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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第157話 明日のダンジョン行きに備え

お気に入り13370超、PV 10910000超、ジャンル別日刊8位、応援ありがとうございます。






トラップ訓練施設から帰宅後、夕食を済ませ俺は美佳と一緒に明日のダンジョン行きの準備を始めた。前回忘れ物をしたので、持ち物チェックを兼ねてだ。


「美佳、今度は忘れずに道具を全部持って行けよ?」

「分かってる。今度はちゃんと全部持っていくよ」

「それなら良いんだけど。それと荷物をバッグに入れる時に、道具に不備がないかは確認しておけよ。特に、ライトの電池交換は忘れずにな」

「うん」


 美佳は俺のアドバイスを聞き、持っていく道具を一つ一つ点検していく。

 そして10分程掛け、美佳は明日の準備を終わらせた。


「おしまい、これで明日の準備はバッチリだね!」

「お疲れ様」

「うん。でも、道具を全部バックパックに入れると少し重いね……」


 美佳は入れた道具で膨れたバックパックを両手で持ちあげ、表情を僅かに顰める。


「まぁ、そう言うなよ。確かに前回抜いていた分の道具を入れたせいで、少しバッグは重くなってるだろうけど。重たくなった分、安全性が増したと思えばそう悪くはないだろ?」

「うーん、まぁ、ね」

「それにダンジョン探索をやって美佳のレベルが上がれば、そのくらいの重さなら何とも思わなくなるさ」


 実際、高レベルの俺達なら乗用車位(1トン前後)の重さは苦もなく持ち上げる事が出来る。探索に必要な道具をバックパック一杯に入れているとは言え、重さは精々10~20kg程度だ。勿論、持ち帰るドロップアイテムの重さは抜いてだが。


「本当に?」

「ああ。ある程度のレベルに成れば、実感出来る様になるぞ」

「ある程度のレベルって?」

「そうだな……5位かな? 大体、1レベルで1割増って所らしいからな」


 元の身体能力が1.5倍になれば、変化を自覚出来るだろう。例えば握力が20kgから30kgになれば、女子が男子並みの握力になるからな。俺は美佳にそんな風に例えながら説明する。

 すると美佳は少し首を傾げながら、ある意味当たり前の疑問を投げかけて来た。


「ねぇ、お兄ちゃん。そのレベルってどうやって調べるの? ゲームみたいに自分のステータスが表示される訳じゃ無いから、どうやって調べるの?」

「ああ、その事か……」


 俺は懐からスマホを取り出し、ダンジョン協会のホームページを開いて美佳に見せる。


「ほら。ここに書いてある様に、最近の事だけどダンジョン協会の各都道府県の支部で、探索者のレベルやステータスを有償で鑑定してくれるサービスがあるんだよ。勿論、事前予約はいるけどな」

「あっ、本当だ」


 協会所有の鑑定メガネの数が増えたのか最近……と言っても4月位からだが、この手のサービスが始まっていた。鑑定メガネを使い、探索者を見ると基本的なステータスが分かるらしい。日曜日の午前中に、100人までの限定らしいが。

 また副産物……と言うかこっちがメインなのだろうが、各都道府県支部に鑑定メガネが配置されたお陰で、以前は東京の協会本部に未鑑定のスキルスクロールなどを送っていたせいで時間が掛かっていた鑑定が、最近では以前の半分以下の時間で鑑定が完了するようになったらしい。全国からドロップアイテムが協会本部に集まるせいで、鑑定の順番待ちが酷かったしな……。 


「まぁ別にステータスを鑑定して貰わなくても、無難なダンジョン探索をするなら調べて貰わなくても良いと思うけどな……スキルスクロールを使わなければな」

「……どう言う事?」

「スキルを使うには必要なEP……エネルギーポイントと言うのが設定されているんだ。このEPは、レベルによって増加するんだ」

「つまり、レベルが上がればスキルを沢山使えるって事?」

「正解」


 俺はスマホのメモ機能を起動し、簡単なステータス表(レベル、HP、EP)を作って美佳に見せる。


「ほら。こんな感じで、レベルが上がると一定の割合でHPやEPが増加するらしいんだ」

「へー、で。これがスキルと、どう関係してくるの?」

「さっきも言ったけど、スキルはEPを消費して使用するんだ。だが、このEPが無くなるとレベルアップによって得られる身体強化の恩恵が受けられなくなるんだ」

「えっ!?」


 俺の説明を聞き、美佳は驚きの声を上げる。まぁ、そうなるよな。


「どうやら身体強化の恩恵はEPによって維持されているらしくてな、EPが無くなると身体強化の恩恵は受けられなくなるらしいんだ」

「……」

「つまり、スキルを使用し過ぎると瞬く間にEPを消費し尽くし身体強化が無くなるんだ。ダンジョン内でそんな事態になる事が、一度ダンジョンに入ってモンスターと戦った事がある美佳には、それがどれだけ危険な事かは分かるよな?」

「……うん。まだ身体強化の恩恵は実感出来無いけど、それが危ない事だって事は分かるよ」


 美佳は神妙な表情を浮かべ、俺の言いたい事に理解の色を示す。

 それを確認し、俺はスマホのメモ帳にASアクティブスキル,PSパッシブスキルと入力して美佳に見せる。 


「それを踏まえて、次の説明に行くぞ。スキルスクロール……スキルには大きく分けて2種類あって、ASとPSがあるんだ」

「AS、PS?」

「アクティブスキルと、パッシブスキルの事だよ。ASが自分の意志で発動するスキルで、PSが常時起動しているスキルの事だな」

「へー」


 感心した様な声を美佳は上げるが、よく理解はしてないな。 


「で、問題がこのPSでな……」

「常時起動しているのなら便利で良いじゃない。何が問題なの?」

「常時起動……この、常時起動ってのが曲者なんだよ。常時起動しているって事はつまり、常時EPを消費し続けていると言う事なんだよ。身体強化の恩恵を維持するEPをな」

「あっ……」


 漸く俺の説明の趣旨を理解し、呆気に取られた様な声を美佳は上げた。


「変に高レベルなPSのスキルスクロールを使用して覚えると、自分の容量以上のEPを消費する事になって身体強化の恩恵が受けられなくなるんだよ」


 俺は無闇にスキルスクロールを使って、高レベルのPSを覚えて探索者として再起不能になった者達の事を幾つか例に挙げ美佳に説明する。

 喜劇の様な悲劇を教えると、美佳の顔が引きつっていく。

 

「その高レベルなPSって、外せないの?」

「外せたって話は聞いた事無いな。もしかしたら解除する方法があるのかもしれないけど、今のところは発見されてないと思うぞ」

「……そうなんだ」


 俺の知らないという言葉に、美佳は落胆したような表情を浮かべる。俺だって知らない事は幾らでもあるんだから、そんな表情を浮かべるなよ……。


「ダンジョン協会が探索者から買い取って売りに出しているスキルスクロールなら、AS,PSの分類やEPの消費量なんかが表記されているから高いけど安全だ。だから、ドロップアイテムとしてスキルスクロールを手に入れても、未鑑定の状態の物は使用しない方が良いぞ」

「……うん。気を付ける」

「取り敢えずの目安として、レベル5位まではPSは習得しない方が良いと思うぞ」

「そうする」


 俺のアドバイスに、美佳は神妙な表情で頷いた。

 






 


 

 美佳の明日の準備と、スキルについてのアドバイスを終えた後、俺は自室に戻ってきていた。俺も明日の準備をしないといけないからな。


「とは言え、特にこれといって用意するものはないんだけどな……」


 俺は何時も通りに道具を用意し終え、ベッドの上に転がり天井を見る。 


「そろそろ、美佳や沙織ちゃんにもスライムダンジョンの事を知らせないといけないよな……」


 俺は天井を見上げながら、今後の予定について考えを巡らせる。 


「それに、美佳や沙織ちゃんに教えるのなら父さんや母さん、重蔵さんにも話を通さないといけないな」


 重蔵さんは俺達の隠し事に薄々気が付いているようだから、話を通すのはそれほど難しくないだろうが……父さんや母さんにはどう言った物か。スライムダンジョンがある机を移動させる事が出来るのなら、最悪政府に譲渡すると言う対処が可能だろうが、移動が不可能もしくは机を移動させたらダンジョンの入口が俺の部屋に顕現するという事態になれば、俺達家族はここを離れなければならなくなる。

 

「まぁそれでも、引越しだけで済めば御の字なんだけどな」


 自宅を中心に周辺住民が退避する事となれば、周辺住民……ご近所さん達の恨みもそれ相応の事態になるだろう。最悪、逃げる様にしてこの街を出て行く事になるな。 

 現に去年、ダンジョン出現時に退避した周辺住民が敷地内にダンジョンが出現した住民に対し損害賠償請求を起こすという事態が起きている。もっともこれは、告訴状を裁判所が受理前に棄却したが。後に政府がダンジョンをすべて所有すると言う事で、ダンジョンの周辺住民には土地の買取や補償を付けることで決着がついている。


「そんな事にならない様に上手く立ち回らないといけないよな……」


 俺はそんな事を考えつつ、天井を眺め続ける。

 が。


「やめやめ。一人で考え込んでも行き詰まるだけで、何も良い事が思い浮かばないや」


 俺は上体を起こし、ベッドの縁に座った。

 そして机の引き出し……スライムダンジョンの入口がある引き出しをボンヤリと見る。

 

「まずは父さんと母さんに話を……いやいや。この手の問題、父さんや母さんじゃ荷が重いよな……」


 普通のサラリーマンの父と専業主婦の母さんでは、話しても良案が出てこなさそうだ。勿論、父さんと母さんが頼りないと言う事ではない。ただ、問題が大きすぎるのだ。

 ヘタをしなくても、ダンジョン関連の問題は国の重要問題だからな。


「出来れば話が広まる前に政府の決定権を持つ人……閣僚クラスと話が付けられれば良いんだけど……」


 一般人のルートでは、そこまで辿り着くまでに色々な方面に情報が漏れるだろうからな。だけど、直接話を持込めれば情報漏えいのリスクはかなり少なくなる。

 尤もそんなルート、普通の一般人には手の出しようもない。普通なら……。


「重蔵さんにスライムダンジョンの事を話して、幻夜さん経由で話を進めるしかないよな……」


 俺達は稽古の時、幻夜さんが現役中に実際に護衛を行っていた時の経験談を聞いている。その体験談の中には、政府高官を護衛した時の話もあった。

 それに、3人の師範代は今も政府高官などの護衛についているらしいので、何とかなるかも知れない。ご都合主義の希望的観測が多分に含まれた推測だが、他に接触するルートはないのでコレに掛けるしかないのも事実だ。


「となると机の移動実験は重蔵さんに話を通して、美佳達の底上げをしてからだな……」


 俺は座っていたベッドから立ち上がり、机の方に移動する。椅子に腰を下ろし机の一番下の引き出しに手を掛け、引き出しを開く。引き出しを開いた先には、何時もと変わらずスライムが鎮座していた。

 しかも……。


「あの表面の輝き……ミスリルスライムか」


 ミスリル……ダンジョンから極少量ずつ産出される貴重な鉱石の事だ。ミスリルスライムは、この鉱石を高確率でドロップするモンスターだ。俺は空間収納から、小分けした塩袋を取り出し封を切る。

 そして、その塩袋をスライムの真上に移動させ……一気に引っ繰り返した。塩は狙い違わず、塩袋の真下に鎮座しているミスリルスライムへと降り注いだ。 

 塩を浴びたミスリルスライムは苦しそうに伸縮を繰り返しのたうち回り始め、次第にその体積を減らしていく。体の体積が元の半分を下回ろうとした時、砕け散り光の粒子となってミスリルスライムは消滅した。ピンポン玉サイズの鉱石を残して。


「ミスリルゲット……ってか? この塊だけで、どれだけの価値になるんだろうな……」


 俺は念動力を使い回収したミスリルを掌で転がしながら、ふとそんな事を思った。ミスリルなどの幻想金属は、世間一般的には金やプラチナ以上に希少で高価なレアメタルとして取り扱われている。尤も物がものだけに、まず出回らないけど。 


「交渉材料としての価値は十分なんだけど、簡単に手に入りすぎるんだよな……」


 一般常識として入手困難な品がここまで簡単に手に入るダンジョンなど、知られれば奪い合いの対象になることは間違いない。だからこそ、情報の秘匿は厳重にしなければならない。

 

「何にしても、重蔵さんに相談してからだな……」


 今までスライムダンジョンの事を隠し続けたので少し言いづらいという気持ちもあるが、今日利用したトラップ訓練施設にいた探索者達の反響や、これまでの活動からダンジョン協会に持たれている関心度を思えば、もう動かなければいけない頃だな。それに、これからの学校関係での動きを考えれば、各方面からの俺達への注目度は嫌でも増すだろう。

 そろそろ、スライムダンジョンを隠し続けるのは限界だな。


「明日、早めにダンジョンから帰って来たら、皆を連れて重蔵さんに相談しに行くか」


 俺はスライムダンジョンの入口がある引き出しを閉め、スマホで裕二と柊さんに相談があると電話を入れた。

 









 


注目が集まり、そろそろスライムダンジョンの隠匿も厳しくなってきました。先ずは、重蔵さんに相談ですね。




朝ダン、好評発売中です!皆さん、よろしくお願いします!



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
政府が知ったら日本から塩が消えそう・・・
[一言] 最初からレベル高かった主人公たちは多分荷物の詰め方も適当だろうから、その辺の指導もできないですよね。 幻夜のところでも荷物は持ってなかったみたいですし。
[一言] 所有しているミスリル在庫だけで政府が全力ダッシュすること間違いなし(_ー
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