第12話 武器購入不可!?
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声がした方に顔を向けると、刀剣類が並ぶショーケースカウンターの前で、俺達より少し年齢が上の少年4人組が、壮年の男性店員と言い争っていた。
「ですから、18歳未満の方への刀剣類の販売は出来ません」
「だから何でだよ!? 俺達は協会に登録も済ませている、正式な探索者だぞ! 探索者の権利には武器の使用と所持があるじゃないか!」
「ああ、その規定ですか。それはあくまでも武器の所持と使用の権利であって、18歳以下の者が刀剣類を購入出来る権利ではありませんよ?」
「「「「……はぁ!?」」」」
……なんですと?つまり、18歳以下の俺達も武器の購入は出来ないと?
「……やっぱりな」
裕二の奴が何か呟いた。何か知ってるのか?
俺と柊さんが裕二を問い詰めるような眼差しで見詰めると、裕二の奴は諦めた様に小さく溜息を吐きながら説明をしてくれた。
「銃砲刀剣類所持取締法……まぁ、通称銃刀法な? 基本的に18歳以下の、銃砲刀剣類の所持を認めていないんだよ」
「? でも、そうなるとダンジョン法と矛盾しないか?」
「いや、一応矛盾はしていないみたいだぞ?」
どういうことだ?18歳以下の銃砲刀剣類の所持を禁止している法律と許可している法律、これが矛盾していない?首を傾げる俺と柊さんに、裕二は更に詳しい説明をしてくれた。
「あの店員も言っているように、探索者の権利として18歳未満の者でも所持とダンジョン内での使用は許可されている。ここまでは良いか?」
「ああ」
「18歳未満の探索者が持っている権利は、所持とダンジョン内での使用だけだ」
「「……ああっ!」」
俺と柊さんは手をポンと叩きながら、裕二の話の意図をようやく理解した。つまり、18歳未満の探索者が持っている武器に関する権利は所持と使用、この二つだけだ。
「俺達が探索者として持っている権利は、所持とダンジョン内での使用。ココに、購入の権利は含まれていない」
断言する裕二の言葉を肯定する様に、男性店員は今なお頑なに少年達の要求を拒否していた。男性店員と少年達の話を盗み聞く限り、購入資金自体はちゃんと所持しているようだ。しかし、男性店員は頑なに購入資格が無いの一点張りで糠に釘状態だ。
「多分わざと、この穴を開けて立案されたんだろうなこの法律」
「だろうな」
「そうね、となると……」
俺達が静かに事の成り行きを見守っていると、予想通りの展開が始まった。
口論を続ける少年達と男性店員の元に、奥のスタッフルームから警備員服に身を包んだ、屈強な数人の男達が近寄っていく。少年達は、男性店員との口論に熱くなって気が付いていないようだが、男性店員はチラリと警備員達に目配せをした。警備員達も静かに少年達の背後に展開し、準備が調った所で口を開く。
「チョッといいかな、君達?」
「ああ!? 何だ!? 今忙し……い?」
「ここで余り騒ぎを起こして貰っては困るんだよ。危険物も沢山陳列されているからね。ちょっと、事務所まで来てくれるかな?」
「えっ? あの、その?」
少年達はようやく自分達がどういう状況下にあるかに気が付き、若干顔色を悪くしながら警備員達に付き添われスタッフルームへ連行されていった。
少年達が警備員に連れられ出て行った後、俺達と同じ様に公式SHOP内にいた18歳未満の者と思わしき少年少女達が、そそくさと足を揃えてエレベーターホールへと向かって出て行った。
俺達はその様子を見ながら、三人揃って顔を見合わせ溜息を吐く。
「やっぱり、こう言う展開になるか」
「あの警備員達も、態々あそこに待機していたみたいだしね」
「となると、あの店員の対応も想定内ってところかな?」
俺達は口々に、目の前で見せられた茶番劇の評価を下す。
おそらく、この手の騒動が起きるのは、ダンジョン法案成立時から事前に想定されていたことなのだろう。国としても、18歳未満の者のダンジョン攻略は望ましくないと思っていたのだろうが、労働基準法上、職業選択の幅を狭める様な規定は作りづらいので、銃刀法と絡めて18歳未満への暗黙の了解になる規制を作ったというところだろう。ダンジョン法にある探索者の権利としての銃砲刀剣類の所持とダンジョン内での使用は、本来18歳以上の者を対象とした権利の筈だ。しかし、探索者になれる者の下限は16歳。この年齢差を利用して、18歳未満の者のダンジョンへの意欲を一時的に削り、ダンジョン攻略開始年齢を引き上げようと画策しているのだろう。
ダンジョンに行くのは何歳でも自由だけど、銃砲刀剣類の武器は購入できないよ?18歳以上になったら頑張ってね!
これが、言葉にしない言葉で国が18歳未満の探索者に言っていることの本音だろう。国は規制していないが、18歳未満の者達が自主的にダンジョン攻略を数年延長する事を決めた。そう言う流れにしたいのだろう。
まぁ元来、銃砲刀剣類の所持には色々な条件が有り、特に18歳未満の者へ無制限にばら蒔くようなことはできないし、成熟度が足りない若年層の人材が無謀にダンジョンへ突撃し、大量喪失したなんて事になったら将来的に人的資源や税収的意味で国が困ることになるからな。
「まぁ、そう言う訳で俺達は基本的に武器は買えん」
「困ったことになったわね」
「つまり……ダンジョンへ行くのを諦めるか、素手でダンジョンへ行くのを選べってことか?」
俺達は再び溜息を吐きながら、中々悪辣な手段を取ってくる物だと感心する。ダンジョン開放を求める若年層の要望に応えつつ、武器の購入を規制する事で18歳未満のダンジョン行きを牽制した。流石、この法案を作った官僚達は伊達に国家の中枢組織にいるだけのことはある。
事前に武器という物を試験講義時にカタログで明示していたことも、今になって思うと妙手だ。あれの御陰で講義を受けた探索者達は、ダンジョンへ持っていく武器のイメージを無意識下に埋め込まれているだろう。おそらく大多数の探索者達は余程自分の使う武器に拘りを持っていない限り、無意識下でカタログに載っていた武器から使用する物を選ぶ筈だ。現に、この公式ショップに展示してある武器も、これ見よがしにカタログに載っていた銃刀法の規制に引っかかる物ばかりだ。
「それと、ここまで手の込んだ事をする以上は、おそらく、素手や下手な得物を持って行く18歳以下の探索者達には、別の牽制をかけると思うぞ?」
そうだろうな、と裕二の言葉に首を縦に振りながら同意する。
武器を買えない以上、諦めが悪い18歳未満の探索者達から代用武器を装備してダンジョンへ赴く者が出る筈だ。そして、その行動は想定内だろう。
「探索者達の中にサクラを仕込んでおいて、まともな武器を持っていない18歳未満の探索者を蔑む風潮を作ったりしそうよね……」
「あるだろうね。政府としてはあくまでも、探索者達が自主的にそう言う風潮を作ったから18歳未満の探索者達がダンジョンに行き辛く数が減った、っていう形が欲しいだろうからね」
政府の連中は、風潮と言う目に見えない規制をかけることによって、物的面と精神面で二重の意味で18歳未満の探索者達に牽制をかけた。これで大半のダンジョンへ興味本位と言う、浮ついた動機で行動した連中は二の足を踏むだろう。無駄な経費をかけること無く効果的な対策を施すとは感心するね、全く。
「そうなると、ますます武器をどうするかだよな」
「そうだけど、購入はできないわよ?」
「……」
考えれば考えるだけ18歳未満の者にとって不利な状況に、俺達3人は解決策を捻り出そうと頭を悩ませる。最低限、まともな武器を所持していれば風潮対策はできるのだが……。
勿論、解決策の一つには俺が空間収納に収めている、スライムがドロップした武器系アイテムを二人に渡すと言う方法もあるのだが、これは1度でもダンジョンへ潜っていないと武器の出処が疑われて面倒なことになる。何せ、ドロップした武器の形状がかなり特殊で、アニメや漫画で出てくる様な形をしているからだ。
そんな思考の袋小路にハマっている時、同じように頭を抱え悩んでいた裕二がとある提案を出してきた。
「よし。爺さんの指示でダンジョンへ行くんだ、武器ぐらい出してくれるだろ。二人共、帰りに俺の家によらないか?」
「裕二の家に?」
「ああ。二人には家が古武術道場をやっているって言うことは、この前話したよな?」
「「聞いたな(けど)」」
俺と柊さんは裕二の問いに、顔を縦に振りながら肯定の返事をする。
「侍を表す言葉の中に、武芸百般って言う言葉があるだろ?戦場武術が起源の家の流派も、武芸に通じる事を一通り学ぶことになっているんだ。その中には当然武器の取り扱いについても含まれていて、練習する為の実物の武器が家の蔵の中には多数保管されているんだ」
「……その中から幾つか武器を譲って貰おうっていうことか」
「確かに購入出来ない以上、武器を譲って貰えるのなら、ありがたいとは思うのだけど、法的に大丈夫なのかしら?」
確かに柊さんが言うように、裕二の家から譲って貰えるのならば武器問題は解決するが、法的に大丈夫なのだろうか?と俺は首を捻る。
「確かに刀剣類を譲渡する時にも、色々と手続きをしなければいけないんだろうけど、探索者の権利として所持を許可されている以上は正式な手続きを踏めば大丈夫だと思うぞ?……自信はないから確認は取らないといけないだろうけど」
「……不安を煽る回答だな」
「でも、法的に譲渡が大丈夫なら、これで私達の武器問題は解決するわ」
裕二の返答に不安な表情を浮かべる俺に対し、柊さんは問題が解決するかもしれないと安堵の表情を浮かべている。その反応を少し不思議に思ったが、柊さんの事情を思い出すと彼女の反応に納得がいく。ここでダンジョン行きが不透明になると、柊さんの場合生活に直結する可能性が大だった。
「よし。じゃ、武器の登録窓口で譲渡に関して相談をして見ようぜ」
「そうね。ここで私達だけで考えてもしょうがないわ」
「……」
俺は特に反論を挟む事もなく、裕二の提案に首を縦に振る。
公式SHOP内も先程の騒ぎで人も減り静まり返っていたので、若干居心地が悪くなっていたので移動自体も歓迎だった。先程から、公式SHOP内に残る18歳以上の老若男女が俺達を眺める、何で残っているんだ?と言う眼差しが痛い。チラリと店内を見回してみるが、俺達以外に18歳以下の者はいない。どうやら先程の予想は、それほど間違っている物ではなさそうだ。俺達を見る者達の眼差しには、蔑む感情や侮る感情が多分に含まれている。特に大学生程の若者はその傾向が強い。確かにこの疎外感を受ける雰囲気が蔓延すれば、18歳以下の探索者がダンジョンに潜る事は確実に減るだろうな。
「なぁ裕二、柊さん。取り敢えず店を出ないか? どうもさっきの茶番の御陰で、場違い感が凄いことになってるみたいだからさ」
「……そうだな。どうもサッサと出て行った方が良さそうだな」
「そうね」
俺達は店内に残る客の粘着質な眼差しに晒されながら、公式SHOPを出てエレベーターホールへ移動する。公式SHOPを出ると俺達に向けられた眼差しは消え、何とも言えない解放感を俺達は覚えた。
俺達は顔を見合わせ溜め息を吐く。これで今日何度目の溜息だ?
「ものの見事に、思惑通り誘導されていないか?あの客達?」
「だな。この分だと、ダンジョンに行った時はもっと雰囲気が酷いことになっているんじゃないか?」
「なってそうね。既に数回分の試験合格者達がダンジョンへ行っている筈だから、18歳以下の探索者を蔑み拒む様な風潮が出来ていても不思議じゃないわ。全く、面倒な小細工をしてくれるわね」
これからのことを思うと、全く辟易する。政府の方からすれば、ある意味でこの対応は18歳未満の者をダンジョンの危険性から保護することに繋がるのだろうが、対象が無差別だと言うことが問題だ。入らざるをえない者のことを考慮していない……とは言え、これだけの人数を個別対応できる訳でもないので仕方ないのかもしれない。
しかし、最低限の抜け道は用意されていたようだ。武器登録窓口で譲渡に関する法律上の取扱いを相談した所、譲渡された銃砲刀剣類を18歳未満の者が所持しダンジョン内で使用する事は、探索者として正式に登録し正式に手続きを行えば特に問題はない、という返答が返ってきた。話を詳しく聞くと、全探索者に説明する時に説明はしていないが、窓口で相談すれば特に制限を設けることなく教えてくれることだったそうだ。流石お役所、利用者が聞かない限り積極的に説明をしない所がイラッと来る対応だ。
兎も角、これで武器問題は解決の目処がついた。俺達は3人揃って見せつけるように、窓口の前で大きく深い安堵の息を吐く。
連休中は連投予定です。




