第180話 目的地まで一直線、少し寄り道するけど
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準備運動を終え、入場ゲートに入る列に並んだ俺達3人は軽く溜息を漏らす。
「ここも、向こうと変わらずにダンジョンに入るまでが長いな……」
「ああ。寧ろ利便性が高い分、向こうのダンジョンより多いな」
「そうね。でも、一度にゲートを潜るグループの人数が多いから、向こうのダンジョンよりは列の進みが早いわよ?」
「それはそうだけど……パッと見た感じウンザリしない?」
「……まぁ、するわね」
確かに柊さんの言う通り、列の流れ自体はスムーズな物だが、何時も行くダンジョンの列に比べ1.5倍も長いと気分の問題とは思うがウンザリとする。
そして愚痴を漏らしつつ15分程列に並んでいると、早々と俺達に入場の順番が回ってきた。……意外に早かったな。
「カードの提示をお願いします」
「はい」
入場ゲートの側に立つ係員に探索者カードの提示を促され、俺は探索者カードを読み取り機に翳す。短い電子音が鳴った後、ゲートは開く。
「OKです、ご入場下さい」
俺は係員に軽く一礼した後、カードを仕舞いながらゲートを潜り先に入場した2人の元に急ぐ。
「お待たせ。さっ、行こうか?」
「おう」
「ええ」
ライトのスイッチを入れ、俺達はダンジョンの中へと足を踏み入れた。
さぁ、何時もとは違うダンジョンだ、気を抜かずに行こう。
ダンジョンに入った俺は先ず鑑定解析を使用し、例のダンジョン設備の有無を確認する。結果は黒、このダンジョンにも例の装置はきっちりと設置されていた。
俺が頭を抱えつつ溜息を吐くと、裕二と柊さんが沈痛そうな表情を俺に向けながら声をかけてくる。
「大樹……やっぱりあったのか?」
「ああ」
「……稼動はしていないのよね?」
「うん。どうやらココのアレも、下に行って大本を起動させないと使えないみたいだよ」
二人も俺の返事を聞き、俺と同じように溜息をつく。まぁ、予め有るとは予想はしていたけど、実際にこうして確認すると気が重いからな。
しかし、何時までも此処に居る訳にも行かないので、俺は頭を振って雑念を飛ばし正面……ダンジョンの奥を見つめる。
「まぁ、コレの事は一旦置いておくとして、先に進もう。目的地までの道のりは長いんだし、此処であまり時間を掛けるわけにもいかないしね」
「……ああ、そうだな。大樹、先導を頼むな」
「任せてくれ」
「じゃぁ、行きましょう」
俺達は自分の頬を軽く叩いて気合いを入れ直し、俺を先頭にして足を進める。今回の探索は時間勝負なので、最近は自分達の成長の為にもと思い禁じ手としていた鑑定解析をフル活用する事にしているからだ。
「……よし、鑑定終了。基本のダンジョンの構造は、何時ものダンジョンと変わらないな。2人とも、これから駆け足で進むから、指示を聞き逃さないように気を付けながら俺の後についてきて」
「おう」
「ええ」
「じゃあ、出発」
俺はそう言って、ダンジョンが出現する前の100m世界記録並みのスピードで走り出す。そんな俺の後に裕二と柊さんはピタリと張り付き、後れを取る素振りも見せずについてくる。
全く、レベルアップの恩恵様々だよ。まぁだからこそ、探索者資格を持つ奴らが各スポーツ界からはじき出されるんだろうけどな。
俺達は走り初めの速度を落とさず、下の階層に降りる階段を目指し最短距離でダンジョンの中を駆け巡る。その際、俺達の進路を塞ぐ様に現れるモンスターは俺と裕二が鉈で頭を切り飛ばし、柊さんが魔法を使って排除していった。その際、先を急ぐ俺達はアイテムを回収せず先へと進んでいった為、後にこのことが原因でダンジョンでは希にアイテムが道端に落ちている、と言う噂が立つ事になる。
「あっ、そこ! 落とし穴があるから、踏まないように気をつけて!」
「おう、あそこだな」
「正解。もしかして気づいていた?」
「ああ。これも、幻夜さんの稽古の賜物だな」
「だね」
軽口を叩き合いながら俺達は罠を回避し、ダンジョンの奥を目指し進む。俺が鑑定解析の結果を口にする前には、2人はたいていのトラップを見つけている様なので、裕二の言う通り幻夜さんの所で受けた稽古の賜物だろう。
結果、俺達はものの15分ほどで6階層まで踏破した。
「ここからはゴブリンなんかも出てくるから、一応気をつけて」
「ゴブリンか……まぁ、気をつけるよ」
「分かったわ」
俺達は足を緩めず、多くの新人探索者の心に傷を負わせた人型モンスターが出始める階層へと足を踏み入れた。と言っても、今の俺達がゴブリンを倒したからと言って、どうこうなる程やわじゃないんだけどな。
その証拠にたった今、裕二が現れたゴブリンの首を無表情のまま手に持った鉈で首を刎ねていた。初めてゴブリンを殺した時はあんなに動揺していたのに、今じゃ顔色一つ変えやしない。まぁ、それは俺と柊さんも同じなんだけどな。
「ん? どうした大樹、俺の顔なんか見て? 返り血でも付いてるのか?」
「いや……初めの頃に比べて随分手際が良くなってきたな……って」
「まぁ、あれから結構な数の人型モンスターを倒してきたからな」
そう言って裕二は、再び現れたゴブリンの首を刎ね飛ばしていた。うんまぁ……今更戸惑う理由もないしな。俺達は走るスピードを微塵も緩めないまま、眼前に現れるゴブリンを倒していく。
無論、今回は時間節約の為アイテムの回収は無しだ。その為、その現場に偶然居合わせた探索者グループは俺達のその行動に驚愕の表情を浮かべ、躊躇なく走り去る俺達を見送っていた。中には俺達に声を掛けるグループもいたが、俺たちに追いすがってまで止めようとするものはいなかった。
「まぁ、そうだな。それより今日の到達目的階層は25階層だから、ドンドン先に進もう。今日は余り時間もないんだしさ」
「そうだな。探索に集中していたら、時計の針がテッペンを超えていた……なんて事になったら事だからな」
「そうよ。そうなったら私、お父さんやお母さんに外出禁止にされちゃうわ」
「じゃぁ、先を急ごう」
「おう」
「ええ」
俺達は新たに出現したゴブリンの頭を刎ねつつ、更にダンジョンの奥へと走り抜けていく。
俺達は20階層に到達すると、ダンジョンに入って今日初めて足を止めた。何故なら、俺達の前に美味しそうな獲物……ミノタウロスが出現したからだ。ミノタウロスは俺達に向かって威嚇の咆哮を上げ、今にも襲いかかって来そうな気勢である。
しかし……。
「「「……」」」
「!?」
俺達がミノタウロスを美味しそうな獲物……お肉を見る目で眺めていると、威嚇の咆哮を上げていたミノタウロスがビクッと体を震わせ一歩足を後ろに引いた。
どうやら、自分が俺達にどの様に見られているか本能的に悟ったらしい。
「……」
ミノタウロスに先程までの気勢はなく、怯えた色を目に浮かべジリジリと後退し何とか逃げ場はないかといった表情を浮かべている。
だけど……俺達が逃がす訳無いだろ?
「裕二!」
「任せろ!」
「柊さん!」
「準備出来てるわ」
裕二は今にも尻に帆を掛け逃げだそうとしているミノタウロス目掛けて走り出し、柊さんは一本のナイフを取り出す。
「シッ!」
「!」
走り寄ってくる裕二から逃げようと背を向けたミノタウロスの首目掛けて、裕二は鉈を振るい大した抵抗も無くその首を刎ねた。刎ねられたミノタウロスの頭は地面を転がり、頭を無くした胴体は重々しい音を立てながら床に倒れ首から大量の血を垂れ流す。
そんなミノタウロスの死体に柊さんは警戒しつつ近寄り、手にしたナイフをミノタウロスの死体に突き刺した。
「……」
ナイフがミノタウロスの死体に突き刺さるとミノタウロスは光の粒に変わり、ミノタウロスの死体のあった場所に一塊の肉塊が出現した。
しかも、その肉塊には美しい網目模様の霜降りが入っている。
「ラッキー! レア肉じゃないか!」
「ああ、霜降り肉だ!」
「今日は運が良かったわね!」
俺達はレア肉……ミノタウロスの霜降り肉を中心に喝采を上げた。
この霜降り肉、俺達も散々ミノタウロスを狩ってミノ肉を手に入れてきたが、滅多に手に入れられなかった代物なのだ。今まで手に入れた数は、片手で足りる程しかない。初めてこの肉を焼き肉にして出した時は、そのあまりの美味さに気が付いたら一塊もあった肉が全て無くなっていたぐらいだ。
「この肉は持ち帰り決定だな!」
「当然だろ! 何が悲しくて、これを売らないといけないんだよ!」
「そうよ! 売るなんて勿体無いわ!」
全員一致で、霜降りミノ肉の持ち帰りが決まった。
因みにこの肉、窓口で換金すると100g1万円超で買い取って貰える。この肉は1kg程あるので、換金すると10万円を軽く超えるだろう。
「じゃぁさ、この肉。今度の体育祭が終わった後に、お疲れ会を開いて皆で食べようぜ!」
俺は美佳と沙織ちゃんにも、この幸運をお裾分けしようと提案する。
すると……。
「其れも良いな! じゃぁさ、その打ち上げの時にウチの爺さんも呼んで良いか?」
「重蔵さんにはかなりお世話になっているから、俺は良いけど……」
「勿論、私も良いわよ。重蔵さんには、散々お世話になっているものね」
「ありがとう、2人とも」
本当なら俺と柊さん、沙織ちゃんの家族も全員呼んでも良いのだろうが、手に入れた霜降り肉の量が量だ。あまり人を呼びすぎると、一人一切れしか廻らないと言う事態になるからな。
今回は申し訳ないが、家族には内緒だ。
「じゃぁここで少し打ち上げ用の肉の材料を仕入れてから、目的の25階層に行こう」
「うん? 大樹……空間収納にミノ肉の在庫はあるんじゃないのか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 今、ミノ肉の在庫は余りないんだよ。前に少し出したからね……」
そう言って、俺は柊さんの方をチラリと見る。
「私が九重君に、少し分けて貰ったのよ。お父さんがミノ肉を使った料理の試作品を作るって言っていたから、試作分の材料だけでもって思って」
「そうなんだ……」
「ああ、でも安心して。分けて貰ったお肉の代金は九重君に預けて有るから……って、九重君? 広瀬君に私がお肉を貰った事を話してなかったの?」
「……ごめん言い忘れてた」
俺は柊さんが連絡をしていなかったの?と咎める様な眼差しを向けてきたので、思わず顔を逸らす。
ごめんなさい、今の今まで完全に忘れてました。
「もう、しっかりしてよ九重君」
「ごめん。裕二、預かったお金はダンジョンを出た後にちゃんと渡すから」
「あ、ああ」
俺が頭を下げ謝罪しながらそう言うと、裕二は若干戸惑いつつ返事を返す。
「ま、まぁその事は後で詳しく聞くとして、どうするんだ? ミノ狩りはやるのか?」
「あ、うん。打ち上げの途中でメインの食材が無くなったら興ざめだからね。少し、補充しておこう」
「……おう」
そして俺達3人は20階層で20分程、ミノ狩りに精を出し10kg程のミノ肉を手に入れた。念の為言っておくと、普通のミノ肉だ。その仕入れの間、同じ階層でミノタウロスと苦戦しながら戦っていた探索者達が、易易とミノタウロスを倒す俺達を驚愕の眼差しで見ていた姿が印象的だったな。変な噂が立たなければ良いけど……。
そして食材の補充を済ませた俺達は、再び当初の目的地である25階層へと向かって走り出した。
ダンジョンに潜り始めて1時間と少し、俺達は漸く目的の階層である25階層に到着した。流石にこの階層になると俺達の他に到達している高校生探索者は少ないらしく、23階層を過ぎた辺りから一気に高校生探索者の数が減り、階段前には企業ロゴマークが付いたプロテクターを付けた職業探索者が多くなっている。
「探索者の雰囲気も、上に居た連中とは違うな……」
「そうだな。学生……特に高校生探索者はどこか、未知に対する憧れの様な雰囲気が残ってたけど、ここらへんにいる職業探索者連中は生活の糧が掛かっているから、真剣そのものだな」
「それはそうよ。彼らは探索の成果が、そのまま自分の営業成績だもの。基本給も少しは出るけど、基本能力給の歩合制らしいわ。成果を上げないと、お給料が減るもの」
「そうだね……」
以前、探索者採用系企業の求人募集をネットで見てみた事があるけど、柊さんの言う通り基本給+能力給の成果主義だ。成績が悪ければ、微々たる基本給しか支給されない仕組みだ。
しかも、会社が認定するダンジョンの攻略記録が進めば進む程、能力給の基準は厳しくなる。それなりの給与を得ようとすれば、社内のトップ攻略集団に食らい付いていかねばならない。
装備品の支給や大きな怪我をした時の保険等の諸々の面倒を見てくれるのは良いが、自分のペースで攻略を進められないというのは考えものかも知れない。
「まぁ彼らの事は気にしないでおくとして、俺達もそろそろ始めるとしよう」
「おう」
「ええ」
俺達は職業探索者達の好奇の視線を浴びつつ、ダンジョンの奥へと続く通路へと足を踏み入れた。
今話で、書き溜めていたストックが底をつきました。今回の騒動で中々筆が進まず、コレまでの様なペースでの連載は難しいです。掲載ペースは落ちると思います、朝ダンの連載は続けていこうと思っていますので応援よろしくお願いします。
心機一転、気分転換も兼ねて新作の“マスコット系リビングアーマー?になりました”を書きましたので、よろしくお願いします




