第2話 意外な解決策?
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頑張ります!
美佳と一緒に通学路を歩く。美佳はダンジョンの件もあり何処か浮かれ気分な様子なのだが、爆弾を抱えた俺の鉛の様な足取りは一向に改善しない。顔を上げ周囲の様子を見るも、疎らに見受けられる道行く人々は携帯やスマホを弄りダンジョンの情報を調べる者や今朝の政府放送について知人同士で喋る者が見受けられただけで、憂鬱な俺の気分を盛り立てる様な光景はない。
そして、盛んにダンジョンについて話しかけてくる美佳をあしらいつつ暫く一緒に歩いていたが、交差点に差し掛かり学校の方向が違うので美佳とココでわかれる。
「じゃぁね、お兄ちゃん! 調子良くなさそうだけど、学校頑張ってね!」
「ああ。美佳もな」
美佳は手を振りながら元気に走り去っていったが、直ぐに友人を見つけたのか話しながら一緒に歩き始めた。うん、何時もながら元気だよなアイツ。
美佳が去りゆくのを見送った俺は、一人寂しく通学路を歩み始める。学校に近付くと、段々同じ制服を着た学生の姿が増えてきた。
「よっ、大樹! 朝から何湿気た面してんだよ、お前」
「……ああ、裕二か。おはよう」
「おはよう。で、一体全体どうしたんだ?」
後ろからデカい声を俺に掛けて来たコイツは、広瀬裕二。俺と同じクラスで、高校に進学して出来た友達だ。スポーツマンの様に鍛えられた良いガタイをしているが、コイツはこう見えても生粋の帰宅部。何でも実家が武術道場を経営しているらしく、指導の手伝いに駆り出されているらしい。
「いや、朝のTV放送がな……」
「ああ、アレか!」
「いきなりダンジョンって言われてもな……。まず初めに、カレンダーで日付を確認したぞ、俺」
「あぁ、分かる分かる。俺もアレを見た時は、一瞬思考が飛んだからな」
どうやら裕二も俺と同じ様な反応をしたようで、同意する様に何度も首を縦に振る。
「でも、まぁ。いきなり俺達がダンジョンに関わるって事はないと思うぞ? そんなに湿気た面しなくても大丈夫じゃないか?」
「まぁ、そうなんだけど美佳の奴が、な」
自室の机の中にダンジョンが出来ました!何て言う訳にもいかないので、取り敢えず表の理由として美佳の事を伝えた。
「美佳ちゃん?」
「放送を聞いた後に美佳の奴、ダンジョンに行ってみたいって目を輝かせていたんだよ」
「あぁ……」
裕二の奴は、何かを察したかの様に顔をしかめる。まぁ、そうだろうな。
「多分ダンジョンって聞いて、ゲームや漫画みたいな事を思い浮かべて言ったんだろうけどな。現実問題として、かなり危険な物の筈だろ?」
「だろうな。放送ではダンジョン内にはモンスターやトラップがあるって言ってたからな。素人がそんな所に興味本位で行ったら、まず死ぬ事になるぞ」
「だよな。プロの猟師でも、狩猟中に年間に何人も死ぬ事があるんだ。実際に狩りもした事がない奴じゃ、襲いかかって来るモンスターに返り討ちに遭って御終いだ」
「だな。ちゃんと美佳ちゃんに言い聞かせておいた方が良いぞ?」
武道家の端くれでもある裕二の奴が特に反論する事無く同意するって事は、やっぱり安易にダンジョン内に入り込むのは危険だよな。
だけど、その事にも頭が回らず根拠の無い自信で、ダンジョンの中に入り込む馬鹿は出るんだろうな。美佳にはもう一度釘を刺しとかないと。
「勿論」
裕二と駄弁っている内に学校に到着。教室に着くと既に多くのクラスメイト達がいて、ダンジョンの事について騒がしく話していた。少し耳を傾けて話を盗み聞いてみたが、ダンジョンは何処にあるのか?ダンジョンに入ってみたい等の話が大半を占めており、ダンジョンの危険性についての話は殆ど無かった。
おいおい、大丈夫かコイツら?
「なぁ、裕二。政府は放送の仕方を間違ったんじゃないか? ダンジョンの危険性をもっと強調しておいた方が良かったんじゃないかな?」
「ああ、この光景を見ていると無条件で同意したくなるな」
「突然のファンタジー要素に浮き足立つのは分かるが、危機感が麻痺ってるだろコイツら」
マジでコイツらの頭の中が心配になって来た。
言ってみればダンジョンって代物は、アマゾンの奥地の未開地が突然国内に移ってきた様な物なんだぞ?どんな動植物が居るかも分からなければ、どんな病原体があるかも分からない様な代物が出現したんだ。喜ぶ前に危機感を覚えろ、と俺は言いたい。
「あら? 貴方達もダンジョン危険視派なの?」
「……柊さん」
教室の後ろのドアの前で佇んでいた俺と裕二に声を掛けて来たのは、柊雪乃。背中の半ば辺りまで伸ばした黒髪と、フレームレスの眼鏡が特徴のクラスメートだ。
たまに話をする程度で、特に親しいと言う訳ではないのだが、一体何の用だ?
「さっきから皆あの調子なのよ。ダンジョンに興味があるのは分かるんだけど、如何にも現実のダンジョンをゲームや漫画に出て来る物と同一視しているらしいの。警察じゃなくて、自衛隊がダンジョン封鎖に出張っているって言う意味を考えて欲しいわ」
柊さんは呆れ気味の眼差しを、嬉しそうにダンジョンについて語るクラスメート達に向けていた。分かる。柊さんのその気持ち、よーく分かる。
「まぁ、その内みんな落ち着くとは思うけど……」
「だと良いんだけどね」
「まっ、取り敢えず今日は様子見って所だな」
俺達は其処まで話すと、示し合せた様に頷いた後其々の机に着席した。周りのクラスメート達の話を聞き流しつつ、カバンから教材を取り出し引き出しに収納する。片付けを終え教壇の上の時計に目を配ると、少し時間が余っていたのでスマホを取り出し情報収集の続きをする事にした。
某巨大掲示板サイトにアクセスすると、早速複数のダンジョン関連スレッドがたっていた。えっと……何々?
《ダンジョンについて語る Pt.15》
《ダンジョン発見!我突入す! Pt.3》
《ダンジョンテラやばす!即時撤退許可を! Pt.2》
何かもう、馬鹿が馬鹿やったみたいだ。アレだけ入るなって言われたのに、何で入るかな……?
内容は見ずに、取り敢えずスレタイ一覧を流し読みしていくと気になるスレを見つけた。
《モンスターの倒し方考査 スライム編》
中々ピンポイントな話題だった。参加者が少なく2桁前半程しか投稿はなかったが、とりあえず閲覧してみることにする。内容を流し見していくと、殆どが最弱モンスターの倒し方を考察するなど無駄という意見が占めていた。少数の倒し方の意見も、踏み潰せば倒せるや石でも投げれば良いんじゃないか?と言う投げやりな物が多い。
しかし、そんな中で一つ面白い意見があった。
「粘性生物っぽいから塩を撒けば良いんじゃないか……か。って、ナメクジか」
しかし……暴論の様に思えるが一理あるかな?確かに、引き出しの中にいたスライムは水っぽい粘性物体だったしな。うん。まぁ、ダメ元で一応試してみるか。
暫く掲示板を眺めながらスマホを弄っていると、始業を告げるチャイムが鳴り担任が教室に入ってきた。没収されたら嫌なので、素早くスマホを制服のポケットに仕舞い込み居住まいを正す。
「ほら、お前ら!サッサと席に着け、ホームルームを始めるぞ」
担任の一喝で、ダンジョンについて雑談をしていたクラスメート達は慌てて自分の席へと戻っていく。生徒達が自分の席に着いた事を確認した担任は、咳払いを一つ入れ連絡事項を伝える。
「あぁ皆も知っていると思うが、今朝の臨時の政府放送で伝えられた様にダンジョンが出現したようだ。まぁ、あんまりにあんまりな事だから本当かどうか分からないが、悪戯で国が全国放送でこんな事放送する理由もない訳だから、本当の事として対応する方が良いだろうな」
担任は疲れた様な表情を浮かべ溜息を漏らす。まぁ、マトモな大人ならそう言う反応になるよな。
「後、今日の6限目に全校集会が行われる。勿論、ダンジョンに付いてだ」
「ダンジョンに付いて、何か分かったんですか!?」
「分かっていないな」
「「「ええ……」」」
担任の返答に、教室中から不満の声が上がる。
「仕方ないだろ?俺達の持っている情報もお前等と大して変わり無いんだから。でもな、教育委員会の方からお前等が妙な事をしない様に釘を刺しておけ、と言う指示が出ているんだよ」
おい、ブッチャけたぞこの教師。良いのかそれで?
「まぁ、そういう事だ。取り敢えず、全校集会があると言う事だけは覚えておけ。以上だ」
担任はそれだけを言って、さっさと教室を出ていった。残された生徒達は近くの席の者同士でざわめいているが、直ぐに1限目が始まると言う事もあり席を離れてまで大騒ぎする者はいなかった。
はぁ。
結局、全校集会での収穫は何もなかった。教師達は終始、ダンジョンには入るなや、ダンジョンを見付けたら直ぐに110番をしろ等しか言わない。結局全校集会は担任の言った通り、教育委員会向けのポーズでしかなかったようだ。
まぁ、全校集会までの間にネット情報を収集していた者達から流出した、政府からの警告を無視しダンジョンに入った犠牲者の話が広まり、ダンジョン熱は少し沈静化していた。それでもダンジョン潜行を諦めない連中もいたがな。
「はぁ……」
「どうしたんだ大樹?ため息なんて吐いて」
「いや。何でも無い」
学校が終わり家に帰るという事は、自室の机の中に出現したダンジョンと向き合うという事だ。それを思うと思わず溜息が出てしまう。
何で俺が、こんな事に頭を悩ませなければいけないんだろうか?
「そうか。じゃぁ、俺はココまでだから帰り道は気を付けろよな」
「ああ、じゃぁ、また明日」
三叉路の分かれ道で、裕二は手を振りながら去っていった。
一人寂しく帰り道を歩き、自宅の近所のスーパーに立ち寄り調味料コーナーで、1kg100円程の特売塩を1袋購入した。スライムに効くか効かないか分からないが、物は試しだ。
「ただいま……」
返事が無い。仕事で帰りが遅い父は兎も角、母も居ないとは珍しい。スーパーでは会わなかったが、買い物だろうか?まぁ、良い。
俺は瘴気が漏れ出している様にしか見えなくなってきた自室への道程を、通学カバンとビニール袋を持って進む。
……スーパーの特売塩じゃなくて、神社で清めの塩を貰ってくれば良かった。少し後悔しつつ、部屋の扉を開け中へ入る。
「……こうして見ると、何時もと代わり映えしないんだけどな」
何の変哲もない自分の部屋。とてもダンジョンが出現した危険地帯の様には思えない。
ダンジョンが消えていてくれる様にと祈りつつ、俺は通学カバンとビニール袋を机の天板に置き引き出しを開ける。
「……やっぱり居るし」
願いも虚しく、引き出しを開けるとそこには今朝と変わらずダンジョンが広がり、真下の部屋の中央にスライムが鎮座していた。粘性の体をウニョウニョ伸び縮みさせながら、存在を自己主張している。
しかし、朝からたいして移動していない事を考えると、モンスターはダンジョンから出られないと言う制限があるのかもしれないな。
「まぁ、物は試しというし、取り敢えず……」
ビニール袋から塩の袋を取り出し、小物入れに入れていたハサミで角を切る。スライムに狙いを定め、袋を傾け塩をダンジョンへ流し込む。
塩がスライムに触れると、すぐに効果が出る。スライムは苦しそうに伸縮を繰り返しのたうち回り始め、次第にその体積を減らしていく。体の体積が元の半分を下回ろうとした時、中心部にあった黒い球体が砕け散り光の粒子となってスライムは消滅した。
「……効くんだ、塩。スライムって、ナメクジの同類だったのか?」
予想外の塩の効果に俺は唖然として、暫くスライムが消えたダンジョンを凝視し続けた。
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