第144話 呼び出しを受けた結果を報告する
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午後の授業も無事に終え、俺達は部室で美佳と沙織ちゃんに昼休みの出来事を教えた。初めは生徒会から呼び出されたと言う事もあり動揺していたが、無事に留年生問題で協力体制を組めたと知り安堵の息を漏らす。
「そっか、生徒会とも協力体制が結べたんだ……」
「本当、良かったです。呼び出しを受けたと聞いた時は、心臓の鼓動が跳ね上がりましたよ……」
「ははっ。まぁ、呼び出しを受けたと聞いたらそうなるよ。俺達も実際に呼び出されて生徒会室に行った時は、今の二人みたいに心臓がバクバクしてたからね」
安堵し疲れた様な表情を浮かべる2人に、俺は苦笑を漏らす。
「ところで2人とも、1年生の間でウチの部の部員募集ポスターの反響はどうだったかしら?」
「あっ、そうそう。俺もそれを、2人に聞いてみたかったんだ。2年生の間では今の所、それほど話題にはなっていないんだけど……」
柊さんと裕二はポスターの反響が気になるらしく、少し前のめり気味に2人にポスターの反響を聞く。勿論俺も気になっているので、苦笑を止め視線を二人に向ける。
俺達に視線を向けられた美佳と沙織ちゃんは、答えに困った様な表情を浮かべながら顔を見合わせていた。
「その表情から察するに、あんまり好調じゃなかった……って所か?」
「……うん。まだポスターを貼り出した初日だから仕方ないのかもしれないけど、私達の所に詳しい話を聞きに来る様な子は居なかったかな。……沙織ちゃんの方はどうだった?」
「私の方にも、話を聞きに来る様な子はいなかったよ」
「そっか……」
ある意味、当然と言えば当然の反応だろう。募集をかけたからと言って、直ぐに入部希望者が声をかけてくると言う事は無いからな。
「でも、ポスターの反響?自体はあったよ。良いか悪いかは分からないけど……」
「うん。私もポスターを見た友達に、留年生達に目を付けられる様な事をして大丈夫か?って声をかけられた」
「私も沙織ちゃんと同じ様に、大丈夫かって友達に声をかけられた」
どうやら、反応が得られないと言う事ではないようだ。
しかし、そうなると……。
「2人とも、留年生達からの反応はどうだ? ポスターのせいで、嫌がらせとかはされてないか?」
「大丈夫。今の所、嫌がらせとかの行為は無いよ。向こうも今は様子見みたいで、怪訝な視線を向けてくるだけで直接的な何かを仕掛けてくる様な気配はない……かな?」
「はい、大丈夫です。向こうも直接的な行動に出て、教員に目を付けられたくは無いでしょうし。あのポスターも今の所、只の部員募集のポスターでしかありませんからね」
確かに今の段階ではあのポスターも、只の部員募集のポスターでしかない。本格的にあのポスターが意味を持ってくるのは、体育祭後だろう。
しかし……。
「そっか。でも、これから噂と言う形でポスターに写っているモンスター……ビッグベアーと俺達が実際にダンジョン内で戦っているって話を流す予定だから、もしかしたらチョッカイを掛けてくるかも知れないから、何か状況に変化があったらどんな些細な事でも直ぐに教えてくれ。こちらでも対策を考えて、対処するからさ」
「うん。分かった」
「はい」
学年が違うので授業時間内は手を出しようが無いが、それ以外の時間なら俺達も何かしらの対処は出来るからな。実力を誤魔化すのを止めて本気で動けば、狭い学校内ならどこでも30秒以内には駆けつけられる。まぁその分、窓などの色々な学校施設を壊す事になるだろうけど……。
「そうだぞ、2人とも。何かあったら、遠慮なく言ってくれよ」
「そうよ。些細な事でも自分達だけで問題を抱え込まず、私達にも話して頂戴。どんな事でも、皆で考えれば何らかの解決策は出せると思うから」
「「はい!」」
裕二と柊さんの気遣いに、美佳と沙織ちゃんは元気な声で返事を返す。これまで以上に2人の変化に気を配って置かないといけないけど、この分なら自分達だけで抱え込まず相談しに来てくれるだろう。
幾ら俺達が気にかけていたとしても、最終的に本人達が相談してくれないと分からない事があるからな。
美佳達と話し合いをしていると入口の扉が開き、橋本先生が部室に顔を出す。橋本先生はあいも変わらず、バインダーとノートパソコンを抱えて。
「遅くなってごめんなさい。ちょっと学年主任の先生に捕まっちゃって……」
「大丈夫ですよ、そんなに慌てて来なくても。少し遅れたぐらいなら、気にしないで下さい」
「ありがとう。そう言って貰えると、助かるわ」
橋本先生は急いで部室に来たのか、少し呼吸が乱れていた。まぁ確かに、この部室は職員室とは違う校舎にあるからな。探索者として身体能力が強化されている俺達にとっては、大した距離では無いんだけど……。 橋本先生は部屋の奥の棚に持ってきた荷物を置き、裕二の隣の空いている椅子に座る。
「それにしても聞いたわよ貴方達、お昼休みに生徒会室に呼び出されたそうね?」
「あっ、はい。教員の方にも話が回っていたんですか?」
「ええ。と言っても、生徒会担当の先生が貴方達が呼び出しを受けているって話してくれただけなんだけどね」
「……ああ、なる程」
そう言う経路で、話が橋本先生に流れていたのか。確かに生徒会にも顧問……担当の先生はいるよな。となると、何で留年生達の話が最近まで流れなかったんだ?
……生徒会に任せるより、学校側が対処する事って考えたのだろうか?
「貴方達のこれからの活動について職員側は了承……黙認するって事で話が纏まっているけど、生徒会側にはまだ説明していないから呼び出されたのかもしれないって心配されていたのよ」
「……今回は大丈夫でしたけど、話が纏まった時点で生徒会に少しは情報を流していて貰いたかったですね」
そうすれば、今回の呼び出しはなかったかもしれない。でもまぁ、呼び出しを受けたおかげで体育祭でのパフォーマンス時間の導入を提案できたから良いのだけど……。
ってそうだ、橋本先生もこの話しておかないといけないな。
「橋本先生。今回の呼び出しで出た話なんですけど、体育祭の部活対抗リレーの時にパフォーマンス時間を導入して欲しいって生徒会側に提案したんですよ」
「パフォーマンス時間?」
俺のパフォーマンス時間と言う話を聞き、橋本先生は首をかしげた。まぁ元々、対抗リレーでアピールするって散々言っていたからな。いきなりパフォーマンス時間と言われても、首をかしげるか。
「ええ。折角生徒会側と話をする時間があったので、俺達の実力を効果的に宣伝出来るようにと思って提案したんです。生徒会側には提案を了承して貰えたんですけど、学校側にも了承してくれないと変更は出来ないと言われたんです」
「確かにそうね。体育祭のタイムスケジュールは来賓なんかとの色々な兼ね合いがあるから、生徒会側の都合だけで勝手な変更は出来ないものね……って」
橋本先生は納得がいったと言う表情を浮かべた後、何かに気付いた表情を浮かべ俺に視線を送ってきた。
「生徒会側からも提案されると思うんですけど、橋本先生からも職員の方に話を通して貰えませんか?この提案が通ると通らないとでは、宣伝効果にかなりの違いが出てきますから……」
「ああ、そう言う事ね……」
「生徒会側からは5分間と提案されるでしょうけど、パフォーマンス時間は1分でも2分でも良いんです。リレー以外でも生徒達に、俺達が十分に後ろ盾として相応しい実力があるとアピールする時間が欲しいんですよ」
俺達が普段重蔵さんとしている模擬戦……演舞を見せれば、大半の生徒は俺達の実力を認識してくれるだろうからな。勿論、留年生達への威圧を含めた牽制にもなる。
「……なる程、分かったわ。私の方からも、職員会議で提案してみるわ」
「ありがとうございます」
「でも、もしかしたら提案された時間より貰える時間が短くなる、と言う可能性がある事は覚えておいてね? アピール時間を5分とったら、小道具の片付けやスタートの準備に時間が取られてリレー開始まで10分はかかる、って言う意見が出るだろうから……」
申し訳なさそうな表情を浮かべ俺達に断りを入れてくるが、確かに橋本先生の懸念は有り得ることだ。リレーに参加する全ての部活が運動場一杯に広がってアピールすれば、リレーをスタートするまでに時間が取られるだろう。こう言う時、必ず時間を守らず目立とうと勝手な行動を取る生徒が出てくるからな。
パフォーマンス時間と撤収時間を纏めて5分間と考えれば、実質パフォーマンスに回される時間は2分か3分だろう。
「分かりました」
「まぁ、実際どうなるかは提案してみないと分からないんだけどね。出来るだけ長くパフォーマンス時間が確保出来る様に掛け合ってみるわ」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
「あまり期待はしないでおいてね……」
俺達が軽く頭を下げながらお礼を言うと、橋本先生は照れくさそうに苦笑を漏らしていた。よし。少なくともこれで取り敢えず、生徒会単独でプログラムの時間変更を提案するよりは職員会議で提案が通り易くなるだろう。
俺達は16時で部活を終了し、学校内を皆で歩き回りながら下校しようとしていた。美佳達が俺達の庇護下にあると言うアピールをする為だ。その際校内を見て回った所、去年の同じ時期に比べ運動系部活の活動が下火になって居る事が良くわかった。去年の在校生の多くが探索者資格をとったせいで、2,3年生が少ないせいだろう。やはり探索者になった事で、公式大会に参加する事が出来無くなったと言う事が、かなり生徒のやる気に影響を及ぼしているようだ。
去年の今頃だと、サッカー部や野球部が夏の大会に向けてグラウンドで大声を上げながら忙しく練習していたのだが、今は閑古鳥が鳴いていると表現していいほど寂しい限りだ。新入生が入った事で、辛うじて各部とも大会に参加するに足りる人数は確保しているようだが、去年ほど大会にかける熱は感じられず、のんびりとした練習風景にみえた。
「……うちの学校の部活動も、随分寂しくなったな」
「ああ。やっぱり公式大会に出場するって言うのが、部活をやる連中のモチベーションを上げる源の一つだろうからな。その大会に参加出来ないとなったら、余程その競技が好きでないと続かないだろうな……」
「そうね。しかも文化系の部活は兎も角、運動系の部活だと探索者資格保有者だとバレると非難されるものね……ズルをしてるって。余程好きだったとしても、そんな環境では長続きしないわ」
そう。柊さんが言う、その点が運動系部活動が一気に下火になった一番の問題だろう。探索者の公式大会参加禁止された当初も、先程も言った様に余程その競技が好きな連中は部活を続けていた。
しかし、次第に探索者と非探索者の差が顕著になり、大会に参加出来ない探索者資格保有者は退部するという流れが何時の間にか出来上がってしまっていたのだ。気がついた時には時既に遅く、各部とも活動が困難な状態に陥っていた。
「探索者資格保有者を部活から追い出した連中の気持ちも、分からないでもないけどな……」
「そうだな。だが、探索者として得た身体能力に任せてプレイするスタイルが横行する状況が続けば、非探索者選手として競技を頑張っている連中の不満は爆発するさ」
以前TVの企画で両者を混ぜて各競技の試合を行う番組を見てみた事はあるが、全くと言って良いほど勝負……いや勝負以前に試合にさえなっていなかった。非探索者選手はその競技を何年も続けているベテランで、相手は全くの素人競技者である探索者だったのに。
このTV番組はその場限りの企画だったから笑い……バラエティーで済んだが、部活で3年間一緒にともなれば両者共に……とはいかないだろうな。
「でもこの手の問題は、探索者選手と非探索者選手を分けて大会を開催でもしない限り解決しないわよね?」
「うん。今各競技団体が、その辺の調整を行っているって話は聞くけど……数年は探索者向けの公式大会開催は無理じゃないかな? 探索者選手の、身体能力に合わせたルールも決め直さないといけないだろうしさ」
「だな。探索者と非探索者だと大人と子供以上に差が出来るだろうから、ルールの再設定だけでも1年やそこらじゃ決められないだろうさ。その上、探索者間でもレベルの違いによって、身体能力に大幅な差が出てくるんだ。簡単にはいかないだろう」
「つまり暫くの間、こんな状況が続くって事か……」
柊さんは閑古鳥が鳴くグラウンドを寂しそうに眺めながら、残念そうに呟いた。俺達はそんな柊さんの呟きを耳にしながら、運動部がのんびり練習するグラウンドを後にし下校した。
橋本先生経由でも、アピールタイムの件を職員会議に根回ししてもらえる様に頼みました。
それとやはり、探索者ブームに押され、学校の部活動はかなり下火になっていますが。大会に出られないことが確定していると、モチベーションは上がりませんからね。




