表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/636

第10話 特殊地下構造体武装探索許可書交付試験 その4

お気に入り4500超、PV 332000超、ジャンル別4日刊位、総合日刊27位、応援ありがとうございます。

 


 

 

 集合したB班の前に坂牧講師が立ち、トラップ対処実習の説明を始める。


「それではこれより、トラップ対処実習を始める。君達の前にあるセットは、ダンジョンで出現が確認されているトラップを再現した物だ。トラップの種類、内容、対処法は座学で習ったと思うので、講義を思い出しながら突破してくれ」


 坂牧講師は受講生全員を一瞥し、さらに続ける。


「君達がダンジョンに潜る時、チームを組んで潜行する者が殆どになると思う。その時、チーム内にトラップについて詳しい者が居れば、その者に任せれば大丈夫と思う者もきっと出てくるだろう。確かに、トラップについて専門に任せれられる者がいれば、全体のトラップ回避率は高くなるだろう。だが、もしその者が死傷した場合、各員が最低限の対処法を身に付けていなければチームごとダンジョン内で散る事になる」


 坂牧講師の話を聞き、B班の受講生達の顔に真剣味がます。


「真剣に受け止めて貰えている様で、大変結構です。……あれ? A班の連中は、アトラクション気分で実習に臨んでいたんだけどな」


 神谷講師の脅しもまだ効いているのか、坂牧講師も想定していた受講生達の反応との違いに、少し戸惑っているようだ。


「ええ……ですので、このトラップ対処実習は皆さんの命を守る為に最低限必要な経験を得る場です。擬似とは言え、一度想定されるトラップを体験しておけば、本番のダンジョンでも的確に対処出来る可能性が上がります。その事を念頭に置いて実習に臨んで下さい。では、実習を始めます。各セットの前に均等になる様に分かれて下さい」


 坂牧講師の指示に従い、B班の受講生は先程のモンスター対処実習の要領で素早く分かれ列を作る。そして、受講生達の分散が終了した事を確認した坂牧講師は、実習で使うセットの内容を説明し始めた。


「セット内はダンジョン内部と同じ光量に保たれ、薄暗くなっているので足元などに気を付け転ばない様に。ああ参考に言っておくと、中に入ったら動き出す前に10秒程目を閉じれば大体慣れる筈だ。そして、セットの中に仕掛けられているトラップは受講生がケガを負わない様に発泡ウレタン等の道具で仕掛けてはいるが、トラップの内容自体はダンジョンで出現するものと同等だ。これらのトラップを回避出来なかった受講生は、それ相応の負傷したものと心得るように。それと、今回は多数の受講生が実習を受ける為、時間制限を設ける。ブザーが鳴ったらそこで終了だ。モンスターの襲撃から撤退すると言う状況もあり得るので、余り慎重になりすぎると最後まで行けないので気を付けるように。では列の先頭の者、セットの中へ」


 坂牧講師が話を締め、係員がドアを開け受講生達をセットの中へと誘う。受講生がセットの中へ入って30秒程すると、セット内部から悲鳴が響き始める。悲鳴は終始止む事無く、ブザーが鳴ってセットから出て来た受講生達は憔悴していた。最初の受講生達の退出を確認した坂牧講師は、次の受講生達にセットの中へ入る様に声をかける。次々にトラップ実習セットの犠牲になり悲鳴を上げ続ける受講生達、順番待ちをする受講生達の表情は強張っていく。

 そしてついに、俺達の順番が回ってきた。


「……じゃぁ、逝ってくる」

「えっと、何だ……頑張れ?」

「えっと、気を付けて?」


 悲鳴が響き続ける恐怖のトラップ実習セットに、裕二は悲壮なまでの覚悟を決めた表情を浮かべながら歩み寄って行った。

 そして数十秒後、セットの中から裕二の悲鳴が響いてくる。俺と柊さんは若干顔色の悪い顔を向かい合わせ、裕二の冥福を祈った。


「どういうトラップが仕掛けられているんだ? これだけ悲鳴が響き続けるなんて……」

「そうね。事前にトラップが仕掛けられているって明言されている上、セットから出て来た受講生の憔悴した末路を目の当たりにして覚悟を決めているはず……」

 

 実習セットがどういう造りをしているのかサッパリだが、この惨状は尋常ではない。暫く悲鳴が響き続けたセットはブザーが鳴るのと同時に沈黙し、憔悴した裕二を吐き出す。裕二は憔悴し虚ろな表情を浮かべながら、俺達に無事を知らせるように手を振ってきた。

 いや、正直ドン引きなんだけど。


「じゃぁ、私も逝くわ」

「……うん」


 顔に引き攣った笑みを貼り付けた柊さんに、何て声を掛ければ良いのか分からない。柊さんの大きく左右に揺れるポニーテールが、柊さんの動揺を表しているように俺には見えた。

 そして、柊さんが入った実習セットからも数十秒後に悲鳴が響きだす。俺には柊さんの冥福を祈る事しか出来ない……。

 ブザーと共に実習セットから出て来た柊さんは、フラつく足取りのままコチラを見る事もなく憔悴した様子で近くの地面に座り込んだ。


「……」


 合掌。他に取れるリアクションがない。

 そしてついに、俺の順番が回ってきた。タダの改造ドライコンテナモドキが、俺の目にはRPGのラストに出てくる伏魔殿のように見える。

 設計者出て来い。


「では、頑張って下さい」

「……はい」


 係員に促され、伏魔殿もどきに足を踏み入れる。実習セットの中は薄暗く、坂牧講師のアドバイスに従い動く前に瞼を閉じ、10数えてから瞼を開けた。

 側面に掲げられた常夜灯程の明るさに保たれたランプが石造りの内面を照らし、それっぽい雰囲気を作り出している。見た目は只の石造りの通路なのだが、あれだけ受講生達が悲鳴を上げる物を額面通り受け止められる訳がない。

 俺は鑑定解析を発動しながらセットの内部を見て、顔を引きつらせた。


「……馬鹿だろ、これを設計した奴」


 確かに、坂牧講師の言っていた様に受講生がケガを負うようなトラップは無いが、トラップの仕掛け方が悪辣に過ぎる。どこか一つでもトラップを作動させると、連動して他のトラップも作動する仕掛けになっていた。

 特に悪辣な物が、入り口付近に仕掛けられている切断糸もどきと、ゴールの扉のノブに仕掛けられている電気トラップだ。切断糸もどきは床から20cm程の所に仕掛けられており、何処かのトラップを作動させたら後方から足を刈り取りに来る仕組みになっており、扉のノブの電気トラップには結構な量の静電気が帯電している。

 明らかに、素人に対して仕掛けるレベルではない。


「……行くか」


 覚悟を決め俺は足を踏み出す。最初のトラップは、足首の高さに仕掛けてある細いワイヤー。しかもこのトラップ、初っ端から2重トラップである。ワイヤーを踏み越えた先に影に重なる様に、黒く塗られたもう一本のワイヤーが仕掛けられていた。無造作に踏み越えれば、影のワイヤーに引っかかる。散々別の受講生達の悲鳴を聞き、緊張している受講生の中でこれに気付いた者は少ないだろうな。


「っと、危ない危ない」


 ワイヤートラップを飛び越えた先に仕掛けられていたトラップは、石床に偽装されたエアクッションの床。ワイヤーを大きく飛び越えていれば、ここに足を取られバランスを崩し別のトラップに引っかかっていただろう。ワイヤートラップを無事に越えられ、エアクッションの床を避け前方に着地出来る床の幅は30cm程。素人に対し悪辣過ぎるだろ、コレ。

 そして次の罠は、アカラサマに何かあると疑わせる色をした床の重量センサーと、センサーに反応して起動し首を刈りに来る軟質ウレタン製の棒。床の重量センサーの感知範囲は1m程なので、立ち幅跳びの要領で飛び越せば良いのだが、例によって2重トラップ。立ち幅跳びであまり遠く飛び過ぎると、床に似せて作られたゴム製の蓋で覆われた幅50cm程の落とし穴に落ちる。


「設計者の性根、絶対にネジ曲がってるだろ!」 


 俺は軽く飛び重量センサーを避け落とし穴の手前に着地するが、そこで足が止まる。

 落とし穴の先にはシーソー床があり、床色が僅かに濃い30cm程の幅の中央の軸上以外を歩くと、床が傾き左右の壁からBB弾が発射される仕組みのようだ。証拠に、見付け辛いが床に黒色のBB弾が転がっている。


「だから、クリアさせる気無いだろ?」


 何の為の実習なのか分からなくなるようなセットの作りに頭をかしげながら、俺は落とし穴とシーソーを纏めて飛び越え安全地帯に着地する。

 ゴールの扉までトラップは残す所、ノブの電気トラップ以外で最後。赤外線センサーを使った見えない壁。天井に赤外線センサーの存在を知らせる、多数の赤い光が規則的に並んで見える。そこから推測するに、ゴールまでに4枚の見え無い壁が1m間隔で平行に並んでいる様だ。突破するには、50cm程空いている隙間を、見えない壁に触れないようにして突破する必要がある。


「……」


 俺は設計者の悪辣さに呆れつつ、黙って見えない壁に挑む。見えない壁の隙間は1枚目が中央、2枚目が右端、3枚目が左端、4枚目が中央に30cm程の引っ掛け用の隙間があったが無視して、右端にある本命の隙間を抜けクリアした。


「最後の最後まで引っ掛けありかよ」


 俺は設計者に対し愚痴を吐き捨てながら、ゴールの扉の前で立ち止まる。


「このままブザーが鳴る前に扉から出ると、悪目立ちするよな……でも」


 俺は少し悩む。このまま扉を出れば悪目立ちするだろうが、裕二や柊さんと一緒にダンジョンに潜る事を考えると、ここでトラップを完全突破したと言う実績を作っていた方が良いのでは?と。完全クリアしておけば、本番のダンジョンに潜った時に俺がトラップの存在を進言した時に信じて貰える可能性が上がる筈だ。

 悪目立ちとダンジョントラップ回避を天秤に掛けると……。


「よし、出よう」


 俺は見えない壁に触れないように気を付けながら右足を上げ、電気トラップが仕掛けられているレバー式のノブを下げゴールの扉を開けた。

 扉の外に出るとまず、驚いた顔の係員に出迎えられる。どうやら、ブザーが鳴る前のクリアーは想定されていなかったようだ。まぁ、あの偏執的かつ悪辣なトラップセットを素人が突破出来るとは思わないか。


「お、お疲れ様でした?」

「あっ、ありがとうございます」


 俺が軽い調子で返すと、係員は変な物を見るような眼差しを向けてくる。無理もないのだろうが、些か不快な気分になった。俺はサッサと係員の前を離れ、地面に転がる裕二と柊さんのもとへと向かう。

 途中、坂牧講師が目を丸くしながら俺を見ていたので軽く会釈して通り過ぎる。


「……よく制限時間前に突破出来たな?」

「……ホントよ。一体何をしたの?」


 裕二と柊さんからも、珍獣を見るような眼差しを向けられた。


「……はぁ。皆が悲鳴を上げて憔悴しながら出てきていたから、セットの中を良く良く観察しながら慎重に歩いただけよ」

「いや、アレはそんな事で突破出来るような物じゃないだろ?」

「ええ。あれの設計者は絶対、生粋のサディストよ」


 設計者の件に関しては同意するけど、本当に良く良く(鑑定解析)見ただけなんだけどね。


「それなら、俺にトラップを見抜く目があったって事じゃないの?」

「そう言う事になる、か?」

「そう……ね?」


 2人は首をかしげながら、俺の意見に消極的賛同をする。疲れて頭が回っていないみたいだな。

 よし、ここで例の話をねじ込んでおくか……。


「それなら、トラップなら俺に任せてよ。3人の中では俺が一番こう言うのが得意みたいだしさ?」

「……そうだな。実際に、大樹はアレをクリアしてる事だし」

「……そうね。アレをクリア出来た訳だし」


 二人は疲れた表情で顔を向け合い、首を縦に振る。 


「「任せる(わ)」」


 よし。2人の言質をゲット。弱みにつけ込んだようで申し訳ないけど、無造作に進んでトラップに掛かりたくないからな。

 その後、実習セットから響く悲鳴をBGMに俺達は無駄話をしながら時間を潰した。実習が終わり、坂牧講師が受講生達全員の前でクールダウンのストレッチ法を指導した後、全実習終了の演説を始める。

 

「お疲れ様でした。これで実技実習は全て終了です。今回の実習を受け力不足を感じられた方には、ダンジョン潜行前の筋トレやジョギングなどの自己鍛錬を推奨します。では、怪我のないよう気を付けてダンジョン潜行して下さい」


 表情にこそ出していないが、坂牧講師の目には受講生達を憐れむ様な色が見え隠れしていた。恐らく、ここに集まった受講生達の行く末が見えるのだろう。もしかしたら、坂牧講師はダンジョン潜行経験がある自衛隊出身なんだろうか?

 そして最後に、坂牧講師は事務連絡を行う。


「試験の結果は後日、郵送でお知らせします。合格者は合格通知と身分証明書を持参し、最寄りの日本ダンジョン協会支部で許可書の発行手続きを行って下さい。ではこれで、特殊地下構造体武装探索許可書交付試験を終了します。皆様、本日はお疲れ様でした」

    

 果たして1年後に、ここに集まった同期が何人生き残っているのだろうな?名前も顔も一致しない、解散し散り散りに去って行く受講生達の背中を見ながら、不意に俺の胸中にそんな思いがよぎる。 

 そして後日、俺達3人の手元に日本ダンジョン協会から合格通知が届いた。

 

 

 

 

 

 

許可書ゲットです。

この後の数話は、閑話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 単なる一時的な足止めなら単体でも有りだろうが罠で仕留めようとした場合複数の罠を連動させなきゃなんの意味もないしね。
2021/02/09 01:43 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ