第174話 衝撃的事実を妹達に突きつけられる
お気に入り14430超、PV13480000超、ジャンル別日刊23位、応援ありがとうございます。
柊さんの提案を聞き、俺と裕二がそれもありかな?と思っていると、部室の扉が開き美佳と沙織ちゃんが入ってきた。
「ごめ~ん、遅くなっちゃった」
「遅くなりました」
弁当箱を持った美佳と沙織ちゃんは、遅れた事を謝りつつ空いている席につく。まぁ、遅れたと言っても、俺達が部室に来てから10分ぐらいしか経っていなんだけどな。
「別に、気にしなくて良いよ2人とも。それと俺達が誘ったのに、先に弁当食べさせて貰ってるけど悪いね」
「ううん、それは私達が遅れたから仕方ないよ。気にしないで」
そう言いながら、美佳と沙織ちゃんは弁当を広げ食べ始めた。
そして、俺達は2人が弁当を食べ始めたのを確認し先程までしていた話に話題を戻す。
「じゃぁ話は戻るけど、私の提案した改修案を元に話を進めるって事で良いかしら?」
「うん、良いんじゃないかな? 元の案より、一般生徒への影響に配慮した形になってるしね。まぁ、詳細はこれから詰めないといけないけどさ」
「そうだな。でも、少し恥ずかしくないか? その演出」
「良いじゃない、広瀬君。折角のイベントなんだから、少しくらいはしゃいでも……」
少しくらい、ね? 本当に少しくらいかな、その演出? 俺は裕二に向かって平然とそう言い切る柊さんを見ながら、首を軽く捻った。
すると、俺達のやり取りを見ていた美佳が疑問の声を掛けてくる。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。何の話をしているの?」
「ん? ああ。今度の体育祭でやる、部活紹介のアピールについての話だよ」
「部活紹介のアピール? あれって、皆で演武をやるって決めたんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけどさ。美佳達の所でも、今朝のHRで何か言われただろ?」
俺にそう言われ美佳は首を軽く傾げながら、朝の出来事を思い出しハッとする。
「何かって、体育祭の方針転換の事?」
「そうそれ。その話の内容を考えたら、予定していた演武だと少し、ね?」
「つまりお兄ちゃん達は考えていた演武の内容だと、探索者でない一般生徒に影響を与え過ぎるって思って、内容を変えようとしているって事?」
「正解」
俺は裕二や柊さんと話し合った内容を、美佳と沙織ちゃんに説明した。
すると美佳達は大きく頷きながら、各々俺達の演武についての感想を述べる。
「うーん、確かに。お兄ちゃん達が考えている事は、ありえるかも知れないね……」
「そうだね。ある程度のラインまでなら凄いで済むけど、お兄さん達がやる演武だと……」
「一般人が考える演武からすると、隔絶し過ぎていてドン引き物だよね」
「パッと見、漫画かアニメだもんね、アレ」
美佳達の感想を聞き、俺達3人は若干頬を引きつらせる。
「……そんなにか?」
「うん。普段お兄ちゃん達が重蔵さんと稽古でやっている試合なんて、初めて見た時は漫画の戦闘シーンにしか見えなかったよ?」
「天井を蹴って重蔵さんの頭上から襲い掛かる所なんて、完全に漫画の世界でしたね」
「「「……」」」
初めて聞く重蔵さんとの試合を観戦した美佳達の感想に、俺達の頬は完全に引きつった。初めて美佳達に稽古を見せた時、唖然としているのには気付いていたが、まさかそう思われていたとは……。
ヤバイな……。事、探索者関連の感覚に関しては、かなり重度に俺達の感覚は一般人離れしている様だ。と、言う事は……。
「じゃ、じゃぁさ? 美佳達から見て、俺達が練習していた体育祭でやる予定だった演武って、どう見えてた?」
「うーん。凄かった、かな?」
「はい。凄かったです」
「凄かった、か……」
重蔵さんとの稽古の感想を聞いた後だと、素直に美佳達の言葉を受け入れづらい。何せ、凄いと言う言葉には、幅広い意味があるからな。一般人より少しだけ凄いのか、隔絶し過ぎていて凄いのか……。
素直に頷くと危険な気がしたので、少し突っ込んで聞く事にする。
「2人は、演武のどの辺が凄かったと思ったんだ?」
「うーん、そうだね……。私は、お兄ちゃんと裕二さんが打ち合いをした時に、裕二さんがお兄ちゃんが打ち込んだ木刀を2本指で受け止めた所かな?」
「私はそうですね……雪乃さんの木槍が空中に投げられた分厚い辞典を、弾かず一瞬で貫いた所ですね。私達の今の腕じゃ、貫くどころか弾くのが関の山ですし……」
2人の感想を聞いた俺達は、軽く深呼吸をして落ち着いて一般常識に沿って考えてみる。
すると考えた結果、俺達って結構やらかしてるよな……と言う結論に行き着いた。
「「「……」」」
「あれ? どうしたの、お兄ちゃん? 急に落ち込んで……」
「広瀬さんと雪乃さんも、どうしたんですか?」
自分達のやらかし具合に気付き落ち込む俺達に、美佳と沙織ちゃんは不思議そうな表情を浮かべながら声をかけてくる。
いや、ね?
「ああ、うん。いや、俺達……色々無自覚にやらかしていたんだな、って。今気付いてさ」
「そう、だな。予定通りの構成で演武をやっていたら、大惨事だったかもしれないな……」
「ええ。どうも私達の認識は変だったようね……」
俺達が一般人に受けが良く見栄えが良い演武と思っていた物は、どうやら只の衝撃映像集でしか無かった様だ。その事に気がついた俺達が意気消沈気味に消え入りそうな声でそう呟くと、美佳と沙織ちゃんは意外げな声で俺達に止めを刺しに来た。
「えっ!? 自覚無かったの、お兄ちゃん達!?」
「私達てっきり、お兄さん達がアイツ等を完全に潰す為に敢えてアレをやるんだと思ってました……」
2人のその言葉を聞き、俺達3人は頭を抱えながら机に突っ伏した。
中々衝撃的な事実を突きつけられた昼休みを終えた俺達は、午後一の授業が体育だったので、体操服に着替え運動場に集合していた。
しかし俺と裕二、そして柊さんは、昼休みの衝撃が未だ抜けきらず意気消沈している。
「はぁ……。探索者になってから常識がズレてきているとは認識していたけど……面と向かって言われると堪えるよな」
「そうだな。稽古で爺さんが俺達相手に以前と変わらず平然と相手しているからといって、それが普通ってな訳でもないんだよな……」
「重蔵さんか……寧ろあの人は何で、俺達相手にああも平然と稽古の相手を未だ務める事が出来るんだ?」
技術面は兎も角、レベルは稽古開始当初から格段に上がり身体能力という点で見れば、俺達は重蔵さんの数段上の能力を持っている。それなのに未だ稽古中の模擬戦では、俺達が重蔵さんからまともな1本を取れた試しがない。
ホント……どうなってるんだ、あの人?
「さぁ、な? でも孫である俺から見ても、あの爺さんの実力はおかしなレベルだとは思うぞ? 探索者をやる様になってからは、特にな。……アレで、探索者じゃないってのは信じられないけどな」
「そうだよな……。もし重蔵さんが探索者の身体能力を持ったら、どうなるんだろうな?」
「まぁ単純に考えても、鬼に金棒、虎に翼だろうな……」
つまり、向かうところ敵無しって事だよな。
と、そんな事を2人で互いに慰める様に話し合っていると、若干引き攣った様な表情を浮かべた重盛が話し掛けてきた。
「おいおい、どうしたんだよ2人とも? 昼休み明けだっていうのに、そんな暗い雰囲気を纏ってさ? 何かあったのか?」
「……ああ、重盛か。何か用か」
「何か用かって……本当に何かあったのか?」
俺が気のない返事を返すと、重盛は引き攣った様な表情を引っ込め、心配げなものへと変えた。
「いや、特には……」
「特にって……おいおい、こんだけ近寄りがたい重い空気を出してて、何もないって事はないだろ? ほら、周りを見てみろよ」
「……周り?」
重盛に促され周りに目を向けてみると、俺達と同じ体操着姿のクラスメイト達が遠巻きに俺達のやり取りを見ていた。その顔には心配げなものから、不愉快そうな物まで色々だ。うん……コレは拙いな。
俺と裕二は自分の頬を軽く叩き、気合いを入れ直す。
「ふぅ、悪い。少しショックな事実を、昼休みに突きつけられてな」
「ショックな事実? どう言った内容なんだ、それって?」
「悪い、ちょっと口に出して言うのはな……。なぁ、裕二」
「ああ。出来れば、詳しく聞かないで貰えると助かる」
「そうか。言いづらいのなら無理には聞かないけど……あまり落ち込むなよ? さっきみたいなのだと、扱いに困るしな」
俺と裕二が何も聞いてくれるなと目で訴えると、重盛は軽く溜息をつきながら了承し軽く注意してくる。
「「ああ、気をつけるよ」」
俺と裕二がそう重盛に返事を返すと、タイミング良くチャイムが鳴り体育教師の集合の声が響いた。
「授業を始めるぞ、全員集合!」
号令に従い、生徒達が体育教師のもとに集まる。
「よし、集まったな。じゃぁ、授業を始めるぞ。今日から体育祭に向けて、本格的な練習を始める。と言いたい所だが、今朝の連絡で聞いた通り体育祭の方針に関して変更がある可能性が出てきたので、今日は全体競技の練習は行わず個人競技の練習を行う事とする」
「「「ええっ~」」」
体育教師の言葉に、生徒達から不満の声が上がる。まぁ、本番1週間前に全体競技の練習が出来ないってのは、中々厳しいからな。授業時間中に練習が出来ないと言う事は、放課後等に完成度を上げる為の練習時間が長く組まれると言う事だ。それでも間に合わなければ、昼休みの時間も潰れる可能性がある。
放課後に予定を入れている者には、死活問題だ。
「静かに! 授業内容に不満があるのは理解するが、参加人数や競技内容に変更が出る可能性がある以上、いま全体競技を練習しても無駄になる可能性がある。それならば、個人競技の練習をした方がまだ有意義だ」
いや、確かにそれはそうだろうけど……。
体育教師の言い分も理解出来なくはないが、じゃぁ同じく参加競技を変更する可能性がある個人競技ってどう練習するんだよと聞きたい。すると体育教師はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべ、こう言った。
「と言う訳でお前ら、今日はお前達にはグラウンドを走って貰う。まぁ、マラソンだな」
「「「ええっ!?!?」」」
今度こそ、俺達生徒から悲鳴の声が上がった。
よりにもよって、マラソンかよ!
「悪いが、各競技共通して練習出来る種目が他に無くてな? 今日体育があるクラスは、全部走って貰っている。さて、じゃぁ先ず走る前に聞いておく事があるんだが……」
そう言って体育教師は俺達を一瞥し、質問を投げかける。
「この中で、探索者資格を持つ者は手を上げてみてくれ」
すると、質問に答えて徐々に手が上がる。無論、俺も手を上げた。
「1,2,3……クラスの約3分の2か。良し、もう手を下ろして良いぞ」
数を数え終えた体育教師は、手を上げる俺達に手を下げる様に指示を出す。
そして全員が手を下げた事を確認し、体育教師は口を開いた。
「いま手を上げた者は、グラウンドを30周。手を上げなかった者は、グラウンド15周が今日の目標だ」
「「「ええっ、30周!?」」」
手を上げた生徒達から、不満の声が上がる。ウチの学校の運動場のトラックは、凡そ200m程ある。15周で3km、30周だと倍の6kmと言う事になる。
走る距離が倍もあれば、不満が出て当然だ。
「静かに! 何の根拠も無く、倍走れと言っているんではない。今日1日色々なクラスに走って貰った結果、探索者資格を持つ者と持たない者では、走り終える時間が倍近く違うという事が分かっている」
「先生。早く走り終えたら、後は休憩で良いじゃないですか?」
「何事にも限度という物がある。授業時間の半分以上を休憩時間に出来る訳無いだろう? 何なら、走り終えた者から行進の練習でもするか? 30分以上行進の練習をする事になると思うが……」
終了後に延々と行進練習をするマラソンか、終了後に休憩時間がある少し距離が長いマラソンかどっちを選ぶと問われ、不満を口にしていた資格持ちの生徒達は口をつぐむ。
つまり、そういう事だ。
「良し、じゃぁ準備運動とストレッチを済ませたら始めるぞ。ほら、体操が出来る様に間を取って広がれ!」
「「「はーい」」」
不満気な表情を浮かべつつ、俺達は準備運動が出来る様に運動場に広がった。
マラソンか……あまり目立たない様に周りに合わせて走らないとな。
面倒なマラソンと言う課題を無難に乗り切り、気怠げな空気が流れる残りの授業を終え、漸く放課後を迎えた。特に体育祭関連の連絡も無く、HRは簡単に終わり生徒達は思い思いに教室を後にして行く。
俺も教科書などの荷物を通学バッグに纏め終え、前の席に座った裕二と雑談をしていた。
「ふぅ……終わった。取り敢えず部室に顔を出した後、重蔵さんに演武内容の変更を相談しに行かないとな……」
「そうだな。今度は美佳ちゃん達に監修して貰って、演武の構成を練った方が良いだろう」
「だな。俺達より、美佳達の方が一般常識とのズレは少ないだろうからな……」
元の演武構成は、俺達と重蔵さん主導で決めたのが拙かったのだろう。初めから美佳達の意見を聞いて構成を練っていれば、この様な事態は回避出来た筈だ。美佳達も探索者になったとはいえ、未だ1ヶ月程だからな。まだそれ程、一般人と感覚のズレは無い筈だし。
「お待たせ九重君、広瀬君。行きましょう」
「あっ、うん」
「良し、行くか」
先程まで女友達と話していた柊さんが用事を済ませ声を掛けてきたので、俺と裕二は荷物を纏めた通学バッグを持って席を立った。




