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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第159話 ダンジョンへ到着、お客さんも

お気に入り13540超、PV11170000超、ジャンル別日刊9位、応援ありがとうございます。





 電車を乗り継ぎ、俺達はダンジョン最寄りの駅に到着した。

 今回は乗り換えの遅れやICカードの残金不足等のトラブルも無く、予定通りの時間に到着する事が出来たのだが……。


「やっぱり、俺達に付いて来てるな……」

「ああ。3人……だよな?」

「美佳ちゃんと沙織ちゃん以外、俺達全員に1人ずつ監視が付いてたみたいだな」

 

 駅舎を出て、ロータリーを歩きながら俺は裕二とお客さんについて話をしていた。電車の中で、俺達を監視していたであろう者達が一時合流した気配を確認している。恐らく、この後の監視体制について打ち合わせをしたのだろう。

 しかし、お陰で監視者達の目的は分かった。


「やっぱり、監視対象は俺達だよな」

「ああ。エリアボスを討伐した民間探索者って肩書きに加えて、数少ない上級ゾーン突破者だからな。協会としても、気になる存在だろうからな」

「ゴールデンウィーク期間中も監視していたのに、ご苦労な事だ」


 2度目の調査……恐らくエリアボス討伐後、俺達が1月近く大きく動いていなかったのに急に大きく動いたので気になったのだろう。

 ただ単に、試験期間が重なって半月程動けなかっただけだけどな……。


「お兄ちゃん、早く早く! 置いてある食料品、早くしないと無くなっちゃうよ!」

「ああ、ごめん。今行く!」


 駅近くのコンビニの前で、美佳が手招きをしながら俺を呼んでいた。沙織ちゃんと柊さんの姿が見え無い所を見ると、2人は先に店内に入っている様だ。

 俺と裕二は話をやめ、美佳に返事を返しつつ歩速を早めた。


「もう、遅いよ! 他の人も大勢買っていって居るんだから、早くしないと良いのがなくなちゃうよ!」

「ごめん、ごめん。さっ、入ろう」


 俺達は美佳に軽い調子で謝りつつ、美佳の背中を押しながらコンビニに入店した。店内には既に多くの利用者がおり、食料品のコーナーはごった返している。

 そして、その一角には柊さんと沙織ちゃんがサンドウィッチとペットボトル飲料を持ち待っていた。  


「お待たせ」

「遅いわよ、二人共。早く選ばないとなくなるわよ?」

「あっ、そうなの?」

「商品は多めに陳列されているみたいだけど、買い物客の人数が人数だからね。人気の商品は、もう品切れをおこしたみたいよ?」


 柊さんはそう言いながら、おにぎりやサンドウィッチの陳列棚を指さす。確かに、陳列された商品の幾つかの列が空白になっている。


「げっ、それは急いで確保しないと」

「もう、お兄ちゃん達が遅いせいだからね!」

「ごめん、ごめん。じゃぁ柊さん沙織ちゃん、ちょっと取りに行ってくるから少し待ってて」

「ええ」

「はい」


 柊さんと沙織ちゃんに一言断りを入れた後、俺達3人は利用者でごった返す商品棚に突撃した。

 さて、何が残ってるかな……。










 コンビニを出た後、購入した食料品をバックパックに仕舞いながら俺達はバス停に向かって移動していた。


「良かった、良かった。好みの具材のおにぎりが残っていて」

「もう、何が良かった良かったなの! もう少しで売切れになる所だったじゃない!」

「良いじゃないか。ちゃんと確保出来たんだしさ」


 危うく買いそびれる所だった為、美佳は買い物袋をバックパックに仕舞いながら俺に文句を言ってくる。実際、俺達が商品棚の前に辿り着いた時には既に数種のおにぎりやサンドウィッチは売切れており、残りの商品も2,3品ずつしか残っていなかったからな。

 暫く俺と美佳が言い争っていると、柊さんが眉を顰めながら口を挟んでくる。   


「二人共、言い争うのはその辺にしておきなさい。他の人の迷惑になるわよ」


 柊さんがチラリと視線を移動させたので、その視線の先を追うと五月蝿そうに眉を顰めているバス待ちの人達の姿が……。


「「あっ……ごめん(なさい)」」

「別に謝る程の事ではないけど、一応気にしておいてね」

「あ、うん」

「……はい」


 そう柊さんに嗜められ、俺と美佳は恥ずかしさから、思わず顔を逸らしてしまった。そんな俺と美佳の様子を見ながら、裕二と沙織ちゃんは、苦笑を漏らしている気配を感じる。わっ、恥ずかしいな。

 俺は少々気不味気に美佳に視線を向け、ポツリと謝罪の言葉を口にする。 


「悪かったな、美佳」

「ううん。私も言い過ぎちゃった。ごめん、お兄ちゃん」


 俺と美佳は互いの顔を見合わせ、苦笑いを浮かべ合う。

 そして、仲直りが出来た頃合いを見計らい、柊さんが再び声をかけてくる。


「さっ、二人も落ち着いたみたいだし、そろそろ私達も順番待ちの列に座りましょう?」

「うん、そうだね」

「ああ」

「うん」

「はい」


 俺達は列の最後尾に並び、バスが来るのを待つ。時刻表を見た限りだと、後10分もせずにバスは来るハズだ。その間美佳と沙織ちゃんは楽しそうに話し始めたが、俺達3人は小声でお客さんについて話をする。

 

「……で、お客さんは?」

「あそこだ。TAXI乗り場近くの喫煙所の前。タバコを吸うふりをしながら、俺達の事をそれとなく観察してる」

「……下手な監視ね。視線を私達に集中しすぎてるわ。あれじゃぁ、監視してますよって言っているようなものじゃない」

「分かり易いのは良い事じゃないかな? こっちとしては、居場所を把握するのに都合が良いしさ」


 俺がそう呟くと、裕二が小さく顔を左右に振りながら指摘を入れる。


「そうとも限らないぞ。アッチが囮で、本命が隠れている可能性だってある。アッチの視線が分かり易い分、本命の視線を偽装するのに使えるんじゃないか?」

「その可能性もあるわね。でも、私が分かる範囲内には、あの人達の他に不審な行動を取っている人はいないわよ?」

「俺も柊さんと同じ、特に怪しい気配は感じないぞ?」

「俺もだよ。だけど、可能性としては0じゃないからな。俺が言いたいのは、あまり気を抜き過ぎるなって事だよ」


 裕二の指摘に、俺と柊さんは気を引き締め小さく頷く。確かに、幻夜さんの稽古で相手をして貰った門下生の人達と比べ余りに稚拙な監視なので、無意識に監視者達を侮っていたかもしれない。

 彼らが囮で他に本命が居ると言う推測は、あながち間違っていないかもしれないな。


「気を付けるよ」

「私も、気を付けるわ」

「只の考え過ぎ……で済めば良いんだけどな」

「いや、気を付けておくに越した事はないと思うよ。なにせ、2回目の監視だからな。一回目の監視で、俺達の素性は知られているだろうから、前回以上に力を入れて監視をしている可能性があるかもしれない」


 前回はエリアボスを討伐した事による監視……つまり俺達の持つ力と人柄を調査していたのだとしたら、今回の監視はトラップ訓練施設をクリアしたことによる監視だ。俺達の察知能力が考慮されている可能性だって、無いとは言い切れない。


「そうだな」


 そして俺達が密談を続けていると、美佳が怪訝な表情を浮かべながら声を掛けてきた。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん? さっきから3人で、何をこそこそ相談してるの?」

「ん? なに、ちょっとした相談事だよ。ダンジョンから帰った後のな」


 俺は美佳の質問に、監視者が居る事を誤魔化す為に別の話題を理由に誤魔化した。

 さすがに監視者が付いてるなんて事、美佳や沙織ちゃんにそのまま伝える訳には行かないからな。


「ふーん」

「ふーん、って」

「あっ、バスが来たよ」


 しかし、美佳は何処か興味無さげな返事を返してくる。俺は無事に誤魔化せた事に安堵しつつ、自分から聞いてきたのにその余りに興味なさ気な態度には引っ掛かりを覚えた。

 しかし、美佳の追求をしようとした矢先、バスが駅のロータリーに続け様に2台姿を見せる。


「2台も居るなら、直ぐに乗れるな」

「……ああ、そうだな」


 バスが到着した事で、先程の話題は有耶無耶になってしまった。

 そして、俺がその事で溜息を吐いていると裕二が俺の脇をつついてくる。 


「動いたぞ、こっちに来る」

「……そうか」


 どうやら監視者達もバスが来た事で、俺達と同じバスに乗る為に列に並ぼうとしている様だ。既に俺達の後ろに列は出来ているが、監視対象とあまり距離を詰めるのも良くない彼らには好都合なのだろう。別のバスに乗るような事がなければ。

 そして監視者達は、俺達の12~3人程後ろに並んだ。


「さっ、乗りましょう」 

「あっ、うん」


 俺達の乗車順が来たので、バスに乗っていく。既にバスの席は満席で、俺達が座る所がない。辛うじて空いていた2席に、美佳と沙織ちゃんを座らせ、俺達は吊り革に掴まった。

 そして……。


「すみません、既に満席なので次の方は後ろのバスにお乗りください! ドアを閉めますので、危険ですから乗降口から離れて下さい……それでは閉めます」


 運転手の満席アナウンスが流れ、監視者達の一つ前の順番で無情にもドアが閉められた。その際、俺達に向けられる監視者の視線をより一層強く感じる。気になりチラリと扉の締まった乗降口の外を見てみると、そこには悔しそうな表情を浮かべた若い男女3人の姿があった。

 そしてバスは監視者達の無念など知らぬとばかりに、ゆっくりと走り出す。


「……行き成り監視に失敗している、アイツ等」

「そうだな……」

「彼ら、ダンジョンの中にも付いてくるのかしら?」

「さぁ? でも、あの調子じゃ、ダンジョン内の追跡なんて無理なんじゃないか?」


 何と言うか、全体に技術不足と経験不足が目立つ3人組だな。

 俺達は2台目のバスに乗り込む3人組の姿を遠目で見ながら、俺達の乗ったバスはダンジョンへの道を順調に走り出した。








 ダンジョンにバスが到着した後、俺達は監視者を撒く為に素早く入場手続きを済ませる。10~15分程だろうが、彼等が乗ったバスが到着するまで時間に差があるので有効に使わないとな。

 俺と裕二は更衣室で着替えを手早く済ませ装備品の最終確認をした後、更衣室を出て美佳達が出て来るのを待合室の椅子に座って待つ。すると一瞬強い視線を感じた後、俺達が座って待つ椅子の前を通って例の監視者3人組が更衣室に入って行くのが見えた。

 

「10分って所だな」


 俺は時計を見て、監視者達との時間差を確認する。


「ああ。入場待ちの列で更に差を広げられるから、上手くやれば撒けるだろうな。もっとも、準備運動をする時間がなければの話だけどな」

「流石に、準備運動無しは不味いだろ。まぁ、アイツ等が更衣室から出てくる前に、個室に退避出来れば撒けるかも知れないけどな。正直言って、監視付きのダンジョン探索なんて、ぞっとしないよ」


 手の内を大っぴらに晒すつもりはないが、使用出来る手の内が制限される状況と言うのは遠慮したい。自分達だけでの探索ならそれでもなんとか乗り越えられるだろうが、美佳達が同行するとなると話が変わる。

  

「にしても……。美佳達、早く出てこないかな……」

「一応、柊さんに話を通してあるから、前回よりは早く支度を済ませて出てくる筈だ」

「だと、良いけど……」


 俺はそう漏らしながら、視線を更衣室の方に向ける。女子の身支度は、何かと時間が掛かるからな。男の監視者が着替えを終えて出てくるのとどっちが早いことか……。そんな事を考えた後、俺は個室の使用手続きをすませる。

 そして再び椅子に座って待っていると、女子更衣室から美佳達が出てきた。


「お待たせ、お兄ちゃん!」

「ああ。それにしても、今日は随分早い登場だな……」

「前回来た時に防具付けで大分手間取ったから、家で何度も装備品の装着練習をしておいたんだよ。お陰で簡単に着けられるようになったから、着替えも早く済んだの!」


 美佳は自慢気に、俺の前で一回転して見せてくる。確かに、防具の留め金なんかも確りと装着されているな。この分だと、随分練習をしたらしい。


「へー、凄いな」

「ええ。実際、かなり手際は良かったわよ」

「そうなんだ」


 美佳に少し遅れ、柊さんと沙織ちゃんが姿を見せる。 


「お待たせしました。すみません、私が1番着替えるのに手間どっちゃいました」

「ああ、別に良いよ。特に急いでいる訳じゃないからね」


 本当は少し急いで欲しかったのだが、監視者の存在を教えていない以上は文句は言えないからな。

 まぁ、男性監視者が出てくる前に着替えを終えて出てきてくれたから良いか。


「じゃぁ皆揃った事だし、前回も使った個室を予約して居るからそっちに移動しよう」

「個室って……前回と同じ部屋?」

「今回は3番の部屋だよ。朝一だしね、準備運動は確りしておかないと怪我をするからさ」


 俺が皆を先導する形で、個室に向かって歩きだす。さて、これで上手く監視者を撒けたら良いんだけど……無理だろうな。

















 


監視者3人組の質はそこそこです。まぁ、主人公達は特に問題行動等はおこしていませんからね。様子見ならこのレベルの監視者でも十分……という判断かな?


朝ダン発売開始より、今日で1週間が経ちました!

朝ダンは今も、好評発売中ですので、皆さんよろしくお願いします!



挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 一度誤字報告をして修正されている箇所ですが、他のエピソードと文字が異なるので、同じ文字で誤字報告をしなおしています。
[一言] ダンジョン協会なら駅から尾行する必要はないし、警察組織なら要所で人員交代するのが普通(電車の痴漢などを追跡する時など、先の駅で別のメンバーが待機してる) 不慣れな様子から企業の尾行かな?
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