側からするとなぜ柊さんはそんなに平然としていられるのか?と思う。

 なので、聞いてみることにした。


「柊さんは皆がしている噂、気にならないの?」

「ああ、二人はその事を気にしていたのね。でも、あれは私達の正体がバレてない噂でしょ? 実害が来ないのなら、所詮噂は噂よ。気にする必要はないわ」

「「おお……」」


 俺と裕二は思わず感嘆の声を上げる。剛毅だな……柊さん。確かに噂を聞く限り、俺達の事はバレてないけど……そこまで割り切って考えるのにはもう少し時間が欲しいな。その内割り切れるとは思うけど、昨日の今日だと……ね?

 俺と裕二は一瞬互いの顔を見合わせた後、頭を左右に数回振って切り替え弁当を食べる手を動かしだした。


「ああ、そう言えば裕二……はい。これ」

「ん? 何だ、この茶封筒?」


 俺は全員が弁当を食べ終わると、空間収納からそこそこ厚みのある茶封筒を取り出し、頭を下げながら裕二に差し出す。


「ほら、昨日言ってたろ? 柊さんが俺から買った、モン肉の代金」

「ああ、あの件か……」

「渡すのが遅くなって、ほんとゴメン!」


 裕二は俺が差し出した茶封筒を受け取り、中身を確認しないまま何気なく懐の内ポケットにしまう。信頼してくれている……と考えればいいんだろうが、そんな何気ない仕草に俺は罪悪感を感じた。

 はぁ……なんで忘れてたのかな、俺。と。


「別に良いさ。でも、次からは忘れないように頼むな? 多分、美佳ちゃん達の事や監視追跡の事で頭が一杯だったからだとは思うけど、金のやり取りが一番人間関係を壊すって言うしな?」

「ああ、勿論。今度から、こんなミスしないよ」

「おう、頼むな」


 俺と裕二のお金のやり取りを終え、柊さんが場の空気と話を切り替えようと新たな話題を振る。


「そう言えば九重君、昨日集めた(熊アイテム)は持ってきてくれた?」

「あっ、うん。この通り」


 そう言って俺は食べ終えた弁当箱を片付け、家から持ってきた袋をテーブルの上に置き、袋を開け中から熊の毛皮を取り出す。ドロップした状態そのままだが、なめし作業等しないでそのまま使えるってのは良い事だ。

 それに、中々肌触りが良いんだよな、この熊の毛皮。 


「これで、毛皮は足りるかな?」

「ええ、大丈夫よ。一枚一枚が大きめだから、足りると思うわ」

「そう。あっ、そう言えば型紙はどうなったの? 柊さんが用意するって言っていたけど……」

「用意しているわ。ネットで無料提供されている型紙を拾って、用意してあるから大丈夫よ」

 

 そう言って柊さんは、弁当と一緒に持ってきていたファイルケースを俺達に見せる。ファイルの厚さから見て、A4のコピー用紙が数十枚はさんであるらしい。

 あれを全部使うのか……。


「それと今朝、橋本先生にあった時に言われたんだけど、昨日申請していた被服室の使用許可の件、使って良いって許可が下りたわよ」

「ほんと?」

「ええ。まぁ手芸部が元々使っているから、私達が一部を間借りする形だけどね」

「それでも、使用許可が下りただけありがたいよ」


 作業場として申請していた被服室が使用出来ると聞き、俺は少し安堵した。毛皮を使った衣類の作成なんてやった事ないからな、せめて作業場と道具くらい揃ったところでやりたい。


「そう言えば九重君、美佳ちゃん達も衣装製作には参加するわよね? 2人の裁縫の腕前はどうなの?」

「裁縫の腕ね……美佳は母さんが教えてたみたいだからそこそこ出来ると思うけど、沙織ちゃんの方はどの程度の腕かは分からないな。多分、家庭科の授業レベルは出来ると思うよ?」

「そう、それなら戦力として期待出来るわね。因みに聞くけど、2人の腕前は?」

「まぁ、俺も美佳と同じくらいで家庭科レベルなら……」

「……ノーコメントで」


 柊さんの質問に俺は微妙な表情を浮かべ、裕二は顔を逸らした。つまり、そういう事だ。

 俺も美佳と一緒に母さんに裁縫を少し習った事があったが、途中でつまらなくなり投げ出したのであまり腕に自信はない。一応家庭科の授業では、可もなく不可もなくといった評価は貰っている。

 しかし、裕二は表情を見る限りどうやらこの手の事は苦手らしい。 


「そう……じゃあ、二人にはアピールで使う小道具の作成をお願いするわ」

「あっ、うん」

「……ああ」


 柊さんは俺と裕二を一瞥した後、俺達2人を小道具作成に割り振った。どうやら、衣装作成では戦力にならないと判断したのだろう。うん、正しい状況判断だろうな。

 そして各々に仕事の役割を振り分け終えると、タイミングよく昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 

「鐘もなった事だし、帰ろうか?」

「ああ」

「そうね。帰りましょう」


 俺達は弁当や毛皮を片付け部室を後にし、午後の授業へと向かった。

 はぁ、また噂話を我慢しないと……。










 午後の授業を終え、俺達は再び部室に集合した。今度は美佳と沙織ちゃん、あとは時間が取れたらしい橋本先生も加えて。

 部室に全員集まった事を確認し、俺達は今日の部活動を始める。 


「じゃぁ、これから班を2つに分けるぞ。と言っても、男班と女班に分けるだけだけどな」

「ねぇお兄ちゃん、2班に分けて何をするの?」

「何って、今度の体育祭で使う道具作りだよ。美佳と沙織ちゃんは柊さんと一緒に、衣装作りを頼むよ」

「衣装作り? でも今度の体育祭で使う衣装は、一昨日買い揃えたよね?」

「ああ、一通りはな。でも、裕二の衣装は流石に自作しないとな」

「裕二さんの衣装って、アピールの時に使うアレ?」

「そうそう、それ」


 俺がそう言うと、美佳は微妙な表情を浮かべ裕二の顔を見た。

 そして美佳に視線を向けられた裕二も何も言わず、無表情のまま顔を逸らし無言を貫く。


「まぁ、そういう訳だからさ、俺と裕二は他に使う小道具を作るから衣装の方は頼むな」

「……うん、分かった」


 俺が美佳にそう言うと、沙織ちゃんがおずおずと小さく手を挙げ声をかけてくる。


「あの……すみません」

「ん? どうしたの、沙織ちゃん?」

「私も、小道具係じゃダメですか?」

「えっ?」

「あの、その。私、裁縫は苦手で……。針でよく指先を刺しちゃうんですよ」


 沙織ちゃんは耳を赤くしながら、小さな声で裁縫は苦手だと告白した。俺達4人は沙織ちゃんの告白を受け、思わず顔を見合わせ目線だけでどうする?と相談する。

 そして、数秒の間を空け決断を下す。


「えっと、美佳ちゃん? 美佳ちゃんは裁縫って出来るかしら、手縫いやミシンで?」

「ええっと、はい。一応一通り、どっちも出来ますよ」

「そう。じゃぁ、私と美佳ちゃんで縫い合わせるから、沙織ちゃんは生地の裁断をお願い」

「え、えっと……」

「沙織ちゃんは、型紙に合わせて生地を裁断するだけで良いから。誰か専属で生地を裁断してくれる人がいた方が、作業が捗るのよ。だからお願い」

「は、はい」

「そういう訳だから九重君、広瀬君。班分けはそのままって事で良いかしら?」

「あ、うん」 

「ああ」


 どうやら沙織ちゃんは、裁断係をする事になったらしい。


「じゃぁ、私達は早速、被服室に行って衣装作りを始めるわ」

「あっ、うん。がんばってね」

「ええ。じゃぁ、行きましょう。美佳ちゃん、沙織ちゃん」

「「は、はい!」」


 衣装作成に使う熊アイテムの入った袋を持って、美佳と沙織ちゃんを引き連れ柊さんは部室を出て行った。  

 柊さん達が部室を出て行くと、隅で話を聞いていた橋本先生が席を立つ。


「……じゃぁ私、職員室に戻るわね。帰る前に一声かけてちょうだい」

「分かりました」

「怪我がないように気をつけてね」

「はい」


 橋本先生は持ってきていた書類を片付け、部室を出て行った。

 部室に残った俺と裕二は顔を見合わせた後、机に残った熊アイテムやディスカウントショップで買った品の入った袋を見る。


「……じゃぁ、始めるか?」

「ああ、そうだな。始めよう」


 そう言って、俺と裕二は袋に手を伸ばす。







 日が傾き空が夕日に染まり始めた頃、俺と裕二は両手を組みながら頭上に上げていた。


「終わった!」

「ああ、終わったな。ずっと下向いてたから、首が疲れたよ……」

「ホントだよな。でもまぁ、その分そこそこのクオリティーに仕上がったんじゃないか?」

「だと良いんだけどな」


 俺と裕二は机の上に広がっている道具の数々をみて、そんな感想を抱いた。まぁ、本職の人が作った小道具には及ばないが、ぱっと見には良い出来だろう。


「さて、と。コッチはコレで良いとして、柊さん達の方はどうなんだろうな?」

「さぁ、な? 途中報告も無いから、向こうの状況はサッパリだ」

「うーん、じゃぁ、様子見に行ってみるか?」

「……そうだな、行くか」


 話が纏まったので、俺と裕二は机の上の物を片付けて行く。少々袋から道具類がはみ出ているが、まぁ良いだろう。

 そして、片付けを終えた俺達は柊さん達が作業している被服室へ移動する。すると、中から何やら賑やかと言うか悲鳴の様な声が聞こえてきた。


「痛っ!? ああっ、もう!! また針が折れた!!」

「こっちのハサミも、刃が潰れちゃったよ!!」

「キャッ!? 大変、ミシンが変な音たててる!」



 手芸部の女子部員達の阿鼻叫喚の悲鳴が、被服室の中から聴こえてくる。俺と裕二は思わず引き攣った顔を見合わせ、被服室に入るのを躊躇した。

 いや……誰だって、悲鳴が聞こえる部屋に入るのは躊躇するよね?

 












やっぱり、学校でも噂になっていましたね。幸い、正体バレて居ないようです。

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― 新着の感想 ―
[一言] その筋っぽい人の方が、皆が目を合わせないようにするから、顔より服装や髪型ぐらいしか印象に残らなくなるもんね
[一言] ダンジョン産中層手前の毛皮、普通に加工できるのかな。 と思ってたら案の定だった件(_’
[気になる点] 主人公達が豆腐メンタル過ぎる気がします。 武術の基本は心技体。まずは心を鍛えるところから始めないと、簡単に動揺する人間に刃物を持たせるのは危険極まりない気がします。 もし、ダンジョン…
感想一覧
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