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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第163話 状況判断能力

お気に入り13840超、PV 11620000超、ジャンル別日刊15位、応援ありがとうございます。






 安全地帯を抜けて10分程歩くと、俺達は渋い表情を浮かべた別の探索者グループに遭遇した。相手グループの構成メンバーは5人。男2女3のグループでパッと見、俺達より少し年齢が上……大学生位に見えた。

 取り敢えず、俺は軽く会釈をしながら挨拶の言葉を掛ける。

 

「こんにちは」

「あ、ああ。こんにちは」


 俺の挨拶に反応し、相手グループのリーダー……爽やか系のお兄さんが返事を返してくる。

 そして俺達を軽く一瞥した後、戸惑い気味に口を開く。 

 

「……君達、この道を進むのかい?」

「? ええ、はい」

「……そうか」


 妙な反応だな……何かあったのか?


「じゃぁ、一言忠告しておくよ。この先の通路を進むのなら、気を付けた方が良い。さっき、スライムがいたからね」

「スライム……ですか?」

「ああ。俺達今ちょっと、対スライム用の装備品を切らしていてね。別の通路を使おうと、引き返してきた途中なんだよ」

「そうなんですか……」


 スライムか……俺達にとっては大したリスクもなく容易に倒せる存在だが、一般の探索者にとっては難敵だからな。彼らが渋い表情を浮かべるのも、仕方がない。何せ、倒そうとして武器をスライムに接触させると、武器を溶かしボロボロにしてしまうからだ。

 ダンジョンが出現した初期の頃は液体窒素や火炎放射機などを投入する大掛かりな手間が掛かっていたが、現在ではスライムの中心にある核を潰せば倒せると判明しているので液体窒素や火炎放射機などは使われていない。だが、核を潰すために使った武器が溶かされボロボロになるという事に変わりはなく、現在の探索者は対スライム用に100均やホームセンター等で使い捨ての刃物を購入している。

 しかし、スライムは倒してもレアドロップ以外はコアクリスタルばかりをドロップするので、民間開放初期の頃の取引相場価格なら兎も角、現在の取引相場価格では探索者にとってスライム討伐は割に合わない物になっていた。


「君達も対スライム用の武器を持っていないのなら、引き返した方が良いよ」

「ご忠告、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。幸い今日はまだスライムに遭遇していなかったので、対スライム用は持っています」

「そうか。じゃぁ俺の忠告は、余計なお世話だったかな?」

「いえ。お気遣い頂き、ありがとうございます。この先にスライムが居ると言う情報は、とても助かります」

「そうか」


 俺の返事にリーダーのお兄さんは気恥ずかし気に自虐的な苦笑を漏らし、そんなお兄さんの姿を仲間の男女はニヤニヤしながら眺めている。そんな状況を見て、俺は自分の失敗を理解した。ああこれって、先輩風を吹かして後輩に忠告したと思っていたのに後輩の方がちゃんと準備していたって状況だよな。……うん、中々恥ずかしい状況だな。どうやら俺は、返す言葉の選択を間違ったらしい。

 俺は対応に困り、頬を左の人差し指で掻きながら裕二達の方を見る。すると、裕二と柊さんは肩で首を竦め、美佳と沙織ちゃんは顔ごと視線を逸らす……って、助けてよ。


「ああ、その……一緒に来ますか?」


 仲間に見捨てられた俺は同じく仲間に弄りの対象されたっぽいリーダーのお兄さんに、場の雰囲気を誤魔化す為に一緒に行くかと誘いを掛ける。

 すると、リーダーのお兄さんは首を横に振るった。


「いや、遠慮しておくよ。誘ってくれるのはありがたいけど、良く知らない相手と行き成り組むと無駄な緊張なんかで、連携なんかが普段通り出来なくなるからね」

 

 誘ったのは俺だが、リーダーのお兄さんの拒絶の言葉に納得する。

 RPGオンラインゲーム等でなら、初見の人と行き成りパーティーを組むのもありだろう。レベルやプレイヤースキル(PS)、装備品やアイテムなどの差はあれど、基本のキャラクターシステムはある程度共通なのだから。簡単な説明で相手の特徴は掴める。

 しかし、現実だとそうはいかない。何せ探索者自身がプレイヤーでありキャラクター、同じ武器や装備を使っていようと探索者個人個人の差は激しく、とてもではないが即席でパーティーを組んでダンジョン探索など行なえない。最低でも、ダンジョン外で事前に連携訓練を行っておかなければ、パーティーとしては機能しないというのが、探索者間での常識になりつつある。

 まぁ何の為に世界各国の警察や軍等が、職員や隊員に共通の訓練を施し所属人員の技能や知識の平均化や共通化を図ってるのか、少し考えれば答えは出て来るからな。


「分かりました。スライムの情報、ありがとうございます」

「いや、力になれなくてすまないね。じゃぁ、気を付けて」

「はい」


 そう言い残し、リーダーのお兄さんは後ろでニヤついていた仲間を小突きながら去っていった。短い交流だったが、中々気まずい雰囲気を作ってしまったな。











 俺は胸に溜まった息を吐いた後、後ろを振り返り窮地の友を見捨てた裏切りどもを見据え怨みがましい声で愚痴を吐く。   


「なぁ……助けてくれたって、良かったじゃないか?」

「いや、そうは言うけど……あの状況で何と言えと?」

「そうよ。只でさえ九重君が傷に塩を塗り込んだ様な状況なのに、更に私達が追い打ちを掛けろと?」

「お兄ちゃん……」

「お兄さん……」


 俺が皆を非難していた筈なのに、何故か反対に責められている。いや、分かってるよ? 折角有益な助言をしてくれたのに、相手に恥をかかせるようなアレな返事をしたって事はさ。でも、フォローを入れてくれても良かったのでは?

 そう思っていると、裕二が軽く手を叩きながら皆の注目を集める。


「はいはい。この話はここまでにしておこう。……良いよな、大樹?」

「……ああ」


 確かに、何時までも引っ張るような話題でもないしな。俺は下を向いて軽く溜息を吐いた後、顔を上げ裕二の顔を見据えた。

 そして、裕二もそんな俺の姿を見て話を続ける。


「さて、図らずもこの先にいるモンスターの情報を得られた訳だが……どうする2人とも?」 

「えっ? どうするって……」

「先に進まないんですか?」


 突然裕二に話を振られた美佳と沙織ちゃんは、虚を付かれた様な表情を浮かべた。


「2人はスライムの特性なんかは知っているよな?」

「う、うん。ある程度の概要は……」

「は、はい。試験の時に貰った教本に乗っていた事と、ネットニュース程度なら……」

「じゃぁその情報を加味した上で、2人はスライムと戦いたいか?」

「「……」」

 

 裕二にそう問われ、美佳と沙織ちゃんは自分の手に持つ槍に視線を落とした。スライムを倒す事=武器の破損だからな。武器の購入に際し俺に借金がある2人にとって、武器が破損する可能性が高い敵との交戦は遠慮したいだろうからな。情報(武器破損の可能性大)を知っている上で、裕二の問い(スライムを倒すのか?)に素直に頷くのは難しい筈だ。

 そして、悩む美佳と沙織ちゃんに裕二は語りかける。 


「今回の場合、絶対に倒さなくちゃならない敵と言う訳じゃない。さっきのグループみたいに、別の道に迂回しても良いんだぞ?」


 その一言に、美佳と沙織ちゃんはハッとした様に視線を上げる。その考えはなかった、とでもいいたげな表情だ。


「で、どうする? このまま進んで、スライムと戦ってみるか?」

「「……」」

「まぁ今回避けたとしても、ダンジョンに潜っている以上は何れは戦う事になる敵なんだけどな?」


 裕二の目を少し細めながら発せられた態々逃げ道を塞ぐような言葉を聞き、美佳と沙織ちゃんは動揺し少し引き攣った様な表情を浮かべる。つい先程、無理に倒さなくても良いと言った後でのこの発言、暗にやれと言っている様なものだからな。

 美佳と沙織ちゃんは互いに無言のまま数瞬視線を向けあった後、小さく頷き裕二に視線を向ける。


「……今回はスライムを避けて、別の通路を通りませんか?」

「……へー、良いの? さっきも言ったけど、何れは戦う事になる敵なんだよ? 俺達がサポートとして付いている内に、戦って経験を積んだ方が良いと思うんだけど……」


 美佳と沙織ちゃんが出した答えに、裕二は2人を威圧する様に鋭い目付きを向けながら感情の起伏の無い平坦な声で問いかける。

 その裕二の態度に美佳と沙織ちゃんは首を竦め怯えた様な表情を浮かべるが、意を決しハッキリとした声で反論を口にする。


「た、確かに、裕二さん達がサポートしてくれている間に一つでも経験を積んでおいた方が良いとは思います。ですが、自分の持つ装備の不備を無視して、無理に戦う事がいい事だとは思いません! ねっ、美佳ちゃん!」

「う、うん! 進む先にどんなモンスターが居るのか分かった上で、自分達の装備が適切でないと判断出来るのなら、避けられる戦いなら戦うのを避けた方が良いと思います!」

「……」


 2人は自分達の主張を言い切り、無言で佇む裕二の反応を待つ。5秒、10秒、15秒、俺達の間に痛い程の緊迫感に満ちた無言の沈黙が広がる。

 そして30秒程経過したところで、不意に裕二は表情を嬉しそうに崩した。


「合格だ」

「「……えっ?」」


 突然の裕二の合格発言に、美佳と沙織ちゃんは呆気に取られた様な表情を浮かべていた。

 そして裕二は嬉しそうな表情を浮かべたまま、俺と柊さんに声をかけてくる。


「大樹、柊さん。2人とも軽く威圧されても、ちゃんと自分で現状を把握出来て反論出来るみたいだぞ?」

「そうみたいだな。これで威圧に負けて行くと即答していたら、どうしようかと思っていたよ……」

「そうね。威圧されたからと言って、状況判断を誤ったら痛い目にあうものね。危険なダンジョン内だからこそ、状況判断は自分でくださないと……。 でも広瀬君、すこし威圧をかけ過ぎたんじゃない?」

「いやいや、柊さん。コレでも、大分軽い方だよ?」


 そんな調子で俺と裕二、柊さんが会話をしていると、美佳と沙織ちゃんが声を上げる!


「ええっ!? ど、どう言う事!?」

「……もしかして、私達を試してたんですか!?」


 美佳は混乱したように声を上げ、沙織ちゃんは驚きながらも納得がいったと言う様な表情を浮かべた。

 そして、2人がある程度落ち着きを取り戻したところで、裕二は2人に試した理由を説明する。


「今回は思いかけず、あの探索者グループのお陰でこの先にいるモンスターの情報が得られたからね。ちょっと二人の状況判断能力を試させてもらったんだよ」

「状況判断能力……」


 裕二が言った言葉を、美佳がポツリと復唱するように口にする。


「一応俺達は、2人が今持っている装備品に関してはある程度把握しているからね。正面からスライムを相手にするには、適切な装備品を欠いている事は知っていたんだよ」

「……」

「で、そんな状況(適正装備がない)の2人が俺……この場合パーティーの仲間だな。パーティーの仲間に無理強いされたからといって、状況判断を誤らないかを試させて貰ったんだよ。不意な遭遇戦なら兎も角、事前に出現するモンスターの情報を知っていながら、適切な装備を欠いた状態で戦闘をする……。それって、ダメだよね?」


 そんな裕二の言葉に、美佳と沙織ちゃんは納得がいった様で納得がいかないといった微妙な表情を浮かべていた。 

 

「ダンジョン内でモンスターとの連戦が続くと、自然と探索者のテンションも上がって自分達の正確な状態を把握できなくなるんだよ。そんな時に、その場の雰囲気に流されず、正しく状況判断が出来る力がないと大怪我をする事になる。確かに勢いに乗って戦う事も大事だけど、それは飽く迄も自分達の状況を正しく把握できた上で十分に対処出来ると判断出来る場合だけだよ。モンスター相手に何の根拠もない自信と勢いに任せて動くと、最悪死ぬ事になるからね?」

「「……」」


 裕二の説明を聞き、美佳と沙織ちゃんはハッとした様な表情を浮かべる。恐らく美佳と沙織ちゃんがスライムと戦うと聞いた時に考えたであろう事は、武器が破損しないかどうかを主に考えていたと思う。適正装備を欠いた状態で戦ったら、大怪我を負うかも知れないという考えは浮かんでいなかったのだろう。


「そうならない為にも、例えパーティーの快進撃の勢いに水を差す事になったとしても、冷静に状況を判断して反対意見を述べる事が重要になってくるんだ。二人も俺の威圧に負けず、ちゃんと反対に対する根拠を口にしたよね? アレが出来無い人って結構多いんだよ」

 

 基本、日本人って人種は場の雰囲気に流され易いタチの人が多いからな。だが、命のかかる状況(ダンジョン)なら反対意見はちゃんと口にしないと、本当に命に直結する。その点、2人は裕二の威圧に負ける事無く、戦わない方がいい根拠ある反対意見を口にし貫き通した。 


「で、試した結果2人とも合格。きちんと状況を判断出来、場の雰囲気に流されず意見を進言出来て良かったよ。な?」

「ああ」

「そうね」


 裕二の問いに俺と柊さんが縦に大きく頷くと、美佳と沙織ちゃんは溜息を吐いた。


「もう、いきなりは止めてよ。裕二さんに反対意見を口にして睨まれた時、本当に怖かったんだよ?」

「私も、心臓が止まるかと思ったんですよ?」

「ごめん、ごめん。丁度良い機会だったから、ついな」


 頬を膨らませ抗議する2人に、裕二は軽く頭を下げながら謝る。俺と柊さんは、そんな3人の姿を眺め苦笑を漏らした。















場の雰囲気に流され、反対意見を言えないってことは、よくありますよね?

日常の1シーンなら兎も角、ダンジョン内で状況判断を誤ると致命傷になりかねませんからね。



朝ダン、発売開始より2週間が経ちました。

皆さん、御購入頂きありがとうございます!


挿絵(By みてみん)



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[一言] ふと思ったけれど 妹ちゃん達がいなきゃ25階とかに行ってたわけじゃない? 追跡者さん達の技量じゃついてくのが難しいわけだから、やっぱりもっと技量が高い人もいそうじゃない?あの師範代クラスの…
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