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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第179話 初めての近場ダンジョン

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 秘密厳守を改めて誓った俺達はロータリーのタクシー乗り場を離れ、新しく整備されたと思わしき歩道を歩いてダンジョン施設へと案内看板に従い足を進める。ロータリーの脇には3階建ての立体駐車場があるのだが、ダンジョン利用者が多いのかパッと見た限りにおいて1階には空き駐車スペースがない程に車で埋め尽くされていた。

 

「多いな、止まってる車」

「ああ。平日なのに、結構ダンジョン利用者っているんだな……」


 俺と裕二は歩道を通りながら、駐車場に止まる車の多さに驚いていた。2階や3階の利用状況はここからだと見えないが、1階の駐車状況を見る限りお察しというものだろう。

 すると、黙って俺達の後に付いて来ていた柊さんがプチ情報を教えてくれる。


「ここのダンジョンの事を前に調べてみた事あるんだけど、街中に出現したという事もあって交通の便も悪くないから結構自家用車で通う人がいるみたいよ? 私達が乗って来たタクシーも、大通りを走って来てたじゃない」

「……確かに。ここに来る時、特に狭い道を通る事はなかったね」

「私達が何時も行っているダンジョンは山中という事もあって、狭い山道を通るから一般車の通行は規制されているものね。でもココは駅からもシャトルバスが出ているし、自家用車や自転車を停めるスペースがあるから利便性が良いわ……」  

 

 確かに柊さんの言う通り、交通面という点だけで見ればこのダンジョンは、俺達が何時も使っているダンジョンとは雲泥の差だよな。しがらみなんかからくる、安全性は分からないけど……。

 さっき立体駐車場に併設され設置されていた立体駐輪場で見付けたのだが、うちの学校の駐輪許可ステッカーを貼った自転車が何台もあった。予想通り、ウチの学校の探索者をやっている生徒の多くは此処に来ているらしい。探索者の体力なら自転車を漕いでも楽に来れる距離だからな、此処。


「まぁ確かに便利は便利だけど……普段使いとしては、ね?」

「やっぱり、出来れば学校関係や身近な知り合いがいないダンジョンの方が良いだろうな。恨みや妬みを買わない様にする為にもさ」

「その意見には賛成よ。でも、開放初期の頃みたいに多くの人が低階層でごった返し混乱して啀み合っていた昔と違って、上手く各階層に人が分散している今なら私達もここを使っても良いんじゃないかしら? 幸い私達が普段狩場に使う階層には、学校関係者はまだ誰も来れていないみたいだし……」


 柊さんはそう言って、ちらりと腕時計を確認する。俺も釣られて時計を確認すると、時間はまだ駅を出て30分程しか経っていない事を示していた。30分……普段使うダンジョンまでの所要時間を考えれば片道1時間半、往復で3時間は移動時間を節約出来るからな。これだけでも、ここのダンジョンに拠点を変えるメリットになる。

 しかし……。


「確かに柊さんの言う通り、探索者が各階に上手く分散したお陰で混乱は解消しているみたいだね。ここの雰囲気もギスギスとしている様には感じられないし、ここに拠点を移す事を考えても良いかも知れないけど……」

「換金時にトラブルが起きる可能性はあるな。俺達が何時も稼ぐ額を目の前で見せ付けられたら、ちょっかいを掛けてくる輩はいるかもしれない。それが同じ学校の奴だったら、最悪だ」


 俺と裕二がそう反論すると、柊さんは小さくため息を漏らす。

 やっぱり柊さんも、そのデメリットについては認識していた様だ。


「……やっぱり、そう思う?」

「うん。残念だけど、多分絡んで来る奴は絡んでくるだろうね」

「基本的に探索者は、稼ぎが良い奴ほど上位者……レベルが高くて強いと言っても良いんだろうけど、それでも身の丈を弁えないと言うか、身の程知らずのバカってのは一定数いるからな……」


 因みに、例の留年生達は身の丈を知る馬鹿だ。上級生に喧嘩を売らずに、同学年の非探索者を取り込んで育成し勢力を拡大する……中々厄介な連中だよ、本当。正面切って敵対してくれば、簡単に潰せるのにな……。

 

「だから、ここのダンジョンを活動拠点にするのには反対かな?」

「俺も大樹と同じかな」

「……そうね。近場で交通の便が良いのは魅力的だけど、付随してくる面倒事を考えると多少不便でも今まで通りの方が良いわね」


 俺達3人は眼前にそびえ立つダンジョン施設の入口を前にして、揃って溜息を吐いた。 

 本当、面倒事が多いよ……。











 入口を潜り施設内に入ると、受付待ちをする学生服を着た若者達が列を作って並んでいた。列の中には俺達が通う学校の制服を来た者達の姿も見受けられる。

 そして俺達が順番待ちの列の最後尾に並ぶと、俺達の前に並ぶ学生服を着た若者グループが一気に緊張し今まで会話していたのがウソだったかの様に沈黙した。


「はぁ……」

「「「「!?!?」」」」


 俺が溜息を漏らすと、前に並ぶ学生グループの肩が僅かに跳ね上がった。

 今日何度も見た反応だが、やはり慣れるものではなく心に来るものがある。


「やっぱり、この格好が原因だよな……」

「ああ……」


 俺と裕二が意気消沈し俯くと、柊さんは呆れた様な眼差しを向けてくる。

 視線に晒されながら針の筵状態で列に並ぶ事、10分。漸く俺達の受付順が回ってきた。


「カ、カードの提出をお願いします」

「はい」


 俺達は緊張気味の受付係員さんに促され、用意していた自分の探索者カードを差し出す。係員は受け取ったカードを読み取り機にかざし画面に表示された情報を見て、戸惑ったような驚いたような表情を浮かべた顔を俺達に向けてくる。


「あっ、えっと……」

「何か問題ありましたか?」

「あっ、いえ……」


 どうやら表示された情報、俺達の年齢や登録されている顔写真に驚いたらしい。

 俺は受付係員さんに顔を寄せながら、小声で声をかける。


「(ちょっと事情が有って変装しているんですよ)」

「あっ、ああぁ、そういう事ですか……。はい、問題ありません」

「ありがとうございます」


 俺達は返却された探索者カードを受け取り、受付を後にした。

 その際、順番待ちの列から安堵の息が漏れる音が聞こえたのはきっと空耳だったのだろう。うん、きっと、そうだ。そうに違いない。

 俺はそう自分に言い聞かせながら、更衣室に向かって足を進めた。


「じゃぁ、また後で柊さん」

「ええ、また後で」


 更衣室の前で柊さんと別れ、俺と裕二はこの後の展開を予想し、小さく深呼吸をして気合をいれ更衣室へと入っていった。

 俺と裕二が更衣室に足を踏み入れた瞬間、更衣室の中の空気が固く緊張感があるものへと変わる。着替えを済ませ雑談をしていた者はそそくさと身支度を整え更衣室を出て行き、着替えの途中だった者は慌てた様子で着替えを進めていく。


「「……」」


 予想通りといえば予想通りの展開なのだが、見ていてとても申し訳なくなってくる光景だ。

 ごめんなさい、俺達が変なノリでこんな変装を選ばなければ……。俺と裕二は申し訳なさで胸をいっぱいにしつつ、更衣室内を見回し人気のない位置にあるロッカーの方へと移動した。

 

「……着替えるか」

「……ああ」


 俺と裕二はチラチラと向けられる視線を感じつつ、ロッカーを開け着替え始めた。

 着ていた物を脱ぎ下着姿になると、先程まで俺達が漂わせていた近寄りがたい雰囲気が大分薄れたように感じる。更にバッグから愛用のジャージを取り出し身につけると、尚雰囲気が柔らかくなった。まぁサングラスと口髭、オールバックのせいでまだ近寄りがたい雰囲気は消えていないけど。

 そして、今度は防具をバッグから取り出す。ディスカウントショップで買った、激安、“複合材を採用した超薄型ボディーアーマー”と銘を打たれた防御力皆無の見せ掛けだけの偽装用防具を身につけていく。安っぽい見た目の大量生産品だが、一応防具だと言い張れるレベルのものだ。尚、俺達の本命防具は今着ているジャージなので、極論を言うと上に付けるボディーアーマーに全くとは言わないがあまり意味はない。

 その為、今俺達が身に着けている見た目重視の防具は、SF映画に出てくるような体に張り付くタイプのスタイリッシュな代物だ。

 

「これ、見た目は良いんだけどな、見た目は……」

「そうだな。防御力なんて紙同然なんだよな、これ。今回のような偽装目的じゃなかったら、絶対に身につけないぞ、こんなの」

「探索者気分を味わう為の、コスプレ用品だからな。しかも売れ残りの割引商品だから、文句を言っても仕方ないさ」

「……確かに、安かったよな」


 俺達が今身に着けている防具は、ワゴン一杯に山積みされ半額以下の値引き札がかかっていたからな。俺達3人分合わせて3000円もしなかった。

 そして全てのパーツを身に着け終えると、慣れない防具と言う事もあるので互いに装着具合を確認し合い不備が無いか確認をする。


「うん、大丈夫。チャンと取り付けられているよ」

「大樹の方も大丈夫みたいだぞ、頼りない感触だけどな」

「それを言うなよ」


 防具の取り付けに不備がない事を確認し終えた俺達は、普段使っているライトなどの装備品を身に着けていく。普段使っている防具とは違うため、多少装着しづらい面もあったが大きな問題はなく取り付ける事が出来た。

 そして、ライト類の点灯テストをし、問題がない事を確認する。


「よし、準備完了。後は今回使う武器を……っと」


 俺はバッグから最後のアイテム、今回使用する武器を取り出す。今回俺が用意した武器は、ディスカウントショップで購入した鉈と手斧だ。両者ともにその分厚い刀身は普段使っている刀の倍以上あり、強化前の不知火とこの鉈と手斧が打ち合えば不知火が折れていただろう事が容易に想像出来る見た目だ。まぁ重蔵さんなら斬鉄ぐらい出来そうな気がするけど、それは考えないでおこう。

 俺は鉈と手斧を鞘に入れたまま腰にベルトで吊るし、準備は完了した。 


「裕二の方は準備良い?」

「俺も良いぞ」


 裕二は鉈を2本腰に吊るしており、今回の戦闘スタイルは鉈の二刀流らしい。

 そして全ての準備を終えた俺達は、非常食や飲料水の入ったバックパックを背負いロッカーの扉を閉じた。


「よし。じゃぁ、行こうか?」

「おう」


 俺達はロッカーに施錠し更衣室の中を歩いて出口へと向かったのだが、不思議な事に先程まで突き刺さる様に注目を浴びていた視線が嘘の様になかった。

 俺と裕二は互いに顔を見合わせ、溜息を吐く。


「やっぱり、あの格好をしていなかったらこの程度だよな……」

「そうだな。今の俺達の格好は、只の探索者だもんな」


 俺のオールバックは頭に被ったヘルメットの下に隠れ、いけ好かないインテリ感を醸し出していた服装もアクセサリーも身に着けていない。裕二もサングラスを外し、口髭があるだけで普通の探索者だ。

 衣装一つで、ここまで扱いが変わるとはな……。


「やっぱりファッションって、重要だな……」

「……ああ、そうだな。これを見せ付けられると、心底そう思うよ」


 俺と裕二はファッションの重要さを改めて認識し直し、その場のノリと勢いで捻くれたチョイスは辞めておこうと心に刻み込んだ。

 はぁ、帰りもまたあの視線に晒されるかと思うと、気が重いな。いっそ、この格好のまま帰るか? いや、何の為に変装してここに来たのか分からなくなるから、ダメだよな。はぁ……。

 







 更衣室を出た俺と裕二は周りの人達から奇異の視線を集めない現状に心の底から安堵しながら、椅子に深く座り込んで柊さんが出てくるのを待っていた。

 ちらほらウチの学校の生徒と思わしき探索者グループも見掛けるが、声を掛けられていない所を見ると俺達の正体は見破られていないらしい。まぁ、特に顔見知りという訳でもないので、声を掛けられないと言う事がバレていない事につながるのかは何とも言えないけどな。 


「平和だな……」

「ああ、そうだな。人の視線を集めないっていうのが、こんなに心安らぐ事だなんて、知らなかったよ……」

「そうだね」


 奇異の視線から解放された俺と裕二は、緊張が途切れだれていた。椅子の背凭れに力の抜け切った体を任せ、2人揃って天井の照明を仰ぎ見る。

 すると、そんな俺達に誰かが声をかけてきた。


「何してるのよ、貴方達?」

「「……ん? あっ、柊さん」」

「あっ、柊さん……じゃ無いわよ。2人揃って何よ、その体たらくは?」

 

 俺達が天井を仰ぎ見ていた顔を正面に向けると、そこには呆れ切った表情を浮かべた柊さんが立っていた。……何時の間に更衣室を出てきたんだ?

 どうやら良く知る人の気配に気付かない程、気配察知が疎かになる程に気が抜けていたらしい。


「いや、何か周りから奇異の視線を向けられなくなって、気が抜けたと言うか何というか……」

「悪い、気が抜けすぎていた」

「……ごめんなさい」


 俺は言い訳を口にしようとしたが裕二が素直に謝った事で観念し、頭を下げながら柊さんに向かって謝罪の言葉を口にした。

 柊さんは大きな溜息を吐き、俺達に声をかける。

 

「気持ちは分からなくはないけど気を抜きすぎよ、全く。……ほら、早く準備運動を済ませて、ダンジョンへ行くわよ」

「「はい!」」


 俺と裕二は柊さんの言葉に一も二も無く返事をし、荷物を持って椅子から立ち上がった。

 はぁ、気合を入れ直さないとダメだな。
















活動報告にも上げましたが、レッドライジングブックス様の事業縮小に伴い新刊発行が行われないという事態にが起きました。余りにも突然の事態に、公式発表直前に事実を一斉送信メールで知らされ混乱しています。

さぁ、これかと言う時期にこんな事態になってしまい残念極まりません。


朝ダンはこれからも連載していく予定ですので、皆様これからも応援よろしくお願いします。

それと、今回の件の気分転換にと新作を書いていますで、近日中に連載を始めたいと思います。そちらの方も応援よろしくお願いします。




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