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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第9章 ダンジョン開放後、初の体育祭
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第173話 どこもかしこも予定変更

お気に入り14100超、PV 13410000超、ジャンル別日刊27位、応援ありがとうございます。





 大きくざわめく俺達を、平坂先生は両手を上下に動かすジェスチャーをしながら抑える。


「お前ら、説明をするから静かにしろ」


 平坂先生の声が響き、次第にざわめきが落ち着いていく。

 そして1分ほど掛かって、教室のざわめき声は沈静化した。


「……よし。じゃぁ、簡単に経緯を説明するぞ? まず探索者と非探索者の生徒が参加する競技を分けようという話が出てきたのは、今日の朝の職員会議でだ」

「先生。それは例のニュースがあったからですか?」

「関係無い……とは言い切れなくもないな。だが、主な理由は先行した日程で体育祭を行った高校の結果を鑑みての事だ。確かに以前から……先程言った練習の怪我の件等の情報も入ってはいたが、それらはあくまでも練習中の事故事案として扱われていたんだよ。しかしだな、実際に体育祭を行ってみると結果が結果で、探索者資格を持つ生徒と探索者資格を持たない生徒の差が酷く、混合状態で各競技を行うのは如何な物か?と言う話になったんだ」


 平坂先生の話を聞いていると、何で今更と言う感じの話だ。探索者と非探索者の身体能力の差は体育祭の以前から……それこそスポーツテストを行った時には数字としてハッキリと出ている。その結果を知っていれば、体育祭の競技を混合状態で行うことは困難だと分かる様な物だろうに……。

 そんな俺達の疑念を察した平坂先生は、諭すような口調で話し始める。


「お前達の言いたい事は分かる。探索者と非探索者の身体能力の差……そんな事は分かりきっていた事だろう?と言いたいんだろ? その通りだ。そんな事は俺達教員も、体育祭を開催する以前から分かりきっていた事だ」


 だったら、何故?という疑問が俺達の頭に浮かび、教室の雰囲気が若干重くなる。


「だったら、何故何の対策も取っていないのか?と言う話なんだが……まぁ、体育祭は生徒全員が分け隔てなく参加し行う事である……と言う原則に沿った結果だな。基本学校と言うのは、余程特別な理由でもなければ生徒は平等に扱う物だ」


 いや、確かに原則はその通りなんでしょうけど……探索者と非探索者の身体能力の差は、その特別な理由に当たるのでは?

 そう思い首を捻っていると、平坂先生はさらに一言付け加える。


「お前達、今身体能力の差は特別な理由に当たると思っただろ? だが残念ながら今までの学校の慣例上では、他の生徒と一つ飛び抜けて身体能力が高いと言う事は特別な理由には当たらないんだよ」

「……それは何故ですか?」

「つまりだな? 高校生でオリンピックや世界大会に出るような生徒でも、今まで体育祭等にも普通に参加していた……と言う事だ。彼等は他の生徒に比べ頭一つ以上高い身体能力を持ってはいるが、体育祭への参加を禁止や見学のみさせられるような扱いを受けていたと言う話は聞いた事が無いだろ?」

「「「あっ」」」


 一瞬、教室に呆気に取られた様な空気が流れる。

 確かに言われてみれば、身体能力差だけを理由に体育祭への参加の可否を決めるのならば、その手の各スポーツで活躍する生徒の参加は以前から御法度になっていた筈だな。

 しかし考えてみると、確かにそんな話は聞いた覚えが無い。


「だが今回と言うか……つい先日なんだが、実際に体育祭を行ってみた所、探索者と非探索者との差があり過ぎて明らかに競技にならないと目に見える形で判明した。よって、まだ体育祭を開催していない学校は可能なら変更しようという運びになったと言う事だな。とまぁ、これが今回の競技を分けるという話になった経緯だ」


 平坂先生が話をそう言って締めると、教室内がざわめき立つ。

 まぁ、無理もないよな。


「と言う訳で、今日中には職員会議で体育祭の新しい方向性が決まる筈だ。新しい方針は明日にでも発表出来るとは思うが、会議の結果によっては先週お前達に決めて貰った各人の出場競技を決め直して貰う必要が出てくると思う」

「「「ええっっっ!?!?」」」


 また出場競技を決め直すのかよ、先週アレだけ揉めて決めたのに……。

 そして、平坂先生はざわめく俺達を軽く一瞥し、両手を数回打ち鳴らして沈静化を図る。


「静かに! 面倒な事だとは思うが、すまないな。それと、一応今の方針だと行う事が決まっている競技内で探索者と非探索者でブロックを分けて行うつもりなので、一部の競技を除きそうそう大きな変更はない筈だ」

「……一部の競技、ですか?」

「ああ。主に、騎馬戦や綱引きなんかだな。直接的に体がぶつかり合う騎馬戦は、探索者と非探索者は分けないと大怪我に至る可能性が高い。そして綱引き、これも場合によっては綱が切れる可能性もある」


 確かに平坂先生が言う様に、騎馬戦は普通でも怪我をする可能性が高い競技だしな。そんな競技を混合で行えば、非探索者から怪我人が出る事間違いなしだろう。非探索者が馬になったら骨折や内臓損傷、例え騎手でも落馬や衝突時に身体を弾き飛ばされる危険性がある。

 綱引きにしても、希に綱引き中に真ん中から綱が切れたというニュースを聞く。仮に綱引き参加者が全員探索者であると想定すると、実際の参加人数の2~3倍の人数で綱引きをしていると考えられる。もし綱が劣化していれば、下手をすると切れるな……。


「兎も角、詳細は明日また伝えるので、参加種目を決め直すかも知れないというのは覚えておいてくれ」

「「「はーい」」」


 俺達は張りのない声で、平坂先生に返事を返した。








 連絡事項を伝え終えた平坂先生は、朝のHRを締めようとする。


「さて。じゃぁ、これで朝の連絡事項は御終いだな。……っと、言い忘れていたが、運動場には土日で体育祭用の仮設応援スタンドが設置されている。練習などで必要な時以外は、危ないので登らない様に。では以上でHRを終わる……日直」

「起立、礼」

「「「ありがとうございました!」」」


 締めの挨拶を終えると、平坂先生は教室を出ていった。

 そして平坂先生が教室を出ていった事を確認し、教室に残った生徒達は席を離れ今聞いた話について話し合う。無論、俺達もだ。


「なぁ、どう思う? 競技参加者の分割ってさ?」 

「まぁ、妥当な判断なんじゃないか? 平坂先生が言う様に、下手に一緒にやると怪我をするだろうからな……」


 俺は席の横に立っている裕二に、平坂先生の話について問いかける。

 

「まぁ、確かにそうだよね。注意していたとしても、万一走っている時に非探索者と衝突でもしたら一大事だからな……」

「低レベルの探索者でも頑張れば、100m10秒切れる位で走るからな……。その上、体も頑丈だから、怪我をするのは非探索者の方だけだろうさ」


 俺達は軽く溜息を吐く、ただ走るだけで加害者になる可能性がある……その事実に気が重くなる。怪我をした生徒は提供された回復薬で治ったとは聞いたが、治ったからそれで問題解決という話でもない。探索者をやっている者からすれば探索中に骨折をする等というのはダンジョンあるあるのネタであるが、非探索者の一般人からすると骨折は一大事である。

 と、そんな話を裕二としていると、隣の席に座る重盛が話しかけてきた。


「なぁ……九重、広瀬?」

「ん? 何だ?」

「平坂先生が言う様に、探索者と非探索者で一緒に競技をやるとそんなに差が出るものなのか?」

 

 重盛は怪訝そうな表情を浮かべ、俺と裕二にそんな事を聞いてきた。


「スポーツテストの結果はある程度知ってるけどさ……競技によって別に走るだけが全てって訳じゃないだろ? ほら、障害物競走とかさ?」

「ああ、まぁ確かにそうだな。でも、なぁ……」

「基本的な身体能力が、探索者と非探索者だと段違いだからな。それこそ、借り物競争の様な運が絡む競技でないと勝ち目は薄いと思うぞ?」


 俺と裕二は重盛の考えを、ばっさりと切る。確かに身体能力任せで決まらない競技はあるだろうが、体育祭で行われる競技の大半は身体能力任せでもなんとかなるだろうからな。

 重盛が言う障害物競走なども、運要素がなければダンジョン探索を行う探索者には慣れたものだ。


「……そうか?」

「ああ。例えば玉入れなんかは、両手一杯に玉を抱えていてもジャンプすれば籠の高さまで飛べる探索者には簡単にクリア出来る競技だと思うぞ?」

「そうなると、体育祭定番ルールである入れた玉の数を競うんじゃなくって、玉を籠に入れ切った早さを競う競技になるな……」

「……」


 確かTVとかでやっていたよな……玉を入れた早さを競うって言う競技玉入れ。アレはアレで面白そうだけど、体育祭でやるタイプの玉入れではないよな……。

 俺達の例え話を聞き、重盛は言葉に詰まっていた。


「考えれば考えるだけ、探索者と非探索者を一緒の競技に参加させるのは拙いって思えてくるな……」

「ああ、そうだな。まぁ何にしても、どんな形になるかは明日だな。先生達も、多分これから生徒会側や体育祭開催運営委員会とかとも協議しないといけないだろうからな……。その話が纏まらない事には、一般生徒である俺達には手の出しようがないさ」

「……そうだな」


 重盛は溜息を吐き俺達に一言断りを入れ自分の席に座り直し、そんな重盛の姿を見て裕二も授業の準備をすると言い自分の席へと戻っていた。

 

「今年の体育祭、一体どんな形になるんだろうな……」


 1時限目の担当の先生が教室に入ってくる姿を確認しながら、俺は教科書を取り出し一瞬、運動場に設置された応援スタンドに視線を送った。








 午前中の授業が終わり、俺達3人は弁当を持って部室へと足を運んだ。美佳達にも声をかけているので、そのうち顔を出すだろう。

 俺達は各々弁当をつまみながら、体育祭について話をする。


「で、どうするんだ? アピールタイムの演舞」

「どうするって……」

「予定している内容で演舞をしたら例の留年生達以上に、一般生徒への精神的ダメージが大きくなるぞ?」

「そうね……探索者にならず部活に精を出している子達は、特に影響を受けるかも知れないわね」


 確かに、2人の言っている事はありえるな。

 今俺達が行う事を予定している演舞は重蔵さんに監修して貰い、例の留年生達に警告と衝撃を与える事を目的に組み上げている物だ。留年生達……探索者にである。そんな物を一般人が見れば、受ける影響は計り知れない。探索者になると言う誘惑を振り切って一生懸命部活を続けていた者も、探索者との格差に絶望し辞めてしまう者が出てくるだろう。


「それは……拙いよな?」

「ああ、拙いな。それもかなり……」

「そうね……。只でさえ探索者が登場して以降、運動系部活動は下火になっているもの。そこに私達が無遠慮に差を見せ付ける様な演舞なんてやったら、運動系部活動の衰退消滅危機に最後のひと押しをする事に成りかねないわ」

「そうなったら恨まれると言うか……教職員側からも目をつけられるよな」


 もしかしたら一部の部活動顧問からは歓迎されるかもしれないが、運動系部活を尽く潰す切っ掛けになったら教職員、PTA、生徒……様々な方面から反感を買うのは必至だろう。

 何故、そんな事をしたのか?と。理由を説明することは可能だが、そうなると留年生問題を放置していた事を学校側は隠そうとするだろう。何せ、学校側が具体的な行動を起こさず解決を生徒任せにした結果が、運動系部活が衰退消滅したとなれば責任問題に発展するからな。もし恥知らずにも学校側が保身に走れば、俺達が勝手に暴走した結果だと主張し、責任を俺達に被せ切り捨てにする可能性も出てくる。

 まぁそんな事はないと思うが、一応気に掛けておくに越した事はない。


「だからそうならない為にも、演舞を含めてアピール内容を変えた方が良いんじゃないか?って事だよ」

「確かにその通りかもしれないけど……でもさ? そうなると、留年生達に与える衝撃が弱くならないか? 俺達に手出ししたら拙いと言う事を理解させるぐらいの衝撃を一目で分かる様に与えないと、あの手の輩はちょっかいを出してくるんじゃないか?」

「確かに中途半端なアピールだと、逆に手を出してくる可能性はあるんだよな……」


 俺と裕二は箸を手に持ったまま、どうすれば良いのかと頭を抱える。予定していた演舞内容ならば、間違いなく留年生達に対する警告にはなるが、その演舞をそのまま行えば一般生徒に対する影響や、体育祭後に一騒動起こる可能性が想定できるからだ。

 確かな警告効果と一般生徒への配慮……さじ加減が難しい。

 

「じゃぁさ、2人とも。こう言う形のアピールはどう?」


 そんな頭を悩ませる俺と裕二に、出汁巻き卵を箸で摘んだ柊さんが1つの案を口にする。

 ええっ、そんなアピール方法って良いのかな……。
















 オリンピックや世界大会に出ているからと、体育祭出場を禁止された高校生がいるって話は聞いたこと無いですよね?



朝ダン好評発売中です。書店等で見掛けたら、是非お手に取ってみてください。


挿絵(By みてみん)

 

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― 新着の感想 ―
まぁ多分集団から代表者を選抜しての模擬戦とかになるんだろうな。
[気になる点] うちの高校だと体育祭で球技とかあって、 部活がその球技の人間は参加不可だったりしたが。 当然インターハイで結果出したような人間は その競技には出さないよ。
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