第176話 体育祭の新方針決定
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翌日、学校に登校すると教室内が少しざわめいている。気になってクラスメート達の会話に聞き耳を立ててみると、体育祭の新方針に関する話題だった。
かもしれない、こうらしいと言う噂ばかりだが、昨日の職員会議で体育祭の各競技で探索者と非探索者を分けると言う事で話がまとまった様だ。
「やっぱり、そうなったか……」
俺は軽く溜息を吐きながら、通学バッグを机に置き椅子に座る。競技内で分離させられる可能性は高いと思っていたので驚きはないが、また出場競技の決め直しをしないといけないのかと思うと些か気が重い。
今日の放課後は、皆で少し遠出をする用事があるのにな……と。
「おはよう、九重」
「ああ、おはよう」
「朝から溜息なんてついて、どうしたんだ?」
「ちょっと、な」
俺に話しかけて来たのは、既に登校して来ていた重盛だ。
「聞いたか九重? 体育祭の競技、やっぱり探索者と非探索者で分離するらしいぞ?」
「ああ。と言っても、噂話を聞いただけだけどな」
「そうだけど、ほぼほぼ決まりじゃないか? やっぱり、探索者と非探索者じゃ身体能力の差があり過ぎて同じ競技で競わせるのは無理があるよな」
「……そうだな」
重盛が仕方がないなと言った表情と当然だなと言った表情が混じった顔をしている。やっぱり重盛も何か思う事があるのだろう。
重盛はウチのクラスで、数少ない非探索者だからな。
「重盛、お前は探索者資格をとっていないよな?」
「ああ。とってないぞ」
「探索者をやる気はないのか?」
俺がそう聞くと、重盛は少し悩んで頭を左右に振った。
「今はまだ、その気は無いな。もう少し様子を見てから、どうするか決めるつもりだよ。周りの連中や、友達の殆どは探索者をやってるからな。話を合わせるのにも、一度は資格を取ってダンジョンに行ってみるつもりだ」
「……そうか」
重盛の話を聞き、俺は大きく溜息をつきたくなった。
まだダンジョンが民間向けに開放されてから1年も経っていないのに、コレだ。探索者率が高い学生の間では、探索者資格は友達とのコミュニケーションツールの一つとして扱われている。最近クラスで話される話題には探索者関連の話が多分に含まれているので、友達と話を合わせようとすると上辺だけでも探索者関連の知識が要るからな。今はブームに乗り遅れるなと言った心理なのだろうが、このまま進めば高校生が探索者資格をとるのは当たり前と言った考えが定着しそうだ。
「まぁ、最近はPKなんて物騒な事も起きてないしな。今度の夏休みにでも、取りに行ってみるさ」
そう言い、重盛は笑みを浮かべた。
重盛と机に座って話していると、通学バッグを持った裕二が声をかけてきた。
「おはよう」
「ん? ああ、おはよう」
「おはよう、裕二」
裕二は通学バッグを自分の机に置き、俺の机に近づいてくる。
「聞いたぞ。体育祭、やっぱり分離するらしいな」
「まだ、噂話だけどな」
「学校中で騒がれてるんだ、どこからか職員会議の結果が漏れたんだろうさ」
そう言いながら、裕二は俺の前の空いてる席に腰を下ろす。
「で、結局どうなるんだろうな? 個人競技は兎も角、騎馬戦なんかの団体競技は分けようがないと思うんだけど……」
「人数差を考えると、探索者資格保有者だけが参加……とかになるんじゃないか?」
「だけど、九重? 探索者資格保有者だけか……それでも振り幅が広いんじゃないか?」
「うーん、確かにそうだな……」
重盛の言う様に、探索者と一言で言ってもそのレベル幅は広い。レベルが1桁の者と2桁の者では身体能力の強化具合に結構な差があるからな……俺達3人のレベルは例外だけど。
すると、何かを思いついた様子の裕二が口を開く。
「多分、レベルの申告制じゃないか? 協会でステータス鑑定のサービスをやってるからさ、そこで調べたレベルを基準に選手を分けるとかさ」
「ああ、そう言えばそんなサービスをやってたな。でも裕二、あれって有料サービスだろ? 体育祭の為に受けて来い、って言われるかな? ほら、お金もかかる事だしさ」
学校から鑑定の為にと言って、補助金とか出ないだろうな。鑑定費用全額手出しじゃ、受けないと言う生徒も出てくるはずだ。
「ステータスの鑑定費自体はそこまで高くないから、ある程度の探索者は既に鑑定を受けていると思うぞ? まぁ、初心者には、まだ鑑定を受けていないってのも居るだろうけどさ」
始めたばかりだと、あまりレベルが上がっている実感はないだろうからな。チュートリアルゾーンを抜けてから鑑定を受けようと考える者も多いだろう。でもまぁ、自分のステータスって気になるからな。鑑定を受けている者は、俺が考えているより多いかもしれないけど……。
因みに、俺達3人は鑑定解析を使ったセルフチェックをしているので、今のところ協会の鑑定は一度も受けた事はない。
「そっか……因みに、九重と広瀬のレベルは?」
「「……さぁ?」」
重盛の問いに俺と裕二は顔を見合わせた後、惚けた表情を浮かべ知らないと答える。一応公式記録としては、俺達3人が鑑定を受けたと言う記録はないからな。
本当のレベルを教える訳にもいかないので、ココは惚けるしかない。
「はぁ!? おいおい、お前ら。自分のステータス、知らないのかよ!? 鑑定を受けた事無いのか!?」
重盛は俺と裕二の返事を聞き、驚きの声を上げる。まぁ、そう言う反応になるよな。
「ああ。何と言うか……タイミングがなくてな」
「別に態々調べて貰わなくても、自分の体の調子くらい把握出来るさ。毎日、実家の道場で剣を振ってるからな」
「えっ、あっ、そう……なんだ」
俺は頬を人差し指で掻きながら目を逸らし、裕二は何か問題でもと言った態度で重盛の質問に答える。続けて何か言いたげだった重盛も、裕二の余りにも堂々とした態度と答えに押され追及の口を閉ざした。
堂々と正面切って言い切られると、追及しづらいからな……。
「んんっ! まっ、まぁ良い。じゃぁ2人は今後、ステータス鑑定を受ける気はあるのか?」
重盛は咳払いをし、バツが悪そうに場を仕切りなおした。
「うーん。あまり無い、かな? 学校から必要だから受けろと言われたら受けるかもしれないけど、そこまでステータスが気になるって訳じゃないし。今までの所、ステータス鑑定を受けなくても支障はなかったしさ」
「俺も無いな。別に数字をみたからと言って、体を動かさずに向上した体の調子を把握出来るってわけでもないしさ」
「そ、そっか……。はぁ……」
重盛は俺達の答えを聞き、若干ゲンナリとした表情を浮かべ机に突っ伏した。俺の答えは兎も角、裕二の答えに参っているらしい。
まぁ一般的な探索者の答えとは掛け離れた、武道家らしい答えだからな……。
そして俺と裕二は重盛が机に突っ伏している間に、アイコンタクトを交わした。
「(何とか誤魔化せたな)」
「(ああ)」
そして、そんなやり取りを3人でしていると、教室の扉が開き平坂先生が教室に入ってきた。何時の間にか、大分時間が経っていたらしい。
「じゃぁな、大樹。俺、自分の席に戻るわ」
「ああ」
「重盛も、何時までも突っ伏してるなよ」
「……誰が、こうさせたんだよ?」
「ははっ。じゃぁな」
そう言って、平坂先生の姿を確認した裕二は席を立ち、席を借りていたクラスメートに一言礼を述べ自分の席に戻っていった。
さぁて、平坂先生は何と言うのかな……?
教壇に立って平坂先生は、席に着いた俺達を一瞥し日直に声をかける。
「日直」
「起立、礼」
「「「「おはようございます」」」」
「おはよう」
「着席」
朝の挨拶が済むと、平坂先生は一度深呼吸をし口を開く。
「さて、皆気になっているだろう事から話を始めよう。昨日の朝話した様に、昨日の放課後に職員会議が開かれ、体育祭の新方針について話し合われた」
「先生! やっぱり噂通り、体育祭の競技は分離するんですか?」
「ああ。結論から先に言うと、その通りだ」
平坂先生が生徒の質問を肯定すると、一気に教室が騒がしくなった。
「静かに! 説明を続けるから、黙って聞くように!」
平坂先生は両手を数度打ち合わせながら、騒ぐ生徒達の鎮静化を図る。効果は直ぐに現れ、教室は徐々に静かになっていった。
「良し、説明を続けるぞ。さっきも言った様に、昨日の放課後に職員会議が開かれ体育祭で行われる各競技で、探索者資格を持つ生徒と探索者資格を持たない生徒を分ける事が決まった」
平坂先生がハッキリ競技を分けると口にすると、再度教室がざわめいたが平坂先生が一瞥すると直ぐに収まる。
「個人競技の方は、探索者生徒と非探索者生徒を前半と後半に分けて行う。何人かには競技を2回行って貰う等の人数調整は必要だろうが、事前に決めている出場者を決め直す必要がないようには配慮している」
どうやら放課後に、各競技の出場者を決め直すと言う手間はかけなくて済むようだ。先生達も、そのへんは配慮してくれたらしい。その為、教室のアチラコチラから安堵の息が漏れる。
そして平坂先生は安堵する俺達生徒を一瞥し、若干言いづらそうに口を開く。
「さて個人競技の方は良いんだが、問題は団体競技の方だ」
平坂先生がそう言うと、生徒の視線が平坂先生に集中した。
探索者生徒と非探索者生徒が混同する体育祭で、一番の問題は団体競技だからな。
「まず女子の綱引きなんだが、探索者生徒と非探索者生徒を分けるのは当然なんだが、探索者生徒が行う綱引きは一度に参加する人数を減らして行う事になった。一度に行うのは、各チーム10人迄だ」
「先生、それはどうしてですか?」
女子生徒が手を挙げ、平坂先生に質問を投げかける。確か彼女、綱引きに参加予定だったな。
「職員会議で話し合った結果、綱の強度を考えると1度に10……20人以上の探索者生徒が綱を引き合うのは危ないと言う結論が出たんだ。元々ウチの学校に置いてある綱引き用の綱は、購入してから大分経つからな。万一にも綱が切れないようにと安全を考え、探索者生徒が行う綱引きは各チーム10人で行うと決められた」
平坂先生が少ない人数で行う理由を説明すると、質問をした綱引き参加予定の女子生徒は若干納得が行かなさそうな表情を浮かべながらも手を下ろした。
まぁ、お前らの力が強くて綱が切れるかも知れないんだよ!と言われたら、自覚はあっても女子としては引っかかるだろうからな。
「まぁ、そう言う事だ。次に男子の団体戦、騎馬戦についてなんだが……」
平坂先生はそこまでで一旦言葉を切り、教室を一瞥する。
先程各競技で生徒を分けると言った時以上に、言いづらそうな表情をしている。
「その、なんだ? 騎馬戦についてなんだが……競技に参加するのは探索者生徒に限る事となった。探索者資格を持たない者で騎馬戦参加を楽しみにしていた者は、すまん。騎馬戦に参加する男子の探索者資格保有比率を考えると、参加する生徒を分けると探索者資格を持たない者が少すぎて騎馬戦を行う事はできなさそうなんだ」
「「「「ええっ!?!?」」」」
教室中に驚きの声が満ちる。
まさか、生徒を分けるどころか非探索者生徒は競技に参加出来無いとは……。
「静かに。男子の探索者資格保有比率を考えると、探索者資格を持たない者だけで騎馬戦を行おうとすると、各チーム5騎前後しか揃える事が出来なさそうなんだ。流石にそんな少数で騎馬戦は……な?」
「「「「……」」」」
平坂先生にそう言われ、広い運動場で10騎にも満たない騎馬がハチマキを取り合う光景を思い浮かべた。うん、かなり寂し気な光景だよな……。
ある意味、晒し者感さえしてくる。
「まぁそう言う訳だ。騎馬戦に参加出来無い生徒には申し訳ないが、今回の騎馬戦は探索者資格を持つ生徒のみで行う事となった」
平坂先生のその言葉を聞き、俺はハッと重盛の方に視線を向けてみる。すると重盛は若干寂し気ながらも仕方が無いといった諦めが混じった曖昧な表情を浮かべていた。
俺は気まずくなり、重盛が気づく前に視線を平坂先生の方に戻した。
「ああそれと、他の団体競技である創作ダンスと組み体操は、内容を若干変更し全員で行う事になった」
「……全員、ですか?」
「ああ。この二つの競技は充分に気をつければ、混同して行っても大丈夫だろうと思われるからな。実際、先週先行して体育祭を行った学校でも、この二つの競技で怪我人は出ていないらしいからな。それに、体育祭である以上、全員で参加する競技を一つは残したい……と言う考えもある」
ダンスと組み体操は残す……か。ダンスは兎も角、組み体操はどうなんだ? うちの学校の組体操は無茶な技は行わないけど、毎年組み体操中の事故が報道されているのに……もしかして、探索者は頑丈だから大丈夫、とか言う考えからじゃないよな?そう考えた俺は若干不審げに、不躾な眼差しを平坂先生に向けていた。
しかしそんな俺の視線に平坂先生は気付かず、頭上の時計の時間をチラリと確認し話を締めにかかった。
「少し長く話し過ぎたな。まぁ、体育祭関連の話は今話した通りだ。団体競技を除き大幅な変更等はないので、怪我等が無い様に気を付けて体育祭の練習に励んでくれ、以上だ。日直」
「起立、礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
俺達が頭を下げている内に、平坂先生は足早に教室を後にした。
ふぅ、結局体育祭はブロック分けしてする事になったな……。まぁ兎も角、それなりに頑張るか。