表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
182/618

第166話 買取と帰宅

お気に入り14040超、PV 12140000超、ジャンル別日刊22位、応援ありがとうございます。


急用のため、少し早めに更新しました。




 俺達の見守る中、ウキウキとした様子の美佳が窓口係員の指示に従い書類を記入していた。


「はい。書類の方はこれで大丈夫です。査定額の通知書類は、2,3日以内に郵送される筈です。お手数ですが、お預かり証明書と査定通知書類をお近くの協会にお持ち下さい」

「はい!」


 今はスキルスクロールの鑑定から査定通知の送付まで、2,3日で済むのか……。昔は1,2週間は掛かったのに便利になったものだなと、俺は美佳と係員のやり取りを聴きながらダンジョン協会の鑑定体制の拡充ぶりに感心した。

 そして全ての買取手続きを終えた俺達は窓口を離れ、一旦待合室の空いている場所に移動する。


「さて、無事に手続きも終わった事だし……帰るか?」


 俺は背負っていたバックパックを下ろし、書類を仕舞う美佳を見ながらみんなに帰宅の意思を尋ねる。


「ああ、賛成だ。手続きが終わった以上、もうここに残る理由も特に無いしな」

「そうね、帰りましょう。今日は重蔵さんと相談をする予定だし、待ち合わせ時間までに余裕はあった方が気持ちの整理が出来て良いわ」


 予定では、今日の探索の後に重蔵さんにスライムダンジョンの事を話すつもりなのだが……予定が巻いて約束の時間まではかなり間がある。約束をしている以上、遅刻は論外だがあまり早すぎるのも問題だよな。……どこかで少し時間を潰して、調整をしてから行かないと。

 そんなふうに思っていると、書類を仕舞い終えバックパックを背負い直した美佳が俺に話しかけてきた。


「ねぇ、お兄ちゃん? その相談なんだけど、本当に私達は同席したらダメなの?」

「ん……悪い。今回は少し込み入った話だから、俺達3人だけで話をさせてくれないか?」

「……うん、分かった」


 俺が軽く手を挙げながら謝ると、少々不満気だが美佳は素直に意見を引いた。

 俺達だけでって所に、自分達が除け者にされている様に感じているんだろう。だが、今の段階で、美佳達に聞かせられる話でもないからな……。


「じゃぁ、皆。帰ろう」

「ああ」

「ええ」

「うん!」

「はい!」


 皆の意志を確認した後、俺達は建物の外へと歩き始めた。

 









 バスロータリーで駅行きのバスの列に並んで待っているのだが、例の監視者3人組が俺達との間に一組入れたすぐ後に並んでいた。どうやら今朝の失態の反省を生かしたみたいだが……こんな近距離まで監視対象に近づいて良いのか?監視対象と同じバスに乗れないと言う事よりはマシなのだろうが……激しく鬱陶しい。

 俺は口元を手で隠しつつ、聞こえるか聞こえないかの大きさの声で短く一言裕二に耳打ちする。


「どうする?」

「……」


 俺の質問に裕二は視線をこちらに向けた後、無言のまま目を瞑った。これはつまり……放っておけと言いたいのだろう。


「……分かった」


 俺はそれだけ言うと、裕二の耳元に寄せていた顔を離す。はぁ……早く来ないかな、バス。

 そんな溜息をつく動作する俺を見て、美佳が少し心配げな表情を浮かべながら振り返り俺に話してきた。


「? どうしたのお兄ちゃん? 急に溜息なんてついて……」

「ん? ああ、何でもないよ。ちょっと、これからの相談の事を考えていたらつい、な」

「ふーん。ねぇ、お兄ちゃん? そんな思い出した様に溜息をつく相談って、本当に何なの? すっごく興味があるんだけど……」


 あっ、まずい。言い訳に使う話題を間違えたかも……。

 俺は困ったような表情を浮かべ、何とか誤魔化そうと試みる。


「ん……まぁ何だ? 詳しくは言えないけど、一言で言うなら、これからのダンジョンについて……かな?」

「これからのダンジョンについて?」


 正確には、(スライム)ダンジョンのこれからについて、なんだけどな。


「ああ。ちょっと心配ごとがあってな、重蔵さんに話を聞いてもらおうと思ってな」

「うわっ、何それ? 随分、小難しそうな事を相談しようとしているんだね……」 


 相談内容の大雑把な説明を口にすると、美佳は面倒臭いと言いたげな表情を顔に浮かべた。


「おいおい、小難しいって……考える事は重要な事なんだぞ? 只与えられる情報を受け入れるだけで思考を放棄していたら、情報発信者の用意した、発信者にとって都合の良い情報に踊らされるだけだからな? 面倒だろうけど、重要性が高いと声高に叫ばれている情報こそ疑ってかかり、複数ルートを使って情報の真偽を確かめないと無様な踊りを晒す事になるぞ?」

「う、うん……」


 俺の忠告を聞き美佳……それと沙織ちゃんも大きく頷く。

 それと、なにか感心したと言いたげな視線を背中から感じるのだが……気のせいだよな?


「って、ん?」


 美佳の方に向けていた顔を逸らし、ロータリー越しに林道の方を見るとバスがこちらに向かってきていた。バスはものの1,2分でロータリーに進入し、俺達の直ぐそばに設置してある停留標識の前で停車する。到着したバスの中からは、意気揚々とした若い探索者の団体や悲壮感漂う中年手前の団体が降車し姿を見せた。

 随分対照的な組み合わせだな……差し詰め冒険旅行気分の若者達と、追い詰められ一攫千金を狙う中年集団と言った所だろうか?

 

「おっ、動き出した」


 3分程待つとバスに乗っていた乗客が全員降り、俺達も並ぶバス待ちの列が動き出した。列は順調に進み、俺達がバスに乗車する頃には車内もほぼ満員状態だった。

 すると……。


「申し訳ありません、当バスは只今お乗りになられたお客様で満員となりました。直ぐに後続のバスが参りますので、無理な乗車は危険ですので次のバスにお乗り下さい」


 無情にも、朝の光景を焼き回すか如く満員のアナウンスが流れ、監視者の目の前で電子音が鳴り乗降口の扉が閉められる。監視者3人組は愕然とした表情を浮かべながら、俺達の乗ったバスが走り出すのを見送る事になった。

 ……朝も思ったけど、何気にあの3人組運が無い。前回の反省を生かし、バレる可能性が高くなるのを承知で監視対象である俺達の近くに並んでいたのに、2度も直前でドアを閉められるなんて……。


「……持ってないな、アイツ等」 

「そうだな。2度も同じ展開で置いてけぼりってのは……無いな」


 俺と裕二は走り出したバスの窓から、取り残され唖然と立ち尽くす監視者三人組に一瞬だけ憐れみの眼差しを送った。










 バスと電車を乗り継ぎ、俺達が地元の駅に帰り着いた時には、まだ時計は15時を回ったばかりだった。重蔵さんと相談をする約束の時間は17時、あと2時間ほど時間が空いてしまっている。

 

「さて、思ったより早く帰って来た事だし……どうする? どこかのファミレスにでも入って、時間を潰すか?」

「まぁ、それはそれで良いけど……」 


 俺は裕二の提案を聞き、美佳達に視線を向ける。

 すると、美佳は俺の向けた視線に気付き首を傾げた。


「……何、お兄ちゃん?」

「いや、な? この後、俺達は裕二の家で重蔵さんに相談事をする予定だから、美佳達を先に家まで送った方が良いんじゃないかな……って思っただけだよ」


 何せ、俺達の後ろには監視者がついているからな。無いとは思うけど、俺達が離れた所を見計らい美佳達に接触する……って可能性もなくはないからな。出来る事なら2人をきちんと家まで送って、安全を確保した上で重蔵さんとの相談に臨みたい。

 

「もう、お兄ちゃん……。私達小さな子供じゃないんだから、送ってくれなくたって大丈夫だよ? まだ十分外も明るいんだしさ。ね、沙織ちゃん?」

「うん。お兄さん、気を使って貰えるのは嬉しいのですが、そんなに心配して貰わなくても大丈夫ですよ?」

「……そうか? 2人ともまだモンスターと戦う事に慣れていないだろうから、緊張と興奮で疲れも溜まっているだろうと思ったんだけど……」


 2人とも、前回程は消耗している様には見えないが、確実に疲れの色が顔に浮かんでいる。モンスターを倒す……殺す事には、そう簡単に慣れる様な物じゃないからな。

 その上、今回の探索ではスキルスクロールを得た興奮で精神が高ぶっているので、本人が自身の疲労を把握するのは困難だろう。本人達は大丈夫だと言っているが、俺の目からは疲労した体を高ぶった精神で誤魔化し無理をさせているように見えた。

 そして、俺の見立てがそう間違っていないという事を証明するように、裕二と柊さんも美佳と沙織ちゃんに話しかける。


「そうだな。確かに2人とも大樹の言う様に、大分疲れている様に見えるな。ここは大樹が言うように、家まで送って貰った方が良いと思うぞ?」

「そうね。今は大丈夫でしょうけど、多分家に帰りついたら即ベッド行きね。やっぱり念の為に、家まで送って貰っておいた方が良いわね」


 裕二と柊さんは口々に、家まで送って貰った方が良いと説得を試みる。美佳と沙織ちゃんが疲労している事は勿論、監視者の件もあるので単独行動をさせたくないと言う俺の意図を汲み取っての行動だ。 

 そして3人掛りで行った説得の結果、美佳と沙織ちゃんは渋々とではあるが俺達の提案に頷いた。


「分かった。お兄ちゃん達の言う通りにするよ。確かに、言われて見れば少し疲れた様な気もしてきたし……」

「そうだね。えっと……よろしくお願いします」


 美佳は俺達の話を聞いたせいか忘れていた疲労に気がついたのか、少し疲れたかの様な雰囲気を醸し出し始め、沙織ちゃんは軽く会釈をして俺達に同行のお礼の言葉を口にする。

 取り敢えず、これで心配事の一つは解決だな。


「じゃぁ、まずは2人を家に送ろう」

「ああ、そうだな。ゆっくり歩いて送れば、ある程度時間も潰れるだろうからちょうど良い」


 普通に歩けば30分前後で家に到着するが、ゆっくり寄り道をしながら歩けば時間は稼げるしな。コンビニかファストフードのテイクアウトにでも寄るか……。










 結局、帰り道の途中で鯛焼きを人数分購入し、食べ歩きしながら美佳と沙織ちゃんを家まで送る。まず最初に1番遠い沙織ちゃんを家まで送り、帰宅した事で安堵して気が抜け、疲労が表に出始めた沙織ちゃんの事を茜さんに頼んでおいた。やっぱり、疲労が溜まっていた様だ。

 その後、俺達は長居はせず茜さんに挨拶をし沙織ちゃんの家を辞した。


「さて、次は美佳だな。って、おい……大丈夫か?」

「……うん。大丈夫」


 俺の心配げな言葉に、美佳は億劫そうに返事を返してきた。沙織ちゃんと言う相方がいなくなった事で気が抜けたらしく、美佳は疲労が表に出始めたらしい。

 うん、少し急いで帰った方が良さそうだな。


「そうか。じゃぁ、さっさと帰るか?」

「……うん」


 美佳の返事に元気がない……本当に億劫らしい。俺は美佳から視線を外し、裕二と柊さんに目配せをする。裕二は困り顔で首を竦め、柊さんも苦笑を漏らしていた。   

   










 家に到着すると父さんと母さんは出掛けている様で家には誰もいなかったが、疲れた様子で美佳は自室に戻っていく。

 そんな美佳を見送った俺達3人は、リビングでコーヒーを飲みながら約束の時間まである程度時間を潰す事にした。


「やっぱり2人とも、随分疲れていたようだな」

「ああ、帰宅直後に自室のベッドに直行だからな。慣れないダンジョン探索とモンスター戦闘に加え、スキルスクロールの出現だからな。肉体的にも精神的にも疲れるさ」

「2人のレベルが上がれば、肉体的にはもう少しマシになるんでしょうけどね。……精神面は、数をこなして慣れるしかないわね」


 俺達の話に上がる話題は、美佳と沙織ちゃんについてだ。

 

「まぁ今日のモンスターとの戦闘を見る限り、2人とも大丈夫だろう。ちゃんと止めもさせていたしな」

「そうだな。後は動くモンスターを相手にして、同じように戦えるか……って事だな。今やっているのは、戦闘と言うより屠殺作業だからな……」 


 まな板の上の鯉と言った奴だな。面倒な下拵え済みで後は捌くだけ……という何もかもお膳立てが整った。


「そうね……。でも、大丈夫よ。2人とも乗り越えられるわ」

「だと、良いんだけどね」


 そう言って、俺はカップに入ったコーヒーを飲み干す。

 その後、暫く色々な話題で話をし約束の時間まで程よく時間を潰した頃、俺達は裕二の家に移動することにした。


「そろそろ良い時間だな。行くか?」

「ああ。そうだな」

「そうね」


 俺は母さんと美佳宛のメモをテーブルの上に書き残し、外出の準備を進める。 


「良し、準備完了。行こうか」 

「ああ」


 俺達が家の外に出ると、直ぐ様監視者の視線が3つ届く。

 そして3つと言う事はどうやら予想通り、奴らの狙いは俺達3人の様だった。美佳と沙織ちゃんも監視対象に入っているのなら、最低1人は沙織ちゃんの家に貼り付いているはずだからな。

 

「2人とも、彼等の事は放っておいて早く行きましょう。コチラから相談を持ちかけているのに、遅刻でもしたら重蔵さんに失礼よ」

「そうだね」

「ああ」


 そうして俺達は、監視者と言うお客様を引き連れ裕二の家へと向かった。

 

















監視者3人組は、運かありませんね。

美佳ちゃん達は緊張の糸が切れ、疲労って一気ににきました。興奮状態だと、自分の状態って正しく認識し辛いですからね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョン協会ならダンジョン内はPK対策で巡回しているDPに任せるのが自然だし、警察組織なら二人組が基本で移動には自由が効く自分達の車を使う。 私立探偵などの民間調査会社なら1箇所に3人集ま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ