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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第149話 初級ゾーン後半戦

お気に入り12940超、PV 10230000超、ジャンル別日刊9位、応援ありがとうございます。



  

 


 


 電光掲示板に表示された数字が、刻々と減っていく。既に残り時間は僅か、後半を担当する俺達3人は行き道の五分の一の時間でクリアしなくてはならないと言う事だ。


「ごめん。時間取り過ぎちゃった……」

「すみません、足を引っ張ってしまって……」


 美佳と沙織ちゃんが申し訳なさそうな表情を浮かべ、俺達3人に頭を下げてくる。

 

「別に、謝らなくて良いよ。こうなるかもしれないとは、なんとなく想像していたからね」

「ああ、そうだぞ2人とも。初めて本格的な対トラップ訓練に挑戦しているんだ、上手くいかなくて当然だよ」

「寧ろ初めての訓練で、3分も時間を残してここまで来れただけで十分よ。全てのトラップに引っ掛かったとは言え、ちゃんと時間内に解除法を見付けて通過出来たんだから」


 俺達は落ち込む美佳と沙織ちゃんに、口々にそう悪い結果ではないと話しかける。実際、帰り道の時間が足りなくなりそうだったら途中交代も想定していたので、途中交代をせずにここまでこれれば十分だ。


「でも、残り3分位しかないんだよ? もう……無理だよ」


 美佳は小さな声で、時間内のクリアはもう無理だと弱音の言葉を吐く。

 まぁ、残り3分位しかないしな。だが……。


「大丈夫だ。まだ間に合うよ」


 以前の俺達なら、3分でノーミスクリアが出来るのかと聞かれたら無理と答えただろうが、今の俺達ならこの程度の難易度のトラップゾーンなら3分あれば余裕を持ってゴールまで行けるだろう。

 勿論、俺のスキルを使わなくてな。


「でも、お兄さん。あと3分ですよ……?」

「大丈夫だよ、沙織ちゃん。2人が俺達の指示通りに動いてくれるのなら、じゅうぶん間に合うよ。さっ、残り時間も少ない事だし、サクサク進んで行くよ」

「……はい」


 俺が自信有り気に大丈夫だと言うと、美佳と沙織ちゃんは申し訳なさそうではあるが疑わし気な目で見てくる。大丈夫だって、なんとかなるさ。

 俺は裕二と柊さんに目配せをし、6番目のトラップ部屋の扉に手をかける。


「美佳、沙織ちゃん。今から俺が先頭を歩くから、美佳、柊さん、沙織ちゃん、裕二の順番でついて来て。

基本、俺が歩いた通りに動いてくれれば良いから」

「う、うん」

「は、はい」


 同じ様に動けば良いと俺に言われたが、前半での醜態を思い出したのか美佳と沙織ちゃんは自信無さ気な小さな返事を返してくる。

 うーん、緊張しているから体に無駄な力が入っているな……。


「大丈夫、そんなに緊張しないで。間違えそうになったら、後ろから柊さんと裕二がフォローを入れるから安心してついて来てよ」

「ああ、任せろ」

「難しく考えないで。前を歩く人と同じように動けば、何も問題ないわ」

「う、うん」

「は、はい」


 フォローすると言う言葉に安心したのか、美佳と沙織ちゃんの体から無駄な力が抜ける。これなら大丈夫だろう。 


「じゃぁ、行くぞ」


 一声かけた後、俺は扉を開けた。

 まず部屋に踏み込む前に、部屋の中を隅々まで観察する。トラップ対処の基本は、先ず初めに良く観察する事だ。部屋の作りは、書斎風。両側の壁には大型の本棚が設置されており、床から天井まで隙間無く洋書が詰め込まれている。部屋の中央には簡素な作りの、本を読む為の小さな木製の椅子とアンティーク調のランプが置かれた机が設置されていた。

 如何にも、本棚に仕掛けがしてありますよと言っている作りだ。


「2人とも、右の壁伝いに反対のドアまで進むからついて来て」

「えっ、壁伝いに進むの? 本棚になにか仕掛けがあるんじゃないの?」


 後ろについている美佳が、俺が壁沿いを進むと言うと不思議そうに疑問の声を上げた。

 

「本棚の方には何もないよ。トラップが仕掛けられているのは部屋の真ん中、まっすぐに反対のドアまで進むと部屋の中央部に設置してある人感知センサーに引っ掛かるからな」

「……センサー?」

「ああ。机の上に乗ったランプの真上、天井にセンサーユニットが組み込まれているよ。ほら」


 美佳と沙織ちゃんは、俺が指さすランプの真上の天井を見つめる。そこには天井に埋め込まれる形で、500円玉程の大きさの黒いプラスチックの様な部品があった。


「天井のセンサーの有効範囲は多分、机の左端に乗ったランプの照らしている床の範囲だろうね。それを挑戦者に教える為に態々ランプの色を天井照明の色と違う色にして、ランプのサイズが合っていない金属製のランプシェードで照らす範囲を限定しているんだと思うよ」 


 俺は机の上の電球色で明るく点灯しているランプを指さし、トラップを回避する方法を二人に教える。何ワットの電球を使っているのかは知らないが、ランプの光はかなりクッキリとした円形の影を床に作り出していた。机の左端に置かれているので、左側の道は使えない。

 美佳と沙織ちゃんは俺の説明を聞き、何度も天井とランプの間で視線を上下に移動させていた。

 

「さっ、時間もないし行くぞ」


 美佳と沙織ちゃんにトラップの説明を終えた俺は、淡々と無造作に右の壁沿いに部屋の中を歩いて行く。視線を上下させていた美佳は一瞬反応が遅れたが、柊さんに声をかけられ慌てて俺の後を追従してくる。

 センサーの有効範囲には入るなよ……。


「無事に到着……っと。どう美佳、沙織ちゃん? やっぱりあのランプの床の照射範囲が、トラップの作動範囲だっただろ?」 

「……うん、そうみたいだね」

「凄いです、お兄さん! 一目見ただけで、トラップの仕組みを看破するなんて……」

「別に大した事じゃないよ、それなりに場数を踏んでトラップに慣れた結果だよ」 


 見事トラップを見抜いた俺に、美佳と沙織ちゃんは称賛の眼差しを向けてくる。この位、何て事無いのにな……と俺は思わず苦笑を漏らす。幻夜さんに施された稽古内容と比べたら、ここのトラップ難易度は激甘だからな。

 この程度のトラップを瞬時に見抜けていなかったら、俺は今もあの山の中を駆けずり回っていただろう。


「さっ、残り時間ももう僅かだから、ここから先のトラップの説明は無しだ。まずは、ゴールを目指すよ。2人とも、ピッタリ俺達の後について来てくれ」

「うん!」

「はい!」


 目の前でトラップを一目で看破したと言う事もあり、つい先程まで自信有り気に大言を吐いた俺を不信気な眼差しで見ていた美佳と沙織ちゃんが信頼の眼差しを向けてくる。

 実績があると、信用度が段違いだな……。


「裕二、柊さん。サクサク進むから、2人のフォローを頼むね」

「おう、任せろ」

「任せてよ」


 裕二と柊さんが頷いたのを確認し、俺は第7の部屋へ通じる扉を開けた。  










俺達は小走りで、入口ゲートを潜り出る。スタート時には気がつかなかったが、訓練施設側に立て掛けられたタイマーには、残り制限時間が7秒と表示されていた。  

 何とか間に合ったか……。


「ふぅ……ギリギリだったな」 

「ああ。危うく再訓練行きになる所だったな」

「広瀬君。私達、規定失敗数以下で時間内にゴールしたのよ? 流石に再訓練にはならないと思うわ」


 俺達3人は制限時間内にゴール出来た事に安堵の息を漏らし、美佳と沙織ちゃんは軽く肩で息をしながら信じられないといった様子でタイマーを凝視していた。


「本当に、時間内でゴール出来たんだ……」

「うん。お兄さん達は自信満々だったけど私、流石にあそこからあの時間じゃ絶対に間に合わないと思ってた……」

「私も……」

「「……」」


 美佳と沙織ちゃんは一瞬、顔を見合わせ沈黙した後に思わずといった感じで本音を漏らす。 


「「これ……夢じゃないよね?」」

 

 そんなことを口走りながら、2人とも自分の頬を軽く抓っていた。トラップの一目看破と言う実績を前にしても、どうやら2人とも俺が言っていた3分以内のゴールと言う話はあまり信じていなかったらしい。まぁ、無理もないけどな。

 全員がゲートを通り抜けた事を確認し、手元の端末を操作していた係員が俺達に声をかけてくる。 


「お疲れ様でした。残念ですが、今回の挑戦は不合格とさせて頂きます。制限時間内のゴールでしたが、5つのトラップに引っかかられましたので」

「そうですか……」

「はい。残念ですが、皆様には再度挑戦して頂く事に成ります」


 係員は淡々とした口調で、俺達に不合格と言う決定と不合格になった理由を告げてくる。

 そして……。


「この後、どうなさいますか? 続けて、再挑戦されますか?」

「再挑戦が出来るんですか?」

「はい。もう一度受付をして頂く事に成りますが、皆様は体験ゾーンでの再訓練規定失敗数に達していませんので、このまま再挑戦して頂く事が可能です」


 挑戦自体は不合格ではあったが、どうやら再訓練の回避には成功したようだ。


「じゃぁ、再挑戦で」

「そうですか。では、受付でもう一度手続きを行って下さい」

「分かりました」

「お願いします。それと受付手続きの際、こちらを提出して下さい」


 そう言って、係員さんは一枚のポイントカードらしき名刺サイズの厚紙を俺に手渡し、他のメンバーにも同様のカードを配っていく。


「……これは?」


 受け取ったポイントカードらしき厚紙を見ると、最初の枠に“3/5”と書かれた三角形のスタンプが押されていた。


「ご説明させていただきますね。三角形のマークは初級ゾーンを表し、中級上級となりますとそれぞれ四角形・円形と変わっていきます。そして、記号内の数字は3が3番入場ゲートを、5がトラップのクリア数を表しています。つまりそのスタンプは、初級ゾーン3番コースのトラップを5つクリアしたと言う事を表しています」

「……なる程」


 つまり、このスタンプカードモドキは成績表と言う事か。何回挑戦した事で、そのゾーンをクリアしたのか、一度の挑戦で幾つのトラップをクリア出来たのかと。 

 

「そのカードを受付で提出して頂くと、次回の挑戦では初級ゾーンの残りの3コース内のどれかに案内されます」

「? 同じ3コースには案内されないんですか?」

「はい。連続して同じコースに案内される事は、まずありません。同じコースへの連続した挑戦では、慣れでクリア出来る可能性が上がります。そうなりますと当施設の設立趣旨から外れる事になりますので、4コースをローテーションさせながら利用案内をする決まりになっています」

「と言う事は、他の3コースとこのコースでは設置してあるトラップの種類が変わっているという事ですか?」

「はい。初級ゾーンには、4コース30種類のトラップが仕掛けられています」 


 4コース30種か……なる程。

 訓練施設側も慣れによるクリアは望んでいない、と言う意志の表れって事だな。ゲームとは違い実際に体を動かすので、トラップの配置やパターンを覚えたからと言って絶対にクリア出来ると言う訳ではないが……探索者のレベル上げで強化された身体能力を思えば、慣れでクリアする事もそう難しい事ではないだろうからな。挑戦コースのローテーションは、少しでも慣れによるクリアを防ぐ為の工夫と言った所か。


「ですので、皆様が再挑戦なさる場合は1・2・4コースどれかとなります」

「なる程、分かりました。あっ、それともう一つ質問は良いですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「中級ゾーンや上級ゾーンへの挑戦には、何か資格というか条件はありますか?」


 この後、裕二と柊さんの3人で上級ゾーンへ挑戦しようかと思っていたのだが、係員さんの説明を聞く限り上のゾーンへの挑戦には何か資格や条件が必要な気がしてならなかった。

 しかし、その予想は外れる。


「中級ゾーンや上級ゾーンへの挑戦に特にこれと言った資格や条件はありません。ですが、上級ゾーンとなりますと攻略難易度が跳ね上がりますので、初級から順を追って対トラップスキルをステップアップさせて行く事をオススメします。少なくとも、初級ゾーンの4コースを時間を余らせノーミスクリア出来る程度の対トラップスキルが無いのであれば時間の無駄になりますよ」


 どうやら、今の俺達でも上級ゾーンへの挑戦自体は可能らしい。

 しかし、係員さんがこうにも歯に衣着せぬ物言いで忠告してくると言う事は、上級ゾーンは相応の難易度と言う事だろう。

 俺は裕二と柊さんに視線を送った後、係員さんに軽く頭を下げながらお礼を告げる。


「なる程、分かりました。ご忠告ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ不躾な物言いで申し訳ありませんでした。ではこれで、カードの説明を終わらせて貰おうと思います。本日は当施設のご利用ありがとうございました、皆様の御健闘をお祈りいたします」

 

 係員さんが説明を終え締めの言葉を口にしたので、俺達は軽く会釈を返した後その場を離れた。

 さてと、この後どうするかな……? もう一度美佳達と初級ゾーンに挑戦するべきか、試しに一度上級ゾーンに挑んでみるか……。


 














 

初級ゾーン終了です。クリアーにはなりませんでしたが、体験ゾーン行きは免れました。



書籍発売まで、後6日です。よろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] アトラクションとしては面白いけどこんなのをクリア出来るようになったところでダンジョンのトラップとは別物じゃないか?
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