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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第155話 知識は力になる

お気に入り13230超、PV10690000超、ジャンル別日刊6位、応援ありがとうございます。


朝ダン、本日発売になりました!





 美佳達の説得が終わると、柊さんが俺達に上級ゾーンの様子を聞いてきた。どんなトラップが仕掛けられているゾーンだったのかと。

 俺と裕二は一瞬目線を交わした後、上級ゾーンについて簡単な説明をする。


「幻夜さんの稽古を、マイルドにした感じかな? なっ、裕二」

「そうだな。確かに初級や中級に比べれば攻略難易度は上がっていたけど、全体の難易度としてはまだまだ甘かったな」


 潜伏者に襲撃される事もないし、問答無用で広域爆撃される事もなかったから、トラップに集中して対処する事が出来たからな。幻夜さんの稽古だと、全てを同時に警戒し対処する必要があった事を思えば、大分マイルドだった。

 俺と裕二の感想を聞き、柊さんはやっぱりそうかと納得した様に頷き、美佳と沙織ちゃんは首を傾げる。


「えっと、マイルド……だったの?」

「ああ、前に俺達が別の所で受けた対トラップ訓練と比べたらな」

「……お兄さん達は、一体どういう訓練を受けたんですか?」

「どうって……」


 俺は美佳と沙織ちゃんのその質問に、答えに窮する。

 訓練内容をそのまま伝えると、絶対ドン引きされるだろうな……。俺は幻夜さんの稽古内容を思い出し、どう答えたものかと頭を悩ませる。 


「凄い訓練、かな? まぁ、訓練内容についてはお察しって所だな」

「お察しって……」

「凄い訓練」


 俺が少し遠い目をしながら答えると、美佳と沙織ちゃんは若干引いた。因みに、裕二と柊さんも俺と同じように稽古内容を思い出したのか、遠い目をしている。まぁ、そうなるよな……。

 暫く無言で佇んでいた俺達は、順番待ちをしていた他の探索者達に怪訝な眼差しで見られている事に気付き初級ゾーンがある建物を出る事にした。

 

「ちょっと注目が集まっちゃってるみたいだから、一旦建物の外に出ようか?」

「ああ、そうだな一旦外に出よう。こんな状況だと話もできないしな」

「賛成よ。よく考えれば、ここで話すような内容でもなかったわね」

「うん」

「はい」


 俺達は周囲からの視線を避ける様にして、素早く建物から脱出した。 









 建物の外に出た俺達は一旦、ドリンクコーナーに退避した。

 ジュースを買って一息入れながら、周囲に誰もいない事を確認してから建物の中では話せなかった俺達が上級ゾーンをクリアしたと言う事を3人に話す。


「へー、クリア出来たんだ」

「ああ。多少梃子摺りはしたけど、そこまで難しくはなかったよ。なっ、裕二?」

「ああ。思いっ切り動けないと言う別の意味で手古摺ったけど、トラップを突破する事自体には問題はなかったな」


 俺と裕二は上級ゾーンのトラップ群の内容を思い出しながら柊さん達に伝え、大した事はなかったと気楽な口調で伝える。

 すると、美佳と沙織ちゃんは信じられないといった眼差しで見てくるが、柊さんは平然とした様子だ。


「でも、上級ゾーンは宝探し形式なんだ……」 

「うん、まぁね。ゾーン全体が薄暗くて視認性が悪い上、芝や木なんかの障害物が多いから、最低でも初級ゾーンや中級ゾーンのトラップをノーミスでクリア出来るくらいでないと、上級ゾーンのクリアは厳しいかな?」

「そっか……となると、美佳ちゃん達にはもう少し初級や中級ゾーンで、対トラップ技能を磨いて貰わないといけないわね。それで良いわよね?」


 俺と柊さんは会話しながら美佳達に視線を向けると、美佳と沙織ちゃんは不承不承といった様子で顔を縦に振る。まぁ、自覚はあれど面と向かって力不足と言われれば、良い気はしないよな。 

 俺は飲み終えたジュース缶をゴミ箱に捨てながら、この後の予定について話す。


「さてと……じゃぁこの後、もう一度初級ゾーンに挑戦するか?」 

「えっと、それは待ってくれないかしら?」

「ん? 何か都合が悪いの?」

「都合が悪いと言えば、都合が悪いわね」


 俺は待ったをかける柊さんに、都合が悪いという理由を聞く。


「確かに対トラップの経験の少ない2人に経験を積ませる為に、何度も訓練を繰り返させると言う方針も悪くない。でも2人には、訓練を経験を積ませる前にトラップに対する知識を学ばせた方が良いと思うの。2人の初級ゾーンでの動きを見ていると集中力や警戒心に問題はなくても、どんな種類のトラップがあるか知識としてないから注目すべき点を見落としてトラップに掛かるって言う事が多々あったわ」

「知識……つまり、座学から教えるって事?」

「ええ」


 柊さんの話を聞き、俺は美佳と沙織ちゃんに顔を向け質問する。 


「美佳、沙織ちゃん? 2人はさぁ、トラップに関する本格的な本やサイトってみた事ある?」

「うーん、本格的な物って聞かれたら……読んだ事は無いかな?」

「私もありません。ゲームや漫画なんかで出てくるものは知ってますけど……ここで体験した様な物が載っている様な専門書は読んだ事はありませんね」

「そっか……」


 どうやら俺は、少し気が逸っていたらしい。言われてみれば確かに、まずは座学から教えるべきだった。

 俺達の場合、鑑定解析スキルを使ってダンジョン攻略をしていた為、安全に実物のトラップを教材として座学をこなし知識を蓄えていた様な物だ。実技と座学の同時進行、字面だけ聞けば危ない行為だが、優秀なスキルのお陰で初見殺しのトラップにも一度も引っかかった事はない。

 どうやらここでも、俺の感覚はズレていた様だ。全く知識が無い状態で、トラップに関する知識も教えず訓練施設に放り込むとは……。

 俺は申し訳ないといった表情を浮かべながら、美佳と沙織ちゃんに向かって頭を下げる。


「ごめん、2人共。いきなり訓練施設に放り込んじゃって……。まずは座学から教えるべきだったね」

「ううん、謝らないで。お兄ちゃんだけが悪い訳じゃないよ。私達だって、事前にここに来るって知らされていたのに、事前に調べてこなかったのも悪いんだから……」

「はい。むしろ私達の方が、お兄さん達に甘え過ぎていたみたいです。お兄さん達に全部教えて貰える事を当然と思っていて、自分達で調べると言う事を怠ってしまっていました……」


 俺達3人は互いに謝罪しながら、落胆の溜息を吐く。俺は自身の認識の違いを、美佳と沙織ちゃんは自分達の怠慢さに。

 そんな落ち込む俺達の雰囲気を崩す為に、柊さんが手を叩きながら声をかけてくる。


「はい、はい。3人とも、落ち込むのはその辺にして。間違いに気付いたのなら、落ち込んでいないで改善する努力をしましょう」

「……そうだね」

「「……はい」」


 柊さんの言葉に、俺達3人は弱々しく返事を返す。確かに、落ち込んでいる位なら改善する為に動く方が幾分かは建設的だな。俺が軽く自分の両頬を叩いて気合いを入れ直す姿を見て、美佳と沙織ちゃんも俺と同じ行動を取った。

 そんな俺達の姿を見て、柊さんがある提案をしてくる。


「ねぇ、この後の事なんだけど。初級ゾーンには戻らず、ここの資料室に行かない?」

「? 資料室?」

「さっき、ここの施設案内看板を見てたら見付けたのよ。ここの施設、一般開放されている資料室があるみたいなの」


 資料室か……この施設の資料室という事は、トラップに関する資料が置かれているのかな?

 

「どんな資料が置かれているかは分からないけど、多分トラップに関する書籍なんかが置かれている……筈よ」

「そっか……。じゃぁ取り敢えず、資料室に行ってみるか?」


 俺は美佳と沙織ちゃんに、資料室に行ってみる?と聞いてみる。


「うん!」

「はい!」


 どうやら2人共、やる気満々の様だ。


「決まりね」


 柊さんが飲み終えたジュース缶をゴミ箱に捨てる。それに続く様に美佳と沙織ちゃん、裕二も飲み終えたジュース缶をゴミ箱に捨てた。

 そして俺達はドリンクコーナーを後にして、資料室へと足を進める。









 資料室は、総合受付や更衣室がある建物の2階の隅にあった。資料室は学校の教室ほどの広さがあり、入口を入った右の壁際に資料の入った本棚が並び、左の壁際にトラップの道具が入ったガラスケースが並んでいる。

 そして部屋の中央に、4個1組のパイプ長机セットが2列並んでいたが利用者は誰もいない。


「誰もいないね……」

「そうだな……」


 俺と美佳の声が、無人の部屋に虚しく響く。

 取り敢えず俺達は、資料室に入り壁際の資料を見て回る。


「へー、結構色々揃えているんだな……」

「そうだな。一般販売されている纏め本みたいな物から、結構専門的な奴まで置いてあるな……」


 俺と裕二は棚の資料本の背表紙を見ながら、そのラインナップに関心の声を上げる。一体どこからこれだけの資料を集めてきたのかは知らないが、中々気合の入った収集具合だ。

 そして、反対側の壁のガラスケースを見ていた美佳と沙織ちゃんも興味津々といった声を上げる


「へー、こんなトラップがあるんだ……」

「見てよ美佳ちゃん、このトラップなんか初見で見破るのは無理だよ」

「うわぁ……えげつないな」


 美佳と沙織ちゃんはガラスケースの中に展示されている、トラップの仕掛けを再現したミニチュアを見て眉を顰めていた。そんな2人を見ながら、柊さんは口を開く。


「2人共。感心しながら見ているのも良いけど、今見ているトラップに遭遇した時、自分ならどうやって突破するかを考えながら見てみると良いわよ。事前に考えていれば、いざ遭遇した時に少しは冷静に対応出来るわよ」

「「はい!」」


 美佳と沙織ちゃんは柊さんに元気に返事を返し、どうやって突破すれば良いのか2人で討論し始める。そんな2人を柊さんは優しげな眼差し……というか先生が教え子を見守るような眼差しで見ていた。

 そして暫く室内を見学した後、俺と裕二は幾つかの資料本を手にして中央の机に座る。すると、後を追うように美佳と沙織ちゃん、柊さんも椅子に座った。


「取り敢えず、美佳達に良さそうなタイトルの本を取ってきたぞ……」


 俺と裕二は、本棚から取ってきた本を机の上に広げる。持ってきた本は全部で7冊。ワンコインで買える初心者向けの纏め本や、ハードカバーの専門書、報告書を纏めて挟んだと言った感じのバインダーに挟まれた資料集だ。


「2人はまず、これに目を通したらどうだ? イラスト付きで解説されているから、わりと理解し易いはずだぞ」 

 

 そう言って、俺は美佳と沙織ちゃんにワンコイン本を手渡す。コンビニの単行本コーナー等でよく見る、あれだ。 


「へー、こんな本があるんだ」

「世界のトラップ全集vol.1……ですか、こんな本が一般販売されているんですね」


 美佳と沙織ちゃんは、手渡した本をパラパラと捲り、中身に目を通していく。イラストや写真を多用し見易い作りなので、美佳と沙織ちゃんもどこかホッとした様子を見せる。


「解除法なんかは載っていないだろうけど、どう言う類のトラップがあるのかはその本を読めば分かる筈だよ」

「どんなトラップがあるのか分かれば自ずと、ダンジョンや訓練施設でどこを見ればトラップが有るのか無いのかが見分けられる様になるぞ」

「そうね。トラップを仕掛ける形は現場の状況で違ってくるけど、どこならトラップを仕掛けられるのか仕掛けられないかと言う見極めが出来るようになるわね。その本に載っているトラップを全種類覚えられなくても、どう言うタイプのトラップがあるのか覚えれば応用で対処できるようになるわ。頑張って覚えてね」

「「はい!」」

 

 そして、美佳と沙織ちゃんは俺達の激励を聞き、早速本を読み進める。

 俺はそんな2人を眺めながら、持ってきた別の資料本に視線を移す。


「“トラップへの最新機器の応用”、“心理学を応用したトラップ”、“ダンジョン内のトラップに関する報告vol.1(非売品)”か……」

「前の2つは兎も角、最後の資料集は制作編集ダンジョン協会で、防衛省と警察庁が資料提供に協力している事になってるな……」

「こんな物も置いてあるのね……ここ」


 思わぬ物に、俺達3人は感嘆の声を上げる。この本を読みに来るだけでも、この施設を利用する価値はあるよな。何せ、この手の資料はダンジョン協会のホームページでも有償提供されている代物だ。チラリと本棚に視線を送ると、俺の視線の先にある本棚の棚には手元に有る資料集と同じシリーズの物がvol.10まで揃って並んでいる。

 

「取り敢えず、目を通せるだけ目を通してみないか?」

「そうだな。トラップに関する知識を増やす事は、俺達が安全にダンジョン探索をする為にも必要だからな」


 俺達はそれぞれ机の上の本を手に取り、美佳達と同じ様に黙って本を読み始める。俺達の他に誰も利用者は無く、資料室には俺達が時おりページを捲る音だけが響く。

 その後、俺達は訓練施設は利用せず帰宅時間まで資料室の本を読み続けた。
















こう言う施設の資料室って、一般開放されていても人気無いですよね。知っているだけで、何事もなく回避出来る事もあるのに……。



朝ダン、本日無事に発売となりました!

これも皆様の、応援のおかげです!これからも、応援よろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この子達の自己分析能力が高すぎて少し違和感が…自分が高校生の時にこんなふうに考えたりできなかったので笑
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