第158話 お客さん付きで、ダンジョンへ行く
お気に入り13440超、PV 11030000超、ジャンル別日刊9位、応援ありがとうございます!
祝、1100万PV達成しました!皆さん、応援ありがとうございます!
本日は何時もの時間に更新できないので、少し早めに更新します。
スマホの目覚ましタイマーを止めながら、俺は肌布団を押しのけ上体を起こす。軽く背を伸ばした後、ベッドから降りて窓のカーテンを開ける。眩しい朝日が部屋の中に差し込み、思わず目を瞑った。
「……朝か」
俺は欠伸をしながら目を擦り、ポツリと呟く。昨日は遅くまで同時通話機能を使い、裕二と柊さんにスライムダンジョンの扱いについて話し合ったので、少し眠い。
因みに、話の結論としては今日のダンジョン探索後に重蔵さんに相談する事に決まった。二人もそろそろ隠しきれなくなるだろうと思っていたらしく、俺の提案自体には賛成してくれたのだが……。
「……美佳と沙織ちゃんは抜きで、か」
俺は昨日の会話を思い出しつつ、目を細めながら朝日に視線を送る。裕二と柊さんに相談した所、美佳と沙織ちゃんに教える前に重蔵さんに相談しようという事になったのだ。
重蔵さんは俺達が相談を持ちかけるのを待っているようなので、まずは重蔵さんの反応を見てとの事らしい。
「しかしまぁ、あの重蔵さんの反応が参考になるか?」
あの重蔵さんだからな……ひと笑いした後に、平然と打開策なりを練り始めそうな気がするんだけどな。
「まぁ、良い。遅くとも後半日後には分かるんだ、今から心配しても仕方ないな」
俺は窓を開け部屋の空気の入れ替えをしながら、もう一度大きく欠伸をしてから部屋を出た。
「……眠い」
リビングに降りると、既に美佳はテーブルに着いており朝食の準備待ちの状態だった。
「おはよう」
「おはよう、お兄ちゃん。 ? 何か、随分眠そうだね?」
「昨日ちょっと夜更かしして、寝るのが少し遅くなってな」
「もう。今日はダンジョン行きなんだから、早めに寝ないと……」
美佳の言う事は尤もだ。
しかし、眠れないものは眠れないんだよ。一応、電話自体は22時前迄には終わっていたのだが、そのあと色々考えを巡らせていたので寝るタイミングを逃しただけだ。
「……そうだな。取り敢えず、顔洗ってくる」
「うん。もう直ぐご飯だから、冷めない内に戻ってきてね?」
「ああ」
俺は短く返事を返し、顔を洗うためリビングを出る。
そして洗顔を済ませリビングに戻ると、母さんが出来上がった料理をテーブルの上に並べていた。
「おはよう、母さん」
「おはよう、大樹。さっ、早く席に着きなさい」
「うん」
俺は母さんに着席を促され、素直に席に着く。
今日の朝食はトースト、厚切りベーコン、スクランブルエッグ、そして麦茶だ。この献立なら本当はコーヒーが欲しいのだが、ダンジョンに行くのでカフェイン入り飲料や食物繊維の多いサラダの摂取は好ましくない。帰ってきてから、夕食の時にでも出して貰おう。
「いただきます」
「いただきます!」
俺と美佳は手を合わせ、食事の挨拶をしてから朝食に齧り付く。トーストで厚切りベーコンとスクランブルエッグを挟んだ、サンドウィッチもどきが今日の朝飯だ。
そして俺はサンドウィッチもどきを齧りながら、母さんにダンジョン探索後の予定を伝える。
「あっ、そうそう母さん。今日のダンジョン探索後の予定なんだけど、帰り道裕二の家によってくるから帰りが遅くなるかもしれないから」
「あら、そうなの? じゃぁ、美佳も一緒に寄ってくるのね?」
母さんのその問に、サンドウィッチもどきに齧り付いていた俺は首を左右に振る。
「いや、美佳達は先に帰って貰うよ。……1人でも帰れるよな?」
俺はダンジョン攻略の際に受けるだろう精神的ダメージを考慮し、駅からでも1人でも帰って来れるかと言うつもりで尋ねたのだが、どうも美佳は真意が伝わらなかった様。
美佳は頬を膨らませ、ポツリと不満を漏らす。
「うん、大丈夫だよ」
「そっか……悪いな」
俺は美佳に軽く謝った後、母さんと話の続きをする。
「重蔵さん……裕二のお爺さんにちょっとした相談事があるんだ」
「裕二君のお爺さんに?」
「うん。探索者関係の事で、ちょっとね」
母さんにそう伝えると、美佳が横から口を挟んで来た。
「ねえ、お兄ちゃん。探索者関係の話なら、私も一緒について行っても良いんじゃないの?」
「まぁ、美佳にも関係があるといえば関係ある話なんだけど、ちょっと先に重蔵さんの意見が聞きたくてな。今回は俺と裕二と柊さんの3人で、相談に乗ってもらおうと思ってるんだよ」
「私や沙織ちゃんが一緒じゃ、出来無い話なの?」
「そういう訳じゃないんだけどな……。今の所、重蔵さんに相談しようとしている話がどうなるか曖昧で、美佳達に話せる様な段階じゃないってだけの話なんだよ。話が纏まったらちゃんと話の内容は教えるから、今回はすまないな」
俺が軽く頭を下げながら謝ると、美佳は少し慌てた様に両手を胸の前で小さく振る。
「あっ、うん。別にお兄ちゃんを責めてる訳じゃないんだから、そんな風に謝らないでよ」
「そうか」
「でも、まぁ……そう言う事なら、お兄ちゃんが教えてくれるのを待つよ。……後で、教えてくれるんだよね?」
「ああ」
最終的には美佳や沙織ちゃん、両親にも話さなきゃいけない事だからな。俺が短く返事を返しながら頷くと、不満気だった美佳の表情が笑顔に戻る。
そして、俺と美佳の話し合いに一区切りついた所を見計らい母さんが口を挟む。
「まぁ、そう言う事なら良いわ。でも、あまり遅くなり過ぎないようにしなさい? あまり遅くまでいると、裕二君の家の方の迷惑になるんだから……」
「分かった、気を付けるよ」
「あっ、そうだ。夕食はどうする?」
ああ、夕食か……話し合いの状況によるけど、相談する内容が内容だしダンジョン帰りだからな……。
「ちょっと、予定が立たないな……。あまり遅くなる様なら、電話を入れるよ」
「そう。あまり遅くまでお邪魔しないのよ?」
「うん」
俺は母さんに短く返事を返しながら、サンドウィッチもどきの最後の一欠片を口の中に放り込んだ。
俺と美佳は手を合わせ、食後の挨拶をする。
「「ごちそうさまでした」」
「さっ、二人とも。そろそろ出かける時間でしょ? 遅刻しないように、準備してきなさいね」
「うん」
「はーい」
俺と美佳は、使った食器を流し台に片付け、自室に戻り、ダンジョン行きの準備を始める。俺は自室の扉のノブに手を掛け、美佳に話しかけた。
「じゃぁ美佳、先に準備が終わった方は下のリビングで待つと言う事で」
「うん、分かった」
「じゃぁ、手早くな」
美佳に一声かけ終えた後、俺は扉を開け自室の中へ入った。俺はクローゼットから外出着を取り出し、部屋着から着替えを始める。
そして着替えを終えた俺は、姿見に映った自分を見詰めながら“鑑定解析”を使用した。
名前:九重大樹
年齢:16歳
性別:男
職業:学生
称号:スライム族の天敵
レベル:99〈34〉
スキル:鑑定解析3〔A〕7/10・念動力3〔A〕1/10・空間収納3〔P〕8/10・EP回復力上昇Ⅱ〔P〕5/10・身体能力強化Ⅱ〔P〕7/10・ステータス偽装Ⅱ〔P〕4/10・洗浄Ⅱ〔A〕1/10・光源魔法Ⅱ〔A〕1/10・威圧〔A〕6/10
HP:995/995〈355/355〉
EP: 205/500〈180/180〉
※〈〉内の数字は偽装スキルによる見せかけの数字
「……100の大台まで、後1レベルか」
恐らく昨日倒した、ミスリルスライムの経験値が効いたのだろう。100レベルに成ると何かあるか?と言う好奇心にも似た疑問はあるが、今は美佳達の2度目のダンジョン探索だと意識を切り替える。俺は“鑑定解析”スキルの使用を止め、クローゼットの扉を閉めた。
そして、空間収納からダンジョン探索の道具が詰まったバックパックを取り出し背中に背負い、不知火が入った収納バッグを肩に担ぐ。
「さて、準備完了だな。……行くか」
俺は空気入れ替えの為に開けていた窓を閉め、戸締りを確認して自室を出た。階段を降りる途中美佳の部屋から慌てた様な物音が聞こえてきたので、これはもう少し時間がかかりそうだなと思った。
リビングのソファーに座り朝のニュースを見ながら美佳が降りてくるのを待っていると、俺達が準備に部屋に戻っている間に起き出てきていた父さんが話しかけてきた。
「なぁ大樹、美佳は大丈夫そうか?」
「え? 大丈夫って……?」
「ダンジョン行きがだよ。前は帰って来てから、随分調子が悪そうだったじゃないか?」
確かに、あの時の美佳は食欲不振だったり、情緒不安定になっていたしな……親なら心配するよな。
「えっと……まぁ、大丈夫だと思うよ? あの後ちゃんとケアはしたし、今回のダンジョン行きだって俺が無理強いした訳じゃなく、美佳や沙織ちゃん自身が行くって言った事だからね」
「……そうか。でも、充分気をつけて見守ってやるんだぞ? こう言う事は、本人に自覚症状が出ないって事が多々あるんだからな」
「……うん、分かった。気をつけるよ」
父さんの忠告をしっかりと胸に刻み、俺は気を引き締め直す。
美佳の様子はある程度日常生活の中で把握出来ているが、沙織ちゃんの方は余り把握出来ていないからな。裕二や柊さんとも話しておいて、油断せずいこう。
そして父さんとの話し合いが一段落した所で、美佳がリビングに降りてきた。
「お待たせ、お兄ちゃん」
「いや、それほど待ってないよ。……忘れ物はないよな?」
「うん! 昨日の内にちゃんとチェックしておいたし、部屋を出る前にもう一度チェックしたから大丈夫だよ!」
「そうか。じゃぁ行くか?」
「うん!」
俺はソファーから立ち上がり、側に置いた荷物を身につけ直す。
そして、こちらを見ている父さんと母さんに、出発の挨拶をする。
「じゃぁ父さん母さん、行ってきます」
「行ってきまーす!」
俺と美佳は軽い調子で出発の挨拶をするが、父さんと母さんは真剣な表情と声で返事を返してくる。
「行ってらっしゃい。怪我がない様に、気をつけるのよ?」
「気をつけて、行ってこい。だが、無理だけはするなよ?」
「うん」
「はい!」
俺と美佳は無意識に姿勢を正し、真剣な表情を浮かべ短い返事を返す。
そして、出発の挨拶を終えた俺と美佳は家を出た。
皆と待ち合わせしている最寄り駅に到着すると、日曜日という事もあって探索者っぽい格好(大きく膨らんだバックパックと細長いバッグ)をした人の姿が見受けられる。
俺達と同じ年代の若者の姿もあるので、何人かは俺達と同じ学校の者かもしれないな。
「どうやら、俺達が一番最初に到着したらしいな」
「そうだね。待ち合わせの時間までは……後10分くらいだね」
美佳は駅の構内に設置してある時計を見ながら、そんな事を呟く。
「ああ、そうだ。美佳、ICカードの残金は大丈夫か? この前みたいに改札で残高不足だと手間だから、チャージ残高が足りないようなら今の内にチャージしておけよ?」
「あっ、うん。心配してくれてありがとう。でも、今回は大丈夫だよ。この間、多めにチャージしておいたから大丈夫」
「そうか」
どうやら、俺の心配は気の回し過ぎだったようだ。まぁ一度失敗しているからな、対策はとってるよな。
そして俺と美佳が待ち合わせ場所で話していると、後ろから誰かが声を掛けてきた。
「お待たせしました。おはようございます、お兄さん、美佳ちゃん」
「ああ、沙織ちゃん。おはよう」
「おはよう、沙織ちゃん!」
俺と美佳が後ろを振り返るとそこには俺達と同じ様に、バックパックを背負い運搬バッグを肩に担いだ沙織ちゃんの姿があった。挨拶を終えた美佳が沙織ちゃんと話し込み始めたので、俺は少し手持ち無沙汰になる。
2人の話に入る切っ掛けもないので、俺はスマホでも弄ろうかと懐を探っていると突然肩を叩かれ声をかけられた。
「おはよう、大樹」
「……あっ、裕二。おはよう」
振り返るとそこには、裕二は悪戯が成功したと言う様な笑みを浮かべながら朝の挨拶をしてきた。何も朝から、気配を消して近づいて来なくても良いだろうに……。
無性にイラッとくるな、その笑み。
「油断大敵だぞ。まだダンジョンに入ってないと言っても、もっと周りの気配に気を配らないとな!」
「……ああ、そうだな」
すると裕二が急に肩を組んできて、俺の耳元でボソッと小声で呟く。
「気付いてるか? 俺達見張られてるみたいだぞ」
「……ああ、やっぱり。気のせいじゃなかったんだな?」
「多分な。俺の場合、家を出た辺りから後ろをついてきているみたいだ」
家を出た辺りから感じていた視線は、やっぱり勘違いではなかったようだ。
「昨日、上級ゾーンをクリアしたせいかな?」
「多分な。俺達の場合、エリアボス討伐って前例があるから、改めて監視の目が付けられたんじゃないか? 監視が今日だけか、暫く続くのかは分からないけどな」
「面倒だな……」
「ダンジョンの入出記録を見れば、俺達が日曜だけダンジョンに潜る事は分かるだろうから、運が良ければ今日だけの監視で済むかも知れないぞ」
「そうであって欲しい物だな」
俺は小さく溜息をつきながら、肩に組まれた裕二の腕を外す。
「おはよう。ねぇ貴方達、朝から肩なんか組んで何をしてるの?」
「あっ、柊さん。おはよう」
「おはよう」
朝から変なものを見たと言いたげに眉を潜めた柊さんが、朝の挨拶をしてくる。まぁ、話の内容が分からなければ、そういう反応になるか。
「特に何かって理由がある訳じゃないよ。……只、今日は大人しく過ごそうって話だよ。なっ、裕二?」
「ああ。無理はせず、大人しく一日を過ごそうって話だよ」
「……そう言う事ね」
どうやら柊さんも、俺達が言いたい事の意味を理解したようだ。まぁ柊さんも、幻夜さんの訓練のお陰で気配は読めるからな。この程度の監視者の視線なら、当然気が付けるよな。
そして、厄介な事情を理解する俺達が揃って半眼で曖昧な笑みを浮かべていると、裕二と柊さんの到着に気が付いた美佳と沙織ちゃんが朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます、裕二さん、雪乃さん!」
「おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「おはよう。美佳ちゃん、沙織ちゃん」
二人に朝の挨拶をする美佳と沙織ちゃんは、朗らかな笑顔を浮かべていた。
はぁ。まぁ、厄介な事情は一旦置いておくとして、兎も角これで全員揃ったな。
「さっ。全員揃った事だし、行こうか?」
「ああ、そうだな」
「そうね、行きましょう」
「うん!」
「はい!」
皆の了承の返事を確認し、俺達は全員揃って駅の改札を通り抜けた。
厄介なお客さん付きで。