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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第164話 スライム戦とお宝

お気に入り13880超、PV超、ジャンル別日刊14位、応援ありがとうございます。







 一通り文句を吐き出した事で落ち着きを取り戻した美佳が、俺の方を向き今後の予定について尋ねてくる。


「で、お兄ちゃん。結局、この後どうするの? スライムがいる方に進むの?」

「ああ。確かにスライムは武器を溶かすなんて言う厄介な性質を持っているけど、きちんと対策をとれば結構簡単に倒せるモンスターだからな。美佳達は対応する武器を持っていないだろうけど、俺達はちゃんと常備しているぞ? さっき裕二に反論した時に、俺達に対応する武器を持っているか聞けば良かったのに……威圧された緊張でそこまで考えが回らなかったか?」

「あっ!」


 俺の言葉を聞き、美佳は目を見開き声を上げた。どうやら、本当に考えが回らなかったようだ。

 まぁ、裕二の威圧に耐えるだけで一杯一杯だったのだろう。威圧に屈さなかっただけ上出来とも言えるけど……まだまだだな。


「はぁ、まぁ良い。今回も俺達は手を出さないつもりだけど、相談すれば道具の貸出ぐらいはするさ。なっ、裕二?」

「ああ、そうだな。2人とも、自分達の装備が状況に適していないからと言って、パーティーの仲間の装備も不適合とは限らないぞ。事前に仲間の装備品を粗方把握しておくのも、パーティー行動では重要なことだからな」

「そうね。仲間が何を持っているかある程度把握していれば、それだけ取れる行動の幅が広がるものね」


 俺達3人の話を聞き、美佳と沙織ちゃんは気まずげに顔をそらす。そう言えば、美佳達が俺達の詳しい装備品について尋ねてきた事はなかったな……。

 とは言え、俺達も基本的な装備品は美佳達と同じものを使っているからな。ダンジョンに入ると言う高揚感で、細々とした装備の違いに気が回らなかったのだろう。


「と、言う訳だ。スライム戦に対応する装備品はあるから、このまま道を進んで戦う事に何も問題はないぞ。……で、どうする?」


 俺がそう聞くと、美佳と沙織ちゃんは顔を見合わせ同時に返事を返してきた。


「「行く(きます)! 道具を貸して(下さい)!」」


 どうやら2人とも、やる気十分らしい。


「ああ、良いぞ。とは言え、スライム戦に適切な装備は何種類かあるんだけど……どれが良いかな?」


 俺は頭の中で、どれを美佳達に貸し出すか考えながら頭をかく。対スライム戦で一番コスパが良いのは塩だが、後ろに監視者が付いている状況で使うのもな……。

 俺はどれを貸し出そうかと、視線を裕二と柊さんに向けた。 








 俺、裕二、柊さんの3人で若干の話し合いをした後、俺達はスライムが待つ場所目指し通路を歩き始めた。無論、監視者3人組が後ろから付いてくるのを確認しつつ。

 そして事前に貰った情報通り、通路の前方10mにスライムが鎮座していた。


「……居たな」

「ああ。間違いなく、スライムだな」


 俺達の視線の先には、通路の中央に鎮座し伸縮を繰り返すスライムがいた。積極的に俺達に襲いかかって来る気配は無く、一定の間隔で伸縮を繰り返している。

  

「あれがスライム……」

「ああ、そうか。美佳達は、初めて見るんだったっけ?」

「うん。ネット動画や資料写真なんかでは見た事あるけど、本物は初めてだよ」

「はい。何だか思っていたよりも、スライムって粘着質そうと言うかドロドロって言うか……」


 俺が尋ねると、美佳と沙織ちゃんは初めて見るスライムに軽い嫌悪感を示す。まぁ日本人にスライムって言ったら、某国民的RPGゲームの影響で、ポヨポヨとした愛らしい姿をまず最初にイメージするからな。

 だが、ダンジョンに出現するスライムはそんなイメージを壊す不定形粘性体だ。嫌悪感が湧き出るのも無理はないだろう。


「まぁ基本的に、スライムは粘性体だからな。触れたら肌や武器に纏わりついて溶かしに掛かってくるし、核……コアを壊す以外に倒す方法もない厄介者だよ」

「おまけにドロップアイテムもコアクリスタルが主だから、探索者的には苦労して倒しても美味しくないしな」

「そうね。スライムのコアを壊す為に使った武器も溶けるから、基本使い捨てで討伐コストが掛かるし……」


 俺達が探索者がスライムに持つ一般的な認識の話をすると、美佳と沙織ちゃんは嫌そうな表情を浮かべる。まぁ、ここだけ聞くと、ひたすら旨味のない面倒なモンスターだからな。

 だからこそ、さっきの探索者グループの様にスライムに遭遇すると、討伐する手間を惜しみ通り道を変更する探索者は結構多い。基本スライムはノンアクティブ……探索者が無闇に近づいたり攻撃したりしなければ襲って来る事がない事も、戦闘を回避する大きな要因だ。誰だって、割に合わない面倒事は避けたいからな。だがこれは、飽く迄も一般的な探索者の話だ。俺達の場合、話が異なってくる。

 俺は美佳と沙織ちゃんに顔を向け、スライムを倒す方法について説明を行う。 


「さて……改めて説明しておくけど、探索者がスライムを倒す場合のコアを潰す方法は幾つかある。例えば、直接武器でコアを潰す方法、魔法で攻撃する方法、液体窒素や火炎放射器なんかの科学的な攻撃方法と……まぁ色々な」

「因みに、探索者が一般的にとる方法は使い捨ての武器による直接攻撃だな。一部の探索者は魔法なんかを使って討伐するみたいだけど、まぁ少数派だ。自衛隊や警察なんかは以前は液体窒素を使ったりしたそうだけど、コスパの問題でやめたらしい」

「液体窒素の運用コストは高いし、スキルスクロールは貴重だものね。やっぱり最終的に、取り扱い易さや入手の簡単さから、使い捨て武器が主流になったみたいよ」


 俺達の話を聞き、美佳と沙織ちゃんは悲哀に満ちた溜息をつき下を向く。


「使い捨て武器による、直接攻撃か……」

「はぁ、また出費が嵩むね……」


 美佳と沙織ちゃんは今の所、探索者としてマトモな収入が無いからな。その上、催促されないとは言え借金持ち。使い捨て武器を購入する資金の調達にも、四苦八苦といったところだよな……。 

 因みに、今回のダンジョン探索で2人が手に入れたドロップアイテムもコアクリスタル(評価価格100円)が4つと、換金額はあまり期待できない。と言うか、ここまでの交通費さえ補填出来無いだろうな……。

  

「美佳、沙織ちゃん。そんなに落ち込まないでよ。今言った事は普通の探索者がスライムを倒す場合のやり方で、今回2人にやって貰うのは裏技だから。使い捨て武器を使う程の出費は、掛からないからさ。ねっ、裕二、柊さん?」

「ああ。見た目はあれだけど、効果は抜群でコスパも良い裏技だぞ?」

「ええ、そうね。見た目はあれだけど」


 俺達が口々に慰めの言葉を口にすると、美佳と沙織ちゃんはゆっくりとした動作で顔を上げ、縋る様な眼差しを向けてくる。


「……本当?」

「……本当ですか?」

「あ、ああ。本当だよ。何せ俺達が以前から、ずっとやっている方法だからね。効果は保証するよ」


 美佳と沙織ちゃんの必死の様相に、俺は思わず一歩後ずさる。目が怖いよ目が……。

 









 俺は2人を落ち着かせた後、バックパックの中から例のモノを取り出し美佳と沙織ちゃんの前に掲げる。小さな密閉袋に入った白い粒。俺達のスライム討伐の必須アイテム……塩だ。


「何、それ?」

「何って、塩だけど?」

「えっ、塩!?」


 密閉袋の中の正体を教えると、美佳は目を見開き大声を上げた。

 うん。この声の大きさだと、後ろの3人組にも袋の中身の正体が聞こえただろうな。まぁ、予定通りだから良いけど。


「あ、あの、お兄さん? 本当にそれを使って、スライムを倒すんですか?」

「ああ、そうだよ」


 沙織ちゃんは俺が掲げた密閉袋を凝視し、信じられないといった表情を浮かべている。すると美佳が手を伸ばし、俺の掲げる密閉袋を取った。

 そして暫し密閉袋を凝視した後、俺の手に密閉袋を返しながら疑問を口にする。 


「ねぇ、お兄ちゃん? 私達の事、騙そうとしてないよね?」

「おいおい、何の為に俺がそんな事をしないといけないんだ?」

「だって、いきなり塩でスライムが倒せるって言われてもさ……」

「信じられないっと?」

「……うん」

「沙織ちゃんも、美佳と同じ感じかな?」

「……はい。お兄さんを疑うようですけど、正直信じられません」 


 まぁ、そう言う反応になるよな。

 

「確かに嘘臭く感じられるだろうけど、これがスライムに効果があるというのは本当だよ」

「……本当?」

「ああ。騙されたと思って1回、実際に試してみてくれ」

「「……」」


 そう言って密閉袋を美佳と沙織ちゃんに差し出すと、二人は互いに視線を交わし数瞬迷った後に美佳が密閉袋を受け取った。


「……分かった。信じるよ」

「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。俺達が何回も実戦で試して、成果を上げているんだからさ」


 一応、5桁を超える程度の数は試して実践証明しているんだぞ?それに成功率という意味では、今の所100%の手法なんだからそう心配することはないさ。

 俺は美佳と沙織ちゃんの反応に、思わず苦笑を漏らす。


「あっ、そうだ美佳。塩は、スライムが伸び広がった時に振りかけた方が効果的だからな。タイミングを見計らって、コアがある中心を狙って振り掛けろよ。ああそれと、塩をかけられたスライムは暴れるからな。振り掛けたら直ぐに、後ろに下がるようにしろよ」 

「……うん、分かった。気をつける」


 美佳は受け取った密閉袋の口を開け、塩を自分の右手の上に山盛りに(小瓶1本分程)乗せていた。うーん、普通のスライム相手なら、あんなに塩を使う必要は無いんだけど……まぁ初めてで信憑性がない事だし良いか。 

 美佳は塩の準備が整うと、ゆっくりとスライムとの距離を詰めていく。

 

「……ふぅ」


 縮んだスライムの3m程手前まで近づき美佳は足を止め、軽く息を吐いて塩を投げつけるタイミングを見計らう。そしてスライムが体を広げだしたタイミングで塩を中心……コア目掛けて投げつけた。

 そして塩を投げ終えた美佳は、俺のアドバイスに従いすぐに後ろに下がる。

  

「!?!?」


 塩を振りかけられたスライムの反応は劇的で、すぐに効果が出た。スライムは苦しそうに体の伸縮を繰り返しのたうち回り始め、塩が多くかかったコア付近を中心にその体積を減らしていく。

 そして体の体積が元の半分を下回ろうとした時、中心部にあった黒い球体が砕け散り光の粒子となってスライムは消滅した。


「「……」」


 美佳と沙織ちゃんは呆気に取られた様に、スライムが居た場所を唖然とした表情を浮かべ凝視していた。それと、背後の方からも同様の唖然とした視線を感じるので、俺達を追跡監視している3人組も美佳達と同じようにスライムが消滅した事に呆気に取られた様だ。

 

「なっ? 本当に塩でスライムを倒せただろ?」

「う、うん……そうだね」

「は、はい……」


 美佳と沙織ちゃんは上の空といった様子で、得意気な顔で問いただす俺に返事を返してくる。

 そして未だ信じられないといった感じで美佳と沙織ちゃんはスライムが消えた場所を見ていると、光の粒子が集まりだしドロップアイテムが出現した。出現したのだ……あれが。


「ねぇ、お兄ちゃん。あれって……」


 美佳が小さく震える指で出現したドロップアイテムを指さしながら、俺に歓喜の動揺で震える声で質問してくる。沙織ちゃんもそんな美佳の隣で、口を手で押さえながら絶句していた。


「ああ、スキルスクロールだな」

「「やったぁ! レアドロップだ!」」


 俺が軽い調子でそう伝えると、美佳と沙織ちゃんが歓喜の声を上げる。2人は互いに抱き付き合い、笑顔でスキルスクロールの出現を喜び合っていた。

 今までロクなドロップアイテムを、手に入れてなかったからな。喜びもひとしおと言った所だろう。2人は一頻り喜びあった後、スキルスクロールを回収し俺達に自慢げに見せつけてくる。


「ほら、お兄ちゃん! スキルスクロールだよ、スキルスクロール!」

「ああ、そうだな」

「お兄さん! コレ、何のスキルスクロールですかね!?」

「さぁ、一旦上に戻って鑑定して貰わないと分からないかな……」


 美佳も沙織ちゃんも初めてのレアドロップと言う事もあり、歓喜の余りかなり興奮した様子で俺に詰め寄ってきた。

 

「2人とも少し落ち着いて! 初めてのレアドロップで嬉しいって言うのは分かるけど、ここはまだダンジョンの中なんだぞ。それも何時モンスターが出現するか分からない場所なんだ、周りが見えなくなる程に興奮する事は危険なんだからな」


 俺の言葉を聞き、美佳と沙織ちゃんは水を差された様にハッとした。2人は自分達の今の行動を自覚したのか、俺から飛び退く様に離れ顔を赤くする。


「ご、ごめん! ちょっと嬉しくて……」

「す、すみません!」

「ああ、良いよ良いよ、謝らなくて。二人の嬉しいって気持ちは良く分かるからね。でも、ここはまだダンジョンの中だからさ、羽目を外して喜ぶのは上に戻ってからな?」

「う、うん」 

「は、はい」


 美佳と沙織ちゃんは恥ずかしそうに俯きながら、小さな声で返事を返してくる。

 しっかし、スライム倒してスキルスクロールが出てくるなんて珍しいな……って、もしかして俺が原因か?







 











美佳ちゃんに、スライム戦で塩を使用させました。敢えて監視者に見せる事で、ミスリードを狙う方針にしました。オーガ討伐に至れた要因が、調味料シリーズのおかげだと思わせる為に。



朝ダン、絶賛発売中です。書店などで見かけられましたら、よろしければお手に取ってみて下さい。


挿絵(By みてみん)


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[一言] うーん。 妹ちゃんたち、さすがに失礼過ぎない? ものすごく手厚くナビゲートしてもらっているのに、一々文句言ったり、疑ったり…。 主人公たちが手探りで得た情報や経験を、楽に丸々いただいているの…
[一言] 妹さん達を試しすぎ感を感じたけど、命がけの探索&高校生という事を考えると納得できました。高校生は皆カッコつけたがりというか、中二病チックな部分があると思うので() 山での修行をしていなけれ…
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