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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
200/618

第177話 新方針の弊害

お気に入り14540超、PV13770000超、ジャンル別日刊19位、応援ありがとうございます。


祝、連載200話達成!

皆様、応援ありがとうございます。これからも連載が続くよう、頑張ります!




 体育祭の新方針発表に伴い少々浮き足立っている感があった午前中の授業も終わり、俺と裕二、柊さんは昼休みになると部室に移動し弁当を食べていた。

 すると、柊さんが四つ折りにした紙を俺に差し出してくる。


「ああそうだ。忘れる前に渡しておくわ。はい、これ」

「? 何これ?」

「昨日言っていた素案を元に書き出した、原稿よ」

「えっ、もう出来たの?」

「ええ、簡単なプロットだけどね。取り敢えず、読んだ感想を聞かせて貰えるかしら?」


 俺は若干驚いたような表情を浮かべながら、柊さんが差し出した紙を受け取る。


「じゃぁ、見させて貰うね」


 俺は折りたたまれた紙を広げ、隣に座って弁当を食べる裕二にも見える様に机の上に置く。俺と裕二は弁当を食べる手を動かしながら、柊さんが書き出したプロット原稿を読み込んでいく。

 そして一通り原稿に目を通し終えた俺は、正面で弁当を食べている柊さんに顔を向け感想を伝える。

 

「大筋は、これで良いんじゃないかな? 細かい部分は実際に練習しながら修正していけば良いと思うしさ。なっ、裕二?」

「ああ、そうだな。大筋は俺も大樹と同じく、これで良いと思うよ」

「そう、良かった。じゃぁ後は美佳ちゃんと沙織ちゃんに見せて、OKが出たら原稿を書き起こすわ」

「うん。大変だろうけど、よろしくね柊さん」


 俺は広げていた紙を4つ折りにし、激励の言葉と共に柊さんに差し出す。

  

「ええ、まかせて」


 柊さんは俺が差し出した紙を受け取り、気負いのない返事をしながらポケットに仕舞った。この様子なら、無理をしていると言う訳じゃ無さそうだな。

 




 



 暫くして美佳達が部室に顔を見せたので、2人が弁当を食べ始める前に柊さんはプロット原稿を見せた。結果、2人の反応は上々。特に変更希望点もないとの事で、大筋は現行プロットのまま進める事にした。

 

「そう言えばさ、美佳。1年の方で、体育祭の話ってどうなってる?」 


 弁当を食べ始めた美佳と沙織ちゃんに、俺は軽い気持ちで体育祭の話を振ってみる。すると二人は大きな溜息を吐き、弁当を食べる手を止めた。

 えっと……どうしたんだ?


「ど、どうした?」

「……お兄ちゃん。今度の体育祭って、探索者と非探索者を分ける事になったよね?」

「あ、ああ。そうだな……」

「そのせいで私達、例の留年生達と同じグループで一緒に体育祭の練習をする事になったの」

「その……ウチのクラス。まだ探索者資格をとっている人が少なくて、私達の他には、例の留年生の人と何人かしかいないんです」


 ああなる程、2人が落ち込む理由に納得がいった。 


「沙織ちゃんがアイツ等の勧誘を断ってからは、教室では出来るだけ例の留年生達から距離を置いていたんだけど……」

「今回の新方針が決まったせいで、体育の時間は彼らと同じグループで練習しないといけなくなったんです。おかげで、その……」


 美佳と沙織ちゃんは視線を揺らし、不安げな表情を浮かべる。


「もう勧誘はしてこないけど、私達の活動を知ってたみたいで舌打ちしながら私達を睨んできたりするんだ……」

「幸い今の所、彼らが直接手を出してきたりはしませんけど、あの目を見ていると何時かは……」


 そう口にした美佳と沙織ちゃんの目には僅かながら恐怖の色が揺らめいており、次第に顔を俯かせ黙り込んだ。

 そんな二人の姿を見て俺は思わず激昂し席を立ち上がりそうになったが、隣に座っていた裕二が俺の肩を掴み動きを止めた。俺は思わず肩を掴む裕二に殺気立った眼差しを向けてしまったが、裕二は真っ直ぐ殺気立つ俺の目を見つめ返し静かに顔を左右に振り口を開く。


「落ち着け、大樹。今お前が連中に殴り込みをかけたら、何の為に俺達がこんな回りくどい事をやっているか分からなくなるだろ?」

「そうよ、九重君。それに貴方が殴り込みをかけたら、確かに留年生の問題は解決するかもしれないけど、その後はどうするの?」

「白昼の学校内で公然と暴力事件を起こした者の身内……留年生問題を解決しても今度はお前のせいで美佳ちゃん達が困る事になるんだぞ?」 

「……」


 静かに俺を悟す裕二と柊さんの言葉のお陰で、頭に登った血が下がっていくのを感じる。俺は目を閉じ大きく深呼吸を数回繰り返し、荒れる心を落ち着かせていく。

 

「……悪い」

「いや、無理もない。気にするな」


 落ち着きを取り戻した俺が言葉短く謝罪すると、裕二は俺の肩に乗せた手を下ろした。もう俺が暴走する事はない、そう裕二は判断したらしい。

 ふと美佳と沙織ちゃんの方に視線を向けると、2人は不安気な眼差しと表情を浮かべ俺を見ていた。ああぁ、これはちょっと拙いかもしれないな……。


「ああ、その何だ? 2人とも、もし何か連中にされたら直ぐに俺達に言ってくれよ? 何とかするからさ」

「う、うん」

「は、はい」


 俺が出来るだけ2人を安心させる様に優し気な表情を作り穏やかな口調で話しかけると、美佳と沙織ちゃんは引きつった表情を浮かべながら首を縦に何度も振る。そんな2人の反応に俺も顔が引き攣りそうになったが何とか耐え、救いを求める様に裕二と柊さんに視線を送ると、2人は苦笑を浮かべながら目を逸らした。

 ……お願いだからさ、助けてよ。 

   







 気不味い雰囲気になってしまった昼休みを終え、憂鬱な気分のまま午後の授業に挑んだが俺の頭には何一つ授業内容は入ってこないまま、何時の間にか放課後を迎えていた。

 大きな溜息を吐きながら帰宅の準備を整えていると、裕二と柊さんが自分の荷物を持ち心配げな表情を浮かべながら俺の机に歩み寄ってくる。 


「おい。大丈夫か、大樹?」

「大丈夫? 九重君……」

「ああ、うん、大丈夫……」

「いや、その顔はどう見ても大丈夫って顔をしてないだろ……」


 俺は裕二のその言葉を聞き、バッグからスマホを取り出し消灯状態の画面で映った自分の顔を見てみた。

 ……確かに、2徹か3徹して疲れきった人の顔をしてるな。これで大丈夫といっても、信じて貰えないか。


「はぁ……確かに疲れきった顔をしてるけど、ホント。大丈夫だから」

「……そうか」

「ああ」


 裕二は俺の返事を聞き仕方ないといった表情を浮かべ、隣で俺達のやり取りを聞いていた柊さんも眉間にシワを寄せながらコメカミを指先で叩いていた。

 俺はそんな2人の様子を尻目に通学バッグに引き出しから出した教科書を詰め、帰りの準備を整える。


「良し、じゃぁ帰ろうか?」

「ああ」

「ええ」


 通学バッグを持ち教室を出た俺達は、部室に向かわず昇降口に向かった。今日はこの後やる事があるので、このまま下校だ。今日の部活は美佳達に少しだけ部室に顔を出しておいて貰える様に事前に頼んでいる。完全に部活を休部すると言う事はないので一応面目はたつだろう。

 そして到着した昇降口で靴を履き替えていると、裕二が俺に声をかけてきた。


「なぁ、大樹。本当に大丈夫だよな? これからダンジョンに行くんだ、調子が悪いのなら今日は止めておくけど……」

「だから、大丈夫だって。確かに調子が悪い様に見えるかもしれないけど、そこまで心配する程の事じゃないよ。それに、今日行かなかったら何時行くって言うんだ? 明日からは放課後にも、体育祭のチーム練習が入るから時間がないしな」

「……まぁ、そうだな」


 裕二は俺の言い分を聞き、溜息を吐きながら同意する。

 

「さっ、時間も無いし急ごう」

「ああ」


 靴を履き替えた俺達は、応援合戦の練習をする応援団の声を聞きながら校門を潜り学校を後にした。

 








 通学路の分岐点で俺達は、準備の為に一旦別れる。


「じゃぁ、また後で集合という事で」

「ああ、30分後に駅の切符売り場の前で待ち合わせだな?」

「ええ。じゃぁ、また後で」


 再会の約束を確認し、普段ゆっくり歩いて帰る道のりを俺は走って帰る。今日は時間がないので、少し急がないといけないからな。俺は普段15分程掛かる道のりを、5分程で走りきった。


「ただいま」

「おかえりなさい、大樹。今日は随分早いわね?」


 玄関を開けて声をかけると、母さんが俺の帰宅を迎えてくれた。


「今日はこの後ちょっと出かける用事があってね、直ぐにまた出るから」

「そう。じゃぁ、帰りは遅くなるのかしら?」

「うん。悪いけど、多分20時近くになると思う」

「あら、そんなに遅くなるの?」


 俺が帰宅予定時間を伝えると、母さんの顔が歪む。

 ああ、拙い。


「ごめん。ちょっと急いでいるから、部屋に行くね」

「あっ、ちょっ、大樹!」


 俺は母さんに追及を受ける前に、時間がない事を理由にし自室へ逃げ込んだ。


「ふぅ……。さて、急いで準備をしないとな」


 通学バッグをベッドの上に投げ置き、俺は急いで着替えを始める。着ていた制服をハンガーに掛けクローゼットに収納し、昨日ディスカウントショップで購入し用意していた服に着替えていく。普段俺が好んで着る服と趣味が異なるが、変装と言う物はそういう物だからな。服を着替え終えた俺は次に、アクセサリー関係を身につけていく。シルバーのネックレスにブレスレット、そして度なしの伊達メガネ。

 姿見に映った自分の格好を確認すると、普段の自分とは別物に仕上がっていた。


「……このままでも十分だとは思うけど、念の為に」


 俺はヘアスプレーと櫛を用意し、ヘアスタイルを変えていく。鏡を見ながら髪を弄る事2,3分、そこには髪型がオールバックに変わった俺の姿が映し出されていた。

 最終的に出来上がった、俺の姿は……。


「……誰だよ、このいけ好かないインテリ野郎は……?」


 姿見に写った俺は、オールバックに銀縁眼鏡をかけたインテリ風に仕上がっていた。ただし昼休みの件もあってか俺の目は鋭く不機嫌な色を浮かべており、首元と腕に光るシルバーアクセサリーでチャラさを加え人を寄せつけない雰囲気を振りまいている。

 総合して評価すると、いけ好かないインテリ野郎という物になった。


「着替えたいけど……時間がないんだよな」


 俺はチラリと机の上の置時計に視線を向け、時間を確認する。既に約束の時間まで10分あるかないかの時間で、改めて着替え……変装をする時間はない。

 つまり、この格好のまま行くしかないと言う事だ。


「はぁ……仕方ない。このまま行くか」


 俺は昨日ディスカウントショップで購入した荷物を手に取り、重い足取りで部屋を出る。

 そして俺が階段を下りていくと、その足音を聞いた母さんがリビングから顔を出し、俺の姿を目にし口を開け唖然とした表情を浮かべた。


「……」

「……大樹?」

「うん」

「どうしたの貴方? 何よ、その格好は……?」

「……これから出かけるのに必要だから、着替えたんだよ」

「着替えたって……」


 母さんは顔を上下に動かし、俺の格好を上から下まで何度も観察する。


「……仮装パーティーにでも行くの?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」


 まぁ、そういう反応も無理はないよな。俺の今の格好は、普段俺が好んでチョイスする物とはかけ離れているからな……。

 暫く母さんが嘆息しながら俺の格好を観察するのを眺めていたが、ふと腕時計に視線を落とし時間を確認すると思わず悲鳴を上げそうになった。


「ごめん、母さん! 待ち合わせの約束の時間に遅れそうだから、俺もう行くよ!」

「えっ、そうなの? ……ねぇ大樹、その格好の写真を撮らせてくれないかしら? 美佳とお父さんにも、見せてあげたいのよ」

「ごめん。ホント時間がないから、写真はまた今度にして!」


 母さんはスマホを取り出し一枚だけと指を立てながらお願いしてくる、しかし本当に時間がないので俺は母さんに断りを入れ玄関で靴を履く。


「じゃぁ、母さん。行ってくるね。今日は遅くなるかもしれないから、夕飯は先に食べてて」

「そんなに遅くなるの?」

「分かんない。もしかしたら皆で外で食事をする事になるかもしれないから、予定が決まったら電話入れるよ」

「そう、分かったわ。気を付けて行ってくるのよ?」

「分かった。じゃぁ、行って来ます!」


 俺は母さんに出掛けの挨拶を告げ、玄関を出て一路待ち合わせ場所である駅を目指し走り出す。少々母さんと長話をしすぎ時間が無い為、学校帰りの時以上のスピードで路側帯を走る。恐らく、国際大会に出るマラソンランナーくらいのスピード(1kmを3分で走破)は出ている筈だ。

 とは言え、このスピードも探索者が増えた昨今ではあまり珍しい物ではない。現に駅に近づくに従い増える人々は、俺が走る姿を見て一瞬驚いたような表情を浮かべるが直ぐに興味を失っているからな。通勤通学の時間帯には、遅刻しそうな探索者学生が今の俺と似た様なスピードで走っている姿は既に一種の風物詩だ。今更この程度の速度で走っても、驚愕といった驚き方をする者はまずいない。

 そのお陰で、俺は約束の時刻に遅刻する事無く駅に到着する事が出来た。と言っても、1分前だがな。


「えっと、切符売り場の前で待ち合わせって決めてたけど……」


 俺は待ち合わせ場所の切符売り場の方に視線を向け、目を見開き動きを止めた。俺がコレなんだから、二人もソウなるよな……。















1年生の探索者比率は、まだ少ない時期ですからね。新方針の弊害で、美佳ちゃん達は気苦労が増えてしまいました。


朝ダン、好評発売中です。書店などで見かけたら、ぜひお手に取ってみて下さい。


挿絵(By みてみん)





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[一言] 本人視点じゃ晒しものじゃないかぁ、これぇ(黒歴史発生)
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