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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第182話 噂話って尾ヒレが付くものだけどさ……

お気に入り14970超、PV14580000超、ジャンル別日刊26位、応援ありがとうございます。



済みません、更新遅れました!







 スマホの目覚ましアラームが鳴る。

 薄目を開けながら画面をタップしアラームを解除し上体を起こすと、昨日床に脱ぎ捨てた変装衣装が目に飛び込んできた。


「……捨てるか」


 俺は寝ぼけ眼で変装衣装を睨みつけながら、ボソッと衣装を破棄する決意を漏らす。全く、朝から最悪な目覚め方だよ。

 ベッドから降り背を伸ばした後、俺は部屋を出てリビングへと向かう。


「……おはよう」

「おはよう、大樹。……あら? なんだか、朝から不機嫌そうね?」

「うん、まぁ……」


 母さんが不思議そうな顔をし、そんな事を聞いてくる。どうやら、顔に出ていたようだ。


「……もしかして、昨日の格好の事を気にしてるの?」

「……」


 俺は母さんに理由を指摘され、思わず顔ごと逸らした。……何でわかったんだ?


「ふふっ。まぁ、大樹が普段しないような格好だったものね……」


 母さんの優しげな眼差しが、今の俺の弱った心には刃物のごとく突き刺さりとても痛かった。

 

「……顔、洗ってくる」


 俺はそれだけ言って、逃げる様にリビングを後にした。

 はぁ、何であんな衣装を買ったんだろな、俺……と、洗面所で顔を洗いながら鏡に映る虚ろな自分の顔を見て改めて後悔する。

 最悪な気分で洗面所からリビングに戻ると、母さんが朝食をテーブルの上に乗せ準備をしていた。


「大樹。悪いけど、美佳を起こして来てくれない?」

「美佳を?」

「あの子、まだ起きてこないのよ。 だから、お願いね?」

「……うん、分かった」


 美佳への声掛けを母さんに頼まれた俺は、軽く頷き美佳を起こすべくリビングを出て行った。


「おおい、美佳! 朝だぞ、起きろ!」


 俺は美佳の部屋のドアを少し強めにノックしながら、起きろと声をかける。

 すると、扉の向こう側から……。


「うぅぅぅん……何?」

「もう朝だぞ! 起きろ!」

「後……5分」

「古典的な寝言言ってないで、早く起きろ! もう母さんが、朝食の準備を済ませてるんだぞ!」


 俺は声を少し荒立てながら、扉を叩くノックを少しだけ強める。力を入れすぎると扉を叩き割るから、ノックって中々力加減が難しいよな。

 そして声をかけ始めて1分程して漸く、美佳の声に張りが出てきた。どうやら目が覚めたようだ。


「もう、うるさいよお兄ちゃん!」

「おっ。漸く、起きたみたいだな?」

「あんなにノックされたら、寝てられないよ!」

「まぁ、良い。それより朝食だ。早く下りてこいよ」


 声の調子から美佳が起きた事を確認した俺は、美佳に早く下りてくるようにと言い残し美佳の部屋の前を離れた。






 美佳を起こし終えた俺がリビングに戻ると、母さんが朝食の準備を済ませテーブルに座っていた。


「お疲れ様、大樹。どう、美佳は起きたかしら?」

「うん。ちょっとグズったけど、目を覚ましたよ。多分、すぐ下りてくると思うよ」

「そう、ありがとうね」


 俺は母さんからお礼の言葉を受けながら、テーブルに着く。今日のメニューはご飯に味噌汁……和食か。

 そんな感想を抱きながらテーブルの上に乗っている朝食を見ていると、美佳の階段を慌てて駆け下りる足音が聞こえてきた。

 

「おはよう!」

「美佳、階段は走り降りない! 危ないでしょ!」

「ご、ごめんなさい!」

「それと顔を洗ってらっしゃい、寝癖が凄いわよ?」

「う、うん!」


 リビングに顔を出した美佳に、母さんが一喝。一喝された美佳は咄嗟に頭を下げて謝罪をしたが、その際に見えた美佳の後ろ髪は確かに母さんが言う通り凄い寝癖だった。顔を洗う時に、櫛くらいは通した方が良いだろう。

 美佳は慌ててリビングを出て行き、母さんはそんな美佳の後ろ姿を見て溜息を吐いた。


「もう、あの子ったら……高校生になったんだから、もう少し身嗜みに気を付けてくれれば」

「まぁまぁ、母さん。今は身内しかいないんだから、そんなに目くじらを立てなくても……」

「何を言っているのよ大樹、身内だけしか居ないから確りしないといけないのよ!」


 そう言って母さんが身嗜みとは何か、と言う小言を口にする。やば、薮蛇だった!?

 その後、母さんの小言は続き、途中からは俺の昨日の衣装の話になりそうだったので、無理やり話を打ち切る。お願いです……古傷を抉るような真似はしないで下さい。まだ時間的には生傷ですけど。


「お、お待たせしました……」


 俺と母さんの話が一段落するのを見計らっていたのか、美佳が遠慮がちにリビングの扉を開き顔をのぞかせる。美佳……もう少し早く戻ってきてくれよ。


「遅かったわね、美佳」

「あっ、うん。髪を直すのに、少し時間がかかって……」

「そう。まぁ、良いわ。それより早くテーブルにつきなさい、朝食が冷めるわ」

「う、うん!」


 美佳が席に着いたことで、ようやく朝食が始まった。だが朝食の間は妙に静かで、付けっ放しにしていたTVニュースの声が妙に大きく聞こえる。

 なんだろね、この緊張感に満ちた朝食は?


「「「ごちそうさま」」」


 妙に緊張感がある朝食も終わり、俺と美佳は少々足早に登校の準備をする為に自分の部屋へと戻った。

 








 自室に戻った俺は、まず制服に着替える。

 そして姿見に映る自分の姿を見て、大きく息を吐く。何だかんだで制服って良いな、と思い。


「……今度服を選ぶ時は、もう少しファッション誌でも参考にするか」


 自分のセンスがない……と言うより、悪乗りはしないようにしよう。

 そして制服に着替えた俺は、ファスナーが付いた布袋に昨日ダンジョンで入手した熊アイテムを詰めていく。学校では、空間収納に仕舞った物は出せないからな。手間は掛かるが、放課後部室で作業する時に手ブラで登校したのになんで持っているのか?と美佳達に聞かれたら困るからな。

 空間収納については、まだ秘密だしな。


「良し、これで準備完了っと」


 俺は通学バッグと熊アイテムが入った布袋を持ち、忘れ物がないかを確認し部屋を出る。

 そして、荷物を持ってリビングに降りると、母さんがコーヒーを入れてくれていた。

 

「あれ? 母さん、これは?」

「コーヒーよ、朝食の時はごめんなさいね」


 母さんは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、俺に謝ってきた。どうやら小言のせいで、朝食の時の雰囲気が悪くなったことを謝っているようだ。


「貴方が昨日の格好について触れられたくなさそうにしていたのに、私ったら無遠慮に……」

「気にしないでよ、母さん。もう大丈夫だからさ」

「……そう?」

「うん。それに、あの格好自体は俺が選んだ物だったからね。悪いのは俺だからさ……。コーヒーありがとう」

 

 朝から謝罪合戦はしたくないので、俺は話を打ち切るようにお礼を言ってコーヒーを啜る。母さんも俺の意を汲んでくれて、それ以上は何も言ってこなかった。

 そして暫く地元ローカルTV局のニュースを見ていると、とあるニュースが目に飛び込んでくる。朝の情報番組で、ダンジョン関連の噂話を扱う短い1コーナーなのだがその中で、最新の噂の中に“出現したドロップアイテムを全て拾わず、物凄いスピードでダンジョン内を走り回りモンスターを倒し去っていく3人組”の噂がネットで流れている事を知った。

 これって、俺達の事か!?!?


「あら、そんな噂があるのね……。大樹、知っていた?」

「い、いや……初めて聞いたよ」

「そう。でもその噂の人達って、アイテムも拾わないのなら、なんでダンジョンに行ってるのかしらね……」


 母さんは不思議そうな表情をしながらTVニュースを見ているが、俺はその横で盛大に顔を引きつらせていた。これ、身バレとかしてないよね……?

 そして、何とか引き攣った顔を母さんが振り返る前に戻そうと奮闘していると、リビングの扉が開き美佳が入ってくる。


「お待たせ……って、あれ? どうしたのお兄ちゃん、そんな顔して?」

「み、美佳……」


 やば、美佳に見られた。


「あら、本当。どうしたの大樹、そんな引き攣った顔して?」

「あっ、いや、あはははっ!」


 俺は取り敢えず、笑って誤魔化す事にした。いやさ、他にどうしようもないしさ?

 すると美佳が付きっ放しのTVを見て、一言。


「ねぇ、お兄ちゃん? もしかして、この噂って……お兄ちゃん達の事?」

「!?」

「あら? そうなの、大樹?」

「だって、ほら。お兄ちゃん達、ダンジョンに行くのは何時も3人で行ってるしさ……」

「いや……」


 美佳の確信を持った口調に、母さんが疑いの目で俺を見てくる。

 やばい、バレたか? いや、だが、まだ全部がバレたわけじゃないんだ。だったらここは、少しでも被害を減らすように……


「いや、確かに俺達は3人で良くダンジョンに行ってるけど、噂になる程じゃないと思うぞ?」

「本当?」

「ああ。確かに荷物の積載量の関係で、たまに幾つか出現したドロップアイテムを無視する事もあるけど、噂が立つほどは無視してはいないと思うぞ?」


 基本、ドロップアイテムは俺の空間収納に回収するからな。時間があって美佳達が同行していない時は、とり残しなどでない。 ドロップアイテムを意図して無視してダンジョンを進んだのは、昨日の探索くらいだ。

 だから……。


「多分この噂は、高レベル探索者が積載量の関係でドロップを拾わなかった、っていう噂話が集まって出来た噂じゃないのかな? こういう言い方したら悪いけど、ダンジョンの深い階層に潜れる高レベル探索者からしたらスクロール系やマジックアイテム系のアイテム以外、上の階層でドロップするアイテムは積載量を圧迫するゴミ以外の何物でもないしね」

「ゴミ!?」


 美佳が思わず、俺の言葉に悲鳴を上げる。まぁ、探索者初心者の美佳からしたら、苦労して手に入れているアイテムを、ゴミ扱いされたら怒るよな。


「ちょっと、お兄ちゃん! ゴミって何よ、ゴミって!」

「言い方が悪かったってのは認めるけどな、美佳? 実際、スクロール系やマジックアイテム系以外の、一般的ドロップアイテムの1個当たりの換金額の差って知ってるか? 凄いぞ?」

「……そんなに凄いの?」


 俺がそう言うと、自分達が得たアイテムを、ゴミ扱いされて怒っていた美佳の気勢が弱まる。


「ああ。前の探索で、美佳はドロップアイテムとして肉を手に入れていただろ? あれって、肉系のドロップアイテムの中では一番下のランクの肉なんだよ。だから、あの換金額だったんだ。で、今現在取引されている肉系ドロップアイテムで最高ランクの物が幾らで取引されているか知ってるか?」

「……知らない」

「聞いて驚け、今肉系の最高ランクのドロップアイテムの換金額は何と1つで、10万円以上だ」

「10万円!?」


 美佳が驚きの声を上げ、母さんも目を見開き驚きの表情を浮かべている。

 

「だから高レベル探索者は、同じ系列のアイテムだとより換金額が高いドロップアイテムを優先するんだ。その為に安い換金額のアイテムがあったら捨てる……と言うか放置するんだよ」

「た、確かに……そうだよね」


 美佳は動揺しながらも返事を返してくるが、母さんには衝撃的過ぎたのか未だ固まっていた。

 








 中々衝撃的な事実を知り呆然とする美佳と母さんを介抱した後、俺と美佳は登校予定時間が来たので家を出ることにした。


「じゃぁ母さん、行ってくるね」

「……行ってきます」

「……行ってらっしゃい」


 玄関まで母さんが見送りに来てくれたのだが、どうやら母さんも美佳も未だ衝撃が抜けきっていないのか微妙に心ここにあらずといった様子だ。


「……はぁ」


 流石にこのまま登校する訳にもいかないので、俺は両手を軽く広げ勢い良く打ち合わせる。すると、玄関には柏手の大きな破裂音が鳴り響く。

 

「「きゃっ!?」」


 柏手の音に驚き、美佳と母さんが短い悲鳴を上げ俺を睨みつけてくる。


「いきなり何をするのよ、大樹!」

「そうだよ、お兄ちゃん! 行き成り、大きな音を出して! 耳が痛いよ!」


 二人は俺を口々に非難するので、もう一度両手を軽く広げた。

 すると二人は咄嗟に耳に手をやり黙ったので、俺は広げた手を下ろして話を進める。


「取り敢えず、正気に戻ったようだね、2人とも」

「「はっ!?」」

「はっ!?じゃないよ、はっ!?じゃ。強引な真似をしたのは悪かったけど、2人とも心ここに在らずって感じだったんだから無理やり正気に戻したんだよ。美佳は一緒に登校するからその間に正気を取り戻させられるけど、母さんはそのままだと家事の最中に失敗して怪我でもしそうだったからね」

「「うっ!?」」


 唖然としていた事を俺に指摘され、美佳と母さんは恥ずかしそうに俺から顔を逸らした。


「まぁ、2人とも正気を取り戻したみたいだし、俺達そろそろ学校に行ってくるよ。行くぞ、美佳」

「あっ、う、うん!」

「じゃぁ、母さん。行ってきます」

「行ってきます!」

「え、ええ。行ってらっしゃい……」


 動揺する母さんに見送られながら、俺と美佳は家を出た。

 はぁ……。まだ一日は始まったばかりなのに、もう疲れたよ……。


















今回の噂は主人公達が直接の原因ではありませんが、やはりこういう事は噂になりますよね。

snsとかだと、リアルタイムで話しが広まりますけど。


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